【SS05】オリオンレイン 薔薇の小部屋

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2018年3月ホワイトデーその3「零/消え行くものを魅せる夢」

「ホワイトデーとはね。さて、どうしようか」

 零は薄闇の下りた部屋の中で、仄かに輝く蝶の話に耳を傾ける。

「確かに、頂いたものへの返礼は必要だね。とはいえ、文に文を返す時代とは訳が違うようだ」

 蝶は羽ばたきで訴えるように、落ち着きなく舞う。

「そうだね。この星は意外と退屈しない。色々な行事が増えたり減ったり、慌ただしいくらいだ。それとも僕が知らなかっただけなのかな? 花守は星の記録を渡されるっていうけれど、姉さんは何も言わなかったし、僕の世界は姉さんだけだったから、気づかなかった」

 そのまま、ここではない時間に思いを馳せようとする主を繋ぎとめるように、蝶がひらりと弧を描いた。

「3倍返し……? 知らない言葉だね。随分、俗物的な行事……」

 言いかけた零の手元から、するりと別の蝶が零れ出る。
 それはまるで零の言葉を止めるように、彼の頬に止まった。
 戦闘時以外には見せない珍しく俊敏な動きに、零は少し驚いた顔をして、その蝶を指先に移すと視線を合わせる。

「そうだね。無粋はやめよう。気持ちをくれた皆様に失礼だからね」

 蝶は零の指先でじっとその言葉を聞いている。

「そうか。じゃあ君たちに頼もうかな」

 蝶たちは誇らしげに、零の周りに舞い上がった。
 その星空にも似た光景を見つめながら、零が言葉を紡ぐ。

「先日は素敵な贈り物をありがとう。でもね、そう独占したがるものじゃないよ。生き物がどれほど栄耀栄華を誇ろうと、結局は星の掌の上。300年も過ぎれば今あるものは星に還り、個々に関する情報は、1000の言葉を伝えても、10の言葉も正しくは残らないんだ。厳選されていく君の記録に僕のことを残すかどうかは、よく考えた方がいい。まあその記録も、星が宇宙に還れば消えてしまうわけだけど。それでも尚、僕がいいと言うのなら――そうだな。君も、僕の蝶になるかい?」

 ひらひらと動いていた蝶たちが、はたりと羽を閉じた。
 零はもの問いたげに指先に止まった蝶に囁くようにして、言葉を続ける。

「星が宇宙に還るくらいだ、僕もいつかは宇宙に還る。それを承知で僕が良いというような相手なら、ひと時、そんな夢を見せるのも悪く無いだろう?」

 彼は意味深な微笑みを浮かべると、淡く輝く蝶の羽に、軽く唇を寄せた――


著者:司月透
イラスト:伊咲ウタ


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