サン娘 ~Girl's Battle Bootlog【第26回(最終回)】

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第二章⑰

 静流が気づいたとき、目の前には青い空があった。
 すぐかたわらには、ずっと思い続けたあの人の顔。自分の身体を抱きかかえ、心配そうな表情でこちらをのぞき込んでいた。

「……私、負けたのね」
「うん。今度は、私の勝ちだよ」
「最初から、そうしていれば良かったのに……」
「ホントに……ホントに遅くなっちゃったけど……あのときはゴメンね。しずちゃん……」

 静流は、まあちの頬をそっと撫で、

「いいの……もう一度、本気で走る貴方の姿が見れたから……」

 まあちの目から涙がこぼれた。雫が、静流の頬へと降り注ぐ。
 その雫と共に、自分の中から何かが洗い流されるのを感じた。
 ずっと胸にわだかまり続けた、黒くて、冷たくて、ひどく寂し気な感情。

「大好きだった。貴方の走る姿が。だから、その隣で一緒に走り続けていたかった……。大好きなまあちゃんと一緒に……」

 まあちが静流の手を握った。力強く。今度こそ離すまいとするように。

「これからはずっと一緒だよ……しずちゃん……」
「うん……」

 静流は親友の腕に抱かれながら、目をつぶった。
 笑い合う中学時代の自分たちの姿が、そのまぶたをよぎった。
 そうだ……私はずっと……あの頃に帰りたかったんだ……。
 大好きな人と一緒に走れる、あの幸せな頃に……。
 自分の願いに気づき、静流は暖かい想いに包まれながら、意識を失った。

 

 翌日の放課後。まあちは楓の自宅にいた。

「ふぃ~。なんだか落ち着くなぁ。このゴチャゴチャした部屋を見ていると」

 ソファに座り、栞たちがいない間に、またもやゴミ屋敷となった部屋を見回す。かたわらでは栞が、慣れた様子で部屋の掃除を行っていた。

「ふふ。私も一日一回、この部屋を掃除しないと落ち着かなくなってしまって」
「それはいいんだけどさ……あんた、掃除するたんびに、変なものを置いてくでしょ」
「ななななんのことでしょう? わ、私には思い当たることなどありませんが……」
「目が泳ぎまくってるし! これのコトよ! これの!」

 楓が、何かのプラモデルを取り出した。

「ま、まぁまぁ、ライジンオー様じゃありませんか。まさか楓さんが買われたんですか? やはり私の思った通り、興味を持たれたようですね」
「どこまでも白を切るってワケね……。そっ。ならいいわ。あたしのもんなら、どう扱ってもいいわよね。例えばこの腕を……グイッとこう……」
「やめてくださいまし! 壊れてしまいますわ! 楓さんのために端正こめて作りましたのに!」

 プラモデルの腕を弄ぶ楓を、必死に栞が止める。

「いつもの光景だねぇ」

 ずずっとお茶をすすりながら、あんパンをほうばる。

「いや……ゼンゼンいつもの光景じゃないんだけど。そこに、でっかい『不自然』があるから!」

 楓が、まあちの隣にキッと視線を向ける。
 そこに、静流が座っていた。まあちと同じくお茶をすすっている。

「なんであんたがここにいるのよ!」
「だって、まあちゃんに呼ばれたから」
「そうそう。私が呼んだんだよねー?」
「ねー」

 二人で頷き合う。

「ねー! じゃないわよ! あんたキャラ変わってんじゃない!」
「昔のしずちゃんはこんな感じだったよ。ねー?」
「ねー」
「やめなさいってそれ!」

 キーっ! と楓がいきり立つ。

「まぁまぁいいじゃありませんか。仲良きことは……ですわ」

 栞がほほ笑みながら、さりげなくまあちの隣へ座った。静流と栞に挟まれるまあち。

「そうだよ。それに、しずちゃんは、私たちの部活に入ってくれるんだから」
「はぁっ!?」
「陸上部との兼部になるけど、それでいいなら」
「うん。それで十分十分。これで五人まであと一人だね!」
「あたしを入れるなぁ!」
「でも、どうしようっか。これからの部員集め」
「それでしたら大丈夫ですわ」
「ほえ?」
「岸元先生からお聞きしたんですけど……どうやら桜花祭がもう一度開かれるそうですわ」
「それは……本当?」

 静流が尋ねた。

「ええ。やはり前回のような終わり方では、皆さん納得しなかったらしく、もう一度開きたいという嘆願書が各所から届いたそうです。それで……」
「……そう」

 静流が、どこかほっとした様子で頷いた。やはり、桜花祭を潰してしまったことをずっと気にしていたんだろう。

「じゃあ、今度はしずちゃんも一緒に歌おうよ」
「はっ。ムリムリ。こんな仏頂面が、アニソンなんて歌うワケ――」
「いいわ。まあちゃんと一緒なら」
「即答!? だから、あんたキャラ変わりすぎだっての!」
「じゃあ今から一緒に練習しよっか」
「うん」
「もちろん私もお付き合いしますわ」

 ソファに座りながら、三人で和気あいあいとしゃべる。

「勝手に決めないでよ! ここはあたしの家なんだからああああああああっ!」

 楓の絶叫が部屋にこだました。
 その様子に、思わず笑みがこぼれてしまう。
 微笑ましくも、充実した日々。
 この学園に来ることができて本当に良かったと、まあちは思った。
 だけど、学園生活は、まだまだこれからだ。
 やりたいことも、叶えたいこともたくさんある。
 未来への期待と興奮を胸に抱きながら、

「明日はどんな楽しいことが待ってるかなぁ!」

 笑顔いっぱいで言った。

 

 校内の並木道。そこにレイが立っていた。

「…………」

 不意に物音がして、視線を木々から移す。
 目の前に、一人の少女が立っていた。
 レイとうり二つの容姿。だが、その髪は銀色ではなく、漆黒に染まっている。

「決めたのね?」

 黒いレイが言った。

「…………」
「いいわ。あなたがどこまでやれるか興味があるもの。それに、どっちにしろ結果は変わらないと思うし」

 それだけ告げて、去って言った。
 レイは再び木々を見上げた。
 新緑の葉が、穏やかな風に吹かれ、平和そうに揺らいでいた。

(終わり)


著者:金田一秋良
イラスト:射尾卓弥


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