【第17回】絶対無敵ライジンオー 五次元帝国の逆襲

ライジンオー

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『攻めにでる』

 

「みんな知ってる? こんな言葉」

 れいこが言った。

「攻撃こそ、最大の防御なり!」
「知ってますよ、それくらい」

 一番それらしくない勉が応えた。

「格闘技とかやってる人が、よく言いますもんね。相手を攻めてれば、攻撃されることはないってことでしょ」
「まぁ、そういうことだけど。気持ち的には攻めにでたほうが、いいんじゃないってことを、あたしは言いたかったの」
「わかるよ、それ」

 と、吼児がうなずいて、僕に視線を向けた。
 僕が何かを言うのを期待しているんだ。
 言うしかない。

「逃げてるだけじゃ、何もはじまらないってことだよね……」
「そうそう、そういうこと!」

 れいこが、僕の背中をドンッと叩いた。
 その力は思ったよりも強い。さすが鍛えているだけある。

「いてッ……」
「あっ、ごめんごめん」
「いいけど……れいこちゃん、すごいパワーつけたね」
「へへ、まぁね」

 照れたように、れいこは頬を赤くする。
 その表情は、小学生の時のれいこと同じだった。

「よし、僕、攻めにでるよ!」
「なにするつもりなの、飛鳥くん?」

 吼児が心配そうに見つめている。
 たしかに攻めにでると言っても、なにか策があるわけでもない。ただの暴走は、かえって危険を大きくするかもしれない。
 でも何かやらなきゃ前には進めないことだけはわかっていた。

「さっきの男を、逆につけてみようと思うんだ」

 本当に直感でしかなかったけど、それにしたがってみたかった。

「みんなで行くと目立っちゃうから、僕だけで行くよ」

 そう言うと、みんなが息を飲むのがわかった。
 意外だったんだと思う。
 そんなことを言ってしまったことが、自分でも不思議だった。
 みんなは知ってるはずなんだ、僕が本当は臆病だってことを。
 見かけだおしのやつ。
 そんな悪口を、小学生の時に言われたことがある。
 誰が言ったのかは、忘れちゃったけど、ひどく傷ついたことは覚えている。
 言葉に傷ついたわけじゃなかった。
 心のどこかで、それを認めている自分がいたからだ。
 僕は昔から優等生と呼ばれていた。なんでもそつなくこなすことができたから。
 そして自分でいうのもなんだけど、外見も悪くはない。いわゆるイケメン少年だった。女の子たちからの受けも良くて、いつしかそういう『飛鳥くん』でいるようになっていた。みんなが憧れる『飛鳥くん』を守ろうとしていた。
 だけど本当の僕が、そうじゃないということは、僕が一番知っていたんだ。
 臆病で、ビビリーで、だらしないし、いい格好しぃなんだということを。
 小学生の時から、優等生の自分を演じているうちに、それが本当の自分だと思うようになっていっていた。
 だけど本質が、ときどきヒョイと顔を出すことがある。
 いつもの僕だったら、絶対に安全な方を選んだはずだった。
 このまま逃げて何も起きないように、じっとしていることを。
 でも今日の僕は、そうしなかった。
 攻めにでたのだ。

「みんなは、ついてこないでいいよ。僕だけでなんとかするから」

 

 しばらく何もいわなかった吼児が口をひらいた。

「そういうわけにはいかないよ、飛鳥くん。僕たちだって、何かしなきゃいけないっていう気持ちは本当なんだから」
「そうですよ」

 と、勉もメガネをキラッとさせて言った。

「大勢で追跡するのは見つかりやすいという考えには賛成ですけど、一人で行くという案には賛成できかねます」
「あたしもそう思う。ここはタッグでいかなきゃ」

 れいこも拳を握りしめていた。
 僕は三人の顔を見ながら、胸が熱くなった。
 僕がふりしぼった勇気に、みんなが同調してくれたんだ。

「僕、作戦を考えました! 名づけて、『探偵物語』」
「たんていものがたり……?」
「僕、こう見えて、ミステリー小説とかサスペンス映画とか大好きなんですよ。探偵物語っていうのは、僕の大好きな作品で、めっちゃかっこいい探偵が主人公なんですよ。その作品から作戦名はお借りしました。もちろんコメディやホラーなんかも好きなんですけど、インディペンデント系のやつとかも見ますよ、もちろん……」

 ほっとくと勉の映画大好き講座が始まりそうだったので、僕は話を元に戻した。

「作戦名のことじゃなくて、中身のことが知りたいの!」
「そうでした、それが肝心です! いいですか、みなさん……」

 

 勉がたててくれた作戦は、吼児とれいこが囮になって謎の男を引きつけ、変装した僕が後からその男を追跡するというシンプルなものだった。
 勉は司令塔として、入ってくる情報を整理し、追跡担当の僕に指示を出す役だ。
 僕たちはいったんそれぞれの家に引き返し、必要なものを持って、ふたたび近くの公園に集合した。

「えっ!? これを僕が着るの!?」
「そうよ、いいでしょ。これなら飛鳥くんだって、絶対にわからないから」

 れいこはなんだかとっても嬉しそうに持ってきた衣装を僕に押しつけた。
 花柄のワンピース!

「そしてこれッ!」

 黒髪ロングのウィッグ!

「化粧道具もばっちり持ってきたからね」

 つまり女装しろってこと!?
 予想していなかった展開に、僕はあぜんとした。
 勉と吼児は、必死に笑いをこらえているようだった。

「いや、無理……」
「わたしが一番お気に入りのを持ってきたのに……」

 れいこの目に怒りがみるみるこみあげてくるのがわかった。
 拳がギリギリと握られている。

「わたしだって、まだ着てない、新品なのにィ……! 彼氏ができたら、これ着てデートしようと思ってた勝負服なのにィッ!」

 女子プロレスラーの本気が伝わってきて、僕の背筋を凍らせた。
 殺される……。
 仁を見つける前に、おれは殺されてしまう……。
 そんな思いが、一瞬脳裏をよぎった。

「着ます!」

 とっさにそう言ってしまっていた。
 とたんにれいこの顔がほころんだ。

「じゃあ、まずはお化粧しちゃおうね……」

 フフン、と鼻唄まで歌いながら、れいこは僕の顔にとりついて、手際よく化粧をしはじめるのだった。
 僕は身じろぎすることもできない。
 勉と吼児は、もうはっきりと笑っていた。

 

 そして女装……変装はできあがった。

「我ながら完璧! 飛鳥くん、きれい……」

 うっとりしたようにれいこは言うと、手鏡を僕に向ける。
 えっ!? これが、僕!?
 一瞬、誰だかわからなかった。
 鏡の中には、けっこう可愛い女の子がいたからだ。
 それが自分だとわかるのに、2秒かかった。

「おー……!」
「どう?」
「あ、うん……」
「これなら、飛鳥くんだって、気づかれないと思うよ」
「へぇ、けっこういけるねぇ、飛鳥くん」

 吼児もまんざらでもないように僕を見ていた。

「かわいいっていうより、美人だね」
「そりゃ、元がいいもん」

 れいこはうっとりした目で、僕を見つめている。

「では、飛鳥くん、これを装着してください」

 そう言って勉が取りだしたのは、小型のイヤフォンだった。

「通信装置です。僕たちからの連絡を聞くこともできるし、小声でしゃべってもらえれば、僕たちも聞こえるようになっています」

 と、同じ形のイヤフォンを、吼児とれいこにも渡した。
 勉がどうしてこんなスパイ用品みたいなものを持っているのか疑問に思ったけど、そこは深く突っこまないことにした。
 これは必要なものだと思ったからだ。

「準備完了です! みなさん、作戦を開始しましょう!」

 勉の宣言が、僕の背中を押した。

 

 謎のサラリーマン風の男は、やはりふいに現れた。
 さっきの通りを、吼児とれいこがキョロキョロしながら歩いていると、どこからともなくふいに出現したのだ。
 どこから出てきたかは確認できなかった。
 でも現れたのはまちがいない。
 その男の位置から、三十メートルほど離れたところにある電信柱に隠れて、僕はつぶやいた。

「男が出てきたよ……」
「了解……こちらも、確認しています。このまま歩きつづけます」

 耳の中に押し込んだイヤフォンから吼児の声がする。

「そのまま、相手の出方を見てください」

 勉の声も聞こえた。
 勉は、公園にいる。そこを指令基地にしたのだ。僕たちからの情報から、位置などを地図に書き込んでいた。

「吼児くんとれいこさんは、そのまま道に迷ったふりをして、その場から立ち去ってください。男とからむのは、得策ではないと判断します」
「わかったわ」

 礼子が応えた。
 五十メートルほどはなれたところに見えていた吼児とれいこが、路地を曲がりその通りから離れていく。
 謎の男は、僕から三十メートルほどはなれたところで立ち止まり、吼児とれいこが去った方向を見送っていた。
 そしてまた歩きだす。
 僕は、追跡を開始した。
 緊張から喉がカラカラに乾いているのがわかった。

(つづく)


著者:園田英樹

キャライラスト:武内啓
メカイラスト:やまだたかひろ
仕上:甲斐けいこ
特効:八木寛文(旭プロダクション)


次回8月29日(火)更新予定


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