【第15回】高橋良輔監督旅行記「飛行機雲に誘われて」

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飛行機雲に誘われて……その15

 今回はエジンバラ。
 エジンバラはスコットランドの首都である。スコットランドを正確に言えば『グレートブリテン及び北アイルランド連合王国』の一カントリーである。つまりイギリスの一部だ。つい先だってイギリス離脱かどうかで国民投票が行われたのが記憶に新しい。かろうじて現行維持派が勝利したが僅差であった。ということはもともとは違う国であったのだろう。あたしらが認識しているイギリスとは、イングランド、ウエールズ、北アイルランド、スコットランドをまとめてのことだが、そのほかに世界中にイギリス女王を君主と仰ぐ英連邦諸国が点在している。かつての七つの海を支配していた大英帝国の名残である。今に至るにはそれぞれに複雑な歴史の綾があるらしいのだが浅学のあたしらには詳しいことは分からない。ま、ともかくイギリスの一部であるスコットランドにもアニメファンがいるらしくアニメーション映画祭の招待を受けたのだ。しかしあたしらがイメージするいかにもの感じのスコットランドらしく質実にして控えめな映画祭で、会場内外にコスプレイヤーの姿などなく知的で物静かな好き者たちがひっそりと集まってくるような感じであった。

 スコットランドのイメージと言えばあたしらはほとんどアメリカ映画の中のスコットランド移民を通してしか湧かないがエジンバラと言えば、2010年に作られたイギリス・フランス合作のアニメーション長編映画『イリュージョニスト』がある。詳細は記さないが、旅の奇術師と身寄りのない少女がエジンバラの安宿に流れ着き、ひと時を共にする物語だった。記憶に残るのはその時のエジンバラの美術背景である。実際にエジンバラに行ってみて誠にその通りなのに感銘を受けた。なかでも、エジンバラ城からホリールード宮殿までのロイヤルマイルと言われる表通りはそのままだ、そしてちょっと裏に回った佇まいなど映画そのままである。あたしらも自由時間にカフェに入ったりお店をのぞいたり、またビールを飲ったりで軽―く旅情に浸ったりしたものである。

▲ロイヤルマイルの起点エジンバラ城。いかにもスコットランドらしく質実剛健のたたずまいが厳めしい。

▲スコットランド名物キルトとバグパイプ。あたしらも観光客よろしく並びで写真を撮らせてもらった。恥ずかしさを払しょくしてくれたのが、左下の但し書き。

▲わずかでもお役に立てれば。

▲異国人に交じって旅情を噛みしめました(大げさ)。

▲ロイヤルマイルはエジンバラ城からホリールード宮殿まで風情ある坂道が続く。

 だがあたしらにとってスコットランドと言えばゴルフである。一般的にゴルフと言えばイギリス発祥と思われているがもちろん諸説ある。中にはフランスの古い遊びでコルフというものがありそれが先祖だという説もあるが、現在のゴルフが完成したのはイギリスでであり、それも厳密にいうとスコットランド、という説が有力である。十数年前であったろうか世界で一番稼ぐプロスポーツマンにタイガー・ウッズが挙げられたように、ゴルフは今ではワールドワイドなスポーツの一つである。運動音痴のあたしらが今現在できる唯一のスポーツとしてあたしらはゴルフを愛している。

 余談になるがあたしらが"ザ・演出"とよんで尊敬していたあの故出崎統が非常にゴルフを愛していて、かつ真摯なゴルファー、であったことを知る人は案外少ない。あたしらは若いときはあの才能を恐れてあまり近づかなかったが、晩年は歳が同じこともありよくプレーを一緒した。不世出の才能を惜しむのは無論だがあたしらはもう一緒にゴルフができないのが本当に悲しい。

 ワールドワイドスポーツのゴルフ話しに戻るが、ゴルフの世界では四大メジャーと言われるものがある。華やかさ一番の『マスターズ』もっとも実力を要求される『USオープン』プロナンバーワンを決める『全米プロ』そしてジ・オープンと定冠詞付きで呼ばれる世界最古のオープン競技である『全英オープン』だ。先月7月スコットランドでも屈指の難コースと言われる『カーヌスティ・ゴルフリンクス』でこの全英オープンが開催されたが残念ながら日本人選手はあまり活躍できなかった。さて、なんでくだくだとゴルフの話なんかしているのだとお思いのあなた、実はあたしらがエジンバラの映画祭の招待を受けたこんころもちの第一がエジンバラ近郊に、

(『セント・アンドルーズ・ゴルフリンクス』があったな!)

 という事である。セント・アンドルーズと言えばあなた、それもそのオールドコースと言えば世界のゴルファーにとっては聖地ですよ聖地! なんせ世界標準のゴルフルールはこのセント・アンドルーズのゴルフクラブハウス内に組織されている『R&Aつまりロイヤル・アンド・エンシェント・ゴルフ・クラブ・オブ・アンドリュース』が決めているのでありますから。あたしらとしてはせっかく遥々エジンバラくんだりまで来たのなら一目この目でセント・アンドルーズのオールドコースを見てみたいと望むのはアッタリ前田のクラッカー(古っ!)でして、組織委員会の人に無理を言いました。委員の人もゴルフ好きらしく、

「なんならオールドコースでプレーしますか? 段取りますよ」

 と言ってくれたのですが、そこはそれめったにないチャンスなのに意気地なしのあたしらは、

「いえいえ滅相もない! 見学だけで十分です!」

 と辞退してしまった。むろんいまだに後悔している。
 ゴルフというゲームはアメリカに行ってダメになり、日本にわたってゴルフですらなくなった、と悪口を言われていますからね、そのうえこのヘボが恥の上塗りをすることはないと、まあ自重したんでやす。しかし言い訳ではないですが、日本にはイギリス人が神戸の山上に初めてゴルフを持ち込んで以来、結構古典的なジェントルマンゴルフも定着しているんですけどね。まあ、それがあたしらとは言いませんが……。

▲これが格式高いセント・アンド・ルーズのクラブハウス。もっとも中ではロゴマーク付きのお土産もたくさん売っている。お隣の建築中の建物はホテルらしい。

▲コースはリンクスと呼ばれる海岸べりの草原であるから、うねりはあるがただただ平らである。しかしあのマスターズの創始者球聖ボビー・ジョーンズもここは人間の手になるものではない神が作った完璧にして唯一無二のコースだと褒め称えている。

▲コースのいたるところに広がるラフ、ここにボールを入れたらあたしらでは出ない。

▲スタートを待つゴルファー達。常連なのだろうキャディーは付けず手引きで回る。みんな思い思いのスタイルで質素に楽しんでいる。聖地と言ってもここはパブリックコースなのである。


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