【第08回】運び屋椿

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Episode1 (08)

「めちゃくちゃ混んでるね」

 ツバキが眉間に皺を寄せて、前方をにらんだ。
 たしかに、検問の前には長蛇の列が出来ていたのだ。
 最前の国境のゲートにはかなりの数の国境警備員。
 たぶん他の国境警備をしている所の倍はいると思う。
 こういう事態っていえば……。

「盗賊とかかな?」

 実際、宇宙全域には盗賊がかなりの数いたりする。
 主要街道を走っている限りは、CPOの巡回もあるから問題ない。
 だけど、監視対象道じゃないところは危険なのだ。
 要するに、裏街道とか、そういうところ。
 でもツバキは前方をジッと見つめたまま、ポツリと言った。

「盗賊じゃないと思うね」
「じゃあなに? 普通こんなに国境警備の人っていなくない?」
「普通はね。でもよく見てごらん」
「どれどれ?」

 ツバキが差したのは国境のゲート周辺。
 それから、このステーションの周りを哨戒しょうかいする巡視航空機。
 ゲート周辺はさっきボクが見た印象と同じ。
 普通の倍の人員が監視の目を光らせている。
 さて巡視航空機の方は、というと……。

「二機しか飛んでないね?」
「盗賊なんかが出てるならもっと飛んでるでしょ?」
「まあ、そうだね……じゃあ」
「他の理由があるって事だと思うんだけど……なんだろね?」
「ボクが聞きたいんですけど……まあ、こういう時はやっぱ情報集めしないと、かな?」
「ええ~……」
「ええ、じゃないでしょ!」

 なに思いっきり嫌そうな顔してんの!
 まあ、ツバキがそういうの面倒臭がるのは知ってるけど……。
 幸い、この国境のステーションには簡易ながら宿泊施設や食堂もあるようだ。

「さあさあ、張り切ってゴハ……情報集めをしよう!」
「今、ゴハンって言いかけたでしょ!」
「言いかけてないよ」

 ごまかすボクは、無意識におなかを撫でていた。
 たしかにずっと軽食ばっかだったしね。
 ゴハンついでに、情報集めましょう。
 いいね!

 ボクらは長蛇の列から抜けて、検問ステーションに併設されている食堂へ入る。
 和食、洋食、中華にどこの国のものかもわからない食事までなんでもある。

「おばちゃーん、生姜焼き定食!」
「ボクはサンドイッチのセット」
「あーたさあ、カエデ」
「なによ?」
「またサンドイッチとか……あとで絶対お腹減るよ」
「いいじゃない。好きなんだもん。あ、セットの飲み物は紅茶で!」
「紅茶って雰囲気じゃないでしょ、ここ」

 まあたしかに、うるさいし汚い。
 下世話な話題と、タバコの煙が飛び交っている。
 紅茶って雰囲気ではないのはたしか。
 とは言えだよ!

「ツバキの車に積んでないから、水とコーヒーしか飲んでないし」
「あとでお腹空いたって言っても知らないよ」
「言いません!」

 そんなこんなで、やって来たおっちゃんにオーダーする。
 するとツバキが肘でボクをツンツンしてくるのだ。
 はいはい、ボクに聞けってことね。
 よっしゃ!
 ここはボクのこの美貌を使って情報を引き出してみせようじゃないの!

「あのぉ、おじさん! ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
「おうおう、なんだいかわいいお嬢ちゃん」

 よっしゃ!
 かわいいお嬢ちゃんだって!
 見たか、ツバキ!

「検問の所って、どうしてあんなに混んでるんですかぁ?」

 でもあざといか?
 ちょっとあざとすぎるキャラ作りをしてしまったか??
 でもおじちゃんは、気さくにカッカと笑って、

「あー、嬢ちゃんらも足止めくらったかい?」
「そうなんです! 困っちゃって!」
「大変だねえ。こんなところで足止めなんてな。こんな小さいのに……」

 おやおや?
 もしかして、かわいい嬢ちゃんって、子供的なかわいさで見られてた?
 ボク、そんなに子供じゃないんですけど!
 ――でも今は反論しない。
 おっちゃんがなんか話そうとしているからだ。

「仕方ねえさ」
「仕方ないって?」
「そりゃ嬢ちゃん。今は『碧の雫』の密輸取り締まりだから」
「「え??」」

 思わず声が重なっちゃった。
 だってそれって……。

「ちょっとツバキ」

 ボクはツバキに顔を寄せ小声になる。

「今、『碧の雫』って言ってたよね」
「そうね」
「ボクらの運んでるウェディングドレスなんだけど」
「うん」
「ついてたよね、『碧の雫』」
「…………」
「しかもメッチャいっぱい……」

 ツバキはごくりと息を呑みながらお茶をすすった。
 そう、あのウェディングドレスには付いているのだ。
 このトランダ宙域を紛争の渦に陥れた元凶が。
 ボクは顔を上げておっちゃんに問いかけた。

「あの、もしかしてなんですけど」
「なんだい?」
「その取り締まりって、捕まるとヤバいんですか?」
「ヤバいもなにも……こっちの宙域は王家直轄のミーズリー派だから」
「……え!?」
「捕まったら極刑だろうなあ。まあ、なにも持ってなきゃ問題ないからよ。心配すんな」

 そうそう、なにも持ってなければね!

「まあ最近はよ。このあたりも中央の紛争に乗じて『碧の雫』を非公式に外へ持ち出す連中が増えちまってさ」
「ははぁ」
「そんでこの大掛かりな増員ってわけよ」
「あの、その検問って、どんな事するんですか?」
「どんなって、う~ん、センサーで調べてるみてぇだぜ。あの鉱石、一定の周波数に反応するからよ」
「な、なるほど」

 しかし困ったな……。
 まさかこのまま紛争が終わるのを待っているわけにはいかない。
 なにしろ大急ぎの特急便だし。
 そんなボクらの内情を知らないおっちゃんは、

「ま、おかげでうちは大儲けさせてもらってるけどなっ!」

 と、得意げに笑って去っていく。
 あーあ、なるほど、そういうわけか。
 どうすんの、ツバキ?

「…………」

 彼女ひどく真剣な顔で、おっちゃんの去っていった方を見ていた。
 どしたの?

(つづく)


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次回3月7日更新予定


著者:内堀優一
原作:Original Star-IP Office
デザインコンセプト:斎藤純一郎、赤根健良
アニメーションキャラクターデザイン:鈴木竜也
アニメーションメカデザイン:田口栄司
企画協力:松田泰昭


©OSO


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