サン娘 ~Girl's Battle Bootlog【第8回】

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第一章⑧

 「こ、ここは……」

 まず目についたのは、漆黒の空。黒い天空には、何百という光が燦然と瞬いていた。
 その中で、ひときわ目につく青い巨大な球体。それは間違いなく『地球』だった。
 まあちはいま、宇宙にいた。
 足元には、ゴツゴツとした岩肌。何かの小惑星の上なのか、とてつもなく広い。街一つほどもある大地の周囲は円形に縁どられており、中央には巨大な塔が建っていた。
 すぐさまウィンドウが現れる。画面には、球体を半分に割ったような形をした小惑星の画像が映し出されており、『ユニウスセブン』と記されていた。

「ユニウスセブン? ……ていうか、楓ちゃん! ここ宇宙だよ、宇宙!」
「見ればわかるわよ! それにこれは単なる映像。本当に宇宙に来たわけじゃないの!」

 だが、楓自身も驚きは隠せなかったようだ。

「まさかフィールドそのものを改変するなんて……なんてデタラメなの……これもあのフラクチャーと一体化したせい?」

 ザッと足音がした。振り向く。そこに様変わりした栞の姿があった。
 制服ではなく、白を基調としたワンピースのような服を纏っていた。顔には、大型のゴーグル。レンズは黒く染まっており、その向うの表情はうかがい知れない。
 そして、その両脇に浮かぶ、二つのエッグ。
 眼前のウィンドウに、今度は栞の全身像の画像データが映し出される。
 画面には『インパルス_ZGMF-X56S』と表示されていた。

「やっぱり、この子もあたしたちと同じようね。その分、なおさらマズいって感じもしなくはないけど」

 楓が身構える。楓も同じように、例のアンダースーツへと変わっていた。
 栞が、じっとこちらを見ている。まるで、自分たちを観察するように。

「栞ちゃん……?」

 栞は応えず、まあちたちに向かって、片手を伸ばす。どこか機械的にも思える仕草だった。
 その動作に反応し、二つのエッグが、臨戦態勢を取るかのようにピタリと位置についた。

「どうやら、あちらさんはやる気みたいね」
「やるって……あれは栞ちゃんだよ!? 栞ちゃんと戦うなんて……!」
「撃って来たら撃ち返すしかないでしょ。それにこのフィールドを見なさい。単に話し合うためだけに、こんな大仰な仕掛けなんてするはずないじゃない」

 だからって、栞ちゃんと戦うなんて……。
 まあちの混乱を読み取ったように、栞が地を蹴った。エッグが開き、Dアームが出現する。
 まあちのDアームよりも、濃い青色をした装甲。その手にはライフル。レーザードライフルとは、また違った形状の『高エネルギービームライフル』と呼ばれる武器だった。
 銃口を向け、速射で三発。緑色の光が、まあちへ襲い掛かった。

「っ!?」

 Dアームでガードするヒマもなかった。直撃し、後方へ吹き飛ぶ。突き出た岩石に背中から激突。衝撃が全身を突き抜ける。

「う……うう……っ」

 かろうじて意識はあったが、あんなレーザーをまともに食らったんだ。無事で済んでるわけがない。だが、うすぼんやりした視界の中、自分の身体を確認してみると、特に目立った傷は見当たらなかった。むしろ痛むのは、岩とぶつかった背中の方だ。

(当たってないの? でも確かに……)

 不意にウィンドウが出現した。画面には、まあちの全身像が映っており、そこに『エネルギーシールド93%』と表示されていた。手元に目を落とすと、手の表面にうっすらとした光のコーティングが見て取れた。どうやらシールドのようなもので身体を保護されているらしい。数値が100%ではないのは、今の攻撃によるものだろう。
 だが身体の痛みよりも、栞に攻撃されたという事実の方が、まあちには堪えた。
 やっぱり栞ちゃんは、私たちを……。

「まあち、大丈夫!?」
「う、うん……なんとか……」
「これでわかったでしょ。やるしかないのよ!」

 楓が、栞を鋭く睨む。栞は無言のまま、変わらずこちらを眺めていた。何の感情もなく、ただ倒すべき敵を推し量るように。
 栞の身体が一瞬沈み、弾かれたようにまあちへ向かって跳んだ。ビームライフルを持つ腕とは、反対側のDアームに筒状のものが握られていた。筒から伸びるピンク色のレーザー光。棒状に安定し、ブォンという鈍い音を唸らせる。『ビームサーベル』の名を持つ近接武器だった。
 まあちは動けなかった。Dアームを出そうとさえ思えなかった。無情に振り下ろされるビームサーベル。その前に飛び込む影。楓だった。両腕に持った三叉の刀で、ビームの刃を受け止める。

「何やってのあんた! やられたいの!」
「でも……でも……できないよ……だって、栞ちゃんなんだよ!」
「だからって、このままやられてどうなるっていうの! それで、この子が喜ぶと本気で思ってんの!?」
「っ!」

 頭を殴られたような思いだった。確かにそうだ。まあちの知っている栞は、少なくとも人を傷つけて喜ぶような女の子じゃない。むしろ傷つけてしまったことを、いつまでも悔やんでしまうような、そんな優しい子だった。

「どう見たって、この子は正常な状態じゃない! だったら、あたしたちが止めてあげなきゃ!」

 栞の顔をもう一度見る。無表情に見えた顔。だが、ほんのわずかに……苦しそうに歪むのが見えた。
 栞ちゃんも……苦しいの?

「少なくとも、あたしはこのまま倒される気はないから!」

 ビームサーベルと三叉の刀がつばぜり合う。楓のDアームが、徐々にだが栞を押し返していく。そのとき、栞が片手のビームライフルを楓へ向けた。ゼロ距離からの射撃を狙う。

「っ!」

 既に両腕は塞がれている。回避しようとも、この距離では不可能だった。楓が直撃を覚悟したとき、一筋の光弾が、栞の手からビームライフルを弾き飛ばした。

「……っ!」
「そうだよね……このまま何もしなかったら、それは栞ちゃんを見捨てたことと同じだもん。そんなことできない。だから……だから……私が助けてあげる!」

 まあちの両脇に出現した蒼い装甲。Dアームの手には、レーザードライフルが握られていた。
 覚悟を込めた瞳で、栞を見つめる。

「……っ」

 即座に栞が楓から離れ、距離を取る。
 まあちは、楓の隣へと並んだ。

「イケるわね?」
「……うん」
「ここからが本番ね。さて、どう戦い抜こうかしら。……まずは動きを決めるわよ。相手の装備は、見たところサーベルにライフル。どちらの威力も驚異的ってほどじゃないわ。あたしが突っ込むから、まあちは後方から掩護して」
「え、それだけ?」
「何よ、文句あるワケ? 複雑な指示したところで、あんたこなせるの?」
「うっ……それはムリかも……」
「なら、これで充分でしょ。二対一なら力押しでイケるわ」

 気合を入れるように、拳を掌にパンっと叩きつける。
 エッグが、楓の闘志に応えるように、さっと両脇についた。

「行くわよ!」

 威勢の良い掛け声と共に走り出そうとした瞬間。
 栞のDアームがエッグへ収納された。すぐさま新たな腕が飛び出すも、さきほどとは装甲の色も、手にした武器も違っていた。濃緑色の両腕には、ライフルの代わりに大型のランチャー――『ケルベロス』が、それぞれ握られていた。

「っ! マズっ!」

 楓が、とっさに近くの岩陰に身を隠す。

「え? え?」

 オロオロとするまあちに向かい、栞がケルベロスを放った。
 閃光。
 特大のビームがまあちを襲うも、とっさにギリギリでかわした。

「ったく、なんなのよ、あの装備! 反則にもほどがあるじゃない……!」

 かたわらの楓が、憎々し気に言った。
 続けて栞が二撃目を放とうとするも、その前に楓が飛び出した。ランチャーを構える栞に向かってサンボットグラップを放つ。だが栞は巧みに刀を避けると、ケルベロスの砲塔後部から、大量のミサイルを射出した。

「うっそ! そんなのあり!?」

 楓の悲鳴が、ミサイルの爆発でかき消される。小惑星の表面を包む、大小の光球。

「ぐぅぅっ!」
「楓ちゃん!」

 ミサイルの一群が、まあちにも襲いかかってきた。
 ポッドから『腕』を出現させ、ガード。激しい衝撃が襲うも、必死に踏ん張った。
 爆炎の奥にのぞく栞を見据え、

「絶対に……絶対に、私が助けてあげるからね、栞ちゃん!」

 力の限り叫んだ。
 栞は応えず、トドメを刺すように、ケルベロスの砲口をまあちへ向けた。

「っ! 一旦退がるわよ、まあち!」

 楓は言って、Dアームの装甲から手裏剣型の物体を取り出し、投擲した。十字型の突起がそれぞれミサイルとなった『バスターミサイル』。
 栞は、素早く標的を変え、バスターミサイルを撃ち落とす。爆発。赤い炎が舞う。

「いまよ!」
「う、うん!」

 駆けつけてきた楓と共に、すぐさま後退する。その間も放たれるミサイル群。合間を縫って飛来する大口径のレーザーが岩肌を削っていく。恐怖に耐えつつ、ひときわ大きな岩石の影に隠れると、ようやく一息つくことができた。

「し、死ぬかと思ったぁ……」
「なんなのアレ、装備を変えるとかズルよ、ズル! えこひいきにも程があるっての!」
「楓ちゃんは、ああいうミサイルとかないの?」
「さっきのがそれよ」
「え? あの手裏剣、ミサイルだったの?」
「あ、あたしに言わないでよ! ミサイルを束ねて投げる武器らしいの! 単発でも発射できるけど……その分威力が落ちるから効果ないわ。あたしのSUN-DRIVEは基本近接型なの。あんたこそ、どうなのよ」
「どうって……」

 疑問に思った途端、ウィンドウが表示された。ウィンドウには、何かの装備が示されている。

「あ、『カーフミサイル』っていうのがあるよ。左右に一発ずつ」
「左右に一発ずつって……どう考えても撃ち負けるわね。それじゃあ状況はあんまり変わらないわ」
「じゃあ、どうする?」
「こうなったら、どっちかが囮になるしかないわね。一人が相手の注意を引きつけている間に、もう一人が裏側から回り込む」
「囮って……それ、大丈夫なの!?」
「大丈夫なわけないでしょ。あの砲火を一人で浴びるんだから」
「そ、そんなぁ……」

 楓は、まあちを見てから、深々とため息をつき、

「はぁ……わかってるわよ。囮役はあたしがやるから。あんたは、その隙にあの子のエッグを破壊しなさい」
「私が?」
「『出来る?』なんて聞かないわよ。いい。必ずやりなさい」
「う、うんっ」
「まずあたしが出て、攻撃を引きつけるから。その隙に行きなさい」

 楓の言葉に、強く頷く。それを見届けると、楓は岩影から飛び出した。

「あたしは、ここよ!」

 名乗りを上げると同時に、楓に向かって再びミサイルの雨が降り注いだ。続けて巨大なビームが大地を焼く。楓は両腕でガードし、攻撃をかわしながら、必死に栞の注意を引きつける。
 まあちは、岩石からこっそり顔を出し、栞の居場所を探した。
 ミサイル群は、中央にそびえる塔の麓。その裏から発射されていた。
 あそこに栞ちゃんが……。
 まあちは栞に見つからないよう、細心の注意を払いながら物陰を移動していった。
 砲火はなおも止まない。一方的に攻撃を受けるだけの楓が、いつまで持つかわからない。

(早く……早く……!)

 焦る気持ちを押さえながら慎重に、だが限りなく速く走る。永遠にも近い時間が感じられた中、ようやく塔の近くまで辿り着いた。すぐ裏側からミサイルの発射音が響いてくる。
 まあちは、レーザードライフルを取り出すと、

「う、動かないで!」

 飛び出し、構えた。

「……え?」

 だが、目の前に栞の姿はなかった。あるのは、空中に浮かぶDアームが一つ。分離したエッグが、自動でケルベロスを放っていた。

(そんな……じゃあ!?)

 まあちは、楓がいる方向を見た。


著者:金田一秋良
イラスト:射尾卓弥


次回3月8日(水)更新予定


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