【SS06】オリオンレイン 薔薇の小部屋

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2018年3月ホワイトデーその4「壇/導きあれ」

 どこかで、鳥が鳴いた。

「見つけたか。今年は冬が長かった分、開花が遅れるかと思ったが、間に合ってよかった」

 壇の呟きに呼応するように、鳥の羽ばたきが近づいてくる。
 そうして闇色の鳥が集まり、彼の手にいくつかの白い花を届けた。
 壇は空いている方の手の手袋を口先で引き抜くと、届いたばかりの花の茎に触れていく。
 花は一瞬、仄かな輝きを纏って、釣鐘型の花びらの中に淡い光を宿した。
 鳥たちはそれを咥え直すと、またどこかへと飛んで行く。
 空にひとつ星を増やしたような小さな光が遠ざかると、後には本物の星と、夜の静寂だけが残った。

「美しいものは、星の垣根さえ超えて久遠に美しい。そうは思わないか、ベアト」

 呟きに返事はない。当然だ。
 彼の花守は遥か遠い星に居る。

「いつの時代も、どこの星でも、自分以外のものを大切に思う心は星の輝きに勝る。今更、この星でその尊いものを私に向ける人間が現れるとは思わなかったが……」

 壇は珍しく、躊躇うように言葉を止めた。その表情は、マスクに隠されていて窺うことはできない。
 ややあって。

「星の影のような私に、この心は眩しすぎる。だから願わずにはいられない。100年経とうと、1000年を経ようと、彼女が持つあの心――誰かを思いやる心がこの星の命に継がれていくように」

 彼は、手袋をつけたままの方の手で黒衣の懐から小さな銀の輝きを取り出すと、空を見上げる。

「瞬きほどの時間だ。君のもとに帰るという約束を違えはしない。だからベアト、今は私が、私に想いを向けてくれた相手のために願うことを許して欲しい」

 そうして彼は、指先で銀の粒を砕いた。
 さらさらとした銀のきらめきが、鳥の後を追うように空に溶けていく。

「君がその心を向ける相手が私ではなくなる日が来ても、君の輝きが翳ることが無いように。私はただ、祈るよ」

 この星の導きよ、君に在れ、と。
 に向けて一礼した――


著者:司月透
イラスト:伊咲ウタ


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