【第26回】絶対無敵ライジンオー 五次元帝国の逆襲
『一つの解答』
僕が地球防衛組の無かった世界を選んだら……。
目の前でジャルバンに締め殺されようとしている仁の命は救われる。
でもすぐに僕たちはジャルバンに拘束されるだろう。
僕たちはもう一度記憶を改ざんされ、それを真実だと思い込んだまま日常を送ることになる。
なんの変哲もない日常を。
それはそれで悪くはないのかもしれない……。
僕が、ただうなずくだけで、仁は助かり、僕らは平穏な生活に戻れるんだ。
それで何が悪い……この世界がジャーク帝国の支配下となっていくのを、普通の高校生として見ることになるだけだ……。
この世界ではエルドランは失敗した……それだけのこと……。
そんな思いが、僕の脳裏を一瞬かすめた。
「僕は……僕は……」
もうあと一押しで、僕の心は完全に壊れようとしていた。
そのとき仁の唇が動いているのが、目に入った。
必死で歯を食いしばり、苦しみに耐えながら、仁は僕に向かって声を出そうとしていた。
仁の唇が『飛鳥』と、僕の名前を呼んでいた。
声にはなっていなかったが、はっきりとそう言おうとしている。
それだけで仁が僕に何を伝えようとしているのかわかった。
僕は一瞬でも自分たちが負けることを考えたことを恥じた。
仁が逆の立場だったら、絶対にそんなことをするわけがないんだ。
きっとそれは他の地球防衛組の仲間たちも同じことのはずだ。
そう思った瞬間、自分でも信じられないほどの大きな声が僕の喉から絞り出されていた。
「仁を見捨てたりしない!! そして僕は絶対に、地球防衛組をあきらめたりしないッ!!」
身体も無意識に反応していた。
僕はジャルバンに向かって突進した。
まるで巨大な壁にぶつかったような衝撃だった。
だが仁を両腕で抱え込んでいたジャルバンの反応が一瞬遅れた。
ジャルバンの腰のあたりに、僕の全力タックルが決まった。
仁を抱えたまま、ジャルバンは後方によろめき背中から壁にぶつかっていく。
ドーン! バキバキーーッ!!
轟音とともに背後の壁が破れて大きな穴があいた。
そしてジャルバンの頭が、壁にめり込んでいた。
しかも見事にすっぽりとジャルバンの頭は、その壁に空いた穴にはまっていたのだ。
身体は仰向けのまま、ジャルバンは頭だけが壁にすっぽりと埋まる形になっていた。
仁の部屋の壁が安い建材で作られていたのが功を奏したのだ。
後頭部を強打した衝撃のせいで気絶したらしく、ジャルバンの身体はぴくりとも動かなかった。
僕は何が起きたのかを理解するのに、しばらく時間がかかった。
その前に仁が、ゴホゴホとむせながら立ち上がって言った。
「やったな、飛鳥……パワーあんじゃねぇか。大逆転だぜ」
仁は顔をしかめながらも、ニヤリと笑った。
「ああ……」
僕はようやく事態が飲みこめた。
まさに窮鼠猫を噛むとはこのことだ。
おいつめられた僕は、自分でも信じられないほどの力を出して、ジャルバンを倒したのだ。
ジャルバンが後頭部を打って気絶したのは偶然だったけど。
遅れてじわっと喜びがこみ上げてきた。
「やったぁ~~~ッ!」
「飛鳥、まだ喜ぶのは早いぜ」
仁の言葉に、僕はやりそうになっていたガッツポーズを中途半端なところで止めた。
「たしかに……」
「まだマリアや吼児たちが捕まってる」
「ああ。勉とれい子も」
「それに、うちの両親な……まずは、こいつをなんとかしようぜ」
と、仁は気絶したままのジャルバンを指さした。
「こいつが目を覚ましたら、また面倒なことになる」
「そうだね……どうする?」
「そうだなぁ……」
仁は部屋を見渡して、いいことを思いついたというふうに大きくうなずいた。
僕と仁は、ジャルバンの身体をカーペットでぐるぐる巻きにして、ガムテープでしっかりと固定した。
これならジャルバンが目を覚ましても、そう簡単には起き上がることはできないはずだ。
大変な作業だったけど、二人がかりでやったので、そう時間はかからなかった。
その間、下の階からジャルバンの部下が上がってくるかもしれないと警戒していたのだけれど、何の反応もなかった。
それが逆に不気味だった。
「仁、こいつの部下が、下にいるはずなんだ……」
「あの黒服野郎だな」
「うん」
「俺とお前でなんとかなるだろ……こいつだって、倒せたんだから」
「いや……さっきのはかなり偶然だったし……」
「なんだよ、また弱気になったのか、さっきの飛鳥はどこいっちまったんだよ」
と、仁は冗談めかして言った。
「俺、おまえが言ってくれたこと、マジで嬉しかったぜ」
そう言われて、なんだか照れくさいというのと、少し恥ずかしいという気持ちが同時にわき上がった。
一瞬のこととはいえ、僕はためらってしまったのだから。
仁が、僕の名前を呼んでなかったら……。
もしかしたら僕は、仁を見捨てていたかもしれなかったのだ。
「僕は……本当は……仁、お前のこと……」
「飛鳥、言わなくてもいいよ。お前の気持ちくらい、わかってるからよ」
仁は笑っている。
その笑顔が、僕を責める。
「ごめん……」
「なに言ってんだ。謝ることなんかねぇって。ぜんぶ、こいつの悪巧みなんだからよォ。この野郎、わざわざ俺たちの気持ちをつぶしにきやがった……それは間違いねぇ」
仁は床に転がっているジャルバンを見下ろした。
「もしかしたら、こいつの本当の目的は、そこにあるのかもな……」
「え……?」
「俺たちの心を折ることさ」
「心を折る……」
「じゃなかったら、わざわざあんなまねして、俺たちの前に現れるこたぁねぇだろ。さっさと俺たちを殺しちまえばすむことなんだから」
「たしかに……」
「殺さずに、心を折ろうとすることに、きっと何か意味があるんだ……」
仁が本能的に感じとったことに、僕も真実があるような気がした。
「仁、やっぱりお前はすごいよ……」
「なんだよ、いきなり……?」
「いや、ただそう思ってさ」
「飛鳥、おまえ、そういうキャラじゃねぇだろ」
「キャラってなんだよ!?」
「いまみたいに人を素直に誉めたりするなんてこと、めったにねぇじゃねぇか」
「僕は、いつも素直だッ!」
「どこが」
僕たちは、一緒に笑った。
そして全身に力がみなぎってくるのを、僕は感じた。
そうだ、これだ。
これこそが日向仁の本当の力……一緒にいる人間を笑顔に変えて、力を与えてくれる。
これが日向仁なんだ。
だからこそ五次元帝国は、仁を抹殺しようとしているんだ。
答の一つが、わかった気がした。
「よーし、みんなを助けに行こうぜ!」
仁の言葉に、僕は大きくうなずいた。
静かに階段を降りて行き、一階のリビングのドアを僕は開けた。
そこには椅子に縛られたマリアと吼児、勉、れい子がいた。
そして仁の両親も。
他には誰もいない。
マリアたちはガムテープで口を塞がれていたので、声を出せずにいたのだ。
「みんな……」
マリアが目で、ロープを早くほどけと言っている。
「おお、すぐにほどいてやっからな!」
仁はまっすぐにマリアのところに行ってロープをほどきにかかった。
マリアは手が自由になるとすぐに口のテープを剥がした。
「遅いじゃないッ! なにやってたのよォ!」
「あん!?」
仁は、ポカンとしている。
「あなたたちがグズグズしてるから、ジャルバンの手下が逃げちゃったじゃない!」
マリアはいきなりテンションマックスだ。
「えっ……!?」
吼児のロープをほどいていた僕も、一瞬手が止まってしまった。
「もうグズなんだからァッ!」
「グズってなんだよ!」
仁も黙ってはいない。
こっちもテンションマックスで言い返す。
「助けてやってるのに、いきなりグズとか言うかよッ!」
「あなたたちが二階で何をやってるのかは、だいたいのところは聞こえてたのよッ! あんなに大騒ぎしてたんだから、聞こえないわけないでしょ。こんな狭い家なんだしッ!」
「狭い家でわるかったな」
仁がふてくされる。
縛られたままの仁の両親も、そうそうとうなずいている。
それに気づいて、さすがにマリアもアッとなった。
「ごめんなさい……そんなつもりじゃないんです……」
と、あわてて仁の両親のロープをほどきにかかっていく。
「ふぁ~~、苦しかったァ……」
口のテープを剥がした吼児が言った。
「仁、飛鳥、二人とも大活躍だったね。聞こえてたよ、二人の声……僕、感動したッ!」
「僕もです」
「あたしもよ」
勉とれい子が大きくうなずいている。
どうやら僕たちの声は、ここまではっきりと聞こえていたようだ。
僕は少し恥ずかしくなってしまった。
「なに照れてんのよ、飛鳥くん。さすがだったわ……」
れい子が僕の背中をドンと叩いて言った。
その背中の痛みが、僕を現実に引き戻す。
「ワスレンダーは、どこなんだ?」
僕はダイニングを見渡した。
もう一つの世界から、こっちの世界に連れてこられたはずのワスレンダーがどこかにいるはずなのだ。
「ジャルバンが、ワスレンダーをどうしたのか、みんな見てない?」
僕の質問に答えたのは、仁のお父さんだった。
「もしかして、なんかこれくらいの大きさの変な生き物か?」
と、仁の父さんは、両手で抱えるくらいの大きさを示した。
「そう、たぶんそれです」
「それだったら、たぶん裏の倉庫にいるんじゃないか」
「そうそう。あいつらが、倉庫に入れるの、わたしも見たわよ」
仁の母親が続けた。
「倉庫に、ワスレンダーが……?」
「行こう!」
僕と仁は同時に動き出していた。
「こっちだ!」
僕たちは仁について裏の倉庫に向かった。
(つづく)
著者:園田英樹
キャライラスト:武内啓
メカイラスト:やまだたかひろ
仕上:甲斐けいこ
特効:八木寛文(旭プロダクション)
次回11月28日更新予定