【第07回】運び屋椿

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Episode1 (07)

 ああ、もう!
 こうなっちゃったらヤケだ!
 やるしかない!
 手元の機関銃を片手で止めどなく撃つ。
 もう一方の手で、キーボードを弾いて、30ミリランチャーを全弾発射!
 ついでに小型乙種対空魚雷もバンバン発射してやる!
 撃ち尽くすまで弾幕はってやるぅ!

『あはははは! やるねぇ、カエデ!』

 なんであの人は、そんな呑気にかまえてんの?
 この状況わかってる?
 もう、あっちこっちで、めちゃくちゃだよ!
 完璧な激戦地帯になっちゃってるよ!
 むかし、歴史の教科書で読んだ、一発の銃弾から世界大戦が引き起こされた、って話を走馬燈のように思い出しながら、ひたすら銃弾を撃ちまくる。
 そんなボクの耳をつんざくようにクラクションが鳴らされる。

 プオーーーッ! プオ――――ッ!

 そりゃもう、みんなこっちを見ろ、とでもいうように。
 当たり前だけど、戦場にいる全員がこっちを見ている。
 さらに、トラックを飾る電飾が煌々と輝きだした。
 その光に映し出される銃座の上のボク。
 ………ああ、きれいだなぁ。
 これがデコトラ。
 デコレーション・トラック!
 それはまるで、暗い宇宙に煌めく彗星かのように――なんて言ってる場合じゃない!

 さらに追い打ちをかけたのは、外付けされたスピーカーから音楽が流れだしたこと。
 なんだこれ?
 聞いたことがあるようなないような。

『枯れて~果てて~崩れぇ落ちてもぉ~♪ いつかぁぁ野に咲くぅ花とぉぉなぁれぇぇ♪ それがぁぁ~女のぉ~♪』

 えっと、このジャンルは……そう演歌だ!
 なんで!?
 まさかと思うけど……。

「ちょっとツバキ! これって――」
『あたしの趣味だけど?』
「なぜ演歌? なぜ今!? なぜ爆音!?」

 爆走するトラックから、大音量で放たれた演歌。
 ラインマーカーに付属される隔絶場収音出力デバイスを介して、小惑星群に隠れる両陣営の耳にも届いているに違いない。
 その光景はさながら、宇宙を駆ける宣伝カーだ。
 よりにもよって、敵のみなさまに「ボクたちここです」と言って回る最悪な宣伝なのだけど。
 だが、その瞬間、銃声が止んだ。
 そりゃそうだよ。
 場違いもはなはだしいってのはこのこと。
 この場にいる全員が、ボクと同じように頭にハテナを浮かべてる。
 なにが起こっているのかわからない。
 ボクだってわからない!
 でも静寂はすぐに破られた。
 すぐさま銃撃戦が再開された。

 まあ、そうだよね。
 ツバキの奇行に驚いても、普通はすぐに我に返っちゃうよね。
 ボクもぼうっとしてられない!
 さあ、どこからでもかかってこい!
 銃座から周りを警戒。
 照準器で相手の位置を探る。
 引き金には指。
 即座に応戦できる構え。

 ―――なんだけど……あれ? あれれ?
 どうしたんだろう?
 誰もこっちに撃って来ない。
 いったい、何が起こってんの?
 ボクは完全に理解不能になっていた。
 だけど、この時、戦線の兵たちの間ではこんなことが起きていた。

「おい、なんだあのトラックは!」
「なんで音楽を鳴らしている!? ミーズリー派の罠か?」
「わかりません。ただ武装しているのは確かです!」
「おのれ……あっちは何を考えているのだ!」

 当然、反対側の陣営でも。

「ティアーズ派のトラックなのだろう、あれは?」
「まだ確認は取れておりません」
「ですが、こちらの救援ではないことは確かです」
「くそっ! どういうことだ! あんな目立つものを何のために!」
「おそらくは、トラックに注意を引こうとする策かと……」
「そういうことか! あのトラックは無視しろ! 手を出すな!」
「ハッ!」

 と、まあ、こんな具合になっていた。
 そんな状況を知る由もないボクは、なんであっちは撃って来ないの? と思いながら、一応は警戒をしていた。
 だって不安になるじゃない!
 ちょー悪目立ちしてんだもん!

 まあ、それが逆に功を奏した、ってツバキから聞いたのは、もう少し後の事だった。
 みんな戦線のど真ん中を突っ切っていくトラックが、電飾ギラギラ、クラクション高らか、演歌で大熱唱なんてされたら、そりゃ怪しむよね。
 おたがい罠ではと、疑心暗鬼になって、手出しが出来なかったのである。
 そんなわけで、ボクらのトラックは銃弾飛びかう戦地の真ん中を、堂々と突っ切る事が出来てしまったのだ。
 その間、ツバキがずっと演歌を熱唱するのを聞きながら。
 それにしてもツバキ……肝っ玉が据わりすぎでしょう。

※※※※

「はぁぁぁぁぁ………」

 もうこれでもかってほどの溜息を吐いて、座席に持たれこむ。
 激戦地を無事に通り抜けたボクらは、残すところ国境を抜ける事のみ。
 バローニさんの話では国境を抜けるのは簡単らしい。
 ちょっと調べてみてその理由がわかった。
 内戦のせいで難民が出ているのだ。
 まあ、ティアーズ派もミーズリー派も労働力を外に逃がしてしまうのに苦い気持ちではあるらしい。
 でもね、難民救済をうたう国外勢力からの横やりが入ってしまったようなのだ。

 ――難民を外に逃がさないのならこちらは内政干渉をする意志がある。

 と、突きつけてきたらしい。
 これにはティアーズ派もミーズリー派も真っ青。
 だって第三国がこの内戦に飛び込んできたらどうなると思う?
 両派閥を一掃して、関係ない第三国が『碧の雫』の利権をかっさらう。
 まあ、そんなことを心配したのだろう。
 なので、出国に対してはゆるーくなってるってことみたい。
 たいへんだよね。
 お国同士の戦いは。

 まあ、横やり入れてきたのは、国かどうかはわからない。
 正直、この宇宙開拓時代において圧倒的に権力を持っているのは商人だ。
 堂島財閥、STRIX社、河沙公司フェイシャ・カンパニー
 この三大財閥はそこらの星系の持つ国家予算をはるかに上回る資金を有しているからね。

 ま、その話はおいといて……。
 この国境の検問はビザとかなくても普通に抜けられるってことなので安心なのだ。
 ここを抜ければ、後は一本道でフロギ星まで行けちゃう。
 このペースなら、途中のパーキングに寄っても余裕。
 無理なスケジュールと思ったけど、意外にも行けちゃうのね。
 どちらにしても、一番のピンチは切り抜けた。
 そりゃ気も抜けるよ……。
 ボクは思わずダラッとしてしまう。
 するとツバキが座席の後ろについている冷蔵庫をゴソゴソする。

「お疲れさん、コーヒー飲む?」
「……ええ、甘いやつでしょ」
「甘くないのが……いいの?」
「なに、驚愕の真実、みたいな顔してんの?」
「コーヒーは甘いのがいいんでしょ? 集中力も保てるし」
「まあ、ツバキは運転してるからそうかもしれないけど……でも飲みすぎじゃない?」

 だって後ろのゴミ箱には、これでもかってほどの溢れ出す空き缶の山。

「糖尿まっしぐらだよ?」
「だ、だだだ、ダイジョブよ! ちゃんとエネルギーは消費してるから!」
「いやいや、そういう問題じゃないくて」
「じゃあ、どういう問題よ? それともなに? いらないの?」
「う~ん、いらない。ってか、ボク、紅茶派だし」
「紅茶!?」
「な、何かおかしいの?」
「紅茶って言ったら、あれ? 貴族とかがたしなんでるあれ?」
「いやいや、あんた……どういうイメージなのよ紅茶に。旧世紀の大航海時代ならいざ知らず、紅茶なんて二束三文でしょうが」
「へ、へえ……意外ね」
「意外なのはツバキの中の常識の方なんですけど……」
「だって紅茶なんて飲まないし」
「えー、じゃあ今度積んどいてよ。あ、そうだ、紅茶セットも! ティーバックのやつでいいからさ、ちゃんとしたカップで飲みたい」
「トラックに……紅茶? 似合わないよ」
「似合う、似合わないじゃないでしょ! ボク、コーヒー飲まないし!」
「う~ん、考えとく」
「考えといてください」

 そんな無駄話をしているうちにトランダ国境地帯が近づいてきた。
 紛争地域って事もあって、入国は難しいけど、出て行くのは結構簡単。
 パスポートがあればビザもいらない。
 ………はずだったんだけど。

(つづく)


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次回2月28日更新予定


著者:内堀優一
原作:Original Star-IP Office
デザインコンセプト:斎藤純一郎、赤根健良
アニメーションキャラクターデザイン:鈴木竜也
アニメーションメカデザイン:田口栄司
企画協力:松田泰昭


©OSO


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