【SS03】オリオンレイン 薔薇の小部屋

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2018年3月ホワイトデーその1「良太/ありがとう」

「運動部はまとめてスポーツドリンクでいいよな。あとは隣のクラスの大崎と、陸上部のマネージャーの田畑先輩と……」

 良太は部屋の真ん中に座り込み、床に置いたメモを見ながら、ペットボトルや飴を適当に袋の中に詰め込んでいく。
 並んだ名前の一番下まで来て、ふとその動きが止まった。

(……義理、だよな)

 放課後、下駄箱に入っていた小さな包みを思い出す。
 多分、相手は校内で呼び止めて渡すような目立つ行動を避けたかったんだろう、と思う。
 だから下駄箱に――カードまでつけて?
 名前は知っていても、話したことはないから、直接は渡しづらかったのかも――でも、義理でもそんな奴にチョコなんて渡すかな?
 というか。――なんで俺にくれたのかな?
 ぐるぐる考える視線の先には、綺麗にラッピングされた小さな箱がある。
 お店の人のイチ押しの棚にあった、薔薇の柄のテープを包んでもらったものだ。

(気に入ってもらえるかな)

 定番のキャンディーとか、マシュマロの方が良かっただろうか。
 でも、甘いものを好きかどうかもわからなかったし、簡単に消えてしまうものを渡すのも素っ気ない感じがした。
 相手は軽い気持ちだったかもしれない。
 でも良太にとっては、親や友達以外からチョコを貰うというのは初めてのことだった。下駄箱を開けた時の驚きは、きっとずっと忘れない。
 良太は小さな箱を手に取ると、飾りについた銀色のシールを眺める。
 テープは文房具として使えば消えてしまうだろうけど、使わなければ手元に残る。その辺りは相手の好きにしてくれればいいと思う。

(俺は忘れないけどね)

 自分が感じた嬉しい気持ちを少しでも返せればいいと思いながら、彼は小箱を鞄の中に入れた。


著者:司月透
イラスト:伊咲ウタ


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