サン娘 ~Girl's Battle Bootlog【第25回】

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第二章⑯

 まあちは、カーフミサイルが爆発すると同時に、その勢いを利用して思いきりジャンプした。建物を蹴り、上昇すると同時に天井へ張り付く。爆炎が煙幕の役割をも果たし、静流にも気づかれることはなかった。
 天井の突起部分に捕まり、下方を見渡す。静流のホイールの唯一の弱点は、ホイールが地面に接地していないと、最大の機動力を発揮できないこと。だからこそ、移動は平面に限られる。
 まあちは天井に張り付いたまま、注意深くあたりの様子をうかがった。遮蔽物に隠れながら、移動する静流の姿をとらえる。そのまま辛抱強く耐え、静流が真下に来たタイミングで、狙撃したのだった。

「これで、もうさっきみたいな移動はできないね」

 壊れた静流のホイールを指さす。

「ええ。そうね。でも、忘れてないかしら? ……私、走るのは得意なの!」
「っ!」

 静流が、地面を踏み込む。自身を一つの弾丸と化し、一気に間合いを詰めてくる。突き出されるDアームの拳。防ぐヒマもなく、まともに食らう。

「ぐぅっ!」

 普通に殴られるよりも重たい衝撃。以前も食らったアームパンチだった。静流のDアームの上腕部の装甲から、薬莢が飛び出す。
 静流の勢いは止まらない。そのまま連打を叩き込んでくる。打撃ラッシュ打撃ラッシュ打撃ラッシュ。防御に専念し、Dアームで全てを受けきる。

「そのまま亀みたいに丸まってるつもり!? それが貴方の言う『本気』なの!」

 静流は手を止めない。むしろその身の激情を叩きつけるように、さらなる勢いで拳を振るう。
 その顔は、ハッキリとした敵意で歪んでいた。
 静流にこんな顔をさせたのは、自分だ。昔、一緒に笑い合った親友に。
 だからこそ、それを過去のものにさせないために、まあちは、叫んだ。

「行くよ、しずちゃん!」

 手を伸ばせば届くほどの距離。その静流に向かって――
 まあちはカーフミサイルを放った。

「っ!」

 超至近距離からの発射。だが静流は、持ち前の反射神経でミサイルが当たる寸前にDアームで弾き飛ばした。
 両腕が上がり、胴体ががら空きになる。

「これが! 私の『本気』だよ……!」

 まあちのDアームの拳を手甲が覆う。表面でバチバチと放電する電流。
 そのナックルショットを思いっきり――
 静流へ叩き込んだ。

「くぅぅっ!」

 静流が後方へ吹き飛ぶ。そのまま壁に激突。
 苦しさに身じろぎしながらも、素早く立ち上がり、まあちを睨みつけた。

「よくも……よくも……やってくれたわね!」
「そうだよ。本気には本気で応えないと。じゃなきゃ、もう一度あなたと友達になれない!」
「友達……ですって?」
「もう一度しずちゃんと友達になりたい。中学時代みたいに。それが、私の本当の気持ち」

 意表を突かれたように固まる静流。その顔を見据え、まあちは自分の本心を告げた。
 その言葉がハッキリと理解されたとき、静流の瞳に焔の如く怒りが燃え上がった。

「そんなこと……よくも言えるわね!」

 激情に身を震わせながら、まあちへ跳びかかってくる。

「いまさら私と友達になりたいですって! 馬鹿を言わないで! 貴方は私を裏切ったのよ!」

 その戯言ごと粉砕せんと、拳を繰り出す。
 まあちは逃げず、深く腰を落として、ナックルショットを放った。
 ナックルショットと、アームパンチが激突。拳と拳が激しくぶつかり、空中に火花が散る。

「そんなこと言う資格がないってわかってる! でも! それでも! それが私の本心なの!」
「そうやって自分のことばかり! 私の気持ちはどうなるっていうの! 私がどんな想いで、あの決勝戦を迎えたかわかる!? ようやく貴方と肩を並べて競えると思った! いつも追いかけていた貴方に、自分のこれまでの全てを見せられると思った! なのに……なのに、貴方はぁ!」

 拳を密着させたまま、アームパンチの連続稼働。炸薬の燃焼力で、破壊的な打撃が断続的に送り込まれる。耐えきれず、まあちの拳が弾かれた。

「ぐっ……!」
「結局、貴方にとって私なんてどうでもいい存在だったのよ! 勝ちを譲ったところで、気にもしない! ただ自分に懐くだけのペットみたいにでも思っていたんでしょ!」
「違う! 違うよ! そんな風に思ったりなんてしない! だって、誰よりもしずちゃんが頑張ってること、知ってたもん!」

 夕暮れの放課後、一人残って練習する静流を見ていた。
 その努力を、想いを、すぐそばでずっと見続けて来た。

「なら……なら、どうして! あのとき手を抜いたのよ!」
「わかってる……あんなことするべきじゃなかった。絶対にしちゃいけないことだった。でも……だからこそ、それを取り戻したい! やり直したいの!」
「もう遅いのよ! 何もかも!」
「遅くなんかない! だって……だって……今こうしてしずちゃんと私は一緒にいるから!」
「っ!」
「私はもう逃げない! だから教えて、しずちゃんの本当の気持ちを! 本当に、私が嫌いなら。もう二度と会わない。でも、まだ可能性があるなら……」

 Dアームではなく、自らの手を静流へと伸ばした。切れた絆を手繰るように。

「私は、もう一度あなたと友達になりたい」

 まあちは静流を見つめ、言った。
 思わず、静流が後ずさる。伸ばされた、その手を恐れるように。

「逃げてはいけませんわ!」

 栞の言葉だった。デッキ上から身を乗り出し、静流に向かって言った。

「そこで引いたら、きっと後悔します! 本当に嫌いな相手なら、無視すればいいんです。でも、あなたは違った。裏切られて憎むぐらい……それをずっと忘れられないぐらい……あなただって、まあちさんのことを……!」
「それ以上言わないで!」

 静流の悲痛な叫びが、栞の言葉を遮った。

「言葉でならいくらでも言えるわ! でも、そんなものじゃ納得できない!」
「わかってる。私たちには、友達になる前にやらなきゃいけないことがあるもんね」

 静流の正面に立つ。
 その表情に、瞳に、揺るぎのない意思を込め、まあちは言った。

「私は、一人のライバルとしてあなたに勝つ! あのとき自分から手放した勝利を……今度こそ掴んでみせる!」
「やってみなさい!」

 静流が叫ぶと共に、周囲に異変が起こった。室内の壁や建物など、あらゆる場所から黒いモヤが立ち昇り、静流へと集まっていく。同時に、ゴモルの塔全体がきしるような音を立て震え始めた。まるで静流にエネルギーを吸い取られたかのように、内部から崩壊していく。
 壁や天井から瓦礫の雨が降り始める中、黒いゴーグルをつけた静流が静かに佇んでいた。

「完全にフラクチャーと一体化して……まあちさん!」
「いいよ。全て受け止めてあげる。あなたの『本気』!」
「あああああああっ!」

 静流が、獣のような咆哮を上げた。Dアームの肩部分から、ランチャーが出現する。『ショルダーミサイルガンポッド』。大型九連装ミサイルガンポッドから一斉にミサイルが放たれる。
 全てが、まあちを狙っていた。
 まあちは避けず、カーフミサイルを発射。空中を疾走し、ミサイル群の一つと激突。爆発。数千度の炎が広がり、周りのミサイル群が誘爆する。
 その爆炎に向かって、まあちが動いた。一気に静流との距離を詰めようとして――とっさに横に飛ぶ。
 赤い炎の中から、一筋の巨大なビームが飛来した。さきほどまで、まあちがいた場所を貫いていく。
 炎が晴れたとき、静流は巨大な大砲を手にしていた。『ロッグガン』と呼ばれる、対宇宙艦用の高出力エネルギー兵器。
 再び砲塔から、野太いビームが放たれる。必死にその攻撃をかわす。巨大な光の束が、鋼鉄の壁にやすやすと穴を穿つ。だが、使用時の反動が大きすぎるためか、静流もその場から動けないらしい。
 なんとか静流に接近しようと考えたところで、左右から響く異音に気付いた。両サイドから飛来する、ミサイルの雨。まあちがロッグガンに気を取られているうちに、静流が放ったものだった。カーフミサイルで迎撃する余裕はない。レーザードライフルを盾にする。爆発。後ろに弾かれ、そのまま背中を激しく壁に打ち付けた。

「くっ!」

 痛みをこらえ、身を起こそうとする。
 そこへ。

「まあちさん!」

 栞の悲鳴が聞こえた。栞は、まあちの真上を見ていた。追って見上げると、巨大な機械群の固まりが、まあちに向かい落下してくるのがわかった。
 避けられない。
 瞬間的に、そう感じた。
 そんな! こんなところで! まだ、何もやれてないのに!
 絶望がまあちの心を覆ったとき、やたらと気の強そうな声が聞こえてきた。

「いっくわよぉぉ! ザンボットムーンアタァァァァァァック!」

 巨大な月型のエネルギー弾が、瓦礫に直撃。即座に、粉みじんに粉砕した。
 あの月型の光は……。

「……ったく。やっぱりあたしがいないとダメね」

 続けて、やれやれといった調子でつぶやく声が聞こえた。
 間違いない。この声は――

「楓ちゃん!」

 見上げると、壁面のデッキ上に、ツインテールを下げた少女が立っていた。
 楓だった。不満そうにふんと鼻を鳴らし、

「あたしをのけ者にしようたって、そうはいかないんだから」
「でも、どうやって……」
「最初からいたわよ? 誰かさんがお節介な連絡をくれたおかげでね」

 チラリと隣を見る。そこには、ほほ笑む栞の姿があった。

「楓さんなら必ず来てくれると思っていましたわ。それに、ピンチのときに現れるヒーロー……やはり楓さんには素質がありますわ!」
「……ってわけよ」

 ややうんざりしたように事情を告げる。そして、真剣な顔つきでまあちを見ると、

「あんたが決めたことなんでしょ。だったら、最後までやり遂げてみせなさい!」
「うん!」

 元気よく返事をし、立ち上がる。
 エネルギーシールドのパーセンテージは、残りわずか。レーザードライフルもない。カーフミサイルだけはかろうじて復活していた。
 圧倒的に不利な状況。
 だけど、不安はなかった。
 自分のやるべきことも、やりたいこともわかっていた。
 それだけで気力が満ちてくる。
 あとはただ、そこへ向かって走っていくだけ。
 目指すべきゴールは――静流は――すぐ目の前にあった。
 静流が、再びロッグガンを構えた。
 まあちは、負けじとクラウチングスタートの姿勢を取った。スタート前の、何度も味わったあの緊張感が身体を包む。自然と、指に、脚に、力が漲ってきた。
 ああ……やっぱり、この瞬間が私は好きだ……。
 何も考えず、ただ自分の全力を注ぎこむ、この瞬間が。
 スターターピストルの代わりに、エネルギー兵器から灼熱の光が放たれた。
 脚に力を込め、思いきり踏み出す。低く飛び出したすぐ上を、ビームが通過する。跳ねあがったポニーテールの先が、わずかに触れて蒸発した。だが、それでも足を動かす。腕を振り、前へ前へ。
 火砲がより激しさを増す。立て続けに放たれるミサイルと、ビームの嵐。それを必死に走りながらかわす。かわす。かわす。
 防戦一方。
 だが、手がないわけじゃない。大事なのはタイミング。必要なのは度胸だった。

「まあち! 来たわよ!」

 楓の声がした。頭上を見上げる。さきほどと同じ、巨大な機械群の塊が降って来た。
 まあちは、二発のカーフミサイルを上方へ発射した。直撃。爆発し、粉砕された機械の雨が、周囲に降り注ぐ。舞い上がる噴煙に、互いの姿が一瞬消える。

(いまだ!)

 まあちは、エッグの片方を掴み、静流のいる方角に向けて投擲した。Dアームが出現し、あたかもまあちが接近したように見せかける。案の定、噴煙の奥から発射されたビームが、分離したまあちのDアームを薙ぎ払った。その隙に、反対側から回り込む。
 ナックルショットを構え、無防備な横側から静流を狙う。
 飛び出すと同時に、拳を繰り出した。
 だが、まあちのナックルショットは、虚しく空を切った。
 そこに、静流の姿はなかった。

(ど、どこ……!?)

 意表を突かれ、まあちの足が一瞬止まる。
 その瞬間、ビームが、真上から降って来た。

「ぐぅぅぅぅ!」

 直撃し、エネルギーシールドが残り数パーセントまで低下。すぐさま頭上を振り仰いだまあちの目が、驚きに見開かれる。
 静流は、壁面の一箇所に張り付いていた。片方だけ残ったローラーダッシュを使い、壁を登ったのだ。まあちの意図を読んだ上での、上方からの狙撃。折しも、まあちがさきほど取ったのと同じ作戦だった。

「これで終わりよ」

 黒いゴーグルの下、静流が最後の言葉を告げた。
 ロッグガンの砲口より伸びる高出力の光。まあちは片方だけのDアームで、光を防ぐ。数万度の熱量に、蒼く美しかった装甲が融解し、醜く変形していく。ビームの余波で、エネルギーシールドがさらに削られていく。もうほとんどゼロに近い数値だった。
 だが、まあちは諦めなかった。
 諦めることを自分に許さなかった。
 身を引いてしまった、一歩。自らゴールを遠ざけた、あの一瞬。
 それを取り返すために、自分はここに立っている。
 だからこそ、絶対に負けるわけにはいかなかった。静流にも、自分にも。
 そのために強く願った。

(お願い、レイズナー! 私に力を貸して!)

 そのまあちの想いに、応えるものがあった。
 まあちの耳に――いやその内側で、小さく「READY」という声が響いた。
 途端に、まあちの身体が激しく発光した。
 蒼く輝く、荘厳な光。
 不思議な暖かさに包まれ、溢れんばかりの力が身体に溢れてくる。
 ウィンドウが出現せずとも、まあちには、この現象の名前がわかっていた。
 栞の部屋で見たアニメの中で、何度も目にしたもの。
 それを発動させるための最後のトリガーを、まあちは叫んだ。

「V―MAX……発動!」

 蒼い光が爆発した。眩い輝きがまあちから迸り、ビームの粒子すら跳ねのける。
 そのまま、まあちは一つの流星となって静流へ向かった。

「っ!?」
「しずちゃん、終わりなんかじゃないよ……ここからまた始めるの!」

 流星の中、まあちの半壊したDアームが最後のナックルショットを放った。静流のロッグガンを粉砕し、そのままDアームそのものを吹き飛ばす。それでも勢いは止まらず、静流と蒼い流星がゴモルの塔の壁を突き破り、外へと飛び出した。
 宙へと放り出された静流の身体。
 その黒いゴーグルが、ピシリと割れて、粉々に砕け散った。
 そうして、二人の勝負に決着がついた


著者:金田一秋良
イラスト:射尾卓弥


次回7月5日(水)更新予定


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