【第24回】絶対無敵ライジンオー 五次元帝国の逆襲
『再会』
勉が名づけた『探偵物語作戦』を開始する前に、吼児や勉たちと集合場所と決めていた公園にマリアを連れて行った。
吼児と勉とれい子は、すでに集まってきていた。
ウィッグを脱いだ僕が、マリアを連れてやってきたのを見て、吼児たちは少し驚いたようだった。
僕はベンチにマリアを座らせて、僕が体験してきたことをぜんぶ包み隠さずに話はじめた。
どこまでマリアが信じてくれるかはわからなかったけれど、また前に進むためには、マリアにもわかってもらう必要があると思ったからだ。
「あたしたちは地球防衛組で、小学生の時から巨大ロボットのライジンオーを使っていたって言うの……? そしてそのメインパイロットが、日向仁っていう人……」
最初はあきれていたマリアだったが、吼児や勉やれい子が僕の話に対して、真剣に反応しているのに気づいてからは、しだいに真顔になっていった。
「どうやら、本気で言ってるみたいね……」
「本気じゃなくて、本当のことなんだよ!」
「吼児、勉、れい子……あなたたちは、飛鳥の言うことを信じてるのね?」
「うん」
と、三人はうなずいた。
「小学校の教室で、日向仁のらくがきを見つけてしまいましたから」
勉がデジカメで撮影した、そのらくがきの写真をマリアに見せて言った。
「これがそれです。やつらは恐らく、あらゆる証拠を消したつもりだっのでしょうが、これは見逃したに違いありません」
「日向仁……」
マリアはしばらくの間、そのデジカメの写真をじっと見つめていた。
沈黙が続いた。
それはマリアが自分の中の暗い記憶の海を一人で泳いでいる時間に思えた。
沈んでいたマリアの表情が、ふいに明るくなった。少し浮上した感じだ。
「マリア……」
「まだ全部を信じたわけじゃないけど、あなたたちがあたしに嘘をつく人じゃないってことはわかってる……それにあたしもこの日向仁って人の名前を見て、なんだか懐かしい気がするの……知らない人じゃないって……」
そう、知らない人じゃないさ。
本当の君は仁と付き合ってるんだから。
僕はついそう言ってしまいそうになるのを、ぐっと息を飲みこむことでがまんした。
マリアに余計な情報を吹き込んで、さらに混乱させるのは良くないと思ったからだ。
僕は少し前まで、マリアと自分が付き合っていると思い込んでいた。
それが書き換えられた記憶であるとわかった今、僕は彼女にどう接していいのかわからずにいた。
一瞬だけワスレンダーによって書き換えられてしまった記憶の方が良かったかもしれないと思ってしまった。
僕は首を振って、その想いをかき消した。
マリアへの想いは、僕自身が書き換えてしまっていたもののはずだ。
それに捕らわれてしまっていたら、前に進むことはできなくなってしまう。
「これからどうするの? わたしは、どうしたらいいの?」
マリアの表情が真剣なものに変わっていた。
そう言われて、僕は言葉につまってしまった。
やらなければならないことはわかっていても、どうやったらいいのかはまだ思いついていなかったのだ。
「それは……その……」
とまどっている僕を見かねて吼児が言った。
「ワスレンダーをやっつければいいんだよね」
「そうしたら、あたしたちの記憶も元に戻るんでしょ」
れい子がつづける。
「それは、そうだと思うけど、どうやったらいいのかまでは考えてなかった……」
僕は二人の想いにも解答を出すことができないでいた。
じっと考えこんでいた勉が口をはさんだ。
「さっきから飛鳥くんの話を聞きながら、気になることがあって考えてたんです……」
「なんだよ、早く言ってくれよ、勉」
「飛鳥くんがジャルバンがワスレンダーを連れ去るのを見たのは、ちょっと前ですよね?」
「ああ、僕の体感的にはそうだけど……」
「でもこっちの世界で、ワスレンダーが使われたとおぼしき時間は、かなり前になります。もちろん飛鳥くんが話してくれたことが、全部真実だとしてですけど……時間軸がずれてます」
「それは当然のことじゃないか、勉」
と、吼児が言った。
「飛鳥くんが意識だけを次元移動させられたとするなら、時間軸の問題は気にしなくていいよ」
「そうでしょうか……」
「エルドランがそこに介入したとするなら、飛鳥くんに気づかせるためにあえて、ワスレンダーが連れていかれる前に飛ばしたんじゃないか。それに同一の世界じゃないみたいだし、パラレルワールドだと考えるならば、時間軸のことは気にしなくてもいいと思うんだ」
勉と吼児は、すっかり二人だけの世界に入っている。
僕もマリアもれい子も、二人が話している内容はさっぱり理解できていなかった。
「二人とも、いまそれを検討することは大事なことなの?」
マリアが二人の間に割って入った。
「とにかくワスレンダーを見つけることが大事でしょ」
「マリアの言う通りよ」
と、れい子が言う。
「まずはその方法を考えましょう!」
僕はあらためてマリアを見つめた。
小学生の時のマリアの姿が、だぶって見えた。
地球防衛組の教室で、『地球防衛組出動!』と大声で叫んでいた少女が。
高校生のマリアも、しっかりとリーダーシップを持った女の子だった。
マリアの気迫を感じて、吼児と勉もうなずいた。
「飛鳥が言うように、この世界がジャルバンによって、すべてを書き換えられてしまった世界なら、あたしたちは本当の世界を取り戻す必要があるわ。絶対に取り戻さなきゃ……!」
そう言って立ち上がったマリアは、本当に頼もしかった。
そのときドスの効いた男の声が背後から聞こえた。
「まさか、おまえたちが気づくとはな……」
声がした方を振り返ると、そこに金色の髪の毛を逆立てた巨大な男が立っていた。
まるでパンクロッカーのように逆立てた金髪。肩の部分にプロテクターがついた服は、まるで戦闘服のようだ。その上から赤いロングコートを羽織っている。
顔は青白く、異様に目つきが悪い。瞳の色は真っ赤だった。
それは僕が向こう側の世界で目撃したあの男に違いなかった。
「おまえは……ジャルバン……!」
「おまえたちが不信な動きをしていることは報告を受けていた……だが、ここまで気づいていようとはな……」
カッと見開いたジャルバンの目が炎のように燃えていた。
「こいつが、ジャルバンなの!?」
マリアの声は少し震えていた。
ジャルバンがいきなり現れたことと、その威圧的な格好に驚いているようだった。
「ああ……そうだよ」
「フフフフフ……」
ジャルバンはゲームでもして遊んでいるかのように笑った。
「誉めてやるべきかな……面白い、フフフフフ」
「なにが面白い!」
僕はマリアとジャルバンの間に立ちふさがった。
吼児、勉、れい子は、マリアの背後に立っている。
「この世界の制圧があまりにも簡単に行き過ぎて、退屈だと思っていたところさ。少しは、おまえたちが楽しませてくれるかもしれないと思ってな。フハハハハ」
ジャルバンの笑いが、僕の怒りに火をつけた。
「ウオォォォォー!」
僕はジャルバンに向かって、全力で飛びついていた。
身長175センチの僕の顔が、ジャルバンの胸のあたりにある。ジャルバンはゆうに2メートル以上あった。
細身に見えたが、腕力もはんぱない。
「無駄だ!」
そう言うと、ジャルバンは両手を伸ばして僕の両の肩をがっちりと掴んだ。
そのあまりの強さに、僕はそれ以上何も言えなくなってしまう。
まるでジャルバンの指が肩にめりこんで行くような気がした。
そのままジャルバンは、僕の身体を宙に持ち上げて行く。
「おまえたち地球人が、わたしに勝とうなどと、無駄なことを思わないようにしてやるべきだな。フフフフフ」
「ふざけるな、ジャルバン!」
「ふざけてはいない!」
そう言うなり、ジャルバンは僕の身体を地面に叩きつけた。
「飛鳥!」
ブラックアウトする意識の中で、マリアの叫んでいる声だけが聞こえていた。
「しっかりしろ、飛鳥! 目をさませ!」
身体が揺さぶられるのを感じた。
誰かが強い力で、僕の肩をつかんで揺すっている。
「いいかげん目をさませないと、ぶっとばすぞッ! 飛鳥!!」
聞き慣れた声だ。
そうこの声が聞きたかったんだ……。
僕はゆっくりと目を開けた。
「気づいたな……飛鳥!」
そこに仁がいた。
高校生の日向仁が。
「仁……」
「あのジャルバンの野郎、ひでぇことしやがって……許せねぇなッ」
仁は倒れていた僕を支えて身体を起こしてくれた。
「怪我してねぇか?」
僕は身体のあちこちを動かしてみた。
全身が痛かったが、骨が折れてる痛みじゃなかった。
「大丈夫……たぶん、大丈夫……」
僕はゆっくりと立ち上がった。
仁が、僕を支えてくれた。
「ここは……!?」
「おれの部屋だよ」
まわりを見回すと、机とベッドが置いてある六畳一間のなんの変哲もない仁の部屋だった。
壁には野球選手のポスターが貼ってあり、漫画本が床に散らかっている。
「おまえの部屋!?」
「見りゃわかるだろ」
「なんで……!?」
「俺が知るかよ。いきなりジャルバンってやつと手下が襲ってきて、俺と家族を閉じこめやがったんだ……」
「えっ……閉じこめられた!?」
「ああ。おれ、母ちゃんと父ちゃんが人質になってるから、逆らえなくてよォ。おとなしくしてるしかなかったんだ」
「そうだったのか……」
「きっとおまえらが助けてきてくれると思って、じっと待ってたんだぞ。今までなにやってたんだよォ!? 助けるどころか、逆にお前も捕まっちまうなんて……」
仁の言葉に、僕はようやく自分の置かれている状況を理解した。
僕は公園でジャルバンに地面に叩きつけられ気を失い、ここに連れてこられたんだ。
「マリアや吼児、勉、れい子たちは?」
「えっ!? マリアたちも一緒だったのか?」
急に仁の表情が暗くなるのがわかった。
「ここには連れてこられてねぇぞ……マリアがどうかしたのか!?」
仁は、本当にマリアのことを心配しているようだ。
僕は答えにつまってしまった。
(つづく)
著者:園田英樹
キャライラスト:武内啓
メカイラスト:やまだたかひろ
仕上:甲斐けいこ
特効:八木寛文(旭プロダクション)
次回10月31日更新予定