【第34回】絶対無敵ライジンオー 五次元帝国の逆襲
『クラスターサークル』
轟音と共にライジンオーは地面に激突した。
衝撃がコクピットを震わせる。
僕たちはシートに座ったまま、その衝撃を全身で受け止めた。
重力波を受けた影響もあるのかもしれない。
猛烈な頭痛がした。そして全身が痺れている。
動きたくても動けなかった。
ライジンオーは仰向けの状態で地面にめり込んでいた。自分たちの身体の位置で、それは感じることができた。
シートに固定されたまま、僕たちは仰向けの状態になっていたからだ。
ようやく目を開くと、コクピットのフロントガラス越しに空中からジャークスレンダーが僕たちを見下ろしているのがわかった。
「グァァァァ……!」
そんな叫び声が頭に直接聞こえてくる。
それはジャルバンの殺気がこもった唸り声だ。
ジャルバンはライジンオーにとどめを刺そうとしている。
とっさにそう思った。
「やつが来る……」
僕は必死で声を絞り出した。
返事は聞こえなかった。
仁も吼児もショックで気を失っているのかもしれない。
首を曲げて二人の様子を見た。
吼児がぐったりしていた。目は閉じたままだ。合体前に受けていたダメージに加えて、さらに強烈な一撃を食らってしまったのだ無理もない。
「俺は大丈夫だ……飛鳥」
絞り出すような仁の声が聞こえた。
仁は無事だ。ショックは受けていたが、意識ははっきりしている。
「グァァァァーー! おまえたちを永遠に消滅させてやる!」
ジャルバンの叫び声が脳内に響いた。
真上からジャークスレンダーが垂直に降下してくるのが見える。
両方の腕を真下に向けている。その鋭い二つの剣で、僕たちを串刺しにするつもりなのだ。
「仁! 避けろーーーーッ!」
僕は叫び声をあげることしかできなかった。
「ウォォォォォ~~~!」
僕の叫び声に、仁と吼児の叫び声が重なった。
吼児も意識を取り戻したのが、それでわかった。
ジャークスレンダーの両方の剣がライジンオーの胴体を貫く寸前、僕たちはライジンオーを少しだけ横向きにすることに成功した。
ガシャーーーン!!
すさまじい轟音とともに、すぐ近くで地面が爆発したような音をたてた。
ライジンオーの脇腹をかすめて、ジャークスレンダーの二本の剣が地面に突き刺さったのだ。
「こしゃくな! 悪あがきをするんじゃない! 止めを刺してやろうというのだ!!」
ジャークスレンダーはライジンオーのすぐ側に膝をついた格好で着地していた。
素早く地面に突き刺さった腕を抜くと、次の攻撃をしかけてくる。
どこまでもその腕の剣で、ライジンオーを刺すつもりだ。
「ふざけんじゃねぇ! てめぇなんかにやられてたまるか!」
仁が悔し紛れに叫びながら、必死でライジンオーを反転させようとしている。しかし次の反撃体勢を取ることができない。
地面を転がろうとしても背中の羽が邪魔になってそれができないのだ。
「このままじゃだめだ! 上体を起こしてくれ!」
「やろうとしてるんだけど、重力波がまだ残ってて、思うように体勢をかえられないんだよッ!」
吼児が叫んだ。
「ちくしょう! こんなやつに……こんなやつに……!」
「それ以上弱音を吐いちゃだめッ!」
ふいにコクピットが明るくなった気がした。
マリアの声が響いたのだ。
「ライジンオーを守りたいと思ってるのは、あんたたち三人だけじゃないってことを忘れないで!」
「そうですよ。僕たちがいますから!」
そう言ったのは勉だ。
「僕たちがジャークスレンダーを止めてます! 体勢を整えるのはいまです!」
勉の言葉に、僕たちは驚いた。
たしかに見上げると、ライジンオーを突き刺そうと腕を振り上げた格好のまま、ジャークスレンダーが動きを止めていた。
どういうことだ……!?
さっきまでは激しい動きで攻撃を続けていたはずなのに。
「何をしたんですか?」
吼児が訊いた。
「新兵器を勉君が見つけてくれたの」
マリアが答えた。
「クラスターよ!」
「相手を良く見てください。僕たちのクラスターが、やつの動きを止めているのがわかるはずです!」
勉が嬉しそうに言っている。
「ライジンオーのゴッドサンダークラッシュが、やつにかわされた時にクラスターが発動したんです。きっとエルドランがこういう最悪の危機にそなえて、フェイルセーフ機能をつけてくれていたんだと思います」
「なんなんだよ、そのクラスターって……?」
仁が不思議そうに訊いた。
「よく、見なさい!」
マリアの言葉に押されて、コクピットから僕たち三人は、すぐ目の前で腕の剣を振り上げたまま動きを止めているジャークスレンダーを凝視した。
ジャークスレンダーの腕や身体の周りに、四角い光がいくつも取りついているのが見えた。
一つ一つは小さな正方形のサイコロ状の光の塊だ。
それ自体が光り輝いている。
それがジャークスレンダーの動きを封じているのだ。
「あれか……」
「あれがクラスター……」
呆然と仁がつぶやいた。
「クラスターは十五個ありました」
「あたしたち地球防衛組のメンバーの数だけあるの!」
その光の塊は、まるでジャークスレンダーの身体に地球防衛組のメンバーが全員でしがみついているかのようだった。
僕と仁と吼児を除いた防衛組のメンバーたち15人全員が、一つ一つの光となって敵のロボットの身体に取りついているかのように思えた。
クラスターの一つ一つはちょうどライジンオーの拳くらいの大きさがある。
「よし、今だ! 離れるぞ、飛鳥!」
仁の指示で、僕はライジンオーの背中の羽を動かした。
一気にジャークスレンダーから飛びすざる。
「クラスターは、司令室から僕たち全員が気持ちを一つにすることで動かすことができるんです!」
司令室では勉が、モニターを使ったメンバー全員に操作方法を伝えていた。
「みなさん、集中して気持ちを一つにしてください! さっきはライジンオーを救おうとするみなさんの気持ちが一つになっていたので、完璧でした。もう一度、お願いします!」
「いくわよ、地球防衛組! クラスターサークル、発動!」
マリアが指令を出した。
それに答える防衛組のメンバーたちの声がコクピットに響きわたる。
「オーーーーッ!」
僕は最高の音楽を聞いている気分がした。
こうなったら負ける気持ちは、微塵もなくなっていく。
一気に絶望の沼から抜け出して、希望の空に舞い上がっていく感じだ。
クラスターサークルなんて、はじめて聞いたけど、それが必殺技だということはマリアの口調でわかる。
使い方がわからなくても、こういうときはライジンオーにまかせればいいのだ。
ライジンオーと地球防衛組の仲間たちの絆を信じて。
ジャークスレンダーに取りついていた15個の光のブロックが一気に離れていく。
同時に敵のロボットも自由を取り戻すのがわかる。
ジャルバンがあわてているのが見えるようだった。
さっきまで憎しみのこもった声を僕らの頭に直接届かせていたのが、ぷっつりと途絶えているのがその証拠だ。
敵は懸命に次の攻撃態勢を取ろうとしていた。
だがそのチャンスを与えるわけにはいかない。
僕も仁も吼児も、ここで決着をつけることを心に決めていた。
僕たち三人と教室にいる残りの十五人、全員の気持ちが一つにつながっているのを感じた。
ここで決める!
空中に浮かんだライジンオーの背後に、いったん離れた十五個のクラスターが集まっていた。
そしてそれがつながると一つの大きな円になっていく。
クラスターサークルの完成だ。
防衛組の大型モニターには、まるで光輪を背負ったようなライジンオーが映し出されていた。
その姿は、今までで最高に神々しく、誇らしいものだった。
「仁、決めて!」
マリアが叫んだ。
「言われなくても、決めてやるーーッ!」
仁は豪快に剣をふりあげるように腕を動かしながら叫んだ。
背中のクラスターサークルが再び十五個の光となって分散していく。
そしてそれがライジンオーが右手に持ったライジンソードの周りに集まっていく。
ライジンソードが光に包まれた。
「クラスターゴッドサンダークラッシュ!!」
仁が高らかに叫ぶと同時に、ライジンソードから十五の刃を持った光が回転しながら飛び出した。
それは今まで僕が見たライジンオーの必殺技の中でも最大級の威力を持っていることがわかった。
「ウオォォォォォォォォォーーーー!!」
僕は仁や吼児と一緒にお腹の底から叫んでいた。
その叫び声が光の剣の威力をあげると信じて。
回転する光の剣は、まだ体勢を整えきれずにいるジャークスレンダーめがけて、まっしぐらに飛んで行った。
バシュュュューーーーッ!!
空気を切り裂くような音と同時に、ジャークスレンダーを光の剣が通り抜けた。
ズガーーーーン!!
次の瞬間、ものすごい爆発音とともにジャークスレンダーは光の粒子となって消滅していった。
そこには何もなかったかのように……。
僕たちの長い戦いが、終わったのだ。
(つづく)
著者:園田英樹
キャライラスト:武内啓
メカイラスト:やまだたかひろ
仕上:甲斐けいこ
特効:八木寛文(旭プロダクション)
次回4月17日更新予定