【第23回】絶対無敵ライジンオー 五次元帝国の逆襲
『仁と仲間たち』
そうだ。
仁は、こういうやつだった。
いつも前向きで、明るくて、どんなピンチの時でも絶対に落ちこまない。
ちょっと見たらただのお調子者だけど、本当はものすごく強い心を持った頼もしいやつなんだ。
僕は「お前の根拠のない自信はどこから来るんだよ」って言って、あきれていたけど、それはきっと仁の心の奥底のずっとずっと向こうにある無意識の世界から来るものに違いない。
きっと仁の心の底、無意識の中には、ものすごく強い何かがいるに違いない。
そう思えた。
僕は、僕の世界にいた日向仁の記憶をはっきりと思い出した。
僕が高校生として生活していた世界は、こことはあきらかに違う。
ここでは仁は、サッカークラブで活躍してるけど、僕がいた世界では仁は少年野球をやっていた。
中学校では野球部に入ってピッチャーとして大活躍していた。
勉強はこの世界と同じでやっぱり苦手だったけど、マリアや勉や吼児のサポートでなんとか成績を上げて、ちゃんと同じ高校に進学した。
そして高校でも野球部のエースとして大活躍していたのだ。
まさにパラレルワールド。時間軸や状況はちがえども、僕たちは同じように生きていた。
この世界と同じように、僕の世界でも地球防衛組も存在していた。
もちろん地球防衛組では、仁はライジンオーのメインパイロット。
そして僕は、鳳王のパイロットだった。
忘れさせられていた大事な記憶が、霧が晴れていくように、一つ一つはっきりと僕の中に戻って来くるのがわかった。
だから僕はこっちの世界でも、鳳王を操縦することができたんだ。
記憶を失くしていても、僕の身体が鳳王の扱い方をおぼえていたからだ。
目の前で笑顔を見せてくれている小学生の仁の顔を見ていると、僕の中にも不思議と自信と元気がわいてくる。
絶対にうまくいくと信じること、仲間とライジンオーを信じること。
仁はそのことを僕に教えてくれた。
僕はいつも仁の笑顔に救われてきたんだ。
「仁が消えるわけないよな……そうだよ、仁は五次元人の罠にはまって、そのまま消えるようなやつじゃない……」
僕は目の前にいる小学生の仁に向かって言っていたけど、それはどこかにいるはずのもう一人の高校生の仁に向かっての言葉だった。
いや、自分自身に向かっての言葉だ。
「そうさ。どこの世界にいても、俺は俺だ」
と、仁は微笑んでいる。
これこそいつも僕をはげましてくれていた笑顔だ。
「みんなが信じるなら、あたしも信じるけどさ……じゃあ、飛鳥君は、なんのためにこっちの世界に来てるの?」
素朴な疑問をぶつけてきたのはクッキーこと栗木容子だった。
「えっ……」
「それに、どうやってこっちに来たの?」
僕はその質問にすぐに答えることができなかった。
クッキーのあどけない顔が、僕をじっと見つめている。
「この飛鳥君の中に、本当の飛鳥君が眠ってるんだ……でも、ここにいる飛鳥君も、別の世界の飛鳥君なわけで……あたし、なんだか頭がぐるぐるしてきちゃった……」
そう言うと、クッキーは自分の席に戻って座り込んでしまった。
無邪気だ。でも無邪気だからこそ、本質を鋭くついてくる。
僕はなんのために……ここに来たんだ……!?
とまどっている僕を見て、仁が言った。
「なんのためって、決まってんじゃんか」
「……え?」
「ジャーク帝国の陰謀を阻止するためだろ」
それはあまりにも単純でストレートな答えだった。
仁は続けた。
「俺たちが地球防衛組になったときのことを思い出してみろよ。エルドランが、この学校に落ちてきた、そしてそこに俺たちがいた。エルドランは、地球を邪悪帝国から守るために、俺たちにライジンオーをあずけてくれた。俺たちが地球防衛組になったのは、エルドランが俺たちを信じてくれたから。それだけだったじゃないか。違う世界にいる飛鳥が、急にこっちの世界の飛鳥の中に入ったのだって、きっとそれと同じだよ」
仁の言葉は、僕のなかにすっと入ってきた。
いつも目の前に起きていることに、全力でぶつかっているだけでいい。
意味や理由は、あとからついて来る!
忘れそうになっていたことが、あらためて僕の中にはっきりとよみがえってきていた。
これこそ地球防衛組として、僕が仁や吼児たちと一緒に見つけて来たことだったはずだ。
記憶を失ってしまった僕に、本当の記憶を取り戻させるために、何か大きな力が僕の意識だけをこの世界に転移させたのだ。
その理由はジャーク帝国がしようとしていることを阻止するため。
きっとエルドランだ……。
自分では動くことができないエルドランが、僕を選んでくれたんだ。
僕をいきなり包みこんだ黒い影は、きっと彼が使わしたものだろう。
エルドランの仕業なら、はっきりとそう言ってくれれば良かったのにとも思ったけど文句は言えない。
だってエルドランだもん。
「そうだよな……仁……おまえの言う通りだ」
僕はこみあげてくる感動で涙が出そうになるのを懸命に抑えながら、教室にいる地球防衛組のクラスメイトたちを見つめた。
「僕がやらなきゃいけなかったのは、本当の僕自身を取り戻すこと……そのためにきっとエルドランが僕をこの世界によこしたんだ……」
もうすぐ目の前にいるこの仲間たちと別れる時が近づいていることを、僕は感じていた。
この世界で僕がしなければならなかったことを僕がやりとげたから。
僕は、僕を取り戻した!
もうここに僕がとどまっている理由はない。
僕は、まもなく元の世界に戻るだろう……。
そう直感が教えてくれていた。
きっとあの人は、どこかでずっと見守っていてくれるに違いないんだ。
もとの世界に戻った僕がやらなければならないことはわかっている。
でもその前にしなければならないことがあった。
「みんな……」
僕の様子が変わったのに、最初に気づいたのはマリアだった。
「飛鳥くん……」
僕は一人一人の顔を、もう一度じっと見つめた。
仁、吼児、マリア、勉、れい子、ひろし、きらら、あきら、ゆう、ヨッパー、ラブ、大介、美紀、ひでのり、ときえ、ポテト、クッキー。
このクラスで一緒になったのは、ほんの偶然だったかもしれない。
だけど地球防衛組になって、みんなで一緒に育てた友情はかけがえのないものだった。
一人でも欠けていたら、絶対にできなかったことだと思う。
みんなのおかげで、僕は自分自身をもう一度取り戻すことができたんだ。
その思いを、僕はみんなに伝えたかった。
伝えなければならないと思った。
「どうしたんだよ、飛鳥」
仁はあいかわらず笑っている。
「どうせその顔は、ありがとうとか言い出すんだろ。絶対、そうだぜ。なぁ、みんな」
「仁、どうしてあんたは、そうやってすぐに茶化すのよ」
と、マリアがピタンと仁の頭をひっぱたいた。
「いてぇ、叩くこたぁねぇじゃん! 暴力反対!」
「なに言ってんの! こんなの暴力なんかじゃないわ。あんたの減らず口のほうが、よっぽど暴力よッ!」
「あっ、横暴だぁ! 横暴、反対ッ!」
「もう、仁ったら!」
マリアが仁にヘッドロックをかけようとした。
だが仁は、するりと抜けて、あっという間に数歩下がった。
「アッカンベー」
「許さないわよッ!」
と、マリアが追いかけようとする。
「みんな、聞いてくれッ!」
僕が大きな声を出したので、マリアも仁も、他のみんなも動きを止めた。
「……ここでみんなにもう一度出会って、最初にライジンオーに乗った時のことや、みんなと出会ったことが、僕にとってどんなに大事なことだったかを思い出すことができた……僕、本当にみんなには感謝してる。本当に、本当に、ありがとう!」
そう言い終わった時、目の前が白い光につつまれた。
直感は正しかった。
元の世界に戻るべき時が来ていたのだ。
「そのジャルバンってやつが、あたしたちの記憶を消したって言うの? じゃあ、今のあたしたちの記憶はなんなの? その日向仁って男の子がいるって、本気で思ってるのね、あなたたちは?」
目を開けると、そこに高校生のマリアがいた。
さっきまで小学生だったマリアが近くにいたので、それはまるで特撮映画のワンシーンのように思えた。
小学生のマリアが、一瞬で高校生に成長したのだ。
少しだけ大人びたマリアの声が、僕の耳に飛びこんできている。
激しく動揺している気持ちを、僕は懸命に落ち着けようとした。
さっきまで違う世界で、小学生の地球防衛組の仲間たちに別れを告げていたのだ。
その少し前には、目の前にいるマリアと自分が付き合っていたのは、書き換えられた記憶のせいで、事実はまったく違うということを思い出していた。
失恋と別れをしてきたばっかりなのだ。
落ち着いていられるわけがない。
でも今は目の前にある、自分のやるべきことをやるしかない。
それが僕に与えられた役目なのだから。
「落ち着いてくれ、マリア……」
僕は自分に言い聞かせるように言った。
「あたしは落ち着いてます」
たしかに彼女の言う通り、勉の説明を受けて、謎の男とジャルバンの存在を知ってもマリアは動揺したりはしていない。
慌てているのは僕のほうだ。
どうやってマリアに説明しようかと考えたが、いいアイディアは思いつかなかった。
おそらくジャルバンは邪悪獣ワスレンダーを使って、この世界で地球防衛組として活動している僕たち全員の記憶を消し、書き換えてしまったのだ。
僕はエルドランの力と、もう一つの世界の地球防衛組のみんなの力を借りて、自分自身を取り戻すことができたけど、他のみんなの記憶はまだ書き換えられたままのはずだ。
元に戻すためには、ワスレンダーを倒し、その力の効果を失くすしかないんだ。
「マリア、今から僕が話すことは信じられないことかもしれない。でも本当のことなんだ」
「なによ、急にあらたまって……」
マリアは少し笑っている。
その目線は僕を上から下まで見つめていた。
「しかも、その格好で……」
僕は自分がれい子が準備してくれた女子の服とウィッグで女装していたことを思い出した。
あー、なんてこったァ。
この格好では、どんな真面目な話をしても真実味がない。
僕はあわててウィッグを脱ぎ捨てた。
「マリア……僕たちは、地球防衛組なんだ」
「地球防衛組……!?」
マリアはきょとんとしている。
予想した通りのリアクションだった。
(つづく)
著者:園田英樹
キャライラスト:武内啓
メカイラスト:やまだたかひろ
仕上:甲斐けいこ
特効:八木寛文(旭プロダクション)
次回10月24日更新予定