【第29回】絶対無敵ライジンオー 五次元帝国の逆襲
『陽昇海岸の決闘!』
「飛鳥ァ~~~!」
コクピットに響き渡った仁の声が、僕に正気を取り戻させてくれた。
鳳王が空中で激しく回転しているのは、身体を押さえつけようとしてくる重力が教えてくれていた。
「鳳王、姿勢制御!」
重力に耐えながら僕は叫んだ。目の前の操縦桿を必死でつかむ。
そして思いっきり手前に引いた。
すさまじい振動が機体全体に伝わっているのがわかる。
「行けぇ~~~~ッ!」
自分の口からそんな言葉が出ていることに、僕は少し驚いてしまった。
でもそれ以上の言葉はない気がした。
僕の言葉に応えるように、鳳王はコントロールを取り戻してくれた。
機首をもたげて急上昇して行く。
だがまだ危機が去ったわけではなかった。
鳳王の後ろから邪悪獣ワスレンダーが追撃してきているのだ。
コクピット内にアラート信号が鳴り響き、レーダーモニターは背後にいるワスレンダーをはっきりと捕らえていた。
僕は一瞬のうちに、いろんな可能性を考え、その一つを選択した。
このままワスレンダーを郊外に誘導するのだ。ここで戦闘を続けたら、学校と周辺の人たちに大きな被害を与えてしまう。
海だ。海の方に邪悪獣を連れて行くんだ!
「ついてこい、ワスレンダー!」
僕は操縦桿を大きく切った。
ワスレンダーが吐き出す炎の球が鳳王の機体のギリギリを掠めて飛んでいく。
機体はまだ持ちこたえているが、まともに食らったら次はどうなるかわからない。
僕は海岸までなんとか邪悪獣を引っぱり出すことに成功した。
「よくやったぞ、飛鳥! ほめてやるぜッ!」
仁の声が聞こえた。
「仁、どこだ!?」
「下見ろ、ちゃーんとついてきてやってるよ」
旋回しながら海岸線に目をやると、そこに剣王と獣王がいた。
「あとは僕たちにまかせて!」
獣王のコクピットにいる吼児の声が、僕を励ましてくれる。
「この邪悪獣、めちゃくちゃしつこい。それにこの火の玉、すごく威力がある」
「だからって逃げ回ってたんじゃ、やられるだけだぜ」
こっちが必死で海まで誘導したのに、仁があんまり無責任なことを言うんで、僕はついカッとして言ってしまった。
「そんなに言うんだったら、おまえにまかせるぞ!」
僕はワスレンダーがついてきているのを確認しながら、眼下の海岸にむけて操縦桿を下げた。
鳳王は急降下していく。
「今だ!」
次の瞬間、僕は操縦桿を思いっきり引いた。
鳳王が急上昇していく。
後方に迫っていた邪悪獣は、急上昇についてこれずに、そのまま地面に向かって行った。
ドーン! 海岸にワスレンダーが激突する音が、はっきりと聞こえた。
爆発音とともに、大量の砂が舞い上がるのがモニターに映っていた。
「よしっ、やったッ!」
僕はついガッツポーズをしたくなった。
だが砂に激突したくらいでは邪悪獣は、ほとんどダメージを受けていなかった。
すぐさま立ち上がり反撃体勢を取ろうとしている。
「なにやってんだよ、飛鳥。逃げ回ってるだけじゃだめだって言ってんだろうがッ! 俺がぶっ倒してやるぜ、この野郎!」
仁が叫び声をあげながら剣王で突進していくのが見えた。
「ウォリャァァァァ~~~! 龍尾脚!!」
なんと剣王は、後ろ回し蹴りをワスレンダーにしかけていった。
豪快な技だが、かわされたら大きな隙ができてしまう。
心配した通り、邪悪獣は一回大きく羽を羽ばたかせると、剣王の蹴りをあっさりとかわしてしまった。
剣王は一回転して着地したとき、海岸の砂に脚をとられていた。
「あらっ!」
仁が叫んだ。
剣王は大きくふらついている。
「あわわ……」
慌てる仁の声がスピーカーから聞こえてくる。
「仁! そこはケンオウブレード使うところだろッ! 自分こそなにやってんだよッ!」
つい僕は厳しいことを言ってしまった。
ワスレンダーは体勢を崩した剣王に向かって、大きく口を開いて火の玉を発射しようとしている。
「仁、避けろ! 来るぞッ!」
「わかってるさ!」
そう言うと、仁は剣王をそのまま砂浜に倒れこませた。
剣王の頭ギリギリのところを、真っ赤に燃えた火の玉が通過していく。
まともに食らってたら無事ではすまなかったろう。
「仁くん、早く立ち上がって!」
吼児の叫びとともに、獣王が砂浜を猛然とダッシュしているのが見えた。
まるで獲物に向かって突進していくライオンそのものだ。
獣王はワスレンダーの背後に迫っていた。
「アニマルアタック!!」
獣王得意の体当たりだ。
ズドーン! 獣王が全体重をかけたタックルがワスレンダーに決まった。
さすがの邪悪獣も吹っ飛んで行く。
邪悪獣は砂浜に伏せたままの剣王の上を飛び越えて海に叩きつけられた。
「やったぁッ~~~!」
うれしそうな吼児の声が聞こえる。
そして海に落ちたワスレンダーが沈んでいくのが見えた。
「いいぞ、吼児! ワスレンダーが海に沈んでいってる!」
「しとめたのか!?」
訊いたのは仁だ。
剣王は砂浜で立ち上がろうとしている。
僕は鳳王で邪悪獣が沈んだ辺りを旋回した。
海面には大量の泡が浮かんできていて、そこに何かが落ちたことを教えていた。
しかしそれも瞬く間に波に飲みこまれていっている。
「今のところ、海面に動きはないよ」
「案外、あっけなかったな」
と、仁が言った。
「もしかしてワスレンダーって水に弱かったのかもしんねぇな。火の球吐いてたしよ。消火されちまったのかもしんねぇぜ」
「それを言うなら、鎮火でしょう」
生真面目に吼児がこたえた。
「どっちでもいいけど、これからどうする?」
僕は鳳王のレーダーで海上を探査しながら訊いた。
レーダーに反応はない。
ワスレンダーが海上に浮上してきていたなら、何かしらの反応があるはずだった。
「邪悪獣の後始末は、防衛隊がやってくれるだろ。俺たちは、ひとまず学校に戻ろうぜ」
仁はすでに剣王を学校方面に向けて歩きださせていた。
「おい、吼児、乗っけてくれよ」
と、獣王の背中に乗ろうとしている。
「やめてよ、仁くん。獣王は、タクシーじゃないんだからね」
「いいじゃんかァ、どうせ行く方向は同じなんだからよォ。あとでタクシー代払うからさ」
「だからタクシーじゃないって言ってるだろ」
「ケチケチすんなって」
と、剣王が獣王に乗ろうとするのを、吼児は嫌がっていた。
「仁、鳳王で運んで行ってやってもいいけど」
そう僕が声をかけると、剣王の中で仁が笑っているのがわかった。
「いいのか、飛鳥」
「ああ。つかまれよ、仁」
僕は鳳王を剣王の頭上に運んで行く。
「行くぞ、飛鳥!」
そう言うと、仁は剣王をジャンプさせた。
その勢いのまま鳳王の両足を、剣王の腕でつかむ。
僕は鳳王に剣王をぶら下げたまま、陽昇学園の方に向かって操縦桿を切った。
そのとき見えない方向から、すさまじい閃光が鳳王に向かってくるのを感じた。
「危ない! 飛鳥、仁ッ!」
吼児の叫び声が聞こえたときには、すさまじい衝撃を全身に感じていた。
何が起きたのかを理解したのは、地面に叩きつけられた後だった。
鳳王と剣王はもつれるような形で、砂浜に倒れていた。
すぐそばに獣王が駆け寄ってきて見下ろしているのがわかった。
鳳王のコクピットから、すぐ側に地面があるのが見えた。
僕たちは墜落していたのだ。
「飛鳥くん、仁くん、返事して!」
スピーカーから吼児の声が聞こえている。
全身に受けたショックで声を出せずにいた僕は、なんとか唸り声を出すことでそれに応えた。
「何が起きたんだ……!?」
「ロボットだ……謎のロボットが攻撃してきたんだ!」
吼児の言葉をかき消すように、ジャルバンの声が割りこんで来た。
「フハハハハ! さすがは地球防衛組だと、ほめてやろう。ここまで私を愚弄してくれるとはな」
「ジャルバン……!?」
「そうだ、わたしだ。忘れたとは言わせないぞ」
地面に倒れた鳳王と剣王から少し離れたところに、ジャルバンが乗り込んだロボットが浮いていた。
僕が向こうの世界で見たものと同じロボットだ。
人型に近いが両手両足がまるで鋭利な刃物のように尖っている。いかにも戦闘用の禍々しいフォルムだ。
そのコクピットに金色の髪を逆立てたジャルバンがいるのが、はっきりと見えるのだった。
(つづく)
著者:園田英樹
キャライラスト:武内啓
メカイラスト:やまだたかひろ
仕上:甲斐けいこ
特効:八木寛文(旭プロダクション)
次回1月23日更新予定