【第52回】高橋良輔監督旅行記「飛行機雲に誘われて」

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飛行機雲に誘われて……その52

 前回、旅――旅行――は人生の縮小版かもしれない、てなことを申し上げた。
 たいそうなことを言ったものだ。
 あたしら、実を言えばたいそうな旅もしてないし、たいそうな人生も送っていない。まあ、ものには弾みということがあるのでご寛恕いただきたい。しかし言い訳めくが、あえてそう言えば言えなくもないと今も思ってもいる。と言うのもあたしらの旅――旅行――の数々を思い起こせば、朝起きて、

(あ、ベトナムのフォーが食べたい)

 と思って気が付いたら飛行機に乗っていた、なんてことはまずありえない。すくなくても海外に出るとなると最低一か月くらい前には何らかの計画を立てる。この辺けっこう堅実である。人生のきし方こし方を振り返っても、闇雲行き当たりばったりは存外少ない。大雑把ではあるが方向質量共にそれなりに考えてやって来た。あえて言えば普通平凡に、自分の力量を測り計り、なるべく安全運転を心がけてきたつもりである。まずまずは穏やかな人生であり無事無難な旅ではあった。……さて、
 旅人の先達を数えればもう両の手の指に余るが、あたしらにとって特別はやはりあの『開高健』先生であろうか。もう憧れもし影響をも受けた。

「どこが!」

 と言われては下を向くしかないが、まあ好きなものは仕方がない。もっとも生前本物にお会いしたことはないが……残念! ああ、直に謦咳に接したかった! その開高先生だが、まあまったくもって、一言で言えば濃い人生、濃い旅をし続けたお方の代表である。拝察するに人生も旅も辛かったんじゃないかなあ―――あたしらこの“辛い”と言うことに弱い、徹底的に弱い。あんなに何にでもかんにでもマジになれないでしょう。あんなにも魅力的なオーパにしてから、アマゾンのダニゾロゾロのことだけでも、

「お――いやだ! ムリ!」

 と思いますもんね、北海での釣りなどまさに命がけ。だからという訳ではないけど早死にだったよね。還暦に届かなかった。人生、創作、旅、食、家庭……質量ともにヘビーだった。
 旅人と言えば大先達の紀行文の序に『月日は百代の過客にして、行き交う年もまた旅人なり』とあるが、その続きに『片雲の風に誘われ』ともある。まあ、偉い人でも大体が何かに誘われちゃうんだね。誘われて旅に出ちゃう。これって旅――旅行――の本質なんだろうね。
 誘ってくれる飛行機雲が、頭上を幾筋も現れては消え消えては現れるのだが、癪なコロナが邪魔しており、しばらくは旅の予定が立ちません。そんなこんなでこのコラムをいったん閉じることになりました。来週は締めの回になります。

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▲浅間三筋の煙が見える―――近くを昔の五街道の一つ『中山道』が通っています。飛行機乗れないから街道筋でも歩いてみるか、なんて考えているあたしらです。

 


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