【第33回】絶対無敵ライジンオー 五次元帝国の逆襲
『ゴッドサンダークラッシュ』
地上に向かう鳳王には、地球防衛組の司令室から次々と新しい情報が飛びこんで来ていた。
鳳王を傷つけ、僕を宇宙のゴミにしたと思いこんで地上に戻ったジャルバンは、次のターゲットを陽昇小学校に定めていた。
まさに地球防衛組の本拠地である五年三組の教室を破壊するべく向かっていたのだ。
通信用のスピーカーからは、ジャークスレンダーからの攻撃に備えようとしているみんなの声が聞こえてきている。
「すぐに行くからな、それまで耐えてくれッ!」
僕にはそう声をかけるしかできなかった。
「急げ、飛鳥! グズグズしてんじゃねぇよッ!」
突然僕に向かって悪態をつく仁の声が聞こえてきた。
「仁! 無事だったんだな」
「あったりまえだ! あれくらいの攻撃でやられる剣王じゃねぇぜ!」
「飛鳥くん、いま僕と仁くんとで、学校に向かってます!」
そう言ったのは吼児だった。
「吼児! おまえも無事だったんだな」
「通信装置が故障してました。みんなのおかげでもう回復しましたけど。僕も獣王も大丈夫です。飛鳥くんが、ジャークスレンダーを引きつけてくれたおかげで、なんとか立ち直ることができました」
仁も吼児も平静を装ってはいたけど、その声からはかなりのダメージを負っていることが感じられた。
二人とも僕を動揺させまいとしてくれているのだ。
その気持ちが嬉しかった。
僕はなんとしてでも、その気持ちに応えようと思った。
「仁、吼児、行くぞッ!」
二人がすぐに応えてくれる。
「おうっ!」
僕は初めてその言葉を叫んだ。
「ライジンオー、無敵合体!」
そして地上に向かって急降下し続けている鳳王の操縦桿を思いっきり引いた。
鳳王の機体が陽昇小学校に向かい、水平飛行に入る。
僕は腕のライジンブレスから、ライジンメダルを剣王に転送した。
吼児も同じことをしているはずだ。
そして仁は、自分のメダルをライジンコマンダーに入れる。これで起動。変形合体開始だ。
鳳王の進路の先には、鳳王に向かって猛然と疾走してくる獣王と、その背中から大きくジャンプする剣王の姿が見える。
大きく飛び上がった剣王が空中で大の字になると、両腕、両足が折り畳まれていき、二つに分離した獣王がそれを挟みこんでいく。さらに剣王の上半身に鳳王が合体を開始。鳳王の脚が開き、腕となっていく。さらに鳳王の内部から頭部が出現する。
全身から稲妻のような光を放ちながら翼を広げていく。
これがライジンオーの無敵合体だ!
「飛鳥、おれのセリフ勝手に取るんじゃねぇよ!」
ライジンオーのコクピットに座った仁が言った。
仁の座席は、僕の右斜め後ろだ。
「一度言ってみたかったんだ」
「ふざけんな、あれはおれが言うことに決まってんだよッ!」
「飛鳥くんが言っていいんなら、次は僕にも言わせてよ」
僕の右隣の席に座った吼児が言った。
「吼児、いま俺が言ったこと聞いてたのか、あれは俺が言うんだってッ! そういう決まりになってんだよ!」
「いつ、誰が決めたのさ?」
と、吼児は引き下がらない。
「え……」
思わず仁は口ごもってしまう。
「あれって、最初に合体したときに、たまたま調子に乗った仁くんが言い始めたことだろ。仁くんが気持ち良さそうに言ってたから、文句は言ってなかったけどさ」
不満そうに吼児は言ったけど、吼児も言ったことはある気がした。
忘れてるのかな。
そんなことを思っていたら、マリアの緊張した声がコクピット中に響き渡った。
「あんたたち、余計なことを言ってる場合じゃないでしょ。目の前の敵に集中しなさい!」
その通りだ。僕たちの目の前に、ジャークスレンダーが迫っていた。
「ウオォォォォォォォーーーーーッ!」
ジャルバンの狂気に満ちた叫び声が聞こえた。
ジャークスレンダーは全身から邪悪なオーラを発しながら、ライジンオーに突っこんで来ている。
体当たりをしかけてくるつもりだ。
「わたしに逆らったことを後悔しても、もう遅いぞ!!」
恐ろしい殺意のこもったジャルバンの声が脳に直接響いた。
「激突に備えてッ!」
マリアの叫びが、僕たちに冷静さを取り戻させてくれる。
僕たちは操縦桿を握りしめて、衝撃に備えた。
ガーーーン!!
すさまじい衝撃がコクピットを揺らした。
ジャークスレンダーは、ライジンオーにまともにぶつかってきたのだが、とっさに仁は両腕を交差させてガードの体勢を取っていた。
そのおかげでライジンオーは衝撃に耐えることができていた。
もしそれが無かったなら、バラバラにされていたかもしれない。
後方に吹っ飛んだライジンオーは、小学校を支えている土手に背中をぶつける形で止まっていた。
コクピットも激しく揺らいだが、僕たちの体はシートに固定されている。
「大丈夫? みんな!?」
マリアの心配そうな声が聞こえた。
「あったりまえだろ!」
即答したのは仁だ。
しかしジャークスレンダーは、ライジンオーの体にしがみついている。
すぐ近くにジャルバンの存在を感じた。
それは殺気そのものだった。
「おまえたちを抹殺してやるッ!」
おぞましい声がした。
僕は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
なぜジャルバンは、ここまでの憎悪を僕たちにぶつけてくるのだろうか。
僕たちの存在を根底から消してしまおうとしたほどの憎悪を。
自分でも驚くほどの冷静さで、僕はそんなことを思った。
そんなことを考える余裕なんて到底ないはずなのに。
「こんにゃろー!」
仁は小さく叫んでライジンオーの腕で、ジャークスレンダーを突き飛ばした。
ライジンオーとジャークスレンダーの間に、わずかに隙間ができる。
しかしそれはジャークスレンダーにとっても次の攻撃を繰り出すための空間となっていた。
腕を折り畳むようにして下から、鋭い剣をライジンオーの頭部めがけて突き出して来た。
「避けてーーーッ!」
マリアと女子たちの悲鳴が聞こえた。
「ライジンクロー!!」
仁の叫びに、僕の体は反応している。とっさに操縦桿を動かしていた。
ガキーン!
ライジンオーの腕から鋭い鉤爪が飛び出し、ジャークスレンダーの腕の剣を受け止める。
それは僕たちのいるコクピットに当たる直前だった。
「あぶねぇ、あぶねぇ……」
仁が誰に言うでもなくつぶやいていた。
「飛鳥、いい反応してるじゃねぇか」
「当然さ」
僕はほめられて少し嬉しかった。
「仁くん、飛鳥くん、集中してください!」
吼児がすぐにいめさる。
「やつは、次の手を狙ってるよ!」
「わかってるって!」
そう言うと、仁は大きく操縦桿を動かした。
「ライジンフラッシュ!!」
仁の叫び声とともに、ライジンオーの胸のクリスタルが光を放つ。
それは強力なエネルギー波だ。
ズバーーーーン!!」
クリスタルの形に光ったエネルギーの塊がライジンオーから発射され、すぐ近くにいたジャークスレンダーの胴体に命中していた。
「よしっ、決まったぜッ!」
斜め後ろで仁が拳を振り上げて喜んでいるのがわかった。
「いいぞッ!」
僕も思わず声をあげた。
ジャークスレンダーが空中で回転しながら百メートルほど弾き飛ばされていく。
まさに会心の一撃だ。
至近距離だったのが幸いし、相手に逃げる隙を与えなかったのだ。
ライジンフラッシュをまともに食らったら、どんな相手でもダメージは大きいはずだ。
「喜ぶのはまだ早いよ!」
吼児はまだ気を抜くことなく、するどい目つきで前方を見つめている。
「そうよ、吼児の言う通りよ。まだ敵を倒したわけじゃないんだからね!」
司令室からのマリアの鋭い声が聞こえていた。
「飛鳥、あいつを追ってくれ!」
仁はジャークスレンダーにとどめを刺すつもりだ。
「わかった」
僕は背中の羽を動かしてライジンオーを飛び上がらせた、そして回転しながら飛んでいくジャークスレンダーを追いかける。
今までの戦闘パターンなら、ここでゴッドサンダークラッシュだ。
小学生の時から、たくさんの邪悪獣たちを葬ってきた必殺技だ。
「決めるぜ、みんな!」
仁が叫んだ。
「ゴッドサンダークラッシュ!!」
ライジンオーの左手に今や楯となった獣王の頭部が現れる。その口から、ライジンソードの柄の部分が出てくる。
操縦席では仁が、右腕で右手の先にある剣を握るような動作をしている。その仁の動きに同調して、ライジンオーもライジンソードの柄を握りこむ。
ライジンオーがその握った柄をふりあげると、みるみる光の剣ライジンソードが実体化していく。
この剣、ライジンソードこそがライジンオーの最大の武器だ。
「ウオリャァ~~~~~~ッ!」
仁が気合をこめて、その剣を振り下ろしていく。
ズバーーーッ!
と、ジャークスレンダーは真っ二つになる……はずだった。
しかし次の瞬間、目の前からジャークスレンダーが消えていた。
「なにィ!」
僕の口からは驚きの声が漏れていた。
同じように仁と吼児も息を飲んでいる。
まさかの事態だ。
僕たちはゴッドサンダークラッシュを失敗したのだ。
ジャークスレンダーは、一瞬にしてライジンオーの背後に回りこんでいた。
そしてその全身から、重力波を発射したのだ。
グオオオオオーー!
ライジンオーの全身が軋む音がした。
そして僕たちは、そのまま猛烈な重力につかまり、地面に叩きつけられたのだった。
(つづく)
著者:園田英樹
キャライラスト:武内啓
メカイラスト:やまだたかひろ
仕上:甲斐けいこ
特効:八木寛文(旭プロダクション)
次回4月3日更新予定