【第21回】絶対無敵ライジンオー 五次元帝国の逆襲
『つながる断片』
ライジンオーが叩きつけられたのは、陽昇川の河川敷だった。
運が良かったのではない、ギリギリのところで仁がライジンオーの落下地点をコントロールしていたのだ。
近くの民家に被害が出るのだけは避けようという、仁のとっさの判断だった。
「おいッ、飛鳥、吼児、大丈夫か!?」
コクピットに仁の声が響いているのが、ぼんやりと聞こえていた。
僕は意識を失いそうになっていたのだ。
「飛鳥くん、しっかりして!」
隣の座席にいる吼児が、手を伸ばして僕の肩をつかみ、ゆさぶっていた。
「……だ、大丈夫……」
なんとかそう答えたが、実際は目の前がぐらんぐらん揺れている。
どこかで頭を打ったのかもしれない。
身体は座席に押しつけられている。上半身を起こそうとしたが、背もたれに押しつけられていて動かなかった。
ライジンオーが仰向けになって倒れているせいで、僕たちの身体も横倒しになっていたのだ。
「やつが攻撃してくる! 立ち上がって、反撃するぞッ!」
そう言いながら仁は懸命にライジンオーの体勢を取り戻そうと奮闘している。
僕もしっかりしなきゃ……!
こんなところでやられるわけにはいかない。
僕は頭を振って、なんとか意識をはっきりさせようとした。
ガキッ! そのとき強烈な衝撃がふたたび僕たちを襲った。
それは何かに殴られたような感覚だった。
コクピットの窓越しに、敵の邪悪ロボットの巨体がライジンオーの上に乗っているのが見えていた。
衝撃は、敵がライジンオーを踏みつけにしたものだったのだ。
僕たちの操縦席があるライジンオーの頭部めがけて邪悪ロボットの腕部分にある鋭い剣が振り下ろされてくる。
「死ぬがいいッ!」
ジャルバンの恐ろしい叫び声が聞こえた。
「うわぁぁぁぁぁ~~~~ッ!」
僕は思わず悲鳴をあげた。
目の前が真っ暗になった。
目を開けると、仁や吼児、そしてマリア、きららたちが僕の顔を覗きこんでいるのがわかった。
その後ろには姫木先生もいる。
「あっ、飛鳥が気がついたぜ」
仁が笑っている。
ここは見なれた陽昇学園の保健室だ。僕はまたベッドに寝かされていた。
「……夢……僕は、夢を見てたの……?」
「また寝ぼけてんな、おまえ……しょうがねぇなぁ」
と、仁が馬鹿にしたように言う。
「飛鳥くん、また気を失ったんですよ。ジャルバンとのバトルの途中で」
そう教えてくれたのは吼児だ。
「ジャルバン……じゃあ、闘ってたのは、夢じゃなかったんだ……」
「おまえ、闘ってる最中に気を失ったの、これで二度目だぞ。いいかげんにしろよな」
仁は情け容赦ない。
「仁、そういう言い方はやめなさいよ。飛鳥だって、必死に闘ってくれてたんだから。そりゃ、あんな状況だったんだもん、気を失ってもしかたないわ」
マリアが仁をにらんでいた。
「ジャークサンダーに首を斬り落とされそうになったんだから」
「ジャークサンダーって……?」
「あ、さっきの敵のロボットにあたしが名前をつけたの。名無しのロボじゃ、あたしも指示が出しずらいから。ジャーク帝国の雷みたいな武器を持ったロボットだから、ジャークサンダー、わかりやすいでしょ」
「ああ……」
ようやく僕は状況が飲みこめてきた。
マリアが名づけたジャークサンダーに、ライジンオーに乗った僕たちは殺されそうになっていたのだ。
でもそうはならなかった。
保健室で目が覚めたということは……。
「みんなが、僕をここに運んでくれたの?」
「じゃなかったら、なんでおまえがここにいるんだよ」
仁が、あきれたように言う。
「でもジャークサンダーが……」
「あのね、飛鳥くん良く聞いて……」
混乱している僕に、さっき起きたことを吼児が丁寧に説明をしてくれる。
僕が気絶した直後に、ジャークサンダーは突然消えてしまっていた。
河川敷に倒れたままのライジンオーにとどめを刺すことなく、ふいに次元の裂け目の中に飛びこんで行ったのである。
しかし吼児の説明は、なんとも歯ぎれが悪かった。
地球防衛組のみんなも、いったいなにが起きたのか理解できていないようだ。
絶対的に優位に立っていたはずのジャークサンダーが、まるで敵に情けをかけたかのようにいなくなったのだから。
「俺たちには、とうていかなわないって思ったんじゃねぇの?」
自信たっぷりに仁が言う。
だが仁も、本気だとは思えなかった。
みんなとまどっているようだった。
「あいつが消えたのは謎だけど……とにかく、仁も吼児も飛鳥も無事で良かったわ……ジャークサンダーとワスレンダーを取り逃がしたのは悔いが残るけどね」
大きくため息をつきながらマリアが言った。
「えっ、ワスレンダー……? 逃がしたのは、ジャークサンダーだけじゃないの?」
僕が思わず言うと、みんながまた僕の顔をしげしげと見つめるのがわかった。
「飛鳥、おまえまた記憶喪失になったとか言うんじゃないだろうな?」
と、仁は笑っている。
「いや、そうじゃないけど、ワスレンダーは僕たちが捕まえて、防衛隊に届けたんじゃなかったっけ?」
「なにいまさら言ってんのよ、もうッ……ジャークサンダーが防衛隊から、ワスレンダーを強奪したから、あたしたち地球防衛組が出動したんでしょ! 飛鳥くん、本気で言ってんの!?」
と、マリアが苛ついたように僕を見つめている。
このマリアの視線が、僕には邪悪獣より怖かった。
僕の中で、いろんなものが一つにつながっていくような気がしていた。
記憶の中にある断片が、一つ一つはっきりとした形になりかけている。
五次元人のジャルバンの狙いは、ワスレンダーの強奪……。
ワスレンダーは、人の記憶を吸いとる邪悪獣……。
ジャルバンの言葉……。
『地球防衛組のことなら、よーく、知っているよ。もっとも私が知っているのは君たちとは違う、君たちだけどね、フフフフ』
『君たちを、このままここで倒してしまうのは、私には簡単なことさ。だが、それはやめておく……それは私の仕事ではないからねぇ。それはあいつらの仕事だ……』
ジャルバンの言葉に、僕はずっとひっかかっていたのだ。
僕の無意識が、僕に何かを教えようとしていた。
そこに何かヒントが隠されていると。
考えるんだ!
飛鳥、しっかり考えろ!
この小学生の飛鳥の身体の奥底に、僕が押し込めてしまっている、もう一人の飛鳥が僕に語りかけているような気がした。
答えは、すぐそこにある。
すべては一つにつながっているんだ。
僕が、この世界に来た理由も、そこにあるに違いない。
ジャルバンは、僕が高校生の世界にいたはずだ。
僕たちを追い回したサングラスで黒服の男が会話をしていた相手は、まちがいなくジャルバンだった。
そのジャルバンは、こっちの世界でワスレンダーを強奪していた。
なんのために……?
記憶を消すため……?
誰の……?
この世界と、向こうの世界が、過去と未来ではなく、パラレルワールドだとしたら……。
両方の世界のもっとも大きな違いは……?
そうだ……それだ……ジャルバンの狙いは……僕たちの世界から、仁を消し去ること!
目の前にかかっていた濃い霧が一気に晴れていくような気がした。
こっちの世界でライジンオーに乗ったときに、心のどこかで懐かしい気持ちがしたことの理由も、今ならはっきりとわかった。
すべて身体が覚えているような気がした理由もつく。
そして僕が、こっちの世界に引き込まれた理由も……わかる気がした。
「みんな、聞いてくれ……僕は、みんなに言わなきゃならないことがあるんだ」
五年三組の教室に戻った僕は、教壇の上から防衛組のみんなに向かって話し始めた。
いきなり僕が話し始めたので、みんなはポカンとして見つめている。
「どうしたんだよ、飛鳥?」
ちゃかすように言うのは今村あきらだ。
「学級会とか、もういいだろ。下校の時間はとっくに過ぎてんだぜ。ジャークサンダーが消えちゃったんだ、もう俺たちの仕事はこれ以上ねぇだろ。おれ、早く帰りたいんだよねぇ。夕方から、好きなアニメ見なきゃなんねぇしよ」
「そうそう、おれも帰りたいよ」
と、ヨッパーが言う。
「お腹すいたし。ヘヘヘ」
「ちょっと、あきら、ヨッパー、飛鳥くんが話があるって言ってんだから、ちゃんと聞きなさいよ!」
そう言ってくれたのはポテトこと、石塚織江だ。
ポテトの迫力に、あきらもヨッパーも押されて大人しくなる。不満そうではあるけれど。
さすが僕のファンクラブを作ってくれているだけはある。僕は心の中で、ポテトに感謝した。
今回ばかりは、ここにいるみんなに、ちゃんと僕の話を聞いてもらわねばならない。
「さっさと終わらせてくれよな。めんどくさいの苦手だからよォ」
しぶしぶだけどあきらは席についてくれた。
みんなの視線が教壇に立っている僕に向けられているのがわかる。
僕は、本当のことを静かに話し始めた。
(つづく)
著者:園田英樹
キャライラスト:武内啓
メカイラスト:やまだたかひろ
仕上:甲斐けいこ
特効:八木寛文(旭プロダクション)
次回10月3日更新予定