サン娘 ~Girl's Battle Bootlog【第16回】

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第二章⑦

 まあちたちは、『桜花祭』に向けての準備を進めていった。
 どんな出し物を行うか悩んだが、楓からの「とにかく歌って踊っとけば目立つんじゃない?」とのアドバイスを採用して、歌を歌うことに決めた。次は、なにを歌うかと迷ったが、栞が「私、歌いたい曲があるんです! 盛り上がること間違いなしですわ!」と、オススメの曲を出してきた。実際に聞いてみると、激しくも熱い曲調で、たしかに盛り上がりそうな曲だった。ただ、楓は苦虫をかみつぶしたような顔で「アニソン……しかも、やっぱりロボットもの……」とぼやき、すかさず栞が「ある意味新鮮ですわ!」と擁護していた。
 歌の振りつけは、まあちが考えた。さっそく栞に見せてみると、

「す、素晴らしいですわ。作品の精神を見事に体現していて……さすがまあちさん!」

 と、いたく感動した様子だった。ちなみに、楓の評価は「踊りっていうか、浜辺に打ち上げられたムラサキダコがもがいてる感じ」のひと言だった。
 いざ歌と振り付けの練習を開始したものの、その間もフラクチャーを見つけては、『サンむす』として戦いは行っていた。だが、練習時間が惜しいので、

「ガガガ~♪ ガオ、ふふふーん~~♪」

 歌を口ずさみながら、レーザードライフルの引き金を引く。放たれた光弾が、フラクチャーに直撃、本校舎西にある実習棟の一つに激突した。喜びに一層節をつけて歌う。

「~~~♪」
「気が抜けるから、その歌やめなさいってば!」

 楓が非難の声をあげながら、フラクチャーにトドメを刺そうと斬りかかる。だが、突然フラクチャーが跳ね起き、そのまま楓に体当たりした。

「あ、あんたのせいだかんねーーっ!」

 吹き飛び、反対側の実習棟の壁に激突。頭からめり込む。

「~~~♪」
「この歌……ガッツが溢れてきますわ。……そこのフラクチャーさん! 楓さんの仇は、私が取りますわ! たああああああ!」

 気合と共にケルベロスを放つ栞。どこからか「いや! あたし、死んでないし!」と訴える声が聞こえてきたが、ランチャーの咆哮がかき消した。
 見事、フラクチャーのど真ん中に命中。大爆発し、消滅する。

「やりましたわ、まあちさん!」
「~~~♪」

 まあちは変わらず歌いながら、振り付けのダンスを勝利の舞のように踊った。
 トボトボと戻ってきた楓がげんなりした顔で、

「結局、最後まで歌ってたわね……」
「当然ですわ。なんたってまあちさんは『不可能を可能にする人』ですから」
「何それ」
「名ゼリフですわ」
「…………」

 だがふと、栞は真面目な顔になると、

「その……楓さん。あのアイコンの通知の件ですが……」
「ああ……新しい『サンむす』のことね。どこの誰だか見当もつかないわ。そいつを探すのも大事だけど……いまは、目の前の行事に集中した方がいいんじゃない?」
「そう……ですわね」

 栞が、仕方がないといった様子で頷いた。
 実際、練習時間は全然足りていなかった。まあちが『桜花祭』を知ってから、開催まで一週間を切っていた。なんとか歌詞とダンスは覚えたものの、完ぺきとは言い難かった。nフィールドでの練習も、ちらっと考えてみたが、楓にあえなく却下された。

「そりゃここなら、どんだけ時間が経とうとも現実には一瞬よ? でも、ただでさえ正体不明のソフトなんだから、どんな影響が及ぶかわかったもんじゃないわ。必要なとき以外は起動させちゃダメよ」
「残念……。でもそれで大丈夫、楓ちゃん?」
「なんであたしなのよ」
「だって、歌も振り付けもゼンゼン覚えてないでしょ?」
「やらないから! それにあたしはパソコン部の活動があるし!」
「何か行うんですか?」
「……新しいビデオカード買ったのよね。それを組みこもうと思って」
「ようは何もしないってことじゃん!」
「うっさいわね。桜花祭なんて、あたしにとっちゃ休日も一緒なの!」
「……一緒に参加してくれないと、もうお部屋の掃除はしてあげませんよ?」
「うっ!」

 ボソリとささやいた栞の言葉に、楓の顔が強張る。まあちと栞は、楓の自宅を訪ねるたびに部屋の掃除を行っていた。いくら掃除しても、日が変わると同じように物が散乱している不思議ハウス。だが、既にどこに何を置くかを完璧に把握した栞が、その都度手際よく収納していった。さらにキッチンの洗い物まで手馴れた様子で片付け、洗濯までする家事っぷりだった。お嬢様育ちの栞だが、家事全般は母親から躾けられたらしい。

「部屋を使わせてあげるんだから、トーゼンよ」

 と、楓は口で言いつつも、綺麗に整頓された部屋に満更でもない様子だった。時折、洗い物一つないキッチンのシンクを眺めては、「もう昔には戻れないかもしれないわね……」などと感慨深げにつぶやいてすらいた。

「これからはコーヒーを飲んだらご自分でマグカップを洗って、床に脱ぎ散らかした衣服や下着もご自分で洗濯するということですね!?」

 ……待って。いま下着って言ったけど、そこまでやってたの栞ちゃん。

「くぅぅ! なんてヒドイ脅迫! ……ああ。でも、ムリよ、ムリムリ! 今さら自分じゃ何もする気が起きない! あたしにはハウスキーパーがいないとダメなのよおおおおっ!」

 なんだろう。栞ちゃんの名前に、別な意味が混じってた気がする。
 楓は、頭を抱えて思い悩んだあげく、がっくりと肩を落として、

「…………歌うだけなら」
「ふふっ。それで構いませんわ」
「じゃあ、楓ちゃんがセンターね」
「なんでよ!?」
「私たちが両脇で踊るから。それならバランス取れるでしょ?」
「い、いやでも、ああああたし歌はそんなに……!」
「……お夜食の準備」

 またもや、栞がボソリとささやく。途端に楓が顔をしかめ、

「く……くぅぅぅぅぅっ! わ、わかったわよ! やるわよ! やってやるわよ! あのタマゴサンドのために!」

 ヤケクソ気味に叫んだ。……というか、どこまで楓ちゃんの世話してるの、栞ちゃん!

「ふふっ。これで決まりですわね」
「……あんたも、だいぶイイ性格になったわね」
「お二人のおかげですわ♪」

 澄ました笑みの栞と、疲れたような表情の楓。
 ともかく、これで桜花祭へのメンバーは整った。成功すれば、きっと部員が増えるはず。先輩でも後輩でも構わない。一緒に学園生活を豊かにしていければ良かった。この二人みたいに。

「それと楓さん。炭酸飲料ばかり飲んではいけませわ。冷蔵庫の中のもの、全て麦茶に変えておきましたから」
「あたしのラ○フガーーーーーーーードッ!」

 ……うん。楽しそう楽しそう。

 

 桜花祭当日の朝、まあちは少しだけ早くベッドから起きた。
 うーんと伸びをしながら、窓の外を見る。雲一つない快晴だった。絶好のイベント日和だ。
 本番で歌う曲を口ずさみながら、鏡に向かってポニーテールを結う。

「……よしっ」

 頬を両手でパチンと叩き、気合注入。靴を履いて、玄関を飛び出した。
 いつもより早い時間に出たにもかかわらず、朝の通学路は生徒たちで賑わっていた。たぶん今日行うパフォーマンスの打ち合わせのため、早めに出てきたのだろう。生徒たちの顔は、これから行われる祭りへの期待と興奮で、どれも明るかった。
 まあちは通学路から少し道を外れ、お決まりの並木道へと入っていった。
 すっかり桜が散りきって、新緑の葉が周囲を彩っていた。見上げながら歩いていると、目当ての人物と会った。

「おはよう。レイちゃん」
「…………」

 レイは、じっと木々を眺めていた。まるで百年前からそこにいたような自然さで。
 ゆっくりとまあちへ振り向く。いつものぼうっとした眼差し。

「桜、完全に散っちゃったね」

 レイは黙ったままだった。いつもだったら話しかけたら、ひと言ふた言返してくれるのに。
 今日はちょっとご機嫌ナナメ? などと思ってみるも、表情から感情はうかがえない。
 レイは、まあちへ近づいた。その手を取り――ぺろっと指を舐めた。

「れ、レイちゃんっ!?」

 すぐに手を引っ込める。思ったよりも、ひんやりとした舌だった。

「……複雑な味」
「えっと……」
「期待と緊張……それとほんの少しの恐れ?」
「……っ」

 胸を突かれた思いだった。思わずレイの顔をまじまじと見てしまう。相変わらず無表情で、何を考えているのかわからない。ただ、たしかにレイはまあちの胸の内を言い当てた。

「その……今日ね。学校でお祭りがあるんだ。そこで私、歌を歌うの」
「…………」
「たくさんの生徒たちが見に来るんだ。ううん。見てほしいと思ってる。でも、きっとその中に、あの子もいるのかなって」
「…………」
「昔の、友達なの」

 どの部活が、どこでパフォーマンスをするかのスケジュールは、桜花祭のパンフレットに全て載っている。まあちたちは『部』ではなく『愛好会』として申請していたため、紹介欄は後ろの方に小っちゃく載っているだけだ。でも確かに『代表者・七星まあち』と記入されていた。

「……ゴメンね。変な話しちゃって。もし良かったら、レイちゃんも来てよ」

 鞄からパンフレットを取り出し、レイに渡す。これを渡すために、今日はいつもより早く出たのだ。レイが受け取ったパンフレットをじっと眺める。

「それじゃあね」
「……ほしいの?」
「え?」

 掛けられた声に、思わず振り返った。

「その友達に……見てほしいの?」

 レイが尋ねてきた。自分から何かを聞いてくることは珍しい。
 それこそ最初の『夢の質問』以来だった。

「……わかんない」

 笑って答えた。他に、どんな顔をすればいいのかわからなかった。

 

 桜花祭の開会式は、大講堂で行われた。一万人の生徒を収容できるだけの巨大な講堂。席は全て生徒で埋まっている。まあちは、武道館に行ったことはないが、テレビで見た武道館内部の映像とそっくりだった。

「ふわぁ……これ全部、ここの生徒なんだぁ……」
「アホみたいに口開けない。別に見るのは、今日が初めてじゃないでしょ?」
「ええ。始業式も同じように、ここで行いましたが……」

 まあちの両隣に座った楓と栞が話しかけてくる。本来なら名簿順に座るものだが、今日は各々の所属する部活ごとに座る決まりになっていた。

「そうなんだけどさ……何度見ても、圧倒されるなぁって……」
「また口が開いてるってば。はぁ……こんなのがウチの愛好会の代表だなんてねぇ……」

 額に手を当て、げんなりした顔でつぶやく。

「……いま『ウチの愛好会』って言ったよね?」
「はい。言いましたね」

 楓は、はっとし、

「ち、違うから! あんたたちのね、『あんたたちの』!」

 ことさら強調する楓が可笑しくて、思わず笑ってしまった。隣で栞もクスクスと笑っている。
 二人の様子に、わなわなと無言で震える楓が面白くて、また笑ってしまった。
 しばらくして、講堂の壇上に数人の生徒たちが上った。高等部の生徒会の人たちだった。
 どの生徒も、凛々しくて頼もしい雰囲気を纏っていた。その中で、ひときわ華やかな女生徒の一人が、壇上のマイクの前に立った。綺麗な長髪を三つ編みに結っている。
 澄んだ声で、女生徒が開会式の挨拶を述べ始めた。

「本日は、生徒会長が体調不良で欠席されたため、副会長のわたくし、旺城瀬里華おうじょうせりかが代わりの挨拶を述べさせていただきます。……ですが、ここで長々と挨拶を述べたところで、すでに桜花祭へと気持ちが向かれている皆様の耳には届かないと思いますわ。ですので、手短に済ませてしまいますね?」

 冗談めかした瀬里華の挨拶に、会場のあちこちから小さな笑いが起こる。

「本日は、あまり触れることのない、他の方々の活動を知るまたとない機会です。どうか存分に見て、聞いて、触れて、その努力と成果を体感してみてください。そして、どうか桜花祭を心ゆくまで楽しんでくださいね」

 花のような微笑で挨拶を締めた。会場中から拍手が鳴り響く。その音に紛れるように、

「……よく言うわよ」

 小さく声が聞こえた。隣の楓を見る。楓はじっと檀上を眺めていた。視線に気づいたのか、

「あによ」
「いま、何か言わなかった?」
「別に」

 あれ、私の聞き間違いかな?
 檀上から生徒会の人々が降りていく。開会式は終わりだった。
 これから待ちに待った、桜花祭が始まるのだ


著者:金田一秋良
イラスト:射尾卓弥


次回5月3日(水)更新予定


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