サン娘 ~Girl's Battle Bootlog【第17回】

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第二章⑧

 始まった桜花祭は、まさに『祭り』の言葉に相応しいものだった。校内のいたるところで、それぞれの部活動のユニフォームを着た生徒たちがパフォーマンスを行っていた。本校舎前には、わざわざ『案内所』と書かれた仮設テントが設けられ、どの部活がどこでパフォーマンスをしているかなどを案内していた。なまじ敷地が広いため計画的に移動しないと、目的のものは見られないといった状態だった。
 パンフレットを握りしめ、各々の目的の会場へと移動する生徒たちを見ながら、

「ねぇ。楓ちゃん。私たちはどこでやるの?」
「どこでって……なんで代表のあんたが知らないのよ」
「だって、手続きしたの楓ちゃんじゃん」

 桜花祭へ提出する申請書には、自分の考えた活動内容を、そのまま書いた。『みんなが楽しく学園生活を送れるよう応援しよう』。栞は褒めてくれたが、楓が一読して、

「いやこれ、愛好会扱いとしても、絶対に認可おりないわよ。舐めてんの? って受付の役員に突き返されるから、絶対」
「えー。でも、これがありのままの内容だよ?」
「素直すぎるのよ! もっとそれらしい言葉を使って、体裁を繕ってね……ってあんたに、そんな芸当無理よね……。はぁ。もういい、あたしがやっとくから……」

 盛大なため息をつきながら、申請の手続きを行ってくれた。その後も当日のスケジュールなど、細かい連絡事項は一括して楓が管理していた。

「目に浮かぶわね。あんたらの部に入ったら、絶対にありとあらゆる雑用を押し付けられるんだから……」
「ふふっ。頼りにしてますわ、楓さん」
「……まぁどうせ入んないんだし、どうでもいいんですけどー」

 ブツクサ言いながら、まあちたちを会場へ案内する。本校舎から少し外れた広場に、小さな会場が設置されていた。急造のステージが用意され、パイプ椅子がいくつも置かれている。

「愛好会関係は、まとめてここ。もっとも愛好会っていっても数自体は膨大だから、ここ以外にも会場はいくつかあるけどね」
「ここって、その中で何番目に大きいの?」
「一番目よ。後ろから」
「それって一番小っちゃいってこと!?」
「発足から一週間も経ってない愛好会が贅沢言わないの! 場所が確保できただけでも奇跡と思いなさい。ホント大変だったんだから……活動実績をでっち上げたりして……」

 活動実績も何も、歌の練習しかしてないけど。そう思ったが、あえて尋ねないことにした。
 きっと楓が、裏で色々とやってくれたのだろう。

「まぁ初めての舞台だし、これぐらいがちょうどいいかもね。とにかく頑張るっきゃないよ!」
「ええ。そうですわね!」
「盛り上がってるところ悪いけど、あたしたちの出番は二時間先よ」
「二時間!?」

 うげーと悲鳴じみた声が漏れた。

「ふわぁ……あたしは時間まで、そこらの空き教室で寝てるから。昨日遅くって……」

 欠伸を噛み殺しつつ去ろうとするその手を、栞がガシッと掴んだ。微笑みながら、

「楓さん。せっかくですから、開始時間まで私と一緒に歌の練習をしましょうか」
「練習って……い、一応歌詞は覚えたし……」
「ただ言葉をそらんじるだけでは、人の心は振るわせられません。大切なのは、歌詞に込められたテーマを理解すること。ご安心ください。私がみっちりお教えしますから」
「お、教えるって、ちょ、ちょっと……!」

 楓の手をひっぱり、どこかへ連れていく。

「本来なら作品全てを視聴していただきたいのですが……時間が足りません。誠に不本意ではありますが、口頭で説明させていただきますわ。大丈夫。楓さんならきっと作品に込められた製作者たちの熱き魂を己のものとできますよ」
「歌の練習ですらないじゃない! 作品解説とかいいから! ま、まあち、この子止めて!」

 栞に引きずられながら、助けを求めるように手を伸ばしてくる。

「あ、あはは……。私、飲み物でも買ってくるね」
「こんの薄情者ーーーっ!」
「さっ。行きましょ、楓さん」

 ずるずると、そのまま栞に連れていかれた。
 二人を見送り、まあちは屋台などが並ぶ目抜き通りへ向かった。本校舎から広場へと伸びる形で数多くの屋台が軒を連ねており、食品関連の部活がそれぞれ自慢の料理を出していた。『クレープ研究会』や『お好み焼き研究会』などその種類は様々だ。ちなみに、残念ながら『あんパン研究会』はなかった。

「おっかしいなぁ。この世で一番美味しい食べ物なのに……」

『缶ジュース研究会』と書かれた看板のお店で、缶ジュースを三本購入。種類が豊富過ぎて迷ったが、楓は『ブラックコーヒー』、栞は『お茶』、自分の分として『おしるこ』を選んでおいた。

 戻るついでにスイーツ系も買おうかと思ったが、それは成功したあとのご褒美として取っておくことにした。そのためにも絶対に成功させなきゃと思う。
 楓はいま頃、栞から猛特訓? を受けているはずである。最近わかってきたことがあるが、栞はああ見えて実は押しが強い。とくに自分の好きなものが関わった途端、妥協ができなくなってしまうのだ。そういった自分の一面を理解してるからこそ、一時は人との交流を避けていたのだと思う。
 でも、まあちはいまの栞の方がいいと思った。譲れないほど好きなものがある。
 それはきっと素晴らしいことだから。
 ふと、自分はどうだろうと思った。
 私には、そこまでのものがあるのかな?
 例え誰かに何を言われても、好きだと胸を張れるものが――
 そこまで考えたところで、まあちの足が止まった。
 原因は、まあちの視線の先にあった。一人の女生徒が立っていた。
 以前と変わらず、氷のように冷たい眼差しを、まあちへ向けていた。

「しずちゃん……」

 静流は目を細め、

「ずいぶんと馴れ馴れしいのね」
「…………」
「貴方が昔、私に何をしたか覚えてるの?」
「……うん」
「いいえ。忘れてるわ。だって覚えているなら、そんな呼び方出来ないはずだもの。……ねぇ七星さん」

 唇を強く噛みしめる。

「貴方は、私をコケにしたのよ。必死の努力を、真剣な思いを、踏み躙ったの。無邪気な残酷さで。私が勝ちを譲られて、本気で喜ぶと思った?」

 まあちは、黙って静流の言葉を聞き続ける。それが自分への罰であるかのように。

「だんまり。……またそうやって逃げるのね、貴方は」
「じゃあ……じゃあ、どうすればいいの?」

 どうすれば、自分は許されるのか。罪の償い方を請うように、まあちは尋ねた。

「何もしないで」
「っ」
「貴方みたいな中途半端な人間は、何もしてはいけないの。関わったところで、その努力を台無しにするだけよ。だから、一人でじっとしていなさい。それが貴方にできる唯一のことよ」

 静流は、持っていたパンフレットを、まあちに見せつけるように引き裂いた。無残に破かれたパンフレットが、地面に落ちる。

「あの日から……どれだけ走っても虚しいだけよ」

 押し殺した声でつぶやいてから、静流は去っていった。
 まあちは、地面に散らばった紙片を力なく見つめた


著者:金田一秋良
イラスト:射尾卓弥


次回5月10日(水)更新予定


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