サン娘 ~Girl's Battle Bootlog【第13回】

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第二章④

 三人は、そのまま事務棟に向かった。受付で事務員から創部の申請書を貰い、そのまま帰宅の途についた。
 その間、ほとんど会話らしい会話はなかった。

「…………」

 無言のまま歩くまあちたちを、夕陽が照らす。
 原因は、わかっている。さっきの件が、ずっと尾を引いてるんだ。
 きっと二人も気になってるはず。私とあの子のことについて。だけどそのことを口にしようとするたびに言葉が詰まる。あの子は、ハッキリと言ったんだ。

『私は一生……貴方を許さない』

 言い返す言葉なんてなかった。
 その無言の空気に、楓がたまりかねたというように

「……あのさ。いい加減聞いていい? そろそろハッキリさせときたいのよね」

 そう尋ねてきた。

「ご、ごめん、楓ちゃん……さっきのことについては……その……」
「ちーがーうーわーよ。あたしが聞きたいのは、こっちのこと」

 手にした創部申請書をパンパンと叩く。

「へ?」
「創部条件見たけど、最低五人は集めないとダメみたいよ? ゼンゼン足りてないじゃない」
「たしかに問題ですわね……」

 栞も、困ったように眉根を寄せていた。

「あの、二人とも……」

 楓も栞も、さきほどのことを尋ねてこようとしなかった。まったく。少しも。
 まるで何事もなかったように、申請書を見ながら、うーんと首をひねりあっている。

「ほら、あんたも少しは考えなさいよ。発案者でしょ?」
「いや、でも――」
「創るんでしょ、部活」

 楓が言った。真剣な瞳だった。

「今からやめるなんてダメですよ? だって私、もうその気になってしまったんですもの」

 楓の隣で、栞が手を合わせ、柔らかくほほ笑む。

「二人とも……」

 胸に暖かいものが満ちてくるのがわかった。それはとめどなく広がり、目頭をじんと熱くさせた。
 私は、いい友達に出逢えたな。そう思った。
 だからこそ、いつまでも塞ぎこんでるわけにはいかなかった。グイッと目元をぬぐい、

「……あたり前だよ! 絶対に部活、作ってみせるんだから!」

 あたり一面に響かんばかりの大声で宣言した。

「ばっ……声デカすぎ! そんな叫ばなくても聞こえるっての! バカまあち!」
「それだけ私の決意って固いってことだよ。えへへ」
「ふふっ。それでこそまあちさんですわ」

 笑い合うまあちと栞を、楓がやれやれといった感じで見てくる。
 いつもの日常だった。賑やかで、和やかな三人の雰囲気。
 その様子を見届けたあと、楓が話を戻すように、

「で、結局人数の件はどうするつもりよ」
「そりゃ……頑張って集めるしかないんじゃない?」
「条件は五人……あと二人必要ですわね」
「いや、あと三人よ」

 楓の言葉に、「?」となるまあちと栞。

「だってあたし、もう部活入ってるし。だから、そっちに入るのはムリ」
「ムリって……えええええええええ!?」
「そ、そんな……私はてっきり……」
「いや、最初から入るなんてひと言もいってないし」
「そんな……ダメだよ、楓ちゃああああああん!」

 涙目で、楓にひしっと抱き付いた。

「ちょ! だ、抱き付かないでよ!」
「いやあぁぁ! 入るって言うまで離れないんだからぁぁ!」
「駄々っ子か! いいから、はーなーれーなーさーいー!」

 まあちのほっぺを掴み、力ずくで引き離す。まあちの頬が、カエルのように横に伸びた。

「へっはいに、ひーやーやー(絶対にいーやーだー)」
「もう! 栞、なんとかしてよ!」

 楓が助けを呼ぶも、栞はじっとまあちたちを見みつめたまま、

「……羨ましいですわ」

 ポツリとこぼした。

「栞?」
「えっ? ……あっ。と、とにかく離れましょう。そのままでは話もできませんわ」

 栞が、まあちの肩をつかみ引き剥がす。

「うぅぅ……」
「そんな恨めしそうな目で見ない」
「ちなみに、なんの部活に入られているんですか?」
「あたし? パソコン部だけど」
「パソコン部かぁ。楓ちゃんらしいといえばそうだけどさー……」

 だからって諦められるわけがない。栞と楓。まあちのイメージする部活には、この二人の存在は絶対に欠けちゃいけないものだった。

「そうだ! 兼部は兼部! それならいいでしょ!?」
「ダメよ」
「それも!?」
「部長さんの許可が降りないんですか?」
「そんなもんいらないわよ。だって、その部長があたしだし」

 楓が、自分を指さす。

「へ? 一年なのに、部長なの?」
「そりゃそうよ。だって、部員あたし一人だもの」
「ひ、一人なんですか?」
「そっ。もともと人数は少なかったけど、去年まとめて先輩方が卒業しちゃってね。残った部員も次々辞めて、あたし一人になったってわけ」
「じゃあなんで兼部できないの?」
「え? だって、掛け持ちとかメンドイじゃない。たださえ『サンむす』なんて厄介なことやってるのに、これ以上ムダなカロリー消費したくないのよね」
「ムダっ!?」
「ということで、あたしはこれから学生らしく部活動に勤しむから。また明日~」

 手をひらひらとさせ、軽やかに去っていこうとする。その制服のすそを、ガシッと掴んだ。

「何よ、この手」
「……私に、パソコン部の活動見せて」
「はっ?」
「私の部活に入れないくらい忙しいんでしょ? それを実際に見せてよ!」
「なんで、んなことしなきゃなんないのよ!」
「だって、ムダって言った ムダって! ホントにムダかどうかショウメーしてショウメー!」
「意味わかんないわよ!」
「いいじゃん、部室ぐらい見せてくれたって! 見せて見せて見せてーっ!」
「イヤなものはイヤなのっ! 離しなさいっての……くんのっ!」

 力ずくで制服を引っ張り、まあちの手を離す。

「それじゃーねー!」

 そのまま走り出した。小さくなっていく背中を見つつ、まあちは栞へ振り向いた。

「……栞ちゃん」
「わかっていますわ」

 みなまで言うなと、栞が頷いた。

 

「あれ? ここが、パソコン部の部室?」
「少し……いえ、かなり意外でしたね……」

 まあちと栞は、目の前の建物を見上げた。場所は校内の東側、その一番隅っこにある林の前。教育棟すらないうら寂れた場所に、ポツンと二階建ての一軒家が建っていた。

「どこからどう見ても、普通の一軒家にしか見えないんだけど……」
「ええ。てっきり部室棟にあるとばかり……」
「ねぇ? これってどういうこと、楓ちゃん」

 振り返り、楓へ話しかけた。楓は地面に倒れ、ぜーはーぜーはーと激しく息をついていた。

「はあはぁ……あ、あんははち……はぁはぁ……よ、よふも……はぁはぁ……」
「何言ってるかわかんないよ、楓ちゃん」
「ほの……ほのっ……」
「ほの?」
「この……体力バカ!」

 ひと言叫ぶなり、再びぜーはー地獄へ堕ちていく。
 追いかけてくるまあちを振り切ろうとし、走り回ったあげくの有様だった。

「もうっ。私たちの方が足速いんだから、逃げてもムダなのにぃ」
「おまけに振り切ろうとして、余計に遠回りしていたみたいですしね」

 もはや文句をいう体力すらないのか、楓は無言で地面に『じごくにおちなさい』と書いて突っ伏した。


著者:金田一秋良
イラスト:射尾卓弥


次回4月12日(水)更新予定


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