【第11回】絶対無敵ライジンオー 五次元帝国の逆襲

ライジンオー

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『もう一人の少年』

 

「嘘だろ……こんなことって……」

 あるはずない、と言いかけて僕は言葉をのみこんでしまった。
 ありえないことなんてないんだということが一番わかっているのは、僕自身だ。
 この世界は、どこまで僕にありえないことを、見せようとしてるんだよォ!?
 がらんとした病室の中を隅から隅まで見渡したけど、タイダーはどこにもいない。
 念のために窓を開けて、外を見てみたが、そこにも誰もいなかった。
 病室は五階にあった。窓から飛び下りるには高すぎる。
 タイダーと話していた男と女の姿も、影も形もなかった。
 たしかに声が聞こえていたはずなのに……。
 誰もいなくなった病室で、僕はしばらく立ちつくしていた。
 何かしなければならないとはわかってても、身体がついていこうとしない。
 茫然自失ってこんな感じなんだろう。
 首筋から背中にかけて、どっと汗が吹き出した。
 開けた窓から吹き込んでくる風が頬に当たっている。
 それが少しだけ僕の気持ちの動揺を鎮めてくれた。
 汗のおかげで、体温が下がっていくのがわかった。
 でもこれからどうしたらいいのか……!?
 その答えはまったく見つからない。
 僕が偶然知ってしまった五次元人たちがこの世界を狙っているという情報は、防衛隊や地球防衛組のみんなは知っていることなのか……それとも僕だけが知ってしまった真実なのか!?
 いや、さっきの出来事が真実だったのかさえ怪しい……。
 何が本当で、何がそうじゃないのか、僕にはさっぱりわからなくなってしまった。

 

「飛鳥、もう大丈夫なの?」

 聞き慣れた声がした。
 病室の入り口に立っていたのは、僕の母親だった。月城綾子。四十五歳。
 いや、いまここにいるのは、少しだけ若い、四十歳になったばかりくらいか……でも間違いなく、僕の母さんだ。

「姫木先生から電話で連絡あって、本当にびっくりしたわよ。あんまり母さんに心配かけないでね」
「あ……うん」

 この母さんは、事態をどれくらい知っているのだろうか?
 地球防衛組でパイロットとして活動している小学生の息子の事情を。

「地球防衛組の仕事するの、本当は母さん、あんまりうれしくは思ってないのよ。だって危ないことだってあるじゃない……」
「う、うん……」

 そりゃ、息子が巨大ロボットを操縦しているパイロットの一人だったら、母親は心配するに決まっている。
 今の口ぶりから判断すると、母さんは息子が地球防衛組で活動するのをある程度容認しているようだ。

「今日のことだって……こうして病院にかからなきゃならないことが起きちゃったんだから……」

 母さんは心配そうに僕の顔をじっと覗きこんだ。

「先生は、飛鳥の記憶が少しなくなっているみたいだっておっしゃってたけど……具合は、どうなの? 本当に記憶がなくなったりしてるの? あたしのこと、わかる? ねぇ、飛鳥?」
「わかるに決まってるだろ、母さん。たいしたことないよ。ほんと、ほんと……ちょっと、ぼんやりしただけだから」

 少し悪い気もしたけど、ここはごまかすしかない。

「よかったぁ……でも、本当に何ともないのね?」
「大丈夫だって言ってるだろ。母さん、心配しすぎだよ」

 僕は元の世界にいたときの、母さんのことを思い出していた。
 向こうの母さんも、心配性だ。
 リアクションもふくめて、そっくり、うり二つだ。
 しいて違いをあげるなら、服装の趣味が少し違う程度だろう。
 こっちの母さんの方が、少し派手なような気がする。

「じゃあ、帰りましょ。いまお医者さんに聞いてきたら、大丈夫そうだったら帰宅してもいいって」

 母さんが、にっこりと微笑んだ。
 僕はその笑顔を見て、少しだけほっとしたのだった。

 

 自宅はほとんど何も変わっていなかった。
 住宅地にある二階建ての民家だ。大きくはないけど、庭もある。
 一階のリビングにつながっているベランダには、母さんが趣味で庭に置いている鉢植えサボテンの数が少なくなっている。ていうか、まだ一個しかない。
 正確に言うならば、少なくなっているのではなく、まだ増える前なのだ。
 数年後にはこの鉢植えサボテンが増えすぎてベランダを占領してしまうことなり、母さん自身もどうしていいのかわからなくなるということを、教えてあげたくなったが、やめておくことにした。
 二階にある僕の部屋の様子も、ほとんど変わっていない。使っている机も椅子もベッドも同じものが、同じレイアウトで置いてあった。
 壁に貼ってあるポスターだけが、少しだけ違う。
 当時は超人気だったアイドルグループの集合写真が貼ってある。
 数年後に、このグループの一人が解散してしまうことを僕は知っているが、今の(小学生)の僕は知らないはずだ。
 高校生になった僕は、その場所に大好きな映画のポスターを貼っていた。
 この時点ではまだ作られていないはずのSFアクション映画だ。
 その映画はタイムスリップ物で、主人公が自分の未来を変えるために、何度もタイムスリップして過去に戻るという内容だった。
 タイトルは、なんだったっけ……?
 大好きな映画だったはずなのに、タイトルが思い出せなかった。

 

 えっ!? どういうことッ!? あんなに大好きな映画なのに、タイトルが思い出せない……。
 主演は、ハリウッドスターの、えーと、えーと……誰だったっけ……?
 まだ認知症とかになるには早すぎるよォ。
 なんだか嫌ァ~な感じがする。
 これも意識が、こっちの世界にスリップしてしまった影響なんだろうか……?

「もう、いやだよォ……」

 つい口から弱音がもれていた。
 一日のうちに、あまりにも異常なことが、次々と僕の身の上に降りかかったせいで、僕は精神的にも肉体的にも疲労困憊していたのだ。
 僕はベッドにうつぶせに倒れこんだ。
 そしてそのまま深い眠りの海に沈みこんでいった。

 

 僕は……夢を見ている。
 自分は眠っていることはわかっていた。
 そしてその眠りのなかで、夢を見ているのだということを意識している。
 夢の中でなら、僕はどこにでも行けるし、何でもできる……
 だってこれは僕の夢の中なんだから。
 夢を見ながら、僕の意識は、そんなことを考えていた。
 ここは夢の中の世界なんだ……。
 僕が小学五年生で、地球防衛組のパイロットで、邪悪獣や五次元人と闘っているのは、やっぱり夢の中の世界なんだよねェ……。
 じゃあ、さっきまで目を覚ましていた僕がいた世界は、どこなの……?
 高校生だった僕がいた世界は、どこにあるの……?
 夢の中でも、僕の意識は混乱していた。
 ……今は、こんな夢なんか見ないで、眠るんだ……疲れを取らなきゃ、身体と脳がパンクしちゃう……。
 眠りのなかで、僕は僕自身に言い聞かせた。
 眠っているのに、眠ろうって思うなんて……。
 もう何がなんだかわからない。
 自分が眠っているのか、そうでないのか、夢を見ているのか、夢の中にいるのか、それともまったく違うところにいるのか……?
 どこでもない空間の中で、僕は一生懸命目を閉じて、何も見ないように努力していた。
 しかし目を閉じているはずなのに、僕にはその場所が見えていた。
 そこは僕が眠っているはずの、僕の部屋だった。

 

 机に座っている少年がいる。
 あれは……僕だ……。
 五年生の僕、月城飛鳥がじっと机に座って本を読んでいる。
 僕が見ていることに気づいているのか、気づいていないのか、少年(僕)は本から目を離そうとはしない。

「きみ……ねぇ、きみ……」

 僕は思い切って声をかけた。
 しかし少年は、まったく反応しない。

「僕の声は、聞こえてるの? それとも聞こえてないの?」

 僕は声をかけながら少年に触ろうとした。だが僕の手は彼には届かない。僕の手は、ただ何も無い空間をさまようだけだ。
 どうやら僕とこの少年飛鳥は、別の空間にいるようだ。
 そのとき少年が言った。

「……なんか、うるさいんだけど、さっきから……」

 僕の声は彼に届いていたのだ。

「聞こえてたんだね」
「聞こえてるよ……でも、聞きたくないんだよねぇ。誰だって幽霊の声なんか聞きたくないでしょォ」
「幽霊……?」
「そう、さっきから僕に話しかけてる、あなた。幽霊なんでしょ」

 そういう少年飛鳥の表情には、恐怖がある気がした。
 僕の声を、幽霊の声だと思っていたのだ。

「僕は幽霊じゃないよ」
「え……」

 少年飛鳥は、おびえと不安を隠そうとはしていなかった。

「幽霊じゃないなら、なんなんだよォ……」

 そう言われても、僕にも僕自身がどういう状況になっているのか、まったくわからないのだ。夢の中に出てきた自分とそっくりの少年の問いに答えられるわけがない。

「僕自身にも、よくわからないんだよ。でも君の敵じゃないから、安心して」
「敵じゃない……そうなんだ……」

 少年飛鳥は、机から離れて、ベッドに腰を下ろした。視線を宙をさまよっている。

「なんとなく、それはわかるよ」
「わかってくれて、ありがとう」

 僕は素直に感謝した。
 もう一人の自分自身が、僕を敵ではないと感じ取ってくれたことは、僕にとっても嬉しいことだった。
 もう一人の自分……
 その言葉が、僕の頭のなかで、いきなりでっかいプラカードみたいに大きくなった。
 そうだ! この子は、もう一人の僕自身なんだ

(つづく)


著者:園田英樹

キャライラスト:武内啓
メカイラスト:やまだたかひろ
仕上:甲斐けいこ
特効:八木寛文(旭プロダクション)


次回7月4日(火)更新予定


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