【第4回】絶対無敵ライジンオー 五次元帝国の逆襲

ライジンオー

← 前作品ページ次 →


『地球防衛組出動!』

 

 どうする? どうする? どうする? どうするーッ!?
 僕の頭の中は、?マークでいっぱいで、口からもあふれてしまっていた。

「どうするよー?」

 体はいつのまにか毛布の中で小さく丸まってしまっている。
 半ズボンから出ている小さな膝を僕は抱えた。
 僕の体って、こんなに小さかったっけ……?
 そんなことをふと思った。
 そのとき左手首に腕時計とは違うものが着いているのに気づいた。
 六角形の時計のような形をしているが、文字盤はついていない。金色に近い黄色の太いラインに囲まれて、赤い宝石のようなものがセンターに配置されている。

「なんだろう……これ……!? ブレスレット……?」

 突然、目の前のブレスレットが光を放ちはじめた。

「うわ~~~~っ!」

 僕は毛布をはね飛ばしてベッドの上に立ち上がっていた。

 

 ベッドの上に仁王立ちしている僕を、姫木先生がにっこりと微笑みながら見つめている。
 えっ!? なに、この笑顔!?
 この状況じゃ、笑顔で癒されたりしないんですけど……
 僕がおどおどしていると姫木先生が言った。

「出動みたいね」
「えっ!? 出動!?」
「ええ」
「……なんですか、それ?」
「気をつけて行ってきてね。あたしも気持ちは、あなたたちと一緒に出動してるのよ、いつも」
「はぁ!?」

 またとんでもないことが起きようとしているのはわかった。
 僕に起きてる異変は、小学生時代に戻ってるだけじゃないんだ~~~~!

 

「行くぞ、飛鳥!」

 悪ガキ、仁が保健室の扉を勢いよく開けて飛びこんできた。
 さっきまでのニヤニヤした顔じゃなく、今はきりりと引きしまった表情になっているのが、よけいに僕を不安にさせる。

「体調不良ごっこなんてやってる場合じゃなくなったみたいだぜ」

 仁につづいて吼児も顔を出す。
 吼児は少し不安そうな声で言った。

「街に邪悪獣が出たみたいなんだ。飛鳥くんはもう大丈夫だよね、姫木先生?」
「体調的には大丈夫だと思うわ」

 と、姫木先生がうなずく。
 ぜんぜん大丈夫なんかじゃないですけど~~~ッ!

「もたもたしてんじゃねぇよ。しっかりしろよ、飛鳥!」

 と、仁は無理やり僕の手をひっぱった。

「うわっ!」

 ベッドから転げ落ちそうになりながら、必死で体勢を立て直してベッドから飛び下りる。
 僕の手を引いたまま仁は、走りはじめた。

「急げ、飛鳥!」
「うわわわわわぁぁ~~~」

 仁と一緒に僕は小学校の廊下を走るしかなかった。

「こらーっ、廊下は走っちゃいかんといつも言っておるじゃろッ!」

 廊下にいた人が叫ぶ声が聞こえた。
 この声にも聞き覚えがある。矢沢校長先生の声だ。
 声のした方に振り返ると拳法の胴着を着た校長先生がいた。昔のままだ。

「ごめんなさい、緊急出動なんです! 許してくださいッ!」

 吼児が謝りながら走っていた。

「帰ってきたら、あとで罰当番が待っておるぞ。フォフォフォフォ」
「そんなぁ、地球を守ってるのに、罰当番なんて、ひどいよォ、校長先生ーッ!」

 仁が走りながら校長先生に文句を言った。
 地球を守る!?
 地球を守る、地球を守る、地球を守る……。
 一瞬聞こえたその言葉が、僕の頭のなかをグルグル回った。
 僕は、もしかしたらとんでもない世界に来てしまったのかもしれない。
 いや来ちゃったことは、もうまちがいない。
 この状況のなかで、僕は何をどうしていけばいいんだァ!
 小学生の少年、仁に手を引っ張られながら、僕は今まで出したことのない人生最大の悲鳴を喉から絞り出していた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ~~~~ッ!」

 しかし僕が体験する異常事態は、まだまだ序の口だったのだ。

 

「飛鳥、今日は気合入ってんなぁ」

 仁が笑った。
 いや、そういうわけじゃないんだけど……。
 と、言いかけたけど、僕は言葉を飲みこんだ。
 もうこれは受け入れるしかないんだと、半ばあきらめに似た気持ちがわきあがったのだ。
 階段を駆け上がると、5年3組の教室が見えてきた。
 廊下に突き出しているプレートの文字に『5年3組』と書かれている。
 あ、昔のままだ……!
 一瞬懐かしい気持ちが胸にこみあげてくるが、そんなノスタルジーにひたっている暇はない。

「早く、早く! もうみんなスタンバイしてるぜッ!」

 扉をあけて待っていたのはヨッパーだ。
 小川よしあき、ニックネームはヨッパー。クラスで一番の問題児だったやつだ。
 小太り体型が、ボーダーのシャツのせいでよけいに太って見えている。
 ぜんぜん変わってない。
 って……変わってないのは当然なこと。変わっちゃってるのは、僕の方なんだ!
 ヨッパーが開けてくれていた扉から、仁につづいて僕、そして吼児が教室に飛びこんだ。

「遅いわよ、仁、飛鳥、吼児!」

 そう言って、僕たちの方に振り向いたのはマリアだった。

 

 マリア……
 マリアだ!
 ほんのちょっと前までは、高校生で大人っぽさを全身からあふれさせていたはずのマリアが、すっかり少女時代に戻ってそこにいた。
 どこからどう見ても、小学五年生の白鳥マリアだ。
 ポニーテイルにした茶色の髪、水色のポロシャツは襟と袖が白になっている。
 まだ本格的に身長が伸びる前なので、クラスでは中くらいの背丈だ。
 僕がもう知っている制服のブレザーを着た大人びた高校生のマリアの姿が、小学生のマリアの姿にだぶって見えた。
 あのマリアにまちがいない。五年生に戻っちゃってはいるけど。

 

 教室を見渡すと、懐かしい顔がずらりとそこにあった。
 僕が小学校五年三組だったときの、クラスメイトたちだ。
 メガネの小島勉。おしゃべりの春野きらら。ロック馬鹿の今村あきら。プロレス好きの池田れいこ。ポテチ好きの石塚織江。おぼっちゃまだった近藤ひでのり、学級委員長の高森ひろしに、居酒屋の娘の坂井ときえ……みんな、昔のままだァ~~~!
 仁以外は、全員に見おぼえがある。
 ほとんどの生徒が、中学まで一緒にくりあがったから、おぼえていて当たり前なんだけど。
 仁を入れて、教室には18人の生徒がいた。

「みんなそろったわね。じゃあ、行くわよ!」

 マリアの声が教室に響きわたる。

「地球防衛組、出動!」

 そう言うと、マリアは手に持っていた一枚のコインを自分の机のくぼみに、パシッとはめこんだ。
 そのとたんまた信じられないことが起きた。
 マリアの机が光りを放ち、動きはじめたのだ。
 いや、動いているのは、マリアの机だけじゃない。教室全体が動いている。
 それぞれの机と椅子が交叉するように移動していく。
 そして地震が起きているかのような細かい振動が教室全体を包みこんでいた。

「飛鳥、吼児、先に行くぜッ!」

 自分の机に着席した仁が叫ぶと、その姿勢のまま仁は床に引きこまれていく。
 床にぽっかりと穴が開いていた。
 舞台の装置によくある奈落のようにも見えた。
 あぜんとそれを見つめていると、いきなり僕の体は動いてきた机に押された。

「うわぁ~~ッ!」

 突然のことに僕はまったく逆らうことができない。
 机に突き飛ばされた僕は、掃除道具入れになっているスチール製のロッカーに向かってよろけていく。
 バタン! と、ロッカーの扉が開いた。
 中に収納されているモップが何本か倒れながら外に飛びでてくる。

「ああああぁぁぁぁ~~~~~!」

 勢いのまま、僕はロッカーの中に飛びこんでしまっていた。

 

 バタン! ロッカーの扉が閉まる。
 僕はモップに囲まれて、掃除道具入れに閉じこめられてしまっていた。
 ガクン! ロッカー全体が揺れたような気がする。
 次の瞬間、僕の体は降下をはじめていた。
 もう叫び声を出すこともできない。全身から力が抜けていく。
 まるでジェットコースターに立ったまま乗ってるような気がした。
 行き先はわからない。このままどこまでも落ちて行ってしまうのかもしれない。
 死ぬ! 僕は、このまま死んでしまうんだ!
 いやだぁ~~、死にたくないよぉ!
 まだなんにもやってないのに、こんなところで、こんな終わりかたをするのは、絶対に嫌だぁ~~ッ!
 パニックになった僕の脳は、僕に危険信号を発し続けている。
 その時、ふとおばぁちゃんが言っていた言葉が頭をよぎった。

『飛鳥、おまえは頭がいいが、いつも頭でものを考えすぎるところがあるねぇ。考えすぎちゃだめだよ。考えすぎると、よけいに頭は動かなくなってしまうんだからね。時には何も考えずに、自分の無意識を信じてやりなさい。どうしていいかわからなくなった時は、すべてを投げだして、流れに身をまかせるのよ。それが一番なの』

 なんでそんなことをおばぁちゃんが言ったのかはまったく思い出せなかったけど、今はそのおばぁちゃんの言葉にすがるしかなかった。
 考えないで、ただ流れに身をまかせるのだ。
 思いっきり大きく息を吸いこんで、目をつぶった。
 何も見えなくなったが、身体はどこかに運ばれていく。降下していたのが、どこかでカーブしたらしく、今は滑り台の上を滑っているような感じになっていた。
 ドサッ! 放り出されるような感覚のあとに、自分の尻が何かに着地したのを感じた。背後で閉まっていくような物音がする。
 生きてる! とりあえず、僕は生きている。
 おばぁちゃんの言うことに従ったおかげだ。
 僕はおばぁちゃんに感謝しながら、ゆっくりと目を開けた。
 目の前には、操縦桿のようなものがあった。その先には計器類のようなものがあり、さらにその先には窓がある。まるで飛行機のコクピットの中のようだ。
 いやまさに飛行機のコクピットだった。

「どういうことなんだ……!?」

 ふと自分の手を見ると、青い生地の手袋に包まれている。
 こんなもの着けてた覚えないぞ……!?
 そう思ったのだが、身につけていたのは手袋だけではなかった。
 いつのまにか服装全体が変わっていた。全身が薄水色のパイロットスーツに包まれていたのだ。肩の部分が黄色で、胴体は赤と青に塗り分けられている。着替えた記憶はまったくないのにだ。
 僕が目をつぶっているあいだに、何かがおきて、僕を変身させたに違いない。
 落ち着け! 落ち着くんだ! おばぁちゃんの言葉にしたがうんだ! 考えるな! すべてを投げ出して、流れに身をまかせるんだ!
 って、できるわけないッ!

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーッ!」

 僕は今日二度目の人生最大の叫び声をあげていた。
 もう身体を動かすこともできない。
 意識が遠くなっていくのがわかったが、どうすることもできなかった

(つづく)


著者:園田英樹

キャライラスト:武内啓
メカイラスト:やまだたかひろ
仕上:甲斐けいこ
特効:八木寛文(旭プロダクション)


次回5月16日(火)更新予定


← 前作品ページ次 →


関連コンテンツ