【EX01 前編】SDガンダム ザ・ラストワールド ステージEX01
ステージEX01
忍者エクシア編 前編
人間の消えた街、トーキョーを走る影一つ。
天眼忍軍四忍衆の閃風忍者、人呼んで風のエクシア。
しかしボロボロの外套と眼帯で半身を覆い、傷付き壊れた忍具を修繕したその姿は……。
満身創痍の見た目にそぐわぬ決意の炎をその目に宿し、エクシアは廃墟を駆ける。
目指すは『始まりの地』シンジュク――。
*
「今です、エクシア殿!」
「了解、忍法トランザム!」
吟遊騎士レッドウォーリアRの声に合わせ、俺は秘伝の力を開放する。
赤い光に包まれ高速の刃と化した俺は、川の中央に陣取る巨大な蟹の化物――吟遊騎士によればクラブマラサイという魔物の変異種らしい――に突撃、その巨木のような脚にGN大手裏剣を叩き込む。
刃を通さぬ頑強な甲羅も関節までは覆っていない。大手裏剣で左の脚を斬り飛ばされた大蟹はバランスを崩し、水飛沫と共に川中でひっくり返った。
間髪入れずに吟遊騎士が大蟹の腹節を剣で貫き、真一文字に切り裂く。
大蟹は肥大化した爪を振り上げたが、そのまま動きを止めると大量の泡を吐きながら金色の光球となって消滅した。
金色の光球――この世界の根幹とされるGソウル――は、止めを刺した吟遊騎士を新たな主と認め、その体に吸い込まれる。
「ハア、ハア……やはりトランザムは消耗が激しい、俺もまだまだ修行が足りないな……それで、騎士殿。そろそろあの機兵とやらは呼び出せそうか?」
俺は荒い息をつきながら川から上がった吟遊騎士に尋ねるが、返ってきたのは残念そうな声だった。
「まだ無理ですね。巨体だからといってGソウルを多く持っている訳ではないようです。しかし……私に譲ってしまってよかったのですか?」
「構わない。この先、Gソウルの力に頼りきりという訳にもいかないからな」
そこへ、川岸からやや離れて待機させていた孫尚香ガーベラ姫が声をかけてくる。
「お疲れー、騎士様にニンジャくん……わわっ!」
「きゃーっ、エクシアおにーちゃんつよーい! かっこいいー!」
姫を跳ね飛ばす勢いで後ろから『巨大な少女』が駆け出し、俺に抱きついた。
まだ息が整わない俺はそれをかわせず、そのまま少女の剛腕に締め上げられる。骨格が音を立てて軋み、意識が遠のく……。
「ぐ、あああ……ちょっ、離……」
「あーっ、こらー! ニンジャくんが潰れちゃう! 早く離しなさいよ、ガンイージス!」
「え? あ~、さては尚香ちゃんヤキモチ妬いてるんでしょ~! えへへ、おにーちゃん」
「ハァ!? なーに訳わかんないこと言ってんのよ! 大体あんたの兄さんはガンクルーザーって人でしょ!」
「おにーちゃんが見つかるまではエクシアおにーちゃんがおにーちゃんだもーん!」
姫と巨大な少女――ガンイージスMk-Ⅱが言い合う中、俺は意識を手放した……何でこんなことになっている?
*
魔神ガンダム・ザ・ゴールドとの戦いの後。
これまでの事を報告するというブルーガンボイと別れ、俺たちはザ・ゴールドの待つ『始まりの地』に向けて旅の準備をしていた。
だが正直、俺は迷っていた……このままシンジュクに直行していいのか?
次にあの魔神と戦う時には巨神の力が不可欠だろう。それだけのGソウルは体に宿っている……が、それを制御する自信はなかった。
またあの時のように意識を失って暴走しては、俺に後を託して散った殺駆頭殿に申し訳が立たない。その不安を拭うためにも、自身を鍛えなおす必要を感じていたのだ。
そんな時に現れたのが彼女、ガンイージスMk-Ⅱ。並みの体格の2倍以上はあろう巨体に驚く俺たちに、彼女はこう告げた。
「お願いです~、私と一緒におにーちゃんを探してください!」
聞けば元の国ではあのガンセイヴァーZと同じ組織に属し、彼女と兄・ガンクルーザーMk-Ⅰは共に軍艦に化身できるという。そして水上戦が得意な彼がいそうな場所は……。
「成程、鋼鉄のお嬢さんは南に流れる川伝いに海へ出るつもりなのですね。しかし、あの川は確か……」
「あっ、川に大きな化け物が出たって話はあたしも聞いたわ」
「そうなんです~! お化けが出たらと思うとこわくてこわくて……それで、皆さんにいっしょに来てもらえないかな~って」
その体躯と武装で化物が怖いなど何の冗談かと思ったが、彼女の心は戦を嫌う純粋な童女そのもので、言葉に嘘はなさそうだ。
俺たち自身の再修業とガンイージスの兄探しのため、俺たちは目的を変更。サギノミヤから南下し、幾度かの戦いを経て大きな川に辿り着く。
対岸は霧に覆われ、全く見通せない。不可思議な川の様子を訝しむ俺たちの前に出現したのが、大蟹の怪物だった。
*
「まったくもう……これならお化け蟹もあの娘ひとりでやっつけられたんじゃないの?」
何とか息を吹き返し、川岸で伸びている俺の横で、姫が呆れたように呟く。
ここまでの戦いでガンイージスの戦闘力を見る機会もあったが、彼女は思った以上に幼く、自身の持つ兵器を制御しかねていた。下手をすると敵味方関係なく砲弾をバラ撒いて危険この上無いので、大蟹との戦いでは後ろに下がらせたのだが……。
知ってか知らずか、当のガンイージスは笑顔でこちらに手を振りつつ、川で無邪気に吟遊騎士と遊んでいた。
「兄を探す、か……そういえば、姫は劉備という男を探しているんだったな」
「な、何よ急に! さ、探すっていうか……もしこっちに来てるなら会えないかな~って思ってるだけよ」
思えば、あの白い翼の騎士ウイングも人を探していたようだ……皆、この世界で誰かを探しているような気がする。
「そりゃまあ、いきなりこんなワケのわからない世界に来ちゃったら、好きな……じゃない、元の世界の知ってる誰かに会いたいって思うでしょ? ニンジャくんにはそういう人、いないの?」
ふと、共に戦った仲間たちの顔が脳裏に浮かぶ。
銃火器と爆薬の扱いにかけては忍軍随一、火のデュナメス。
鳥に化身し自在に宙を舞う、空のキュリオス。
機巧甲冑の剛力と火力が自慢の、鋼のヴァーチェ。
そして俺、風のエクシア。
天眼四天王・四忍衆と呼ばれた忍者たちは皆、俺と互角以上に腕が立つ。彼らならこの世界でも一人で戦っていけるはずだ。
仲間であれば頼もしいが、もし戦うことがあれば恐ろしい敵になる……姫の言う『会いたい』とは少し違うように思う。
……誰に会いたいでもなく、俺はこの世界で何をしたいのだろう?
「……単独忍務には慣れている」
「何それ、ちょっと寂しくない?」
そこへガンイージスが割って入ってきた。
「あ~っ! 尚香ちゃん、エクシアおにーちゃん独り占めはずる~い!」
「なんでそうなるのよ! あーもう、こんな独りぼっちがいいならどーぞどーぞ、好きなだけ絞めてなさいよ!」
酷い言われようだ、さすがに何か言い返そうと体を起こしたその時だ。
「それなら、その男が私と一緒に来てもかまわないな?」
凛とした女の声が響いた。同時に辺りには妖しい蝶の群れが舞い始め、香の匂いが立ち込める。微かに混じる爆薬の匂い、これは――何かの妖術か!?
声の主の気配は掴めない。姫と吟遊騎士も異変を察し、素早く武器を取り周囲を警戒する。
「わぁ、見て見てエクシアおにーちゃん、ちょうちょがいっぱいだよ~!」
……察してないのが一人いたが。
「エクシア殿、貴方はまだ回復していない。あのトランザムという魔法は使わないように――」
「忍法トランザム!」
騎士殿の言葉より早く俺は飛び出していた。無数の蝶が俺を追って纏わりつき、眼前に白い影が躍り出る。やはり狙いは俺か!
影の正体は舞姫のような白装束の女だった。艶やかな黒髪をなびかせ、女が両手の巨大な鉄扇を振りかぶる。
「胡蝶!乱れ舞!」
女の声と共に、周囲の蝶が次々に爆発! さらに斬撃と衝撃波が襲い来る。
忍法を発動していなければ避けられないだろう連撃を掻い潜り、俺は女に斬りかかった。
女は一瞬驚きの表情を浮かべたものの、即座に鉄扇で俺の刀を受け流す。そのまま空中でふわりと一回転した女は、舞うような動作で川岸に降り立った。
俺も忍法を解いて女の前に着地するが、力が入らず膝をついてしまう――忍法トランザム連発の反動は相当なものだった。
女はこれ以上戦う気がないのか、鉄扇を畳むと俺に語りかけてきた。
「なるほどな、忍者エクシア。巨神の力で街一つ滅ぼし、黄金の魔神をも退けたというのは嘘ではなさそうだ。その強さが本物なら……いずれ奉先も戦いを挑んでくるだろうな」
「奉先って……呂布の字名じゃない! まさか、あんた呂布隊の貂蝉!?」
「ほう、私を知っているとは……娘、お前も三璃沙の者か?」
姫と女の話を聞くに、女は貂蝉キュベレイ。彼女もまた、強者と戦う事が生き甲斐の呂布トールギスという男を探しているという。
そして正直にも、その呂布の目にかなう強者として、俺と行動を共にしたいなどと言い出したから大変だ。
「ハァ!? 呂布を釣り上げる餌としてニンジャくんを連れて行くって!? 冗談じゃないわよ!」
「私が今まで奉先と戦えそうだと追っていた者は、皆この男に倒されたようだからな。責任は取ってもらわなくては、な?」
「だめだよ~! エクシアおにーちゃんにはおにーちゃんを探してもらうんだから!」
「そうか……なら奉先と会えるまで、私もお前たちに同行しよう。戦力は多い方がよかろう? 別にこの男をお前たちから取ろうというのではないからな、安心していい」
「う~ん、そっか、それならいいかも~」
「ちょ、ちょっと何言ってんのガンイージス! ちっともよくないわよ! そういう問題じゃないでしょ!」
何やらおかしな方向に話が転がっていないか?
「どうするんです、エクシア殿。リョフという戦士はともかく、あのレディは間違いなく面倒の元になると思いますが……」
俺が決めるのか、と返すと吟遊騎士は当然でしょうという顔をする。
「呂布とやらが現れるまでは信用できるだろう。連れていってもいいと思うが」
「……その自分から厄介事を背負っていく姿勢、嫌いじゃありませんよ」
吟遊騎士の言葉が聞こえたのだろうか。貂蝉は俺に顔を向け、よろしくとでも言いたげに微笑んだ。
俺は溜息をつき、空を仰ぐ。殺駆頭殿、俺はどうすべきなのだろう。
――そんなことワシが知るか、お人よしの若造が――殺駆頭殿の呆れ声が聞こえた気がした、その時だ。
どこからか、強烈な殺気と視線を感じた。
目の前の誰のものでもない、憎悪と怨念に満ちた殺気……しかしそれは一瞬のことで、探ろうとしたときには既に気配は消え、ただ三人娘のやかましく言い争う声が川辺に響いているだけだった。
(後編に続く)
キャラクターファイル
▲画像をクリック▲
イラスト:今石進
©創通・サンライズ