【第28回】絶対無敵ライジンオー 五次元帝国の逆襲
『見ようとすれば』
僕たちは階段を駆け上がり二階の仁の部屋に飛びこんだ。
窓が壁ごと無くなっていた。
邪悪獣ワスレンダーが体当たりで突っこんだにちがいない。
そこでカーペットでぐるぐる巻きにされているはずのジャルバンの姿は影も形もなかった。
「あいつ消えやがった……」
仁が独り言のように言った。
「消えたのではありません……おそらくワスレンダーが連れ去ったんです」
と、勉が返した。
「ああ……わかってる……ジャルバンの野郎、どうやらあの邪悪獣をすっかりてなづけてたようだな」
「そのようですね。命じられているわけでもないのに、ジャルバンを助け出したということは、かなり頭もいいようです」
「どこに行きやがったんだ……?」
「あいつは無傷でこの世界を手に入れるために、あたしたちの記憶を操作しようとした……」
マリアが厳しい表情で続けた。
「でもそれに失敗したいま、こんどはなりふり構わず攻撃してくるはずよ」
「実力行使か……」
「ええ」
「どこを攻撃する?」
「おそらく……陽昇学園!」
そのマリアの言葉に、僕たちはハッとなった。
「陽昇学園には、あたしたちの基地とライジンオーがあるわ。それをまず自分のものにしようとするんじゃないかしら」
「そんなのダメだよ!」
と、吼児が叫んだ。
「あいつが攻撃をしかけてくる前になんとかしなきゃ……!」
「行こうぜ、みんな!」
仁が駆けだそうとするのを、マリアが腕をつかんで引き止めた。
「今からじゃ間に合わない……」
「じゃあ、どうすんだよ!?」
マリアはうなずいた。
「あれをやるのよ……!」
マリアが指示したのは、ライジンオーの遠隔出動だった。
大昔に一度だけやったはずなのだが……。
僕たちは家の外に飛び出した。
「勉、ライジンコマンダーを出して!」
「えっ……ライジンコマンダー……僕、もってませんけど……」
「いや、あんたが持ってるはずよ。あたしの記憶だと、勉はライジンコマンダーを解析するって言って、いつも持ち歩いていたはずだから」
「えっ……?」
勉は懸命に思い出そうとして首をひねっている。
「いつもはリュックに入れて持ち歩いていたわ」
「そうなんだ……」
背負っていたリュックを地面に下ろして、勉はその中に頭を突っこむようにして覗きこんだ。
「記憶を失くしていた間は、そんなものを持っているなんて思いもしてなかったし……見てなかったような気がします……」
「あんたがライジンコマンダーを失くすわけないわ。いつものところにきっとあるはずよ」
マリアの言葉は力強かった。
それは確信を持った者にしかない強さに思えた。
「マリア、どうしてそんなに確信があるの?」
れい子も僕と同じ気持ちだったらしく、その疑問を素直に口に出した。
マリアは、ふっと笑った。
「だって……信じてるから」
「信じてる……」
「あたしたちは変わってなんかいない……あたしたちは、そこにずっとあるものを見えなくされてただけだから」
見えなくされてた……?
「見ようとすれば、きっと見えてくるはずよ!」
そのマリアの言葉は、僕の胸に響いた。
見ようとすれば、きっと見えてくる。
見ようとすれば……!
僕は自分の左手首に目をやった。
そこにはいつもならライジンブレスがあったはずなのだ。
だが僕は記憶を失くしてからは、そこにあったはずのライジンブレスを見たことがなかった。
今も僕の手首には何もない……。
しかしマリアの言葉が、僕の頭の中で渦巻いていた。
『見ようとすれば、きっと見えてくるはず……!』
見ようとすれば!
現実とはなんだろう……?
自分の見ている世界……それが現実……いや、ちがう。僕たちは、自分の見たい世界を見ているだけだ……そして自分が見ているものだけを、現実の世界と思いこんでる……見ようとしていなければ、それが真実であろうと見えなくなってしまう……。
僕はマリアの言葉を信じた。
そして僕自身を信じた。
ライジンブレスは、ここにある!
僕は目をつぶって、心の中で必死につぶやいた。
そしてゆっくりと目を開けた。
僕の左手首には、ライジンブレスが巻かれていた。
そうだ! 僕はずっとライジンブレスを手首につけていたのだ。
それなのに、そこには何も無いと思い込まされていた。
その存在を見ようとしていなかったのだ。
ライジンブレスは、たしかにあった!
「ありました! ライジンコマンダー、ありましたッ!!」
ほとんど同時に勉が叫んで、ライジンコマンダーを頭上に掲げた。
「よし。飛鳥、吼児、やろうぜ!」
仁が左腕を前に突き出した。
やはりその腕にはキラリと光るライジンブレスがあった。
僕と吼児は、仁の突き出した拳に、拳を軽くぶつけた。
「うん!」
「やろう!」
マリアとれい子と勉も大きくうなずいている。
仁が勉から受け取ったライジンコマンダーを開けて、僕たちはライジンブレスから取りだしたそれぞれのメダルを収まるべき場所にカチッとはめこんだ。
ライジンコマンダー全体が、一瞬ボウッと光を放った。
起動したのを確認して、仁が叫ぶ。
「ライジンオー、緊急発進ッ!!」
一分もたたないうちに陽昇学園から射出された剣王、鳳王、獣王が仁の家の道に着地していた。
もう僕たちに迷いは一切ない。
それぞれの機体に向かって走り出した。
僕は地面近くまで頭を下げてくれている鳳王に乗り込んで行く。
そしてコクピットの椅子に身体をすべりこませた。
椅子が自動的に身体を固定していく。僕の身体を優しく包みこむように。
この世界の鳳王に乗り込むのは、本当に久しぶりだった。
中学生の時にテスト的に何度か出動しただけだから、実際二年ぶりくらいだ。
なんだか懐かしくさえ感じた。
レバーや計器類が少しだけ小さく思える。それはきっと僕自身の身体が大きくなっているからだろう。
でも何もかもが、あるべき場所にある気がして、僕はとても居心地が良かった。
「飛鳥、のんびりしてる場合じゃねぇぞ!」
僕のことを見ていたかのような仁の声がスピーカーから聞こえてきた。
「まずはおまえが行けッ! 俺と吼児は、あとから行くッ!」
「行けッて、どこに?」
僕はつい聞いてしまった。
「決まってんだろう! 陽昇学園だッ!!」
仁の声に追い立てられるより早く、僕は鳳王を発進させていた。
「鳳王、発進!!」
一気に空に向かって上昇していく。
コクピットの窓から陽昇町が見渡せる位置まで高度を上げる。
そこからは陽昇学園がはっきりと見えた。
コクピットの前面に装備されている透過モニターに、陽昇学園付近の映像が拡大され映し出される。
そこに邪悪獣ワスレンダーがいた。
ワスレンダーはいま校庭に着地したところだった。
「邪悪獣ワスレンダーを目視した! たしかに陽昇学園にいるッ!」
「ためらうな、飛鳥! 行けーーーッ!」
スピーカーから聞こえてくる仁の声に押されるように僕は操縦桿を押した。
急降下しながよワスレンダーにターゲットをロックオンする。
「ウイングバルカン!!」
バッ、バッ、バッ、バッ!
鳳王の肩の部分に装備されているバルカン砲が連射される。
自動照準機能が働いているので、狙いは正確だ。
校庭に着地したばかりのワスレンダーの足元で弾着の光が上がる。
しかし邪悪獣は、その攻撃をぎりぎりのところでかわしていた。
「ワスーーーーッ!!」
雄叫びをあげると同時に、ワスレンダーは飛び上がった。
そのまますごい勢いで羽ばたき上昇してくる。
まっすぐに僕の鳳王めがけて突っこんでくるのだ。
「ワスーーーーーーーッ!!」
大きくあけた邪悪獣の口から、紅蓮の炎が吐き出された。
ゴーーーーーッ!!
炎の渦はまるで竜巻のように大きくなり鳳王の機体を包みこんだ。
視界が炎で埋めつくされてしまう。
この邪悪獣の反撃は、僕の予想を超えていた。
視界を失った僕は、一瞬パニックになり、操縦桿から手を放してしまっていた。
炎の塊がぶつかったショックと、操縦コントロールを失ったことで鳳王はバランスを失っていた。
鳳王は空中で錐揉み状態に陥ってしまった。
「ウワァァァァ~~~ッ!!」
回転するコクピットの中で、僕は悲鳴を上げていた。
(つづく)
著者:園田英樹
キャライラスト:武内啓
メカイラスト:やまだたかひろ
仕上:甲斐けいこ
特効:八木寛文(旭プロダクション)
次回12月26日更新予定