サン娘 ~Girl's Battle Bootlog【第10回】

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第二章①

 聖陽学園の敷地内の西側には、総合百貨店や飲食店が立ち並ぶ繁華街が存在している。
 生徒たちからは『商業街』などと呼ばれる地区であり、祝日ともなると、大通りは買い物を楽しむ生徒たちで、大いに賑わうことになる。
 今日は日曜日だった。繁華街には、休日を謳歌する生徒たちの姿が――
 一人も見当たらなかった。
 静けさに満ちたメインストリートには、生徒達の楽しげな声に代わり、重低音のビーム音が激しくとどろいた。

「そっち行ったよ! 楓ちゃん!」

 まあちが、二階建てのド○ールの屋上から、レーザードライフルを放ちつつ叫んだ。
 眼下の中央広場では、今しがたまあちの狙撃をかわしたフラクチャーが、疾走していた。
 前方には、待ち構えるように三叉の刀を携えた楓の姿。

「まっかせなさい! どりゃああああああ! ザンボットブロオオオオ!」

 二本の刀の柄をくっつけ、一本の長槍へ変形させると、突進してくるフラクチャーに向け、盛大に叩きつけた。
 ガンッ! と鈍い音がし、フラクチャーの身体が半分地面に埋まり、身動きが止まる。

「今よ! 栞!」
「任せてください! たあああああああ!」

 フラクチャーの頭上、ビルから飛び降りた栞が降下した。両手に握ったエクスカリバーを振りかぶり、渾身の力でフラクチャーを一刀両断。真っ二つに切断されたフラクチャーの身体が、チリとなって消滅した。

「これが最後の一匹ね。ひーふーみー……しめて四体撃破と。なかなかじゃない」

 指を折って戦果を数えつつ、楓が満足げに頷く。
 栞が、ほっとしたように胸に手を当てていると、まあちが駆け寄ってきた。

「栞ちゃん! スゴかったよ! こう、ズバーンって感じで!」
「そ、そんな。まあちさんが追い込んでくださったおかげですわ。あのライフルを構えた姿。遠くから見ておりましたが、とっても凛々しくてカッコ良かったですわ……」

 どこか熱に浮かされたように頬を赤らめつつ、まあちをチラチラと見た。

「まっ。指示したのは、あたしだけどね。ただまぁ、あんたたちも戦い方が板についてきたじゃない。前みたいにアタフタすることも少なくなったし」
「それって褒めてくれてるの? ね、ね?」
「調子に乗らない。まあち、あんたライフルに頼りすぎよ。せっかくナックルショットって近接武器があるんだから、状況に合わせて使い分けなさいってば」
「うっ。なんか直接殴るのって抵抗があって……。それに近づくのも、まだ怖いし……」
「仕方ありませんよ。少しずつ慣れていけばいいと思いますわ」
「うぅぅ……栞ちゃ~んっ!」

 ひしっと栞に抱き付く。栞は「あっ。ま、まあちさん、いけませんっ」と、さらに頬を赤くして身じろぎした。

「栞、まあちを甘やかさないの。まあちも少しはこの子を見習いなさい? 大人しそうに見えて、中身はイケイケなんだから。怯むどころか、喜々として戦ってる感じすらあるわ」
「そういえば、戦ってるときの栞ちゃんって、いつもと感じが違うよね」

 さっきも「たあああああ!」とか叫んでたし。

「だ、だって、ずっと憧れていた機体と一緒に戦えるんですもの。まるで自分がアニメの主人公になったようで……つい気持ちがこもってしまうんですわ」

 恥ずかしそうに俯きつつ、かたわらのエッグにチラっと視線をやり、

「はぁ……この中に、あの『インパルス』の腕が。しかも、私の意思一つで自由に扱えるなんて……ステキすぎますわ……ふふふふ……」
「栞ちゃん、ヨダレヨダレ」
「はっ!」
「……少し訂正。こういうところは見習わなくていいわ」
「あはは……」
「でも、それぞれの役割も大体決まってきたわね」

 まあちと栞を見回す。

「まあちのSUN-DRIVEは、運動性に秀でた中距離タイプ。機動力で相手を翻弄しつつ、レーザードライフルやカーフミサイルで牽制、ダメージを与えていく。本来なら敵が怯んだ隙に間合いをつめてナックルショットで、追加の一撃……まで期待したいところだけど。でもまっ、装備がオーソドックスな分、どの場面でも対応可能な機体よね」
「うん。すっごく使いやすいよ、私のレイズナー!」
「それで栞のSUN-DRIVEは――」
「『インパルス』ですわ。そうお呼びください」

 すかさず栞の言葉が挟み込まれる。

「えっ、あ、うん……栞のインパルスは、三タイプの装備が運用できる換装型ね。通常は、まあちのレイズナーに似たオーソドックスなライフルとサーベルタイプの武器。ただそれに加えてエクスカリバーとかいう強力な剣を持った近接型と――」
「正確には『MMI-710 エクスカリバーレーザー対艦刀』ですわ。ちなみに、換装式バックパック『シルエット』を変えたあの姿は『ソードインパルス』と呼ばれます」
「………で、ケルベロスとかいう、ミサイルランチャー付きの長距離ビーム砲を持った遠距離型が――」
「『M2000F ケルベロス高エネルギー長射程ビーム砲』ですわ。砲撃戦仕様の『ブラストインパルス』です」

 思わず楓が黙る。栞はニコニコと笑っており、まったく悪意がない様子だった。

「えっと……さっきからちょいちょいなんかが挟み込まれるんだけど……。つまり三つの装備を使いこなすことで、状況に合わせて近距離戦から遠距離戦まで対応可能な機体ってことよ。……なにそれ、一人だけ優遇されすぎ! 反則よ反則!」
「だって、ガンダムですから」
「『当然です』みたいな顔されてもわかんないわよ! この圧倒的格差! バランス壊れ過ぎ! 公平感与えずにユーザーが満足すると思ってんの、このソフトの制作者は!?」
「お、落ち着いて、楓ちゃん」

 まあちになだめられ、楓がはぁはぁと肩で息をする。
 再び顔をキリッと引き締め、ツインテールを颯爽と腕で振り払い、

「それで、あたしのザンボットは、火力とパワーに特化した近接型よ。『三叉の刀』『長剣』『槍』に変形する武器と、ザンボットミサイルっていうミサイル」
「ねぇねぇ、他にもあるよね? 前に使ってた『ムーンなんとか』っていうアレ」
「あー……『ムーンアタック』ね。あれはその……簡単に言えば必殺技みたいなものよ。三日月形のエネルギー弾で、相手を破壊するの」
「必殺技!? へぇ! いいないいなぁ!」
「でも楓さん。あまり使われませんよね? というか、私と戦ったとき以来、一度も見ていないような……」
「……だって……しいだもん……」
「え? なんだって?」
「だ・か・ら! 恥ずかしいの! なんだってあんなポーズしなきゃなんないのよ!」
「恥ずかしいって……あー……」

 確かにあのとき、楓は妙なポーズをしていた。右手を水平に伸ばし、左手は額のあたりに添えた姿。

「こんな感じだっけ?」
「真似しなくていいから! あーもう! 恥ずかしいったらありゃしない!」
「そんな……あれがいいんじゃありませんか! やはり大技には構えが必須! このポーズ一つに視聴者の夢と、制作者の汗と涙と苦労がこもっているんですわ!」
「じゃあ、栞がやりなさいよ」
「作品カラーが違うからできません」
「やっぱり他人事じゃない! もうもう! なんであたし一人だけ、スーパーロボット系なのよ。もっとリアル路線の作品が良かったってーの!」

 楓の言葉が、ふと気にかかる。

「ねっ。その『すーぱーなんとか』とか、『作品』ってなんの話?」
「あー。そういえば、まあちはまだ知らなかったのね」
「まあちさん。私たちのSUN-DRIVEには由来となるモノがあるんですよ?」
「ほえ?」
「このザンボットも、インパルスもレイズナーも、元はアニメよ。ロボットアニメ。その作品の中に登場する機体なの」
「アニメのロボットぉ?」
「はい。そうですわ」
「へぇ。そうだったんだ……。でも、なんで?」
「さぁ。何かしらの意味があるのかもしれないし……あるいは単なる制作者の趣味かも」
「その場合は、ぜひお知り合いになりたいですわ。きっと話が合うと思いますし」
「はいはい……」
「アニメかぁ」

 かたわらに浮かぶエッグを見る。悪い敵から人々を守る正義のヒーロー。確かに、自分たちの行っていることは、それに近い。ただ、それほど単純なモノでもないような気がした。

「えっと、栞ちゃんさ。前のことなんだけどさ、あのフラクチャーに憑りつかれたときの……」
「ああ……」

 栞の表情が、わずかに陰る。栞は以前、フラクチャーに憑りつかれてしまった。それをまあちと楓と一緒に戦い、正気へと戻したのだ。
 あのとき、たしかにSUN-DRIVEとフラクチャーは、一つに融合した。

「正直、よく覚えていないんです。『アレ』と一つになった途端、怒りや悲しみが突然溢れ出してきて……あとは翻弄されるままに……」
「隠してた負の感情が、ムリヤリ引き出されたって感じ?」
「そうですね……そういった感じでした」
「使用者の精神に直接影響を与えるなんて……ちょっと信じられないわね。少なくとも現存の技術じゃ、そこまでのプログラムは組めないはずよ」
「なんだろう、上手く言えないけど……このSUN-DRIVEも、あのフラクチャーも……普通のアプリソフトじゃないって感じがするの」
「色々と規格外なのはたしかよ。こんな仮想空間を作り上げた上に、専用のインターフェイスもなしに、PD一つでフルダイブ型のシステムを実現するなんて。ただ……そうね。そういった技術面だけじゃなく、このSUN-DRIVEには、何か異質なものを感じるわ……」
「ただログインして戦うだけじゃない何かが……ですか?」
「ええ」

 栞が、フラクチャーから解放されたときのことを思い出す。あのときは無我夢中で戦っていたら疑問に思わなかったけど、結局アレもどういう原理で解放されたのかさっぱりだった。
 楓が、お手上げというように肩をすくめ、

「まっ。ここで考えても結論できるワケでもなし。とりあえず現実に戻りましょっか」
「ええ。そうですわね」

 そこで、まあちは重要なことに気づいた。

「そうだ! 思い出した! まだ途中だったんだよ! 私たちのお買い物の!」


著者:金田一秋良
イラスト:射尾卓弥


次回3月22日(水)更新予定


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