【SS02】オリオンレイン 薔薇の小部屋

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2018年2月バレンタイン

「お? 良太、いいもん持ってんじゃん。告られた?」

 入室するなりからかわれ、綺麗にラッピングされた箱をいくつか抱えた良太が耳まで赤くなった。

「義理だよ義理! クラスの子とか、運動部の奴とか……」
「義理って言いながら本命、ってのもあるかもしれないぜ?」

 人の悪い笑いを浮かべて遠矢が言う声に、ドサドサと何かをぶちまける音が重なる。
 見れば零が、テーブルの上にチョコの山を作っていた。

「その理屈で言うと、僕のチョコの中にも本命チョコが混ざっているということになるね」

 勝ち誇ったように言うが、良太の抱えている数とそれほど差は無いように見える。

「いや義理だろ」

 遠矢はつまらなそうに言った。

「どうせ女教師とか保護者から届いたんだろ?」

 零は扇で口元を隠して答えない。

「んー、でもどうかなあ、零って、知らない人から見れば独身で理事長だし、実は優良物件かもしれないよ?」
「若作りのシスコンのどこが優良なんだよ」
「だから、知らない人から見ればだってば」

 雪也は噛みついてくる遠矢を抑えて、その口にトリュフチョコを放り込んだ。

「俺は甘いの苦手……、……うまいなこれ」

 反射的に身を退いた遠矢が、おや、と首を傾げる。

「なんかお酒がきつめのチョコって書いてあるから」

 雪也はパッケージの裏の説明を見ながら、遠矢に分けたチョコに使われる材料を説明した。

「ふーん。チョコも色々あるんだな。つーか、お前なんか凄くね? 一番貰ってんじゃねえの?」
「ほら、ボク甘いもの好きだから!」
「俺も甘いもの好きって言っとけば良かったなー」

 うろうろと雪也の周りをうろつきながら呟いた良太が、遠矢の口に入っただろうチョコに手を伸ばす。

「あ、りょーたは駄目だよー」
「え、なんで?」
「だって良太はチョコ貰ったでしょ」

 雪也の言葉に、零の扇から銀の蝶が一頭、ひらりと躍り出る。

「今の会話で、ひとつ気になった点があるのだけどね」

 淡い色の髪に蝶を遊ばせながら、零が会話に口を挟んだ。

「ひょっとして、若作りのシスコンでも貰えたものを、遠矢は……」
「俺は甘いもん嫌いだからこれでいいんだよっ」

 遠矢の返答を聞いて、良太はなんとなく自分が貰ったチョコをカバンの中にしまった。

 

「バレンタインにチョコとは、この星の文化の変遷には本当に驚かされる。ローマの女神も呆然としているだろう。いや、彼女には喜ばしいことかな?」

 誰にともなく呟く壇の手に、綺麗に包装された小さな箱を見て、莉央は少し意外そうな顔をした。

「……貴方もチョコを?」
「長くこの星にいるんだ。女性の知り合いくらいはいるさ」

 壇は軽く受け流し、莉央の鞄に視線を流す。

「そういう君も、隅に置けないようだが?」
「向けられた想いに向き合うことも、騎士の務めです。ところで、何故中に入らないのですか?」

 莉央は追随を避けるように話題を変えた。

「……引き返す方が穏便だ。そうは思わないかな、3席?」
「それは、そうですが」
「我々は今日、ここには来なかった、それでいいじゃないか」

 莉央は束の間沈黙し、では帰りますと壇に向かって頭を下げる。
 ……触らぬ神に祟りなし。
 首座の騎士と3席は結論を下すと、早々に解散を決め込むのだった。

 

 ――一方。
 世界のどこかにある、光源もないのに淡い明るさを保つ小さな部屋では、真剣な話し合いが行われていた。
 中央の台座には、華やかにラッピングをされたチョコがひとつ。

『出番の数から行けば、儂が正解だと思うがの』

 どこからともなく響く不思議な声が言えば、薔薇の蔓の形をした影が反論するように横に揺れる。

「僕も、ぎりぎり登場しているから、可能性はあると思うな」
『年長者に譲るという考えはないのかの?』
「年の順で言っても僕だと思うけど……」

 子どもの姿をした星の心が言えば、蔓の影が自分こそ最年長だと主張した。

『これは一応、人間の行事だと思うぞ』
「あなたも既に人間とは別のものでしょう?」

 三者三葉に主張をしては沈黙を作る。
 この話し合いは、まだまだ長引きそうだった――。


著者:司月透
イラスト:伊咲ウタ


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