オリオンレイン【第26回】

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前回のあらすじ
新聞部の部長・由美香が銀の薔薇だけでは記事の掴みが弱いと言い出した。もっとオリオンに寄せた特集にしたいらしい。突撃取材も辞さない構えの彼女の話をしたところ、騎士たちは沈黙してしまった。由美香が取材のためなら銀の薔薇に「オリオンに会いたい」と願いかねないと判断した良太たちは一計を図り、壇に協力を依頼することにしたのだが……

第13話「オリオンを探せ」後編

 人気のない茶室の中に、明かりがひらめく。
 その仄かな輝きを合図としたように、鳥の羽ばたきが響いた。
 音もなく開いた障子の向こうには、不機嫌そうに片膝を立てて座る零が居る。

「君が私を呼び出すとは、面白いこともあるものだ」

 廊下に現れた黒衣の紳士を見て、零はわかりやすく視線を逸らした。

「呼びたくて呼んだわけじゃない。単に貴様しか適任が居なかっただけだ」
「適任?」
「どうぞ、中へ」

 そのまま会話を続けそうな壇に、障子の脇に控えた莉央が声をかけた。
 壇は仮面の奥でちらりと莉央に視線を向けると、そのまま室内に踏み入る。

「秋島由美香という人間が居る。うちの学園の生徒だ。新聞部で、オリオンを探している」

 零はつまらなそうに要点だけを話す。

「探す? 何故?」
「取材をするために」

 一方的に剣呑な零の声を聴きながら、莉央は無言で茶を点てる。

「面白いことを考える」
「元を正せば、貴様があの小僧にコインを渡したせいだ」
「どう繋がれば私のせいになる?」

 膨れたような物言いを、愉し気な問いが追いかけ、零の眉間に皺が刻まれた。

「……コインをくれた相手を探すために新聞部に入った小僧が、その人物はオリオンかもしれないと話して秋島に興味を抱かせた」
「なるべくしてなった流れにしか聞こえないが」

 苛々と言葉を落とす零とは対照的に、壇はとぼけた様子で話を繋ぐ。

「コインは花守に選ばれた家で引き継がれたものだ。この星の子どもに気まぐれに渡すものじゃない」
「だが、彼はよくやっているだろう?」

 茶筌ちゃせんの音が僅かに揺れた。

「……失礼」

 莉央は乱れた泡を整えるように手首を使い、点てたばかりの茶を壇の前に置く。

「秋島さんは高い情報検索力と直感を備えた相手です。普段、同じ校内に居る僕らや、以前に接触のあった5席では気づかれる可能性があります」
「6席が居るだろう?」
「猫が被れないから嫌なんだそうだ」

 つまらなそうに言う零を、壇が失笑を零した。

「それではまるで私が猫を被っていると言っているようだよ、零」
「被っているだろ、紳士面した特大の猫を」
「君はいつまで……いや、いい。それで? 私に何をしろと?」

 話を進められて、棘を向ける先を見失った零が黙り込む。
 代わりに、莉央が話を引き継いだ。

「遠目で構いません。騎士として、彼女からの接触を引き受けて頂きたいのです。彼女が、オリオンとの接触を薔薇に願う前に」
「承知しよう」

 あっさりと引き受ける壇に、莉央が目を瞠る。

「良いのですか?」
「やろうと思えば零にも出来ることだ。彼には蝶が居るのだからね。それをしない――つまり、その人間は零が、接触を避けなくてはならなくなる可能性を作りたくない相手、ということだろう? それは大いに興味があるね」
「な、に……っ」

 壇の推論に、零が絶句した。

「ただひとつ、条件がある」
「どうぞ」
「その接触のために、君たちに同行はしよう。だが薔薇を狩るのは、君たちだ」

 ぱくぱくと言葉を探していた零が、柳眉を跳ね上げる。

「薔薇を狩るのは騎士の役割だ。貴様、それさえ放棄するのか?」
「星移り、時過ぎれば、騎士も、薔薇も、変わっていくものだ」
「僕は変わらないっ 薔薇を狩ってもう一度姉さんに会う。貴様もそのつもりだったはずだ。それが……」

 つのろうとする零の前に、茶が置かれた。

「零。取引だと、あなたは初めからそう言っていたはずです。ならば、今の条件に反論は出来ません」
「…………っ」

 零は出された茶を一気に飲み干すと、席を立った。

「その紳士面、しっかり活用してもらうからな!」

 廊下に出るなり、その影はまるで風に流されるようにさらりと消えてしまった。

「からかいが過ぎたかな」
「いえ……」

 莉央は言明を避ける。正直、どう返せば良いかわからない。
 壇の言葉が正解なら、零は壇に借りを作ってまで由美香の前に騎士として姿を見せることを避けたことになる。
 それは邪推というものだ。
 けれど壇の言うように、蝶で騎士の虚像を作れば済んだことではないだろうか?
 踏み込む代わりに、莉央は別の疑問を口にした。

「あなたは、薔薇を狩らないのですか」
「今、薔薇を狩るわけにはいかない身でね」

 それはどういう意味なのか。
 奇跡を見るのだと、壇は言った。
 それより多くを語らない。けれどおそらく行方を隠したその時から、彼の中には何かの決意がある。花守の、首座の騎士としての、何かが。

「秋島さんとの接触のときは、僕がバックアップに入ります」

 3席は首座の左。2席が不在の今は唯一の補佐にあたる。
 では自分が選ぶべき伝統は。

「3席は弓だったか。適任だな。だが」

 莉央の前に、空になった茶碗が置かれる。

「君はもう少し、肩の力を抜くといい。茶の味も硬すぎる」

 言い残して、壇は茶室を後にした。
 静かになった部屋の中、考えに耽る莉央を床の間の薔薇が見ていた。

 

「え、じゃあ源さん、引き受けてくれたんですか?」
「女性を騙すのはあいつの得意技だからね」

 棘のある返事に気圧されながらも、良太はほっと胸を撫でおろす。
 由美香にまつわる『秋島伝説』について、自分なりに調べて、色々心配になっていたので、余計に肩の荷が下りる感じがした。

(先輩ってスイッチ入ると暴走するタイプだったんだな……)

 いつもしっかりした姿勢で助言をしてくれる印象だっただけに、数々の伝説は驚きの連続だった。

「じゃあ、次の問題は薔薇だね」
「うまく繋がないと、最終手段を使いかねないからな」

 遠矢の言う最終手段とは、もちろん由美香が薔薇に願うことである。

「一番の問題は、彼女のもとに現在確認されている開花の近い薔薇の情報が揃っていることだ」
「あ、それは俺が、先輩がヤマを張る場所を聞き出します」
「そうだね。8席が聞き出した話をもとに、彼女が騎士と接触できる場所を作りつつ薔薇を抑えることになる」

 零と良太の話を聞いていた遠矢が眉を寄せた。

「結構面倒臭ぇな」
「そういうこと言わない。ところで莉央は? 来てないの?」

 雪也が莉央の姿を探すように騎士の間を見回す。

「なんでも茶道の師範のところに用事が出来たとかで、今日は学校も早退したようだよ」

 零の言葉に、良太は首を傾げた。

「莉央さんの茶道の先生のところって、そんなに遠いんですか?」
「確か、八重山だったかな」

 ――八重山。
 八重山百花園には、確か。

(まさかな)

 けれど、銀の薔薇は乃木の外でも咲くようになったのだ。
 良太はモニターに映る地図の北側を、気遣わしげに見つめるのだった

(続く)


著者:司月透
イラスト:伊咲ウタ


次回2月9日更新予定


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