オリオンレイン【第8回】

← 前作品ページ次 →


前回のあらすじ
園芸部が管理する温室で蕾をつけた銀の薔薇の状態が気になり、新聞部に顔を出した良太は、映像を確認しているうちに蕾が星のように光る瞬間があることに気づく。それが開花の兆候なのか判断できなかったため、彼は遠矢に確認を入れた。遠矢は部室に来ると言う。雪也と莉央にも召集をかけることになり、騎士という役割に迷いのある良太は俄かに緊張するのだった。

第4話「胡蝶舞う銀の夢」後編

「……どう見る?」

 タブレットに流れる映像を見ながら、莉央が誰にともなく呟いた。

「咲くんじゃねえの?」

 遠矢の答えに、良太がぎょっとする。

「それって、園芸部の連中が下校してからだよな?」
「どうだろうな。記録によれば薔薇が活性化するのは夜が多いということだが、ここのところ日没前には動く例が続いている」
「まだ校舎内には生徒が残ってるんだぞ? 避難させるとか、せめて下校を勧めるとか……。だって、正体がバレたらまずいんだろ?」

 ――違う。
 良太は自分の言葉に対してほぞを噛む。
 正体がバレるとか、そんなのは言い訳だ。守れないかもしれないことが怖いのだ。
 こんな、自分の身近な場所で、そんなことが起きる可能性が――それを防ぎきる自信のないことが――怖い。

「なに気負ってんだ、お前」

 言うだけ言って黙り込んだ良太に、遠矢が軽い調子で声をかける。
 どう説明しようか迷っていると、4人目の声が入って来た。

「良太はさ、守れないことも有り得るっていう現実に、気持ちが追いついてないんでしょ」

 ずばり指摘されて、良太は声の主を見る。

「雪也……」

 雪也は警戒する小動物のように廊下の様子を確認してから、くるりと身を翻して室内に入って来た。その顔には、大きな丸い眼鏡をかけている。

「お前、なんだそのメガネ」
「変装変装。乃木学園に侵入~、みたいな?」

 彼は遠矢のツッコミを軽くかわし、上手の机の前に移動すると、画面を覗き込んだ。

「えーと? うーん?? あ、本当だ、光るね」

 規則性のない、気まぐれな刹那の瞬きは流れ星にも似ている。

「園芸部の連中は気づいてないみたいだけど……」

 最前の懸念を思い出して語尾が弱くなる良太の頭を、遠矢が鷲掴む。

「心配したって仕方ないだろ。前向いてねえと、薔薇の蔓に躓くぞ」
「あ、うん。ていうか、痛い痛い痛いっ」

 そのまま羽交い絞めにされて頭を握りこまれた良太は、遠矢の腕から逃げようと手足をばたつかせる。それを気に留めるでもなく、遠矢がそのままの姿勢で莉央に話を振った。

「ところで気になったことがあるんだけど、ここの高等部って放課後はいつもこうなのか?」
こうとは?」
「寝てる奴が多い。まあ大学も講義中に寝てる奴多かったし、偶然かね。眠い日ってあるよな」

 莉央が考えるように口元に拳を当てる。それを見た良太が、羽交い絞めされた姿勢のまま、視線を遠矢の方に向けた。

「なあ、今のって俺に聞いてもいい話だよな。なんで三条さんに聞くんだ?」
「だってお前、寝てる側っぽいじゃん」

 遠矢の決めつけはほぼ真実だったので、良太は言い返す言葉もない。だが。

「いや、大江に聞く方が正しい。すまないが遠矢、僕には『眠い日』というものがわからない」
「…………」

 伏し目がちの麗人が生真面目に話す内容に、遠矢は無言で良太を解放した。

「莉央って本当、真面目だね。ボク思うんだけど、莉央と良太ってちょっと似てるよねー」

 沈黙の中に飛び込んで来た意見に莉央の眉が顰められ、良太が後ろに下がる。

「全然似てないだろ!」
「そうかなー?」

 爆弾発言の主は、無邪気に首を傾げてから、思い出したように話を付け足す。

「あ、それとね。ここに来る途中で覗いたけど、用務員室や事務室の人も寝てたから、眠い日とかじゃないと思うよー」
「馬鹿、そっちを先に言えっ」

 遠矢が慌ててタブレットの映像を確認する。その画面は、まるでカメラに小さな銀の瞬きが焼きついたように不鮮明になっている。
 良太は別の端末で、角度の違うカメラからの映像を確認した。
 温室内に残っている人影は――

(映像がぼやけてよく見えない……けど、誰だ? 誰かいる?)

「流石園芸部、と言うべきか……」

 良太の背後からモニターを覗き込んだ莉央が、苦い声を零した。

「え?」

 良太は莉央を振り返り、その瞳の先、モニターの一点に視線を戻す。
 そこには陽炎のように、確かに見覚えのある仄蒼い銀の揺らめきが。

(――え?)

 

 薄暗い室内に、どこからともなく淡い輝きが増えていく。

「……そうか」

 ひらひらとした蝶の輝きに答えるように呟いた影は、椅子を微かに軋ませて立ち上がると、窓の前に立った。

「それは少し、荷が重いかもしれないね」

 降りたままのカーテンの向こうにある景色を見透かしたような言葉が、静かな室内に響いた。

 

「「「「――Bet!」」」」

 終業時間を告げる鐘の音に、4人の声が重なる。
 花のように星のように広がり押し寄せる光の中で、良太はいつものように知らない景色を見る。まるでフレームの外から割り込むように、景色の中に入ってくるゆらゆらとした仄蒼い銀の揺らめき。

(髪……後ろ姿?)

 光が治まった新聞部の部室には、黒いスーツを着た仮面の紳士が4人、立っている。

「あのさ……」

 躊躇いがちに言葉を零す良太に、他の3人が視線を向けた。
 ――変身するときって、みんなあの景色を見てるのか?
 そう続けようとしたとき、校舎の窓を影が走り抜けるように教室の明かりが消え始める。

「なんだ、停電?」

 温室の様子を映していたモニターからも光が消えた。独立電源である筈のタブレットも沈黙している。

「雪也」
「マジックコール、アクセス」

 莉央が指示を言うより早く、雪也が金のスティックで軌跡を描く。
 ――第5席、要請を確認しました。
 仮面の端から機械的なのに鈴のような声が響くと、視界の端に映像が映り込んだ。
 左下にエネルギー値が表示されていることから、オリオンの館のスクリーン画面が転送されたのだとわかる。

「こんなこともできるのか……」
「ボクのスティックには魔法がかかってるからね」
「あんま無駄話してる場合じゃねえぞ」

 得意気な雪也の言葉を、いつになく低い遠矢の声が止めた。
 送られて来る映像は、夕暮れが深くなるにつれて学校の敷地内にちかちかと増える銀の光点を映している。
 それはどこか、星の沼のようにも見えて。

「なんだよこれ……どうなってるんだ?」
「校舎ごと取り込むつもりか」

 莉央の静かな声が、良太を混乱させる。

「取り込むって、残ってた生徒は? 寝てたっていう用務員や事務員は……」

 ――銀の薔薇に食われると、銀の薔薇になる

「みんな銀の薔薇にされるのか?」
「落ち着けって」

 莉央に詰め寄ろうとする良太の肩を、遠矢が押さえた。

「お前もお前だ莉央。新米相手に言葉が足りなすぎなんだよ」

 会話の途中で、莉央が壁の隅に銀光を放った。
 白い羽をつけた銀のダーツが、壁伝いに伸びようとしていた銀の蔓を止める。

「無駄話をしている場合ではないのだろう?」
「……ったく、この頭でっかちが! ほら良太、温室行くぞっ 雪也、窓!」

 心得たように傍観に徹していた雪也が、待ってましたとばかり金のスティックを閃かす。

「はーい。最短で繋ぐよ! マジックコール、special window!」

 金色の軌跡が空間に見知らぬ文字を描き、さらさらと空気に溶けていく。その煌めきの中から、オリオンの館でビリヤード台の上に投影される扉に似たものが現れた。
 けれどそこから見える景色には、蜘蛛の巣のように細い銀糸が張られている。

「これは……」
「校舎の中に根を張ってるってことだ。だから寝てる奴が多かったんだな。学生生活って願いごとみたいなもん多いから、繋がれそうな奴を探して伸ばしまくったんだろうなあ」
「でも蔓の檻が出来てないってことは、誰も繋がらなかったってことだよね」

 遠矢と雪也の説明を聞きながら空間を見ていた良太は、見覚えのある相手が机に突っ伏しているのを見つけて表情を変えた。

「あ、秋島先輩? 先輩!」
「おい、話聞いてなかったのかよ。寝てるだけだって」
「薔薇がある限り、繋がっちゃう可能性は残るけどね。だから、早く薔薇を狩るのが正解だよ」
「……わかった」

 由美香や生徒たちを助ける最善策が薔薇を狩ることだと聞いて、良太は拳に力を込める。
 赤い柄が出現して、銀の刀身を伸ばした。

「先に行く!」

 短く言い残して、雪也が作った扉の中に駆け込む。細い銀の根が、銀の刀身に触れて儚く霧散した。

「鉄砲玉みたいな奴だな」
「若さだよね」
「ひとつしか違わなくても、老成してる奴もいるけどな」

 遠矢はちらりと莉央を見る。彼は無言で廊下に向かった。

「こっち使わねえの?」
「途中で薔薇の勢いが増したら、空間内で足止めされる。ナビも居ないことだし、別行動が妥当だろう?」

 振り向くこともせずに淡々と言って、教室を後にする。

「怒らせたかね?」
「真面目なだけだよ。怒るともっと怖いもん」
「怒らせたことがあるみたいな言い方だな」
「まあね」

 遠矢は思わず雪也を見た。互いに仮面越しなので、表情まではわからない。

「じゃ、ボクらも行こうか」

 にこやかに言って、雪也は遠矢に先を勧める。
 示された扉の向こうを見て、遠矢は頭を切り替えた――

 

 そこは温室というより、温床だと思った。

「なんなんだよ、これはっ」

 良太は伸びてくる蔓を切りながら叫ぶ。子どもの頃に読んだ絵本に似たような話があった。あれは確か、いばら姫だったか眠り姫だったか。

(そうだ、さっきぼんやりモニターに映ってたあの子――この温室のどこかに居るのか?)

 あんな髪色の生徒なんて居ただろうかと疑問を抱きながらも、良太は蔓を切るたびに開けた視界の向こうを確認する。今のところ、人影は無い。

(薔薇ってどこにあるんだ? 先輩は真ん中あたりって……)

 真ん中も、奥も手前も、寧ろ上下左右のすべての感覚が狂いそうなほど、視界いっぱいに蔓延する銀の蔓。大小様々のそれは多すぎて遠近感を狂わせ、何度かその棘が皮膚を傷つけた。
 切った端から伸びてくるそれはまるで意思のある生き物のようで圧倒される。

(真ん中……って、どの辺……大体、今いるのってどの辺り……)

 良太は由美香が温室の作りを説明した時のことを思い出そうと必死だ。
 ――君、転んでも何かは理解してくるでしょ。それに引き際に気づくのも早いし。
 何故か別の会話を思い出した。ついさっきのことだ。
 ついさっきのことなのに。

(なんでこんな、こんなの、どうしろって)

 混乱しながら、それでも伸びてくる蔓を切り、棘を折る。
 それでも蔓はまた伸びた。きりがない。刀を振るうのはもう殆ど条件反射だ。

(……引き際)

 ふとその言葉が浮かんだ。多分そうだ。今が。
 けれど引いたらどうなるのか。由美香をはじめとする眠っている生徒たちは。この星は。
 迷ううちにも、背後の蔓が厚みを増して、足場が狭くなる。

「しまっ……」

 刀の柄を握り直したとき、弦を弾く音がして、柔らかな白光が銀の蔓を霧散させた。
 人ひとり分開けた場所に、白羽の矢が刺さっている。

「……三条さん」

 白い騎士は次の矢を構えたまま、良太に仮面越しの視線を向けた。

「騎士を辞めるなら、その道を通って避難すると良い。続けるなら――我らには引き時は存在しない。守護騎士オリオンの名に懸けて」

 莉央は構えていた矢を蔓が交差する位置に向けて放つ。白光が、何本かの銀の蔓を霧散させ――すぐに新しい蔓がその場を塞いだ。
 それを、横薙ぎに青い槍が払う。

「だから気負うなって言ったろ」

 蔓の向こうから現れた青い騎士が言って、そのままバランスを崩した。

「マジックコール、カードステップ!」

 小柄な紳士が金のスティックを翳し、騎士の足場を安定させる。

「おう、サンキュ」
「良太も足場いる?」
「いや、俺は……」

 雪也に聞かれて、良太は言葉に詰まる。

(何を考えてたんだっけ。そうだ引き際かなって……けど、星を守る役目の奴が、守れなかったら怖いってそれを放棄したら、誰が星を守るんだ?)

 垣間見えた騎士と紳士が、増殖する銀の蔓の向こうに見えなくなる。けれどどこかでは蔓が消されているのだろう、棘の位置がぞろぞろと流れるように移動していた。

(次があるなら引くのもありだ。けど、これは違う)

 誰かに任せようと自分がやろうと、引けば星が滅ぶ。知らなければ他人任せでも良かったかもしれない。でも良太は知ってしまった。コインを受け取ってしまった。そして。
 いつか星を守るのだと思う、その自分を信じてコインを使った。

「……今さら……」

 やっぱり無理でしたと。

「――引けるもんかっ!!」

 良太は背後から伸びて来た蔓を続けざまに切り落とすと、刀身の背に左手を滑らせ刀を真横に構えた。

「double-up!」

 刀から赤と銀の光が良太を包むように溢れ出す。左手に触れていた硬質な感触が、柄のそれに変化する。光の奔流の向こうで、誰かが誰かに、コインを渡す――

(なんだ、今の)

 確認する間もなく、蔓が迫っていた。反射的に二刀で切り落とすが。

「……伸びてない?」

 気づくと、銀の蔓は増殖を止めていた。そのあちこちに、淡い藤色の蝶が止まっている。

「――合格だ」

 不意に背後から声が響いた。

「我らは星を守る者。花守かもりの姫がし夢を、旅路の果てに探す者。いざや祈らん、銀の夢。いざや守らん、胡蝶の誓い」

 パチン、と固い音がして、蝶が一斉に蔓を離れる。花びらが舞いあがったような景色の中、まるで植物が枯れるように、銀の蔓が崩れながら地に落ちた。
 虚ろに出来た空間を、ゆるい銀の髪をした騎士が歩いてくる。
 手には藤色を帯びた刃を持つ柄の長い大きな鎌。背に流れるマントの色は淡い藤色。そして――銀色の、仮面。

(……誰だ?)

「零だよ。5人目の騎士」
「来るならもっと早く来いってんだ、じじいが」

 蔓が動きを止めたので、蔓を狩る互いの姿が視界に入るようになる。

「老人を酷使するものじゃないよ、遠矢」

 どこか愉しそうに囁いて、彼はひと際深い蔓の前まで進むと足を止めた。

「僕の領域に手を出すには、2000年早かったね」

 零は銀藤の鎌が優雅に振り上げる。

「二度目の災厄は無い」

 振り下ろされた鎌に、銀の薔薇が蔓ごと狩られた。

「我らに星の導きを」

 瞬間。なぜか良太は痛みを感じた。

 ――綺麗に咲いて。
 ――凄いな、妖精とか出てこないかな。
 ――この花と話が出来ればいいのに。
 ――いいなあ。夢中になれるものがあって。

 銀の薔薇が、さらさらと砂のように崩れていく。
 そのささやかな音の中に、ひそひそとした囁きがあるような気がして、良太が首を傾げた。

(今の、秋島先輩の声……?)

 確認しようにも、それは砂が流れるように一方通行に通り過ぎる音で、追いかけることも出来ない。
 他に聞こえている騎士もいないようなので、空耳だったかと結論を出した。

「大江。彼が僕らの中で最古参の騎士だ。聞きたいことがあるなら、彼に聞くと良い」

 ひとり納得していると、莉央に声をかけられる。そのまま促されて、彼は優雅に佇む藤色の騎士の前に出た。

「平塚零。4席だよ。はじめまして。……うん、おもちゃにはしゃぐ子どもの瞳じゃなくなったね」
「初対面……ですよね?」

 まるで以前から知っていたような零の物言いに、良太が首を傾げる。

「でも、蝶が見ていたからね」

 更に不思議なことを言われて、良太は仮面の下で自分が複雑な顔をしていることを自覚する。
 悩んだ末に結局、「大江良太、8席らしいです」と名乗った。

「あの……俺、色々、知らないことが……何を知りたいのかわからないくらい知らないことがあって」
「うん」
「……強くなれますか。この星を守れるくらい」

 良太は今一番知りたいことを言葉にする。零は小さく首を傾げた。
 互いに騎士の姿のままなので、微細な表情はわからない。

「それは流石に、君次第としか言えないな。ただね、見込みのない者のところに、コインは留まることをしない。今も、昔もね。だから、初めがどんな経緯でも、君の手にずっとコインがあったなら、それはそのコインが、君が一番適任と判断していたということだよ」

 やわらかな物言いに、良太は小さく頷く。
 不思議なコインはずっと手元にあった。何も知らずに夢見ていた頃も、はしゃいでいた時も、コインの重さを知って立ち止まっていた間も。
 それが星からの答えだったのだと、なんとなく、思った。

 

 

「あー、もう! やっぱり肝心のところは録画が出来ていない~」

 新聞部の部室で、由美香が頭を抱えている。

「でも、直前くらいまでは映像あるんですよね? 快挙じゃないですか」

 良太はどことなく視線を逸らしつつ、荒れる部長をなだめた。

「あんな荒い映像、全然快挙じゃないわよ~。しかも肝心の時間、私ったら校内に居たにもかかわらず、教室で寝こけていたのよ! 有り得ない失態! 乃木高新聞部の名折れだわっ」

 良太は言葉もない。無事でよかったと思うばかりだ。

「大江も大江よ。あんたここに居たんでしょ! 呼びに来てくれれば良かったのに~」

 黙っていたら、矛先が自分に向かってきた。

「居たって言っても、先輩は帰宅したと思ってましたし。俺もなんかうたた寝して……昨日ってなんか、眠い日でしたよね」
「まあ……結構教室で寝てたって子も多いのよね。そういう日があるって否定はしないけど、みんながみんな学校でうたた寝っておかしくない? もしかして、銀の薔薇にはリラックス効果があるとか?」

 実際はリラックスどころではなかったのだが、銀の薔薇のせいで生徒が眠ってしまったのは確かなので、当たらずとも遠からずと言ったところだ。
 そういえば、あの騒ぎの直前、画面に映り込んだ仄蒼い人影はなんだったのだろう。

(三条さんも見ていたから、気のせいじゃないと思うけど)

 騎士に変身するときに垣間見える誰かの髪の色に似ていたと思いつつ、つい最近、もっとはっきりと同じような色の髪を見たことに気づく。

(零って言ったっけ……。珍しい髪の色だったな。遠矢がじじいって言ってたけど、あれ、銀じゃなくて白……なのか……?)

 それでは、あの仄かな蒼というか藤の色の理由がつかない。ぼんやり考えていると、部室に客人を知らせるノックの音が響いた。

「失礼」
「三条さ……」

 莉央だ。由美香が気づいて腰を上げ、そのまま固まった。

「秋島先輩?」

 今度はなんだろうと由美香と入口を見比べて、莉央の影にもうひとり人が居ることに気が付いた。その独特な髪の色――

「り、理事長先生!」
(え?)

 良太は思わず、入って来た人物と由美香を見比べる。

「先輩、リジチョーさんって、何年生ですか?」
「この、馬鹿江! 新聞部なら学園案内くらい目を通しなさい。一昨年、学園総理事に就任された平塚さんよ!」
「総理事って……だって、……え?」

 莉央の視線がうろたえる良太に無言の圧力をかけた。

(あれ、じゃあ昨日のあの言葉って)

 そうだ、零は確かに『僕の領域』と言っていた。

(領域ってそういう……? いやでも2000年とか言ってたよな)

 困惑する良太を放置して、莉央は由美香に温室の映像を学園側で保管したいという理事長の用向きを話し始める。
 良太がちらりと視線を向けると、小さく笑った零が由美香との会話を進めた。

「花が咲くところを撮れなかったのは残念だったね」
「それどころか、薔薇を刈ったと思われるオリオンの影さえ映ってないんです」
「ああ。でもあれは都市伝説みたいなものだろう? 薔薇が消えた原因とは限らないんじゃないかな?」

 オリオン最古参だという零は、いけしゃあしゃあとそんなことを言う。

「そうなんですけど。でもそこに居るうちの部員の大江君もかなり興味を持っているし、一度記事にしてみようかと検討しています」
「記事に……」

 良太は咄嗟に明後日の方を見る。莉央の視線が痛い。
 裏事情を知らない由美香が、楽しそうに話を続けた。

「もしかすると銀の薔薇にも繋がるかもしれません。そうしたら今度こそ完璧な記録が取れるように対策を取るつもりです!」
「そうか、君は夢中になれるものを見つけたんだね」
「はい!」

 零と由美香のやり取りに、良太が目を丸くする。気づいた由美香も不思議そうな顔をした。

「……あれ? 私、そんな話どこかでしてました?」

 零は穏やかな顔で「蝶が噂をしていたよ」と返し、由美香の中に「理事長不思議ちゃん疑惑」を植え付けたのだった


著者:司月透
イラスト:伊咲ウタ


次回5月12日(金)更新予定


← 前作品ページ次 →


関連作品

カテゴリ