【第12回】絶対無敵ライジンオー 五次元帝国の逆襲

ライジンオー

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『君のためにも』

 

「君の名前は、飛鳥だね」

 僕の質問には、予想した答えが返ってきた。

「そうだけど……人の名前を聞く前に、することあるでしょ?」

 五年生の僕は、少し強気になったようだ。

「僕は、君だよ」
「はぁ……なに言ってんですか……?」

 ベッドに座った飛鳥の顔は、あきらかに困惑している。
 そりゃァ、無理もない。
 さっきまで幽霊だと思っていた存在が、いきなり変なことを言い出したのだ。

「だって、どう見ても高校生じゃないですか」

 と、少年は僕の方をはっきりと見て言った。

「なーんだ、やっぱり見えてたんだ」
「だってさっきまで幽霊だと思ってたんだもん」
「じゃあ、見えないふりしてたんだね」
「だって怖いし……」

 そのときふと僕は思った。
 今の僕は、彼にはどう見えているのだろう……?
 僕が自分にそっくりな姿だったら、幽霊とは思わずに、もっと違う反応になっていたはずだ。
 彼には、自分自身には見えていないということなんだ。
 部屋の中を見渡したが、鏡はなかった。

「君には、僕はどう見えてるの?」
「え……!?」
「僕の格好っていうか、ルックス……君に似てたりしない?」
「言ってる意味がわかんないんだけど」
「そりゃ、そうだよね。いきなり自分に似てるかとか聞かれても困るよね。じゃあ、僕は、いくつくらいに見える?」
「いくつ……? 歳ってこと?」
「そうそう」

 五年生の飛鳥は、僕を上から下までじっと見つめた。

「十六か、十七って感じかな……」

 僕の疑問は、それで解けた。
 彼には、僕は元の僕の姿で見えているのだ。

「そうかぁ、やっぱり、そうなのかァ……!」
「え、え、なんなんですか……?」

 本当のことを彼に言うべきかどうか、僕は迷ったが、やはりここは言うしかないと決断した。

「僕は、君だって言ったのは、本当のことなんだ。なぜなら僕は、高校生になった君だから」

 飛鳥はポカンと口を開けていた。

 

 今までのことを全部話し終わっても、小学生の飛鳥は、いまだに信じられないという顔をしている。

「あなたが、僕に代わって、鳳王を操縦したんですか!?」
「あ、うん。しかたなくね。失敗しちゃったけど……」
「じゃあ、いまここにいる僕はなんなんですか?」
「たぶん僕たちは眠っている君の意識の中で話をしているんだと思う」
「もう少しわかりやすく言ってください」
「僕たち二人は、いま眠ってるんだ……」
「ぜんぜんわかりやすくなんかないよォ」

 飛鳥は、ベッドから立ち上がった。

「落ち着いて聞いてくれ」

 僕は彼を落ち着かせるためにも、できるだけ冷静を装った声をしぼりだした。

「たぶん僕たちは、いま夢の中にいるんだ……二人とも眠りながら、その意識の底で僕たちは出会い、いまこうして話をしているんだと思う」
「夢の中……」

 ようやく飛鳥も理解したようだった。

「なんとなく、そんな気はしてたけど……まさか、夢の中で、高校生になった自分に会うなんて……ウワァァ……」

 急に不安が押しよせてきたらしく、また飛鳥はベッドに座りこんでしまう。

「ごめんな。僕のせいで……」
「って、あなたも、僕なんでしょ!」
「ま、そういうことになるけど、もしかしたら違うかもしれないし……」
「いいかげんなこと言わないでよ。つまり僕はあなたに身体を乗っ取られたってことですよね!? 未来から来た、僕自身の意識に!」
「乗っ取るつもりはなかったんだけど……」
「でも今の話を信じるなら、そうじゃないですかァ」

 いつのまにか立場が逆転してた。
 少年飛鳥は、僕を責めていた。

「まぁ、結果的に、僕がきみの身体を使ってる状態にはなってるみたいなんだ」
「そんなぁ……」

 飛鳥は、すっかり混乱しているようだった。
 僕が今までしてきたように。同じ混乱を、いまここで少年の飛鳥が体験している。
 まさに他人事ではなかった。

「どうしたらいいんですか……?」
「僕にもどうしたらいいかわからないんだ」

 二人はよく似た顔を見合わせた。

 

「わかりました」

 少年の飛鳥は、そう言うと顔を上げた。
 さっきまで混乱して頭を抱えんばかりに悩んでいたのが嘘のようだ。
 何かを決意したみたいだ。

「どうした?」
「いま、僕、仁だったら、どうするだろうなって考えてたんです」
「仁だったら……?」

 あの悪ガキの日向仁のことか……。

「あなたの世界には、仁はいなかったって言ってましたけど……どうして、そうなってるのか、僕にはわからないけど……こっちの世界じゃ、仁はすごく大きな存在なんです」
「あいつが……」
「ええ。僕は仁とは、五年生になって同じクラスになったんだけど、性格も行動も、僕とはまったく違うやつで、いつも驚かされるんです」
「それはもう体験した」
「あいつって、めちゃくちゃ前向きっていうか、ポジティブじゃないですか」
「そうみたいだね」
「僕なんか、つい物事をネガティブに考えてしまうこともあるんだけど、あいつはそうじゃないんです」

 もう一人の少年の僕は、信頼している親友を自慢しているようにも見えた。

「あいつなら、この状況をどうするだろうかって考えたら、なんだか僕、楽しくなってきちゃった」
「えっ……!?」

 楽しくなってきた……!?
 それはあまりにも意外な反応だった。

「きっとあいつなら言うと思うんだ……『おもしれぇ!』って」

 何年か前の僕自身のはずなのに、目の前にいる小学五年生の飛鳥は、以前の僕よりも前向きな性格になってる気がした。
 おもしれぇ……!?
 僕は、ちっとも面白くなんかないんですけど……。

「あなたに意識を乗っ取られた僕は、いま夢の中の止まった時間の中にいる……そして、あなたが、僕にかわってあいつらと一緒に邪悪獣を捕まえたりしてるんですよね」
「そうなんだけど……」
「いいです。しばらくこのまま、がんばってください」
「はぁ……?」

 さすがに僕も驚いた。
 今度は、こっちが口をポカンとあける番だった。

「僕の身体、あなたに貸してあげます。あなたが、こっちの世界に来た理由とか、なんでこんなことになったのか、それを知るためにはしばらくこのまま成り行きを見守る方がいいと思ってたんです。ここで僕が、身体を返せとか言って、あばれても事態は変わらないと思うし、あなたのこと他人とは思えないし……って、他人じゃないんだけど。フフフ」

 と、飛鳥は笑った。
 自分で自分をほめるのもなんだけど、なんていいやつなんだ。
 僕って、こんなにいいやつだったのかァ……!
 僕はなんだか不思議な気持ちになった。
 目の前にいる、もう一人の自分自身を抱きしめてやりたかった。

 

「飛鳥っ、しっかりして! 飛鳥!」

 耳の側で、どこかで聞いたことのある声が叫んでいる。
 うるさい……せっかく眠っているのに……こんな大きな声で叫ばなくても聞こえてるよ……。
 マリア……。

「目を開けて、飛鳥!」

 マリア……。
 この声は、マリアだ。白鳥マリア……でも、ちょっとだけ大人びているような気もする。
 大人びたマリア……高校生の……。

「マリアッ!?」

 僕は目をあけた。
 すぐ目の前、三十センチの距離に、白鳥マリアの顔があった。
 今にも泣きだしそうな表情だ。

「ウワァーーーッ! マリアだァッ!!」

 僕は思わず叫んで、マリアの身体を突き飛ばしてしまった。

「え……」

 突き飛ばされた高校生のマリアは、呆然としている。
 僕はあわてて周りを見回した。
 ここは高校の屋上だ。
 そして僕はそこで倒れているのだ。
 マリアは倒れた僕を抱き起こしていたのに、目を覚ました僕は彼女を突き飛ばしてしまったのだった。
 しかも突き飛ばした時に、僕の手は彼女のバストに触ってしまっていた。
 ふんわりとした感触が、まだ僕の手のひらに残っていた。
 ああ……僕は……僕は……なんてことをしてしまったんだァ!
 なんて思いながら、僕はちょっと喜んだりもしていた。

「戻った! 戻った! 戻ったーーーッ!!」

 僕は僕の世界に戻っていたのだ。

「飛鳥……?」

 怪訝な顔でマリアが、僕の顔を覗きこんでいる。

「マリア、戻ってきたァ……戻ってきたんだ……」
「大丈夫……?」
「あ、大丈夫、大丈夫……大丈夫じゃないけど……」
「どっちよ!?」
「僕、いったいどうしてたの?」
「覚えてないの?」
「う、うん……」

 とりあえず僕は事態がどうなっていたのかを把握することが先決だと思った。

「急に倒れちゃったのよ……あたしと話をしてる途中で……」
「え……」

 僕は記憶をたぐりよせた。
 この屋上でマリアと話をしていた僕は、黒い影のようなものに飲みこまれて、気がついたら小学生の僕の中に意識だけが飛んでしまっていたのだった。
 そこからは、とんでもない体験の連続だった。
 疲れ果てて自宅のベッドで眠りに落ちたら、夢の底で、もう一人の小学生の自分に出会ったのだ。
 そしていま、ここに戻ってきた。
 つまり僕が向こうの世界でさまざまなことをしている間、こっちの世界では、僕は数分間気絶をしていたのだ。
 要はそういうことだ。
 まだ事態を完全に飲んだとは言えなかったけど、とにかく元の世界に戻ってきたことは間違いなかった。
 安堵の気持ちが、ブワーッとわき上がってきた。

「良かったァ~~~! 良かったァァァ~~~!」

 僕は立ち上がり、周りを見回した。
 その風景は、見なれたものだ。
 目の前には、怪訝な顔をしているものの、かわいい白鳥マリアがいる。

「マリアァ~、あいたかったよォ!」

 僕は思わず彼女に抱きついていた。

「ちょっと、どさくさにまぎれて、なにしてんのよォ! さっきあたしの胸、触ったでしょッ! 許さないッ!」

 バチーン!
 マリアの平手打ちが、僕の左頬に決まった。
 だけどその痛みは、うれしい痛みだった

(つづく)


著者:園田英樹

キャライラスト:武内啓
メカイラスト:やまだたかひろ
仕上:甲斐けいこ
特効:八木寛文(旭プロダクション)


次回7月11日(火)更新予定


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