サン娘 ~Girl's Battle Bootlog【第11回】

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第二章②

「ふーっ。買った買ったーっ」

 まあちは満足した表情で、大量の買い物袋を席へと置いた。商業街に建ち並ぶ喫茶店の一つだった。

「あんた……どんだけ買う気なのよ……」
「ふふっ。本当にたくさん買いましたね」

 楓は、疲れたようにテーブルに突っ伏し、栞は楽しそうにまあちを見ていた。

「仕方ないよー。引っ越したばっかりで、必要なものが、たくさんあるんだもん」
「だからって、いちいち店を回らなくていいでしょーに……。コップや皿なんかの日用品なら、雑貨店でまとめて買えばいいじゃない」

 今日は、三人でまあちの日用品を買いに来ていた。引っ越したばかりで色々と物入りだと聞いた栞が、休日を利用してまあちをショッピングへと誘ったのだ。ならばと楓も誘い、店を回っていたところ、フラクチャーと遭遇し、戦闘になったという次第だった。

「だってー買うなら、可愛い奴の方がいいじゃーん。それに、ヌイグルミも欲しかったし」

 買い物袋から特大のあんパンのヌイグルミを取り出し、抱きしめる。

「えへへー。もふもふするー」
「はぁ……とっても可愛いですわ……」

 目を潤ませる栞。心なしかその視線が、ヌイグルミではなく、自分に注がれているような気がした。

「そんなもんを買うために付き合わされるこっちの身にもなってよね。あー疲れた……」
「楓ちゃんって案外体力ないんだね」
「ないんじゃなくて要らないの。ネットで注文すればなんでも届くこの時代、パソコンとキッチンを往復するだけの体力があれば十分よ」
「極端だなぁ。nフィールドじゃ、あんなに激しく動き回ってるのにぃ」
「リアルの肉体じゃないもの。自分の身体なら、その場に留まって指示出しに専念してるわ」
「確かに楓さんは、身体よりも頭を使う方が慣れていらっしゃるようですね」
「まっ。ゴリゴリのインドア派だし。でも、栞も平気そうね。はた目には文系って感じなのに」
「ええ。お稽古事で色々とやりましたから。茶道や華道だけではなく、日本舞踊や乗馬なども」
「げー……。あたしならソッコー投げ出す自信あるわ。お嬢様も大変ね……」
「ふふっ。もう慣れましたわ。……それに今日はとっても楽しかったですから。こうやって皆さんとお買い物をするなんて久しぶりで……」

 その言葉に、思わずまあちと楓は黙ってしまった。
 そうだ。栞はとある理由で、これまでずっと一人きりで過ごしていたんだ。

「……で、そっちはどうなのよ。あれから少しは好転した?」
「どうでしょう……。ただ前より教室の雰囲気が少しだけ柔らかくなった気がします」

 それは、まあちも感じていた。以前みたいに、遠くから栞を見てはヒソヒソと噂話をする人たちは、だいぶ減った気がする。
 だけど、そう変えたのは栞自身だ。あれから栞は変わった。俯いているばかりではなく、自分から周囲へと話しかけるようになったのだ。もちろん、ひと言挨拶を交したりする程度の些細なものだったが、それでも確かに以前とは違っていた。

「まっ。あれから掲示板をチェックしてるけど、書き込みはずいぶん減ったわね。あったとしても『あの子どうしちゃったの?』っていう戸惑い半分って感じのものばっかり」
「そう、ですか……。それなら良かったです」

 安心したように胸をなで下ろす。
 きっと栞も、どこかで不安だったんだろう。自分のやっていることは正解なのか。それが報われてほっとする気持ちはよくわかる。
 ただ、それでも教室内でアニメの話をするのは、まだ控えている。喋るのは、もっぱら自分や楓と一緒にいるときだけだ。もちろん一方的に話を聞かせてもらうだけだけど。
 そのことに少しだけ寂しさを感じる。結局、そういった部分を共有できる相手が増えなければ、本当の意味で付き合いが広がったとは言えない気がした。
 自分は、栞に向かって『居場所になる』と言った。
 果たしてそれは叶えられたのだろうか?

「んーー……」
「なに急に難しい顔してんのよ」
「ちょっとねー。考えごと」

 頭をひねっていると、ぐぎゅるるーとお腹が減った。

「慣れないことするから、お腹が悲鳴をあげてるわよ」
「それはもっともだけど、デリカシーなさすぎだよ、楓ちゃん!」
「えっと、何か軽いものでも注文しますか?」

 言い合う二人をなだめるように、栞がメニュー表を手に取る。すぐに店員が近寄ってきた。

「何かご注文でしょうか?」
「あんパン五つください」
「あんたバカなの? パン屋じゃないんだから、そんなもんここに置いてるわけ――」
「承知いたしました」
「あんの!?」
「種類はいかがいたしますか? 粒あん、こしあん、白あん、他にも、さくらあん、ゆずあん、うぐいすあん、黒糖あんなど色々とございますが」
「種類多っ!」
「えっと、じゃあこの粒あんと、それとこれと……」

 素早く五種類選ぶ。すぐさま店員が厨房へさがっていった。

「なんでこんなに種類があんのよ、ここ……」
「ふふ。まあちさんが気に入るかと思いまして探し出したんです」
「わざわざ調べたの? ようやるわ……」

 楓たちが話すかたわらで、まあちは去った店員の後ろ姿を見つめていた。

「どうかしたの?」
「いまの人、同じ年頃の人だったなぁと思って。ここでバイトしてるのかな?」
「ああ。違うわよ。あれは実習なの」
「実習?」
「ええ。この学校には、私たちの『普通科』とは別に『専修科』というのがありまして、高等部へ進学する際に、どちらに入るのか選ぶことになるんです。『専修科』は各分野、スポーツ、美術・デザイン、音楽、服飾、調理・栄養、医療・福祉、電子工学などの専門コースに別れ、一般教養と並行して専門の技術・知識の修得を行っているんですわ」
「ほうほう」
「いや、あんた転入学する際に希望とられたでしょ?」
「あー、なんかお母さんから聞かれた気がする。そのときは『普通で』と答えたような……」
「適当ねぇ」
「この場所は専修科の生徒が、実習を行うための場でもあるんです。ほら、例えばあそこのお店……」

 喫茶店の向かいにある洋服屋を指さす。瀟洒しょうしゃな店内だが、周囲の店と違うのは、店員も客も、全てが女子生徒だということだ。

「あそこのお洋服屋で接客しているのは、服飾科の方たちですわ。もちろん売っている商品も全てご自分たちの手で作られたものです」
「スッゴーイ。生徒が、自分でお店をやってるなんて……」
「全部じゃないわよ。金銭の管理なんかは、学園に雇われた専属のスタッフがやってるわ」
「だとしても、十分スゴイよ……。あれ? でもその場合、平日はどうするの? みんな、学校に行っちゃったらお店開けられないよね?」
「問題ありませんわ。そもそも全員が登校しているのですから、お客さんも来ませんわ」
「あっ。言われてみればそっか」
「基本的にここが活発になるのは、放課後と休日だけよ」
「ねぇ。私たちも希望したら、あんなお店出せたりするの?」
「個人では無理ですが、『部活動』としての申請なら可能ですよ」
「部活動かぁ……部活……部活……」

 そのとき、まあちの頭にひらめくものがあった。

「そうだよ! 部活だよ! 部活! それっきゃないよ!」

 机をバンと叩き、勢いよく立ち上がる。

「と、突然、何よ」
「私、前に言ったよね。『栞ちゃんの居場所になるって』。それってどうすればいいか考えてたけど……部活を作ればいいんだよ。みんなが好きなことをできるような! そうすれば、もっともっと他の人とも仲良くできるんじゃない!?」
「まあちさん……そこまで私のことを考えてくださって……」

 栞が、感動したように目をウルウルとさせた。

「それで部活ねぇ。……まっ。あんたにしては悪くない考えなんじゃない?」
「でしょ! でしょ! じゃあ部活を作る。これ決定ね!」
「はい! 私もぜひお手伝いさせていただきますわ!」
「いや作るのはいいとして……いったいなんの部活にするのよ。活動目的は?」
「えっ? えっと、私たちに共通したものがいいから……あっ。『サンむす部』とかどう!?」
「それ、SUN-DRIVEがない人は入れないじゃない……」
「あっ! それじゃダメだ! えっとえっとどうしよう……」
「なんにも考えてないのね。勢いだけで言うあたり、あんたらしいわ」
「ちなみに、まあちさんは中学時代、どういった部活に入られてたんですか?」
「え? 私?」

 キョトンとしてしまう。

「あんたに決まってるじゃない」
「えっと……私……私は……」

 言葉がつかえる。中学時代の部活。それはあまり思い出したくない。思い返す度、胸に何かのしかかるような重たい感覚がよぎるから。

「えっと……忘れちゃった。あははは」
「忘れちゃったってね……」

 笑いながら頭をかくまあちに、楓が呆れたような顔をした。隣の栞は、いつものようにほほ笑むことはなく、思案気な表情でまあちを見つめていた。


著者:金田一秋良
イラスト:射尾卓弥


次回3月29日(水)更新予定


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