サン娘 ~Girl's Battle Bootlog【第24回】

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第二章⑮

 昼休み。まあちは、栞に教えてもらった教室へ入った。
 一つの机の前に立つ。

「放課後、私に付き合ってくれないかな、しずちゃん」

 静流は、やや驚いたような顔をしたが、すぐに表情を戻すと、

「……練習は、八時に終わるわ。その後でなら」
「うん。わかった」

 

 夜の七時半。誰もいない教室で制服を着替えると、まあちは競技場に向かった。
 隣には栞の姿。競技場に辿り着く。すでに練習を終えた生徒たちの姿はなかった。
 トラックに立つのは、まあちと栞と、静流だけだった。

「その恰好、どういうつもり?」

 静流がまあちの服装を見て言った。
 まあちは陸上のユニフォームを身に着けていた。中学時代のものだった。

「私の本気を見せてあげようと思って」
「へぇ。私と走ろうとでも思ったの?」
「ううん。ずっとさぼってた私じゃ、今のしずちゃんにはかないっこないと思う」
「なら、何をしにきたのよ」
「一緒に走ることはできないけど……別な形で私の『本気』、見せてあげるから」

 静流に向かって、ピーコンを構える。
 その姿を、静流はじっと見つめた。その本心を探るように。
 やがて、まあちの意志が本物だとわかったとき――
 静流は笑った。

「いいわ。その勝負、受けてあげる」

 手をかざす。静流の足元から、黒い影が浮かび上がってきた。女性型フラクチャーだった。
 その胸の中心に、腕を突き入れる。途端に、フラクチャーが甲高い電子音を一声響かせ、静流へと吸収されるように消えていった。同時に、静流から黒いモヤが立ち上がる。
 一気に、威圧感が増した。踏ん張ってなんとか耐える。

「今回は逃げないみたいね」
「そうだよ。私は、ずっと逃げ続けてきた。しずちゃんから。自分のしたことから。でも……もう終わりにしないと!」

 瞳に戦いの意思を灯し、静流を見据えた。

「そう……。なら、私も容赦はしないわ。今度こそ……貴方に勝ってみせる!」

 まあちと同じようにピーコンを構え、対峙した。周囲の空気がピリリと張りつめる。

「まあちさん……」
「お願い、栞ちゃん。一人でやらせてほしいんだ」

 栞は表情を引き締め、頷いた。

「承知しました。まあちさんの戦い、見届けさせていただきますわ」
「ありがとう。栞ちゃん」
「どうやら話はついたようね。……それじゃあ行くわよ!」

 静流から、黒いモヤが一気に立ち昇った。まるで火柱の如く、天へと噴き上がる。
 それを合図にしたように、三人のピーコンの画面が一斉に発光した。
 その輝く『S』のマークを、まあちは――静流は――栞は――押した。

「――SUN―DRIVE起動。機装化アクティベイト――」

 ボイスと同時に、目の前の景色が変化する。
 そこは競技場ではなかった。乾いた砂漠の荒野だった。
 焼けつくような熱い陽射し。薄汚れた石造りの建物が、周囲にいくつも建ち並んでいる。どこかの街らしいが、日本にはとても見えない。思わず空を見上げたまあちの前に、『ソレ』は堂々と鎮座していた。

「何、あれ……」

 天を覆うが如く、巨大な岩石がそびえ立っていた。街全体の面積と同じサイズの、途方もない大きさの巨岩。それが、街の中心部に刺さる形で存在していた。よく見ると、根本の部分には鋼鉄板で覆われた塔のような建物が覗いており、その周囲を岩石が覆うことで、あのような奇怪な建築物が作られたのだとわかった。
 ウィンドウが出現する。画面には『ゴモルの塔』と表示されていた。

「ゴモルの塔……?」
「では、ここはまさか……惑星クエントですか!?」

 隣の栞が顔を上気させ、興奮した様子で街を見回し始めた。

「す、すごい……アニメで見た通りですわ。……はっ! しゃ、写真を撮らなくては! 初クエント星来訪の記念に巨大ポスターを製作し、部屋の壁に貼って一生の宝物に……!」
「お、落ち着いて、栞ちゃん。これは単なる映像だって、前に楓ちゃんが言ってたよ」
「あっ! そ、そうでした。つい興奮してしまって……」

 まあちに肩を揺すられ、なんとか正気に戻る。一度深呼吸をし、再び表情を正すと、

「ここは『装甲騎兵ボトムズ』に出てくる舞台ですわ。どうやら私のときと同じくnフィールドを変化させたようですね」
「なら、このどこかに静流ちゃんが……」

 静流の姿は、そこになかった。どうやらフィールドを改変させた際に、まあちたちのそばから離れたらしい。すでに戦いは始まっている。

「気をつけてください。フラクチャーと融合したことで、静流さんのSUN-DRIVEの性能も向上しているはずですわ」
「うん」

 周囲を警戒しつつ、レーザードライフルを手にしたDアームを出現させ、構える。

『……安心なさい。機体の出力は、そのままよ』

 どこからか静流の声が聞こえてきた。

『これは私の勝負だもの。誰かの力を借りようなんて思わないわ。それに、簡単に勝負がついては面白くないでしょ?』

 声の発生源を探す。ゴモルの塔の根元部分の外壁、その一部に無理矢理こじ開けられたようなイビツな穴が開いていた。声は、そこから聞こえてくる。
 まあちは栞と共に頷き合い、塔の侵入部へ向かった。ちょうど穴へと接続する形で道路が伸びており、そこを辿ってゴモルの塔へと足を踏み入れた。
 塔の内部は、思ったよりも明るかった。両脇の壁は、見たこともない機械群で埋め尽くされており、まるで『機械の遺跡』といった感じだった。
 通路を歩いていくと、やがて広い空間へと出た。体育館の二、三倍ほどもある、正方形の部屋。その中心に静流が立っていた。

「しずちゃん……」
「ずっとこのときを待っていたわ。貴方と本気で戦える、このときを」

 静流が好戦的な笑みを浮べると同時に、部屋中から鈍い音が鳴り響いた。
 途端に床から、無数の鉄の構造物が、次々とせり上がってきた。それらは建物や壁となって、室内に一つの小さな街を造り上げた。
 その光景に栞が目を丸くし、

「これは『バトリング会場』!? どうしてゴモルの塔内に、こんなものが……!」
「ばとりんぐ会場?」
ATアーマードトルーパー――いわゆる戦闘ロボット同士が戦う、闘技場のような場所ですわ。本来なら、この塔内には存在しないものなのですが……」
「少し中身をいじって、相応しい舞台を用意してみたの。気に入ってもらえたかしら?」

 静流の両肩のエッグから、Dアームが飛び出す。手には、以前見たヘビィマシンガン改。

「さぁ……始めるわよ!」

 静流の言葉に、身構える。即座に、静流が発砲した。飛来する弾丸。まあちは横っ飛びでかわすと、建物の陰に身を隠した。背にした建物の壁面を、銃弾が容赦なく削っていく。
 レーザードライフルを取り出す。
 わかってる。ここまで来たら、戦うしかない。そうすることでしか、しずちゃんの想いは受け止められない。

「まあちさん! 頑張ってください!」

 栞が、部屋の壁面から飛び出した、三階ほどの高さのデッキ上から声を掛けてきた。まるで闘技場を見下ろす観客席のようだった。他にもいくつかそういった場所が設置されている。栞は、あくまでもまあちの言葉に従い、二人の戦いを見守る構えだった。
 まあちは栞に頷き返し、建物から頭を出して静流をうかがう。静流の姿はなく、かわりにホイール音が、周囲から聞こえてきた。
 移動している。だが、鉄板に音が反響するため、詳しい位置まではわからない。
 まあちは、慎重に建物の陰から陰へと進んでいった。その間も、絶えず響き続けるホイール音。いつ目の前に静流が飛び出てくるかわからず、緊張に喉がゴクリと鳴る。

「懐かしんじゃないかしら、この緊張感。私が転校したあとも、陸上部には戻らなかったんでしょ? 所詮、あなたの想いはその程度なのよ。途中で諦められる程度の、ただのお遊び。そのあなたが誰かを応援するですって? みんなで楽しく? ……ふざけないで! 私はあなたのような生き方を認めない!」

 「違う」と口で言うのは簡単だった。でも、そんなことをしても意味はない。言葉ではなく行為でしか、きっと示めすことはできない。だから、何も言わずにただ耐えた。

「何も言い返さないの? ……そう。私とは話もしたくないのね。いいわ。早い決着がお望みなら、そうしてあげる!」

 ナイフのように鋭く尖った声。ホイールがさらに回転をあげる。
 来る……!
 一瞬、建物と建物の隙間に、チラッとピンクの影が見えた。

「そこ!」

 レーザードライフルを放つ。だが、ホイール音は止まない。続いて銃声。
 攻撃は真横からやって来た。予想外の方向に、一瞬反応が遅れる。とっさにDアームでガードするも、殴られたような激しい衝撃。息が詰まる。すぐさまレーザードライフルを、銃声のした方角へ発砲。
 だが、手ごたえはない。

「遅すぎるわ。それじゃあ、私は仕留められないわよ」

 挑発するような静流の声。ホイール音が、獲物を弄ぶように前後左右から響き続ける。
 止まっていては的になる。走りながら、必死に静流の姿を探した。再び銃撃。今度は真後ろから。まともに食らい、地面に倒れそうになる。だが、なんとか踏ん張り、背後へ向かって迎撃。だが、またもや光弾は虚しく通路の壁に当たった。
 静流は、その機動力を活かし、遮蔽物から遮蔽物へと移動しながら、巧みにヒット&アウェイを繰り返してくる。単純だが、効果的な手だった。栞のケルベロスなら遮蔽物ごと静流を狙えたかもしれないが、レーザードライフルの出力では難しかった。

(こういうとき、楓ちゃんならどうするだろう……)

 きっと楓なら即座に反撃方法を思いついたはずだ。でも、ここにはいない。自分のせいで。
 だからせめて必死に楓になりきり、その思考をなぞってみる。

(楓ちゃんなら、たぶん……)

 思いつくなり、まあちはカーフミサイルを空中に放った。

「無駄よ! その程度のミサイルを一、二発、出したところで意味はないわ!」

 確かに、その通りだ。まあちのミサイルでは、周囲の障害物を吹き飛ばすことなどできない。だがこれは、静流に向けて放ったものじゃなかった。
 カーフミサイルは軌道を変え、まあちへ襲いかかった。

「なっ!」

 ミサイルが爆発する。爆炎が四方の建物を赤く照らした。爆発が収まり、白い白煙がただよう中に――まあちの姿はなかった。

 

 静流は、遮蔽物を移動しながら、まあちを探した。

(どこ……どこにいるの?)

 立ち止まり、周囲の音に耳を傾ける。何も聞こえない。だが、静流に焦りはなかった。機動力はこちらが勝っている。発見したら再び身を隠し、マシンガンの餌食にすればいい。

(そう。追い詰めているのは、こちらよ)

 フィールド内部の構造は把握している。一つずつ隠れられそうな場所を潰していけば、やがて見つけられる。そう思い、移動しようとした瞬間。
 頭上から、静流へと光弾が降り注いだ。

(なっ!?)

 予期せぬ方角からの狙撃。反応できず、まともにレーザー弾を食らう。直撃。身体が硬直する。その機を逃さないように、声が轟いた。

「もう隠れんぼはナシだよ、しずちゃん!」

 真上からの声。続いて目の前に、誰かが着地する音。咄嗟にDアームをクロスさせ、ガード。

「狙いはそっちじゃないよ」

 レーザーの発射音。衝撃はDアームではなく、足元からやってきた。片足に生じる爆発。狙いはホイールだった。

「くっ!」

 爆発の威力に逆らわず、そのままもう片方の足で地を蹴り、相手から距離を取った。

「さすがの身のこなしだよね」

 少し離れた場所から、まあちが感心したように言った。静流は油断なく睨みつけたまま、ホイールの具合を調べた。回転はするものの、軸が安定しない。使いものにはならないだろう。

「……やるじゃない」

 憎々しげにつぶやいた


著者:金田一秋良
イラスト:射尾卓弥


次回6月28日(水)更新予定


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