【第10回】運び屋椿

← 前作品ページ次 →


Episode1 (10)

 検閲官の額に冷たい汗が流れる。
 小刻みに震えていた。
 彼の脳裏には今、これからのことが高速で閃いているにちがいない。

 両派閥がにらみ合う緊張状態の情勢下。
 そんなさなかで、システムの故障でもめごと。
 それを上に立つ人たちが、聞いたらどうなるか?
 そりゃ大激怒必至だ。
 システム管理の杜撰ずさんさをなじられるだろう。
 あとは彼らに厳罰、左遷、減給の三拍子が待っている。
 彼らもそれを望んでいる訳ではない。
 しかも、ツバキの命を張るという言葉が、彼をさらに動揺させていた。

 そこへツバキがさらにダメ押し。

「さあ、決めてもらいましょうか! この運び屋ツバキと、命張るのか、張らないのか!」

 緊張に包まれた沈黙を破るように、彼の右腕が上がった。
 その指は、「行ってよし」と言っていた。
 もう、言葉を発する力もなかったのだ。

 とたんにトラック乗りたちからの割れんばかりの歓声。
 検閲官たちが、一斉にゲートを開ける。
 はぁ………よかった。
 無事、検問を突破できた……。
 もう、寿命がめっちゃ縮んだよっ!

※※※※

 トランダ宙域からフロギ星までは基本的に一本道。
 ラインマーカーはこのままフロギ星まで続いてる。
 途中、迂回路からの合流とかはあるけど、みんなフロギ星へ向かうのだ。
 とはいえ、道のりはやや長い。
 延々と続く一本道を、ぼんやり流し続ける。
 これはなかなかヒマで退屈で、ついでに腰に来る。
 座りっぱなしだからね。

 でも、ちょうどフロギ星とトランダ宙域の真ん中に、小さなパーキングステーションがあるのだ!
 やった! 
 ここで休憩!
 ついでにシャワーとか浴びたい!
 というわけでパーキングステーションの駐車場に入る。

「わーい! やっと休憩だ!」

 そんな晴れ晴れとしたボクに、ツバキさんが水を差してくれるのである。

「はいはい、休憩前にやる事があるでしょ」
「………うー、そうだった」

 そう、他でもない、もっとも重要な仕事が残っていたのだ。
 ボクとツバキは、トラックの座席から降りると、駐車場に入ってくる車に目を向ける。
 メモを見ながら、入ってくる車のナンバーを確認。

「あ、アレだ」

 ボクが指差したのはパーキングに入ってきた一台のトラック。
 すると、ツバキがすぐにそのトラックの後を追う。
 車の主がアクビをしながら車を降りていく。
 パーキングの喫茶店にでも行くのだろう。
 それを確認すると、すぐにトラックに近づく。
 そしてバンパーの裏に手を突っ込んでゴソゴソさせる。
 どうやら見つけたらしい。
 ツバキがニヤリとして、ピースサイン。

 バンパーの裏から出てきたのは、ガムテープで張り付けられた『碧の雫』だ。
 そう、さっきの検問での警報騒ぎは、センサーの故障じゃない。
 本当に『碧の雫』に反応していたのだ。
 ボクは検問の食堂を出たあと、ウェディングドレスに付いていた全ての『碧の雫』を取り外した。

 それを食堂の前に止まっていた検問待ちのトラックのバンパーの裏にガムテープで貼り付けていったのである。
 もちろん、ナンバーを控えて、写真も撮った。
 そして検問を抜けたトラックは、ラインマーカーの引かれた一本道をダラダラ走って、腰が痛くなって、休憩にここに立ち寄るってわけ。
 そんなわけで、ボクとツバキは、次々にやって来る車から『碧の雫』を回収していく。

「1、2、3………」

 と数を確認。
 全部ある。
 よし………なんとか回収できた。

「んじゃカエデ、行くよ」
「え!?  もう!」
「もうだよ。だって残りは何時間?」
「えっと……………」

 腕時計の日付と時間を見てボクは溜息を吐いた。

「ああ、残り十二時間しかない……」
「そいうこと~。んじゃ、出発ね。缶コーヒーくらいなら買ってきてもいいよ~」
「缶コーヒーとか飲まないし……」

 気楽に言うよね、このトラック娘。
 さっきの啖呵切ってた時とはえらい違いだ。

※※※※

 チクチクチクチクチクチク…………。

「うわぁぁぁ! 絶対間に合わない!」

 チクチクチクチクチクチクチクチク………。

「痛っ! うぅ、指に刺しちゃった……」
「ほら、口動かさないで手を動かす」
「動かしてます!」

 ただいま霧谷カエデ、絶賛裁縫中!
 うぉぉぉ!
 間に合う気がしないよぉぉ!
 おわかりかと思うけど、ウェディングドレスである。
 外した『碧の雫』をバリバリ縫い付けているのだ!

「へぇ、うまいもんだねぇ」
「はいはい、ありがとう」
「どっかで習ってたの?」
「子女のたしなみです」

 フフン、と得意ぶって見せたけど、そんなことしてる余裕はない。
 だって、あと一時間もすればフロギ星に到着してしまうから。
 タイムリミットまでギリギリ到着は可能だけど、問題はこっち。
 修復が間に合うかなのだ!
 間に合わせてみせるよ。
 全力で飛ばすツバキのトラック。
 当然ながら揺れに揺れる。
 おかげで手元が狂いまくり。
 だけど、十時間以上やってたら、もう慣れた。
 ここ二時間くらいは、自分でも驚くほどのスピード。

 うりゃぁぁぁぁぁ!
 やってやるぅ!
 とにかく縫って縫って縫いまくる。
 そのあいだ、なんだかんだツバキは、こちらのようすを気にしつつも、口出しせずに見守ってくれた。
 そして到着の十分前――。

「よっしゃぁ! 完成!」
「お疲れさん、はい」

 彼女はそう言って、冷蔵庫から冷えたレモンティの缶を取り差し出す。
 ああ、置きっぱなしにして忘れてた。
 冷えたレモンティは、格別においしかった。
 ようやく人心地。
 疲れがドッと出てきたよ。
 そんなボクに、ハンドルを握るツバキが前方を指差す。

「ほら、見えてきたよ」

 その指の先に目を移すと、青く美しい星が見えた。
 ――フロギ星。

 90%が水に覆われた、豊かな星。
 ああ、きれだなぁ――と思いながら深く呼吸をした。
 ツバキのトラックはラインマーカーの指示に従い、フロギ星へとまっすぐに進んで行く。

「こちら車体番号『横浜S876-の239-87270』車両主、永峰椿。搬送車両の発着許可を願います」

 管制塔への通信を入れているようだ。
 そんなやりとりを聞いているうちに、ボクはなんだか……眠くなって……。

※※※※

 夢を見た。
 ボクは綺麗なドレスを着て、社交の場で挨拶をしている。
 今日はパーティのようだ。
 政財界のお偉いさんたちが集まっている。
 ボクは愛想のいい笑顔で、そんな人たちと挨拶をかわしていく。
 みな、ボクの事を褒めてくれる。
 よくできたお嬢さんだって。
 ボクはニコニコ笑って返す。

 その次の光景は、パーティが終わったあとの事だった。
 ボクは両親のもとに向かっていた。
 両親のいる部屋の前まで来て、思わず足を止め息を呑んだ。
 中で誰かがケンカをしている。

「父さん、どうして僕の言うことがわからないんだ?」
「おまえは利己的すぎる。そんな調子でやっていけば敵を作るだけだ」
「敵は捻り潰せばいい。力というのはそういうものです」

 兄と父が言い争いしている。
 とても間に入れる雰囲気ではない。
 ボクはガタガタ震えていた。
 人が争うのが――苦手なんだ。
 ケンカしている姿を見るのが、嫌いなんだ。
 そのことを、初めて思い知るかのように、ボクは震えていた。

(つづく)


← 前作品ページ次 →


次回3月21日更新予定


著者:内堀優一
原作:Original Star-IP Office
デザインコンセプト:斎藤純一郎、赤根健良
アニメーションキャラクターデザイン:鈴木竜也
アニメーションメカデザイン:田口栄司
企画協力:松田泰昭


©OSO


あわせて読みたいコンテンツ


【EX01 後編】SDガンダム ザ・ラストワールド ステージEX01 ▶

◀ IPポリス つづきちゃん【第81回】


カテゴリ