【SS08】オリオンレイン 薔薇の小部屋
2018年3月ホワイトデーその6「莉央/僕の守る未来を生きていく君に」
三条莉央からのバレンタインの返礼が白い薔薇だというのは、乃木学園では割と知られた話だ。そこには可も不可もない。
オリオンの3席は、コインを継承すると伝統の記録の一部となる。継承者以外の人間をその運命に巻き込もうとは思わない。
だから彼は、誰に対しても常に同じ距離を取り、同じように白い薔薇を贈る。
――窮屈なことだ
不意に、1席に言われた言葉を思い出した。
窮屈だと感じたことは無い。ただ、自分から『騎士』という冠を外したら、とてもつまらない人間になるだろうとは思う。
(選択肢は無かった)
次代として、後継者として、伝統を継ぐ者として。
莉央は物心ついた頃には既にそのように育てられた。そこに不満を感じたことも無い。
ただ、コインの継承と同時に先代が記録の一部になるのを見た時、この運命に未来ある者を巻き込むことはしないと決めた。
少なくとも、莉央が騎士であるうちに薔薇との戦いが終われば、三条の家では彼が最後の騎士になる。
そうすれば、記録思念として残る者も、窮屈に見えるらしいこの席次を継ぐ者も、自分で打ち止めだ。あとは未来を作れる者に、記録にアクセスするコインだけを残せばいい。
そんな風に、礎になるくらいしか思いつかない自分に、気持ちを向けてくれる相手が居る。
騎士の記録には必要ないことかもしれないが、彼は縁を繋いだすべての相手を覚えていた。
それは3席の記録する騎士の伝統には直接関係が無い、莉央の記録だ。
けれど、そのくらいは自由にしてもいいだろう。
彼が覚えているのは、彼が守る星で生きていく相手なのだから。
未来を必要とする相手がいると知ることで、星を守る覚悟を重ねていけるのだから。
「ありがとう。君たちが生きていくこの星を、僕は必ず守り切る」
秘め事を囁くように誓うと、莉央は白い薔薇たちに向けて一礼した――
著者:司月透
イラスト:伊咲ウタ
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