サン娘 ~Girl's Battle Bootlog【第4回】

← 前作品ページ次 →


第一章④

「レイ……ズナー?」

 言葉にすると、耳に心地の良い単語だった。
 直感的に、これが自分の纏うものの名称だと感じた。

「そっか……ありがとうね、レイズナー……」

 その感謝を聞き届けたように、Dアームがエッグへ戻っていった。
 不思議なことだらけだった。
 このエッグも、あの突然現れた『フラクチャー』とかいうオバケも、その全てが。

「……そうだ! レイちゃんを探さないと!」

 安心した途端に、レイのことを思い出した。
 いつの間にかいなくなったレイ。あたりを見回すが、やはり姿は見えない。
 通りの方にいるのかと、慌てて教育棟裏から出てみる。

「……え?」

 そこで、ポカンとした声が出た。
 通りには、誰もいなかった。レイだけではなく、誰一人として。聖陽学園の広い敷地。さっきまで下校していたはずの生徒たちの姿が、どこにも見えなくなっていた。

「み、みんな、どこ行っちゃったの……?」

 不安げな声を出しながら、生徒たちを探して、茫然と敷地内を歩き回った。
 だが、やはり誰もいなかった。まるで生徒全てが消滅し、まあち一人だけが取り残されたようだった。
 誰でもいいから出てきてほしい。ドッキリとかなら、もう充分驚いたから。
 心細さに、思わず泣きそうになったとき。

「見つけた! そんなところにいたのね!」

 凛とした声が響いた。
 思わず振り向く。通りに、一人の少女が立っていた。

「散々逃げ回って……今度こそ逃がさないんだから!」

 ツインテールの少女だった。気の強そうな瞳に、目鼻の整った顔立ち。
 間違いなく『美少女』の部類に入る容姿だったが、なぜか着ている服はチアガールのユニフォームだった。
 おまけに、こちらを鋭い目つきで睨んでくる。

「さっきとは姿が違うみたいだけど……どうせ、お仲間なんでしょ? ここで、あたしが消滅させてあげる!」
(しょ、消滅って!)

 応援とは程遠い明確な敵意。だが声を掛けるヒマさえなく、少女が飛び出した。

「そこを動くんじゃないわよ!」

 少女の両肩に浮いた、見覚えのあるポッド――エッグ。そこの片方から、少女の叫びと同時にDアームが出現した。赤と青を基調とした装甲。上腕部にV字型のパーツがついた腕には、見慣れぬ三叉の刀が握られていた。
 そのまま、横薙ぎに刀を払う。

(ひっ!!)

 とっさに下げた頭のすぐ上を、鋼鉄の刃が通り過ぎていった。野太い風切り音。かすったポニーテールの先端から、髪が二、三本、宙へ散る。
 恐怖に息が止まりそうになる。
 もつれそうになる足を必死に動かし、まあちは後ろへ跳んだ。

「こんのっ、避けるんじゃないわよ!」

 攻撃を躱された少女は、屈辱を怒りに変えながら、さらなる追撃を仕掛けてくる。
 反射的に身を捻り、二度目の凶刃を躱す。代わりに態勢が崩れた。
 少女がニヤリと笑う。

「もらったわ! ザンボットグラァァァァァァァップっ!」

 少女の叫びに反応して、もう片方のエッグが開いた。
 瞬時に飛び出す、もう一本のDアーム。手には同じ三叉の刀。
 まあちの胴めがけて一直線に迫る必殺の切っ先に、

(避けられない!)

 身を固めた瞬間――
 まあちの左右に浮遊したエッグから、Dアームが現れた。
 鮮やかな蒼に染められた装甲が、主を守るかのように刀を受け止めた。

「ちっ!」

 少女の舌打ち。
 そのまま切断しようと刀に力を込めてくるも、まあちのDアームが負けじと押し返していく。
 金属と金属がこすれ合う、不協和音。
 わずかな膠着のあと、少女は刀を引き、まあちと距離を取った。後退と共に、少女のDアームがエッグへ収納されていく。

「ふんっ……やるじゃない」

 肩に垂れ下がったツインテールを片手で払いながら、少女が言った。
 力量を認めるというより、いかにも『メンドクサイ』というニュアンスだった。
 まあちは、叫びたかった。
 切実に。どうしようもなく。

(なんで……なんで……なんでこんなことになったのぉ!?)

 もはや涙目である。
 突然、訳の分からないオバケに襲われたと思ったら、今度はへんてこな腕が現れた。おまけに、いつのまにか校内から人が消えており、ようやく誰かに出逢えたと思ったら、その人物はなぜかチアガール姿で、なんの思い違いか自分に襲い掛かって来たのだ。
 まあちの処理能力を越える、トンデモ自体の連発だった。

「事情を知っている人がいたら、誰か説明してぇ!」

 涙混じりにそう叫んだ。
 その姿に、さすがの少女も戸惑った様子で、

「説明って……。てゆーか、あんた喋れたの?」
「喋れるよ! というか喋るヒマすら与えず襲い掛かってきたのはどっち!?」

 半ギレで不満を訴える。少女は、気まずそうにこめかみをかきながら、

「あっれー……あいつらのお仲間じゃないの? それに、その格好……」

 顎に手を当てブツブツと言いながら、何かを考え始める。と思うと、キッとまあちを見て、

「一つ確認したいんだけど……あんたって、人間?」
「え? い、一応、そうだけど……」
「そっ。まぁエッグまで引き連れてるみたいだし、どうやらあんたも『こっち側』みたいね」

 得心したように頷く。いやいや、一人で納得しないでほしい。そもそもこっち側ってどっち?
 少女はズカズカとまあちへ歩み寄ると、

「あんた、名前は」
「へ?」
「だから、名前。名無しってわけないんでしょ? 名札にデカデカと『まあち』って書いてあるけど、それが下の名前? じゃあ苗字は? フルネーム教えてよ」

 立て続けに質問してくる。こちらの動揺なんてお構いなしだった。

「な、七星まあち……」
「七星まあちね。あたしは、神月楓」

 あまりにも乱暴な自己紹介を済ませ、さっさと歩いて行ってしまう。

「ちょっ、ちょっと待ってよ!」
「こんなところで立ち話もなんでしょ? それに大分ややこしい話だから、説明するにしても一旦どこかに腰を落ち着けた方がいいと思うわよ?」

 言いながらも、足は止まらない。

「だ、だから待ってって!」

 よくわからない少女だったが、今は一人にされる方が心細い。慌ててまあちは少女――楓のあとをついていった


著者:金田一秋良
イラスト:射尾卓弥


次回2月8日(水)更新予定


← 前作品ページ次 →


©サンライズ
©創通・サンライズ


関連作品