【第09回】運び屋椿

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Episode1 (09)

「あのクソオヤジッ!!」

 食事を終えてトラックに戻ったツバキさんはたいへん荒れてらっしゃいます。
 そりゃそうだよね。
 だって依頼人のバローニさん、絶対知ってたと思うもん。
 知っててボクらにこの無茶な仕事をふったのだ。
 ひどいっ!

「で、バローニさんから返信きたの?」
「通信には出ないしメールも返ってこない!」
「あー、すっとぼけてんね」

 これは待てど暮らせど、どうにもならない。
 ツバキは頭を抱えて、奥歯をギリリっと嚙む。

「あっの、クソオヤジめっ! それを知っていながら!」

 そう、もともと無茶なスケジュールの上に、使われている宝石が検閲対象。
 それをわかっていて、あのバローニさんは依頼してきたわけだ。
 ニヤニヤ笑う中年のオヤジのしたり顔が目に浮かぶ。

「ねえツバキ、どうする? これじゃ、ボクたち検問のセンサーに絶対引っかかるよ」
「う~ん………」

 ツバキはその場で目に力を込めて、検問のセンサーを見つめていた。

※※※※

 検問の長蛇の列に並びながら、ボクは緊張で息もできない。
 せっかく自販機で買ったレモンティも横に置いたまま。
 前方の検問では、センサーの下を車がゆっくり通過している。
 センサーは大型車用、普通車用を合わせても三十基しかない。
 どおりで時間がかかるわけだ……。

 たとえ紛争地帯といえど、物流が止まってるわけじゃないトランダ宙域。
 危険なこの宙域へ衣食住を供給し、同時に武器弾薬も運び入れる商人は多いだろう。
 つまりは、今出て行こうとしているトラックのほとんどは、空の荷台。
 その空の荷台に、そっと『碧の雫』を忍ばせて、持ち出そうとした不届き者がいたのだろう。
 そのせいで、ボクは今、すごい緊張のさなかにいるわけだ。
 ぐぬぬ……こういう緊張はあまり好きじゃないよ。
 でも、ここを抜けないと、ウェディングドレスを届ける事はできない。
 やるしかないよね。
 そうこうしているうちに、ボクらの順番がまわって来る。

「よーし、そのままゆっくり、ゲートを潜れ」

 検閲官の指示に従い、ツバキはアクセルをふかして徐行。
 トラックが半分ほどゲートを潜った、その時。

 ビーッ! ビーッ!

 突如鳴らされる警報にあたりが色めき立った。
 胃が痛い!
 駆けつけた警備員たちにトラックが取り囲まれる。
 全員銃器を構え、これ見よがしに安全装置を外す。
 抵抗すれば即座に発砲するぞ、という意思表示だろう。
 ボクもツバキも、座席に座ったまま、両手を上げた。

「おまえら! トラックの中を改めさせてもらうぞ!」

 するとツバキは平然とした様子で、

「なに? 別になにもしてないけど?」

 と言い返す。

「なにもしていなくても、なにを積んでいるかが問題だ!」
「別に怪しい物なんて積んでませんよー、ね、カエデ」

 ボクはコクコクうなずく事しか出来ない。

「それは中を改めてからだ! 荷台のロックを開けろ」
「はいはい」

 そう言ってツバキは荷台のロックを解除する。
 すぐさま、検閲官たちは荷台を開ける。
 と、そこには透明のケースに入ったウェディングドレスが姿を現した。
 すかさずツバキが検閲官たちに怒鳴った。

「それ、商品なんだから、汚い手でさわんないでよね! もし汚されたら弁償だよ! あんたらの安月給じゃ一生働いても返せない額だからね」
「余計な事を言うな」
「余計なことかしらん? それの依頼主、フロギ星の王族なんだけど」
「なっ………」

 検閲官たちは言葉を失う。
 そして目配せし合いながら、ドレスをまじまじと見た。
 そして彼らは首を捻る。
 そりゃそうだよ。
 だって、ウェディングドレスには、装飾の宝石は一個もついていないのだから。
 なにを隠そう、さっき食堂を出た後に、ボクが一つ一つ丁寧にとったのだ。
 もちろん、あとで元にもどせるように写真も撮って。
 とはいえ、それで納得する検閲官ではない。

「他も隅々まで探せ! センサーがなにに反応したのか、確かめろ!」

 それはそうだ。
 荷台にないからって、そのまま通してはくれないよね。
 彼らは武器庫やらボクらの座席の下やら隈なく探そうとする。
 と、その時だった。

 ビーッ! ビーッ!

 またも検問のセンサーが反応した。
 即座に他の検閲官がそちらに走る。
 あちらでも同じ事が始まった様子。
 荷台を開いている。
 さらに他のゲートでも、

 ビーッ! ビーッ!

 次々にセンサーが反応しだす。
 三十基すべてのセンサーが警報音を鳴らす。
 この段になると、もう検閲官たちの人数では手が足らない状況。
 止められたトラックの運ちゃんたちは、みんな不満げに検閲官に食ってかかる。

「おい、どういうことだよ!」
「壊れてんじゃねぇのか?」
「さっさと通してくれよ!」
「こっちは仕事なんだ!」

 そりゃ、長蛇の列でさんざん待たされてるのだ。
 その上、今度は持ってもいない『碧の雫』を持っていると疑われているのだ。

 血の気の多い彼らだ。
 不満を漏らさない訳がない。
 ボクらについていた検閲官も、呆然とした様子で事態を把握できていない。
 そこへ上官らしき人がやって来ると、その場を一喝した。

「黙れ運び屋どもっ!」

 場が静まり返る。

「トランダ宙域を守護せし王室より仰せつかった我らが職務にケチをつけるというのなら、全員この場で捕縛し、しかるべき詮議にかけてやる! それでもまだ文句を言い続けるか!? それともこちらの指示に従い、検査を受けるのか!? さあ、選べ!」

 その威圧感に全員が飲まれてしまっていた。
 圧倒的だった。
 たった一人の介入で、誰もがその指示に従わざるを得ない、という空気になっていた。
 だが、そんなよどんだ空気の中にたった一人、毅然と立っている者がいた。
 ツバキだ。
 彼女は胸を張り、まっすぐに検閲官を睨み据えた。

「おもしろいじゃないの」
「なんだ貴様……」
「プライド持って職務に殉ずる――嫌いじゃないねえ。だけど、こちとら同じプライド持って運び屋やってるトラック乗り! 同じプライド掲げるってんなら、後はぶつかり合うのが世の定め、ってね!」
「歯向かおうというのか!?」
「歯向かう? 冗談言っちゃいけないよ! これはあんたらの仕事と、あたいらの仕事の、命かけた戦争でしょうが!」
「なっ!!」
「お覚悟してくださいな。なんか出りゃ、あたいら喜んで命をやりましょう。だが、なんも出なけりゃ、そん時ゃ、おたくも同じケジメをつけてもらいます! よろしゅうございますね?」
「うっ……」

 再びの沈黙。
 検閲官の顔が引きつる。
 そして最後にツバキは、あくまで優しくささやきかける。

「これが機械トラブルなら、無念な死に様ですねぇ」

(つづく)


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次回3月14日更新予定


著者:内堀優一
原作:Original Star-IP Office
デザインコンセプト:斎藤純一郎、赤根健良
アニメーションキャラクターデザイン:鈴木竜也
アニメーションメカデザイン:田口栄司
企画協力:松田泰昭


©OSO


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