サン娘 ~Girl's Battle Bootlog【第6回】

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第一章⑥

 現実に戻ったまあちは、すぐにレイを探した。楓の説明通りなら、まだこちらでは一秒も経っていないはず。
 だが、レイの姿はどこにもなかった。すぐそばにいたはずなのに。
 念のため、ピーコンを取り出し、時計を確認してみる。最後に見た時刻を思い出し、nフィールドの中で過ごした時間をおよそで足してみるも、まあちの感覚よりも圧倒的に短い時間だった。

「やっぱり、ほとんど時間が経ってない……」

 だとしたら、レイはどこに?
 ただ首をかしげるしかなかった。もう一度、ピーコンの画面を見ると、見知らぬアイコンが追加されていることに気付いた。青色の丸に『S』の一文字が書かれたアイコン。
 もしかしてこれが、楓ちゃんの言っていた『SUN-DRIVE』?
 試しに起動しようかとも思ったが、やめておいた。連続であちらの空間に行くのは、さすがにためらわれた。せっかく楓の連絡先を聞いたんだから、あとで聞いてみればいい。

「でも、いつのまにこんなものが、入っちゃったんだろう……」

 楓は、突然インストールされたと言っていた。まあちが、学園から支給されたピーコンを使い始めたのは、ほんの一週間前。自分で、いくつか日常的に使っているアプリを入れはしたものの、他には何もしていない。当然、まあち以外の誰も触れていないはずだ。

(あ、違った……)

 そういえば一度だけレイの手に触れたんだ。壊れたピーコンを直してもらった。
 そのことが、なぜか気にかかる。
 どこか人間離れした雰囲気を纏った、不思議な少女。
 もう一度、あの子に会いたい。まあちは、強く思った。

「昨日はゴメンね!」

 翌朝。学園へと登校したまあちは、両手を合わせて栞へ頭を下げた。

「そんな……謝罪するのは、こちらの方ですわ。途中で案内を放り出してしまって……」
「怒ってないの?」
「むしろ、まあちさんが怒っているんじゃありませんか?」
「私が? ぜーんぜんだよ」

 笑いながら答えた。栞は安心したように、わずかに顔をほころばせた。

「あのー……それでよかったらなんだけどさ。今日も学園の案内、お願いしちゃっていいかな?」
「それは……ごめんなさい」
「そっかぁ……うん。ごめんね。栞ちゃんにも用事とかあるよね」
「い、いえ、そういうわけではないんですが……ただあまり、私と一緒にいない方がいいと思うんです……」

 ちらりと教室に目を向ける。また、あの赤毛の子が、こちらをうかがっていた。栞と目が合うや、すぐさま目線を逸らす。露骨な嫌がらせの態度。
 このままじゃいけない。そう、まあちは思った。
 栞は、自分といる時以外、笑わなかった。教室内では、ずっと俯きがちに黙っている。
 それは、まあちの思う『楽しい学園生活』とは、ほど遠い姿だった。

(でも、どうすればいいんだろう……)

 うーんと考え込みながら、まあちは自分の席に戻った。楓に相談してみようかと、ピーコンを取り出したとき、『ソレ』に気付いた。

「んん?」

 画面の中の『S』のアイコン。そこに、小さく数字の『1』が表示されていた。何かの通知らしい。アイコンをクリックすると、すぐにメッセージが表示された。

『contact with the new SUN-DRIVER』。

 そうメッセージには書かれていた。

「ねっ! これ、どう思う!?」
「どう思うも何も……」

 身を乗り出すまあちの前には、まあちのピーコンを手にした楓。
 まあちたちは、昼休みの食堂の一つにいた。体育館ほどの広さと高さがある『第二食堂』。第二が示す通り、同じ大きさの学食が、他にいくつもある。

「ここに書いてある通りでしょ? 私たちとは別のSUN-DRIVEの所有者に会ったってこと」
「やっぱりそうだよね……んぐんぐ……」
「いや……その前にあんた、それ何よ」

 テーブルを指さす。まあちの前には、大量のパンが積まれていた。その全てが丸型をしており、表面にゴマが散らされた古式ゆかしいあんパンだった。

「私のお昼ご飯だよ」
「まさか……全部あんパン?」
「美味しいよ? いる?」
「いらないわよ! ……ってか、そんなあんパンばっか食べて飽きないワケ?」
「ゼンゼン。昔から好きだし」
「糖尿病で早死にしても知らないから……」

 呆れたように言いながら、楓はカ○リーメイトの箱を開け、その一つをかじった。

「楓ちゃん、お昼それだけ? 足りるの?」
「はりふわよ(足りるわよ)」
「年頃の女の子なのに潤いがないよ、楓ちゃ~ん」
「あんパンまみれのヤツに言われたくないわよ! あたしはこれでいいの!」

 そうして、楓は話を戻した。

「で、あんたの話を聞いた限りだと、やっぱりその栞って子が怪しいんじゃない?」
「へ? 栞ちゃんは怪しくないよ? むしろ、すっごくイイ子だよ!」
「誰も性格の話なんてしてないわよ! 候補として一番有力だって話! あんた、バカなの!?」
「うっ。ひ、ヒドイ。そんな直接言わなくても……」
「いちいちいじけない! あーもう。つまり、その子がSUN-DRIVERじゃないかって、言いたいの!」
「SUN-DRIVERかぁ。なんか堅苦しいなぁ……ねっ。サンむすっていうのはどう? SUN-DRIVERのサンと、娘のむすで、『サンむす!』」
「呼び方なんてどうでもいいわよ……。で、その子どんな性格なの? 実際、接してみて、どう思った?」
「んー……すごくイイ子なんだけど……」

 柔和で、落ち着いた雰囲気。話していても、常にこちらを気遣ってくれる。とてもじゃないが、誰かに嫌われる要素は感じられなかった。
 だが、それでも……。

「あんまりクラスの子と上手くいってないみたい……」
「教室内での不和ねぇ。だったら、掲示板に何か情報が載ってるかも」

 楓は、自らのピーコンを操作し、とあるウェブサイトを表示させた。

「あっ、それ知ってる。学内ネットだよね。お気に入りのお店とか探せるんでしょ?」
「ここは口コミの店を探すだけの場所じゃないの。生徒たちが各々の話題を、無秩序に、無造作に書き込むところだから。その中には当然、クラスメイトに関する話題もあるワケ」
「クラスメイト? じゃあ、もしかしたらその中に……」
「ちなみに、その栞って子、苗字はなんていうのよ」
「えっと、たしか九鳳胤……だったはず」
「クホウイン……クホウイン? それって、あの九鳳胤!?」
「あのって言われても、どのことかよくわかんないよ」
「あ、あんた何も知らないの!? ……やっぱりバカね」
「あっ! また言った! うぐぐぅ……えいっ」

 仕返しとばかりに手を伸ばし、楓のカ○リーメイトを一つ口に入れた。

「ちょっとぉ、あたしのカロメ食べないでよ! 一日のカロリーは厳密に計算してるのに狂うでしょ!」
「んぐんぐ……それで結局、栞ちゃんの家がどうかしたの?」
「はぁ……。九鳳胤グループっていってね、有名な企業グループの一つよ。家電やIT事業やらで成功してデッカくなった会社で……まぁひとことで言うと、超金持ちの家の子ってこと」
「そうなんだ。でも、たしかに気品っていうのかな? そういうのが漂ってた気がする」
「それが不和の原因なの? でも、すり寄られこそすれ、不遇な扱いを受けるなんて考えにくいわね……」
「他に原因があるってこと? ねっ。その掲示板とかいうので調べてみてよ」
「わかってるわよ」

 楓がピーコンを操作し、検索と書かれた欄に『九鳳胤栞』と打ち込んだ。

「……あっと、早速ヒットした。って、うわっ。何この件数。かなり多いわね……」
「普通より多いの?」
「断然。一番古い書き込みなんて、中等部に入った直後のものよ。ある意味、最初から注目を浴びてたみたいね」
「あの栞ちゃんが?」

 はた目には、単なる大人しそうな子にしか見えなかったけど。

「内容を見るに、あの子、かなりぶっ飛んだところがあるみたいね。そのせいで、色々とネタにされてきたみたい」
「ぶっ飛んだところって、何?」

 楓は、真剣な表情でまあちを見つめ、重い口を開くように言った。

「あの子、とんでもない……アニメマニアらしいわよ」
「……へ?」
「しかも、ロボットアニメ限定のゴリゴリのマニア。美男系にはいっさい興味なし。キワモノ中のキワモノね」
「びなんけい? キワモノ?」
「あんたの知らない世界よ。で、そういった『濃い部分』のせいで周囲と次第に話が合わなくなったようね。その結果、次第にクラスメイトとは距離を置くようになって、孤立化していったと」
「孤立化って、そんな……」

 確かにアニメの話題が出たときは、まあちも圧倒されるほどのテンションだった。でも、好きなものを語ってるのだから、思わずヒートアップしてしまっても仕方ないと思う。それに、学校の話をしているときは普通に会話していたわけだし。

「この際、コミュスキルはあんま関係ないの。あの子は、単にいいカモになっただけよ」
「カモ?」
「敷地がバカデカい上に、衣食住が揃ってたって、ここは一つの閉鎖空間よ? おまけにいるのは、同世代の女の子ばかり。そういう中にずっといるとね、どこかで心が閉塞するの。その鬱憤のはけ口として、誰か一人が選ばれることがある。あの子も、たまたまそうなっちゃったんでしょ?」
「そんな……」
「書き込まれる内容だって、最初はマニアについて突っ込まれてるけど……その後は、ほとんど役体ないことばかりよ。『なんとなく気に入らない』とか、『黙ってばかりで気持ち悪い』とか、エピソードに具体性皆無。アホみたいな印象論を、その時々の鬱憤晴らしとして書いてるだけよ」

 クラスメイトたちの姿を思い浮かべる。

「みんな、いい人たちそうに見えたのに……」
「全員が全員そうだってわけじゃないわ。掲示板を頻繁に利用する一部の人間の仕業でしょ? ただまぁ……その子たちも特別『悪人』ってわけじゃないと思うけどね。きっとどれも普通の子よ。単に誰しもそういった黒い部分を、大なり小なり持ってるって話。それは外からじゃ見えない。そのあんパンみたいにね」

 まあちの持つ、あんパンを指す。
 半分食べられたあんパンは、中から黒々としたアンコがのぞいていた。

「栞ちゃんは、このこと知ってるのかな?」
「これだけ書かれてるんだから、当然知ってるに決まってるでしょ」

 栞の寂しげな横顔が思い出される。その表情に込められた意味がようやくわかった気がした。

「でも……本当にいい子なんだよ? 丁寧に学校を案内してくれたし、私のどうでもいい話にも相槌打ってくれたりさ……」
「…………」
「どうにかしたいよ。きっとみんなだって、話せばわかってくれるはず。栞ちゃんのいいところ……」

 あんパンを頬張る。中に隠れた部分。食べてみれば、こんなに甘いモノかもしれないのに。

「……まっ。あの子が、SUN-DRIVERなら、どっちみち会うしかないものね」

 楓が席から立ち上がった。

「楓ちゃんっ!」
「調査よ! 調査! それ以上の意味はないから!」
「うんうん。それでもいいよ。話せば、栞ちゃんのこともわかってくれるはずだし!」
「ふ、ふん」

 どこか照れたようにそっぽを向き、ツインテールを手で払う。
 ああ。ちょっとツンツンしてるところはあるけど、やっぱりいい人だなと思う。

「ほら、急ぐわよ。早くしないとお昼休み終わっちゃうんだから」
「うん! ……あ。ちなみに、SUN-DRIVERじゃなくて、サンむすだからね?」
「どっちでもいいわよ!」


著者:金田一秋良
イラスト:射尾卓弥


次回2月22日(水)更新予定


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