サン娘 ~Girl's Battle Bootlog【第19回】

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第二章⑩

 フラクチャーの砲口が完全に露出するのと同時に、巨大なビームが放たれた。全てを無に帰す破滅の光。栞のケルベロスより、二本のビームが迎え撃つ。互いに衝突。わずかにフラクチャーのビームの勢いが止まるが、圧倒的な威力にすぐに押し切られていく。さきほどよりも出力が上っていた。巨大な光が、着実に栞たちへ迫っていく。
 駆け出したい気持ちを必死に堪えながら、まあちは主砲を狙い、引き金を引く。レーザードライフルから光弾が伸び、直撃する。だが、ビームの余波でレーザー弾が弾かれた。

「そんなっ!」

 続けて放つも、その全てが無情にも弾かれる。気持ちばかりが焦り、何度も何度も引き金を引く。だが、一向に効果がない。もう何がなんだかわからなかった。その間に、巨大な灼熱の光が栞たちのすぐ目前に迫っていた。
 どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう!
 パニックに陥り、頭が真っ白になる。

「……落ちついて。大丈夫……だから……」

 不意に、声が聞こえた。どこか抑揚を欠いた、ぼうっとした声音。
 そして、背後からまあちを抱きしめる誰かの手。とてもひんやりとしていた。その感触に、焦る心が急速に収まっていく。
 その手がまあちの腕を取り、フラクチャーの一点へ向けた。

「あそこを……狙うの……」

 示された場所。主砲の上部。わずかに、ビーム光が薄い場所があった。

「あなたなら……できる」

 まあちは、促されるように示された一点に集中した。周囲から音が消え始める。目の前の景色が、モノクロへ変わる。最高のスタートを切る瞬間の、集中力だけが全てを満たした世界。
 その世界の中で、ゆっくりと引き絞るように引き金を引いた。
 一発、二発、三発……次々と放っていく。その全てが、一点に集約していった。
 ああ……イケるな……。
 直進する光の矢が、その巨大な口へと全て突き刺さる。
 フラクチャーが一瞬静止した。
 続いて、巨大な爆発が砲口から拭き上がった。まるで断末魔の如く口から爆炎を吐き出し、黄色い光の渦にその巨体を沈めていった。
 爆風が、ここにまで押し寄せ、その勢いに思わず目をつぶってしまう。
 響き渡る、ズゥゥンと鈍い音。
 再び目を開いたとき、戦艦フラクチャーの巨体はそこになく、代わりに黒い残骸が、山となって横たわっていた。

「た、倒せた……?」

 沈黙した黒い瓦礫の山が、その崩壊を如実に物語っていた。
 間違いなく。確実に。戦艦型のフラクチャーはその活動を停止していた。
 安堵と共に、ふーと口から盛大に息がこぼれる。そのままへたり込んでしまいそうだった。

「……って、そうだ! 栞ちゃんたちは!」

 思い出し、すぐさま教室から飛び降りると、栞たちがいた場所へ駆け寄っていた。
 周囲に飛び散った黒い破片の中、二人は重なるようにして倒れていた。

「だ、大丈夫っ!?」

 まあちの声に、栞と楓がよろよろと起き上る。

「え、ええ……なんとか……」
「もう二度とゴメンよ、こんな真似……」

 栞のアンダースーツがボロボロになっていた。だが、楓の方は先ほどとあまり見た目は変わっていない。きっと栞が庇ったんだろう。

「よくやってくれましたわね。まあちさん……」
「正直、最後の方はもうダメかと思ったけど……まっ。あんたにしては頑張ったわね」
「そんな。私だけの力じゃ……」

 そう。自分一人だけではダメだった。あのとき、あの声がなければ。
 そうだ……あれは、いったいなんだったんだろう?
 校舎の四階を見上げる。教室には、誰の姿もなかった。だが、確かにまあちを助けてくれた誰かが、そこにいたのだ。

「どうしたの? あそこに何かあんの?」
「……ううん。なんでもない」

 首を振り、視線を横に向ける。そこに、黒い残骸の山があった。

「いつもみたいに、すぐには消えないんですね」
「デカい分、処理に時間かかってるのかしら?」

 三人の見ている前で、突然、山の一部がボコリと盛り上がった。それはグネグネとうごめき、やがて一つの形を成した。女性のような滑らかな四肢。黒いヘルメットを目深にかぶった頭部。間違いなく、以前見た女性型のフラクチャーだった。

「っ! な、なんだって、あいつがあんなところに!」
「あ、あのフラクチャーの中から現れたように見えましたが……」
「ど、どういうこと!?」

 混乱するまあちたちをよそに、女性型フラクチャーはふわりと浮かび上がると、どこかへと飛んでいった。

「ま、待ちなさい!」
「楓さん、その身体でムリをしてはいけませんわ!」

 追いかけようとする楓を栞が止める。
 女性型フラクチャーは、校舎の屋上まで飛び上ると、そこでピタリと静止した。まるで誰かを待つように。
 やがて屋上の柵に、一つの人影が現れた。
 その姿を目撃した途端、まあちの目が驚愕に見開かれた。

「な、なんで……」

 どうして……どうしてそんなところにいるの……?

「しずちゃん!」

 屋上の人影に向かって叫んだ。
 そこに、静流が立っていた。
 女性型フラクチャーを脇に従え、まあちたちを見下ろしていた。

「…………」

 静流は、おもむろに屋上の柵から飛び降りた。四階建ての高さから落下する静流。
 危ない! と思ったが、静流は何事もなかったかのように地面に着地した。
 平然と立ち上がる静流を見ながら、楓が言った。

「もしかしたらと思ってたけど……やっぱりあんたがSUN-DRIVEの所持者だったのね」

 しずちゃんが?
 静流を見る。さきほど会ったときは制服姿だった。だが、いまは違う。薄いピンク色したスーツを着ていた。両肩の上には――見慣れたエッグ。

「知ってるかしら?」

 静流は楓の言葉には応えず、同じく屋上から降りてきた女性型フラクチャーへ触れた。

「この子を使えば、ああいったこともできるのよ?」

 戦艦型フラクチャーの残骸を一瞥する。

「もしかして……これは、あなたがやったことだったんですか?」
「フラクチャーっていうんでしょ? この子を使えば、ある程度操れるのよ。何体ものフラクチャーを集めて、この子と融合させてみたの。その実力は……あなたたちが味わった通りよ」

 薄く口元を歪める。

「じゃあやっぱり……。どうして、どうしてそんなことをしたんですか!?」
「そうね。桜花祭を台無しにしたかったからかしら?」
「ふざけてんの、あんた……」
「受け取り方は自由よ」

 澄ました顔で応えた。

「そう……どっちにしろ、こんなふざけた真似をした借りは、キッチリ払ってもらうから」

 楓が静流を睨み、身構える。その前に、まあちが立った。

「ち、違うよ! きっとあのフラクチャーのせいだよ! 栞ちゃんのときと一緒で、自分の意思じゃなくて……!」

 だが、その想いを、無情な声が否定した。

「私は、私よ。全て自分の意思でやったことなの」
「そんな……」
「さあどうするの? 私は貴方と違って途中でやめるなんて半端な真似はしないから。自分で決めたことはやりきる性質なの。そうね……もう一度、アレを作ってみようかしら」

 女性型フラクチャーの頬を撫でる。

「そんなこと、あたしたちがさせると思ってんの!?」
「ええ! 絶対に止めてみせますわ!」
「威勢がいいのは結構だけど……その有様でできるかしら?」

 ボロボロになった楓と栞を指さす。楓も栞も、もはや戦える状態じゃなかった。

「まともなのは、一人だけみたいね」
「っ!」

 静流の冷たい視線が、まあちへ注がれる。
 そうだ。動けるのは、自分しかいない。
 でも、でも、しずちゃんと戦うなんて……。
 思わず後ずさる。静流は失望したように肩を竦め、

「やっぱり逃げるのね。……いいわ。ならこっちから向かっていってあげる」
「い、イヤだよ、しずちゃん……」
「今日こそ、貴方に勝つわ。偽りの勝利ではなく……本物の勝利を掴むの!」

 静流が構えた瞬間、その足元が変化した。靴底からホイールが飛び出す。ホイールが急速に回転を始め、猛烈な勢いで静流が迫ってきた。

「っ!」
「あ、足元が変化しましたわっ!」
「何、その装備!? えこひいきよ!」

 静流が無言で、片手の指を銃の形にし、前方へ伸ばす。同時にエッグからDアームが現れ、握られた大型のマシンガン――『ヘビィマシンガン改』から、高速の弾丸が無数に放たれた。

「……っ!」

 ズダダッと激しい銃撃音。
 咄嗟に、Dアームで銃弾を受ける。装甲を襲う、弾丸の嵐。眼前に現れたウィンドウ。静流の画像と共に『スコープドッグ_ATM-09-ST』と表示されていた。

「逃げなさい、まあち! あいつはフラクチャーを操れるほどの力よ!」
「一人じゃ不利です!」

 だが、足が地面に根付いたように動かない。戦うことも、逃げることも、まあちにはできなかった。ただただ弾丸を受け続ける。ウィンドウに表示されたエネルギーシールドのパーセンテージが、急速に減少していく。

「どうやっても戦わない気なのね」

 苛立ったような声音。

「なら、これならどう?」

 静流が、銃口を楓たちへと向けた。

「お友達のピンチよ。優しい貴方のことだもの。見捨てたりなんてできないわよね?」
「まあち! こんな奴相手にしちゃダメよ!」
「こちらのことは気にしないでください!」

 楓たちが動こうとした瞬間、静流のマシンガンから銃弾が飛び出す。楓たちの足元が爆ぜた。

「……次は当てるわ」

 静流の目は本気だった。冷酷なまでに。
 ここで自分が守らなければ、二人は倒される。そしたら、最悪、もう二人には会えなくなるかもしれない。それだけは、それだけは絶対に認められないことだった。
 そうなりたくないのなら――やるしかない。

「う……う……うわあああああああああ!」

 まあちは叫びながら、エッグからレーザードライフルを取り出した。静流に向かって構える。
 かつての親友に向けて。
 だが、静流の姿は、すでにその場所にはなかった。

「っ!?」
「……遅すぎるわ」

 いつのまにか、すぐそばまで接近してきた静流のDアームが、まあちの手からレーザードライフルを弾き飛ばした。ライフルが地面を転がる。

「これで終わりね」

 静流のDアームの拳が握られる。必殺の一撃が来る。だが、まあちの身体は意識するよりも早く動いていた。静流のDアームを素早く掴み、空いたもう片方の拳に手甲を装着。手甲の上で電流が爆ぜる。

「っ!」
「ああああああああああっ!」

 静流の驚愕した顔。その顔に向かって、ナックルショットを叩き込もうとして――
 その鼻先で、ピタリと拳が止まった。
 そこで、本当に動けなくなった。

「どうしたの。やりなさいよ」
「…………」
「そう……やっぱり私には本気を出してくれないのね」
「…………」
「さようなら、七星さん」

 目のくらむような衝撃。静流のDアームの拳が、まあちの胴体に突き刺さった。ただの打撃ではなかった。『アームパンチ』。火薬の爆発力を利用し、勢いよく拳を打ち出し、叩きつける武器だった。身体が、勢いよく吹き飛ぶ。天地が、目まぐるしく入れ替わる。
 その光景を最後に――まあちの意識は途絶えた


著者:金田一秋良
イラスト:射尾卓弥


次回5月24日(水)更新予定


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