【第3回】絶対無敵ライジンオー 五次元帝国の逆襲

ライジンオー

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『パラレルワールド!?』

 

 僕は姫木先生にすべてを言うことにした。
 姫木先生の本名は姫木るる子。
 僕が5年生の時に陽昇小学校に赴任してきた保健の先生だ。
 大学卒業後、看護士の資格をとって、この学校の保健室の担当として赴任してきた新任の先生だった。
 よく生徒たちの面倒を見てくれて、学校のマドンナ的存在だったのをおぼえている。
 五年生の時の僕のクラスの担任だった、篠田先生は姫木先生のことが好きなんだという噂があった。
 中学に入ってからは、小学校の時の先生の情報は聞かなくなったので、その後姫木先生と篠田先生がどうなったのかは、僕は詳しくは知らない。
 ただ今、目の前にいるのは、僕が五年生の時の姫木先生だ。
 僕はあらいざらい本当のことを話した。

「飛鳥くんは、いま高校一年生で、黒い影みたいなものに飲みこまれて、気がついたら五年生になってて、吼児くんとかも五年生になってて、仁くんのことはまるでおぼえてないというわけね……」
「はい」
「そうかぁ……」

 姫木先生は、不思議そうに首をかしげて、額にかかった髪の毛をかきあげた。

「頭が痛いとか、そういう自覚症状はない? どこかで頭を打ったとか、そういうことも?」
「頭は打ってません。動揺してて、すこし気分は悪いですけど……痛いという感じじゃありません」
「あたしのことはわかるのね」
「はい、姫木先生。先生のことはおぼえてます」
「あなたのクラスの担任の先生の名前は?」
「篠田俊太郎先生でした」
「でした……?」

 姫木先生が言い終わる前に、カーテンの後ろからあいつの声がした。

「あってるッ! ピンポーン!!」

 仁だ。

「おれのことだけ忘れるなんて、おかしいよォ」
「だって飛鳥くん、自分のこと高校生だって言ったんだよ。まず、それがおかしいでしょ」

 と、言ったのは吼児だ。

「姫木先生、カーテンの向こうの二人、この部屋から出ていってくれるように言ってもらえませんか」

 二人の声を聞いていると、ますます混乱してしまいそうになる。

「わかったわ」

 と、姫木先生は、しきりのカーテンを開けて言った。

「仁くん、吼児くん、ちょっと廊下に出ててね」
「わっかりましたァー」

 と、二人はすごすごと保健室を出ていく。
 吼児は心配そうにしているが、仁のほうはにやにや笑っている。
 僕の話をまったく信じていないのは明らかだ。
 仁は、部屋を出ていくときに、僕にむかってサムズアップまでしてみせた。

「がんばれーッ、飛鳥」

 どういう意味だよッ!?
 ふざけてる。
 僕が人生最大のピンチに陥っているというのに、なんなんだよあの悪ガキは。

 

「体の方には異常はないみたいだけど、一度精密検査をしてもらったほうがいいかもしれないわね」

 姫木先生は自分を納得させるようにうなずいた。
 僕はまったく納得してないんですけど!
 なんの解決策も出てません!

「ご父兄の方には、あたしの方から連絡しておくから」
「えっ、あ、それはいいです」

 僕はあわてて言った。
 家族に連絡されたら、よけいに面倒なことになってしまう気がしたからだ。
 ここはなんとか自分で切り抜けるしかないと、僕の心は決まっていた。

「しばらくここで横になってもかまいませんか?」
「いいけど……飛鳥くん、なんだかちょっと大人っぽくなった気がする。その口の聞き方は。本当に、中身は高校生になってたりしてね」

 姫木先生がクスッと微笑みながら言った。
 やっぱりこの先生も、僕の言ったことを本気にしてくれてはいなかったんだ。
 襲ってくる絶望に押しつぶされそうになりながら、僕はベッドに横たわり、毛布をあたまからすっぽりかぶった。

 まずは落ち着け。
 落ち着くんだ!
 僕は自分に言い聞かせた。
 自分に起きていることを、もう一度ちゃんと整理して、理解すること。
 高校の屋上でマリアと話をしていたとき、謎の黒い影があらわれて、僕はそのなかに飛びこんでしまった。
 そして気づいたら、小学五年生に戻っていて、陽昇小学校の屋上にいた。
 そこには五年生の星山吼児がいて、仁という名前の見たこともない同級生がいた。
 姫木先生も昔のままで保健室にいて、担任は篠田俊太郎先生らしい。
 つまり、つまり、つまり……どういうこと!?
 知っているSF知識を総動員して、必死に考えた。
 僕はタイムスリップして過去に来てしまい、さらに僕自身は小学五年生の体に戻ってしまった……
 でもそれならもともとこの過去にいた小学生の飛鳥はどこに行ってしまったんだ?
 さらに僕が本当にいた過去には、仁なんて同級生はいなかったはずだ……?
 考えれば考えるほど、僕の頭は混乱していく。

 そのときふと僕の脳裏に、一つの言葉が閃いた。
 パラレルワールド。
 平行世界。
 同じような世界が、平行して存在しているとしたら……。
 そしてその一つに、僕の意識だけが瞬間移動してしまい、もう一つの世界の自分の中に入ってしまったとしたら……。
 高校生の僕がいた世界がAで、僕がまだ小学五年生の世界がBとする。
 Aの僕が、次元の壁を通り抜けて、Bの僕にすべりこんでしまった。
 そう考えると、混乱したパズルが解ける気がした。
 これならばBの世界に僕の知らない同級生がいたとしても説明はつく。
 そうか!
 僕はパラレルワールドに迷いこんで、こっちの世界の僕の中に意識だけが入ってしまったんだ。

 そうか! そうか! そうだったんだ!
 謎は解けたぞッ!
 僕ってすごい。
 名探偵かよッ!
 保健室のベッドの中で毛布をかぶったまま、僕は小さくガッツポーズをした。

「どうしたの、飛鳥くん? 気分悪いの?」

 姫木先生が心配そうに声をかけてきたので、僕は我に返った。
 問題はなんにも解決してないんだった!
 状況がぼんやりわかっただけで、僕は依然として人生最大の大ピンチの真っ只中なのだ

(つづく)


著者:園田英樹

キャライラスト:武内啓
メカイラスト:やまだたかひろ
仕上:甲斐けいこ
特効:八木寛文(旭プロダクション)


次回5月9日(火)更新予定


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