【第22回】絶対無敵ライジンオー 五次元帝国の逆襲

ライジンオー

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『学級会』

 

「僕は、こことは違うもう一つの陽昇町から来たんだ」

 みんなポカンとした顔で僕を見つめている。
 それでも僕は話を続けた。

「そして僕は、みんなが知っている月城飛鳥じゃない……」
「いったいどうしたんだよ、飛鳥? おまえ、おかしいぞ。具合でも悪いのか?」

 さっきまで退屈そうに机に肘をついていた仁が、顔を上げて言った。

「ジャークサンダーと戦ったとき、頭打ったみたいだったし……姫木先生のところ行こうぜ」
「そうですよ、飛鳥くん。頭は危険です。ちゃんと検査したほうがいいと思います」

 仁に同意したのは勉だ。
 他のみんなの視線が、急に心配モードになるのがわかった。

「飛鳥くん、大丈夫?」
「保健室行こう」
「そうしなよ」

 口々に言いながら、きららやクッキー、ポテトたちが教壇の周りに集まって来てくれた。
 嬉しかったけど、今は本当のことを言うべき時だ。

「この僕は、別の世界から来て、この飛鳥の身体を借りてるだけなんだ!」

 みんなの動きがピタリと止まった。
 しばしの沈黙。
 そして突然の笑い。
 特に仁が大声で笑っていた。

「グヒヒヒヒヒヒヒ、真面目な顔して何言うかと思ったら、そんなことかよ」
「そんなこと……?」
「ギャグ言うんだったら、もうちょっとましなギャグ言えよ。僕は宇宙からやってきた、飛鳥星人でーすとかさ。この身体は実はサイボーグで、本当の身体は、冷凍保存されてますとかさァ。飛鳥の身体を借りてるだけなんて、ふつうじゃん。おれだって、この日向仁さまの身体を借りてるだけの、日向仁だぜ……なぁ、みんな」
「そうですよ、もっと意外なこと言い出すのかと思いました」

 と、勉。
 僕の言葉は、仁たちにはまったく通じていなかった。

「あー、どうしたらいいんだ……」

 僕は頭を抱えた。

「本当の僕は、もう小学生じゃないんだよ。僕は、高校生の月城飛鳥なんだ!」

 仁は、さらに爆笑している。

「おまえが高校生なら、俺は大学生でーす!」
「おいらは、幼稚園児でーす。おしっこもらしちゃったァ」

 仁の横でヨッパーがふざけて言う。

「ヨッパー、おまえは、幼稚園児と中身はかわんねぇだろ」
「たしかに、かわってねぇか。ギャハハハハ」

 仁はヨッパーとじゃれあっている。
 本当の事を言えば言うほど、事実とは遠くなっていくようだった。

「……本当のことなんだ……どうやったら、信じてもらえるんだ……」

 僕はうつむくしかなかった。
 なぜか涙がこみあげてきた。
 僕がこの世界に来て最初についた嘘が、いまここにつながっている。
 あのときみんなに本当のことを言えていたら、こんなことにはなっていなかったかもしれない。
 嘘のせいで、本当も嘘になってしまう……。
 僕の涙は、その悔しさからだった。

「飛鳥、もしかして泣いてる……?」

 耳元でマリアの声が聞こえた。
 さっきまで離れたところで黙って見ていたマリアが、僕のすぐ近くに来ていた。

「ううん……」

 僕は顔を上げずに答えた。

「あなたのいた世界じゃ、あたしも高校生になってるのよね?」
「え……!?」
「背はどれくらい伸びてるの? 160センチは超えてるといいなぁ……」

 顔をあげると、マリアの笑顔がそこにあった。

「あたし、あなたの言うこと信じるわ」
「マリア……」
「つまりこういうことでしょ。パラレルワールドっていうか、もう一つの世界には、もう一つのあたしたちがいて、そこではあたしたちは小学生じゃなく、高校生になってるんでしょ? 次元が違うんなら、時間軸も違っててもおかしくはないわ」

 マリアは続けた。

「ワスレンダーの捕獲作戦の時に、あなたが急に記憶喪失になったのが、ずっと変だと思ってたの。それに急に記憶が戻って元の飛鳥に戻ったりしたのも……」
「僕の話を信じてくれるんだね……」
「本当のっていうか……あたしたちの世界の飛鳥は、いまどこにいるのよ?」
「僕がこの身体に入っている間は、彼は意識の底に隠れているんだ……」
「なるほどね……吼児、いまの飛鳥の話、聞いてた?」
「うん、聞いてたよ」

 マリアの隣には吼児がいて、静かにうなずいている。

「つまり、心というか意識だけが次元転移しているというわけだね……そういうSF小説読んだことがあるよ。意識だけでタイムトラベルするって言うタイプのやつも」
「吼児……おまえも、信じてくれるんだな……」
「だって飛鳥くんの様子……嘘をついているようには見えないし」
「吼児……」
「長年のつきあいでしょ、僕たち……って、今の飛鳥くんとは、ちょっとの付き合いか……フフフ」

 と、吼児は笑って言った。

「意識だけの次元転移してきたのって、最初のワスレンダー捜索の時だよね?」
「うん」
「そっか……やっぱり、そうだったんだ……なんか普通の記憶喪失とは違うって気がしてたんだ、飛鳥くんのとまどいぶりからしてね」

 さすが吼児だ。洞察力がすごい。
 マリアと吼児が僕を信じてくれたことで、僕は勇気百倍! 百万の味方を得た気分だった。
 そこから先は、事態は一気に進んだ。
 僕にかわってマリアと吼児が教壇に立ち、防衛組のみんなを説得してくれたのだ。
 マリアのリーダーシップに、側で見ていて僕は感心するだけだった。
 そして思い出した。
 自分が小学生の時から、マリアに憧れていたことを。
 小学生の僕は、本当はマリアが好きなくせに、その気持ちを前にだすのが恥ずかしくて隠していた。
 そして僕はその頃から気づいていたんだ。
 いつも口喧嘩ばっかりしているマリアと仁が、心の底では引かれあっていることに。
 本人たちはまったく気づいていなかったけれど、二人はお互いを好きなんだということに。
 そして僕はもう一つ、大きなことに気づいてしまった。
 高校生の僕はマリアと付き合っていると思い込んでいたけど、それはあとで作り上げた偽の記憶だということに。
 事実はこうだ。僕はマリアと、付き合ったりはしていなかった。
 高校生になって、いつの頃からか自然な流れで、マリアは仁と付き合うようになっていった。
 そしていつしか二人は周りも認める公認のカップルになっていた。
 マリアと付き合っていたのは、本当は仁だったのだ。
 僕は自分自身の記憶を書き換えてしまっていた。
 本当のことに気づいた僕は、話を続けているマリアの横顔を見つめながら、ぎゅっと胸が締めつけられた。
 失恋が、ふいに訪れたのだ。
 まさか別の世界で、失恋するとは夢にも思っていなかった……。

 

「じゃあ、お前は俺たちをだましてたのかよ!?」

 仁がいきなり僕の胸ぐらをつかんできた。

「おまえは、本当の飛鳥じゃねぇのかよ!?」

 仁の口から飛び出す唾が、僕の顔にかかるほどの勢いだ。

「仁……ごめん……」
「ちょっと待ちなさいよ、仁! この飛鳥も、本当の飛鳥なの! さっきから説明してるでしょ!」

 マリアが僕と仁の間に割って入って、仁を引きはがしてくれた。

「でも、おれ、納得いかねぇよ……」

 そう言う仁の気持ちも、よくわかる。
 納得いっていないのは、僕も同じだからだ。
 こいつにマリアを取られるなんて……。
 あー、そんな余計なことを考えている暇はなかったんだ!
 僕は必死で気持ちを立て直そうとした。
 僕にはもう一つみんなに伝えなければならないことがあったからだ。
 五次元人ジャルバンの本当の狙いについてだ。
 これはまだ僕の推測でしかなかったけれど、僕にはまちがっていないという確信があった。
 忘れていた記憶が、少しずつ甦ってきていたからだ。

「ジャルバンは、この世界から邪悪獣ワスレンダーを奪い、もともと僕がいた世界に、それを持ち込んだんだ……」
「なんのために?」

 仁が訊いた。
 僕は仁を、まっすぐに見つめた。
 強い意志と、無垢な魂が仁の瞳の中にはある。
 僕たち地球防衛組を、いつもひっぱってくれているのは、この仁の魂なんだ。
 それを僕は今はっきりと感じた。

「仁……」
「なんだよ?」
「僕がいた世界から、仁を消し去るためにさ」
「俺を消す……!?」

 僕はうなずいた。

「恐らく五次元帝国は、いろんな次元の世界に悪の手先を派遣してるに違いないんだ……そしてジャルバンは、僕が高校生でいる世界を支配しようとしていた……そのために邪魔な存在である地球防衛組を消滅させようと計画した……」
「なるほど、筋は通っていますね。僕たちの世界で邪悪獣たちを使って混乱を引き起こしているのは、別の五次元人たちというわけですね」

 勉がメガネを光らせながら言った。
 僕は病院で出会った、不思議なタイダーというおっさんのことを思い出した。カーテン越しに聞いた、謎の声。ベルゼブという名前。
 ふいに消えてしまった彼らこそが、こちらの世界で暗躍している五次元人なのかもしれない。

「ジャルバンは、ワスレンダーを使って、僕たちの記憶を消し、歴史を変えようとしていたんだ……」
「そっちの世界を、俺のいない世界にするってことかよ!?」

 仁は、まだ信じられないという表情で言った。
 もう事実を言うしかないと思った。

「僕のいた世界には、もう仁がいなくなってたんだ……他のみんなは、いた。いまと変わらない、少しだけ大人になったみんなが。でも仁だけが、いなくなってた」
「俺が……」
「そして僕たちは、地球防衛組じゃなくなっていた……」
「そんな……」
「でも、僕はいまゆっくりと思い出している……僕がマリアと付き合っていたんじゃなかったということも……」

 みんなの視線が一斉に僕の方に向いたのがわかった。

「えっ!? いまなんつった!?」
「マリアと付き合ってたとかなんとか言ったよな……」

 と、仁が訊いてくる。
 あー、余計なことを言ってしまった。
 後悔してもあとの祭りだ。

「いや、そうじゃなくて……僕がかってにマリアと付き合ってたと思い込んでいただけで、それはかってに自分で記憶を書き換えていただけで……」
「そうだよなぁ、飛鳥がマリアと付き合うとか、絶対ないよなぁ。いくら違う世界だからってさ」

 ほっとしたように仁が言う。

「なんで話があたしと飛鳥のことになるのよ、そんなことはどうでもいいでしょ! 今は、そっちの世界で、仁がいなくなってるって話をしてんのよ」

 マリアは興奮していた。

「仁、あんた、もう一人の自分が消されてようとしてるのに、そんな呑気な顔してる場合じゃないでしょ!」

 猛烈に心配しているマリアをよそに仁はいたって平静だった。
 まったくあわてている様子もない。むしろ楽しんでいるようでもある。

「だって、おれが消されるわけねぇもん」

 明るく自信たっぷりな表情で仁は言った。

「俺は、消えねぇよッ!」

(つづく)


著者:園田英樹

キャライラスト:武内啓
メカイラスト:やまだたかひろ
仕上:甲斐けいこ
特効:八木寛文(旭プロダクション)


次回10月10日更新予定


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