【第35回】絶対無敵ライジンオー 五次元帝国の逆襲
『喜びはみんなで』
「行くぜ、飛鳥、吼児ッ!」
仁の声が僕と吼児の背中を押した。
僕たちは仁の声に合わせて、全力で叫んだ。
「絶対無敵ライジンオー!!」
それは仁が邪悪獣に勝利したときにいつも口にしていた言葉だ。
今日は三人で声を合わせた。
長い闘いがようやく終わったんだということが、実感としてジワッと湧いてくる。
「やったぁ~~~~ッ! やったぜーーーーーッ!」
コクピットの中で仁はもう大騒ぎだ。
シートからずり落ちそうになりながら、全身でガッツポーズをしている。
「俺たち、勝ったァ~~~ッ! あいつに勝ったぜーーーーッ!!」
斜め後ろで大暴れしている仁を横目で見ながら、僕は自分のシートに深く沈みこんだ。
緊張が解けたのか、全身から一気に力が抜けていく。
パイロットスーツの中は、汗でびっしょりだ。
司令室でも防衛組のメンバーたちが大騒ぎして喜んでいるのがわかった。
みんな口々に僕たちをほめてくれている。
「仁、良くやったわ!」
マリアの声が真っ先に聞こえた。
「飛鳥、吼児! すごかったわよ」
やっぱりマリアは、仁のことが一番先なんだよなぁ。
ふとそんなことが頭をよぎった。
こんなことを僕が思っているなんて、きっと誰も気づいちゃいないだろう。
僕は自分の思いをごまかすように、肩をすくめてぐるっと回した。
首から肩にかけて、ものすごく緊張していたのが改めてわかった。
なんだかいろんなものが凝り固まっていたのが、少しほぐれていくようだった。
「やっと終わった……」
僕は小さくつぶやいた。
そのとき、すべてが消え去った目の前の空間を見つめながら、吼児が言った。
「僕たち、本当にあのジャルバンに勝てたのかな……」
「なに言ってんだよ、吼児。勝っただろ!」
すぐに仁が声をあげる。
「いま、俺たち、あいつをやっつけたじゃねぇか!」
「うん……」
「なんだよ!? 何が言いたいんだよ!?」
「たしかに勝ったけどさ……」
「あの邪悪獣はドカーンって、消えちまったじゃねぇか」
「……なんだか、すっきりしないんだ。あのジャルバンが、あっさり倒されるような気がしなくてさ」
「吼児、おめぇ心配性が過ぎるぜ。まったくよぉ」
仁は、あきれたように肩をすくめた。
「だって、あんなに用意周到に僕たちを罠にはめたやつだよ……まだ何か嫌なことが起きるような気がしてしかたがないんだ……」
吼児は思い詰めたように目の前の空を見つめている。
その目は、まだ警戒心を解いてはいない。
心配する吼児の気持ちも、僕には良くわかった。
僕も吼児と同じで、完全にすっきりとした気持ちにはなれなかったからだ。
その理由は、はっきりしてはいない。
仁の言うように、僕たちは目の前でジャークスレンダーを倒し、それが光りの粒子になって消えるのを目撃したのだ。
これに間違いはない。
だけど漠然とした不安が、僕の心には残っている。
これから、もっと酷いことが起きるかもしれない……。
ジャルバンは、倒されたのではなく、いったん引き下がっただけなのかもしれない……。
そんな思いがのしかかってきて、この勝利を心の底から喜ぶ気持ちにさせてくれないのだ。
「飛鳥、おまえも吼児と同じなのか?」
仁は、さっきから黙っている僕に矛先を向けた。
「あ、うん……」
「なんだよ、はっきりしねぇなぁ。そんな感じだから、女子にもてねぇんだぞ!」
「はぁ!? いま、それ全然関係ないだろ」
「ヘッ、関係あんだよ」
と、仁は笑っている。
「こういうときはなぁ、素直に喜んでいりゃいいんだよ。まずは最大の危機を、俺たちは乗り越えたんだぞ。そうだろッ!?」
「そうだけど……」
「そりゃ、また事件が起きたり、五次元人が復活して悪巧みしてくるかもしれねぇけど、まだ起きてもいねぇことを心配して、暗い顔してるのは時間の無駄さ。なぁ、吼児、飛鳥、俺たちがいまやらなきゃならないのは、この勝利をみんなとわかちあって、思いっきり喜ぶことなんだよ!」
仁の言葉が、ドーンと胸に響いた。
『起きてもいないことを心配して、暗い顔をしているのは時間の無駄』
たしかに仁の言う通りかもしれない。
漠然とした不安に取りつかれること。
そして起きてもいないことを畏れること。
それが僕たちの心と身体を、気づかないうちに縛りつけはじめるのだ。
不安に取りつかれた人間は、起きてもいないことに恐怖し、怯え、目の前の瞬間、瞬間を楽しめなくなってしまう。
さっきまでの僕や吼児のように。
そしていつのまにか人生で大切でかけがえのない瞬間を取り逃がしてしまうことになる。
もしかしたらこれがジャルバンが僕たちにかけた最後の呪いなのかもしれない。
「仁……」
肩ごしに僕は仁の方を振り返った。
「なんだよ?」
そう応える仁の顔が、一瞬小学校五年生の時の仁の顔に見えた。
いつも目をキラキラさせて元気いっぱいに笑っていた、あのころの仁に。
「感心しすぎて声も出なくなっちまったのか!?」
悪戯でもしているかのように笑っている仁は、すっかり大人びた青年の顔になっている。
でも中身はまったく変わっていない。
仁は、あのころの仁のままなんだ。
少年のままの仁が、ここにいる。
きっと仁は、もっと大人になっても、ずっとこのままなんだろう。
そんな気がした。
「おまえ、ずるいぞ」
「なんだよ!? 俺、なにもずるいことしてねぇぞ」
「ああ、おまえはなんにもしてない。してないさ。だから、ずるいって言ってんだよ」
「はぁ!? 飛鳥、なに言ってんだ?」
「たしかにおまえの言うとおりだよ。今は、この勝利を喜べばいいんだよなッ!」
「おう、そうさ」
「吼児、俺たちも喜ぼうぜ! 喜べるときに喜ばなきゃ、もったいない!」
僕は隣にいる吼児に、思いっきり笑いかけた。
きっと僕の笑顔は、今までで最高の笑顔だったはずだ。
吼児が、びっくりしたように僕を見つめていた。
「飛鳥くん……」
そして吼児の顔にも、笑顔が広がっていった。
「うん」
「よっしゃぁ~~~~~っ!」
僕たち三人は、コクピットが振動するくらいの大声を出した。
僕たちの声に合わせて、司令室のみんなも大歓声をあげていた。
こんな風に全員で大喜びをしたのは、本当に久しぶりだった。
僕たちは、なにかとても大きなものを、もう一度取り戻したような気がしていた。
(つづく)
著者:園田英樹
キャライラスト:武内啓
メカイラスト:やまだたかひろ
仕上:甲斐けいこ
特効:八木寛文(旭プロダクション)
次回5月8日更新予定