【第12回】運び屋椿

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Episode2 壺と令嬢とハイウェイレース(1)

「あらあらあら! ツバキさん? もしかしてこの堂島ランコに恐れをなして?」
「はぁ? なに言ってんのかしらぁ!」

 ビールジョッキ片手にケンカ腰のツバキ。
 そんな彼女にケンカを吹っ掛けているこのお嬢様は、堂島ランコさんというらしい。
 たまに木星軌道上のパーキングステーションで一緒になる事があった。
 ただ、その都度、ツバキに絡んで来たのは見てたけど。
 いつもは忙しいから、適当にツバキも流していた。

 でも今日は運悪く仕事終わりに呑んでたので、そのまま同席。
 話の流れでこのザマなのだったりする。
 そもそも、なにがきっかけでケンカになっているのかすらわからない。
 まあ、ツバキもランコさんもけっこう呑んでるから、本人たちもなんでケンカしてるのかわかってないだろーなぁ。

 ランコさんの後ろには助手のハロルド・ジェンキンスさんが椅子に座らず無言で見守っている。
 ねえ、おたくの娘さん引き取ってもらえません?
 ところがハロルドさんは一切介入せずに身じろぎもしない。
 かわいそうなのは、そんな二人の間に挟まれてるおっちゃん。
 ブローカーのバローニさんだ。
 彼は焼酎の水割りを不味そうになめながらため息をつく。
 そうそう……もとを正せば彼の依頼がケンカの原因だった。

 なんかどうでもよくなってしまったので、とりあえずボクは紅茶をすすりながら、ニュースの放送に目をやる。
 頻発している盗賊団のニュースで最近は持ちきりだ。
 CPOが腰を上げて本格的な討伐に出るとかでないとか。
 懸賞金の掛かった盗賊、海賊はホントに多い。
 ことさら、宇宙開拓時代に入ってから、資源の輸送を横取りする連中がいっぱいなのだ。
 怖い世の中だよねぇ。
 ああ、紅茶がおいしいなぁ。

「なあ、そろそろ話進めたいんだが……」

 泣き出しそうなバローニさんの消え入りそうな嘆願。
 でも残念ながら聞き入れられず。

「はぁ!? バローニのオッサンは黙ってろぉ!」

 ツバキ、べろべろじゃないッスか!

「あなたが入ってきたところで、どうにもならなくってよ!」

 ランコさん……その人、依頼人ですよ。
 さしものバローニさんも、溜息をつきながら、

「まあ、無事に運んでくれりゃなんでもいいけどよぉ……」

 と、あきらめ調子で、焼酎をなめるのだった。
 さてさて、そんなバローニさんからの依頼なんだけど……。
 依頼書に目を通してみたけど、今回のはそんなにたいへんな仕事じゃない。
 運ぶのは骨董品の壺だ。

 『双龍』と名付けられた美術品で、名前のとおり二つある。
 大きさはボクの背よりもあるから、けっこう大きい。
 それをツバキとランコさんのトラックそれぞれに積んで運搬する。
 マクローラン品評会に出展するらしいんだけど、その品評会があるのは十日後。
 出展会場まで、ワープリングを通って一日半あれば十分到着できる。
 つまりは、ちょー余裕のおいしい仕事ってやつだね。
 でもまあ、貴重な美術品なわけだから、壊したら大変な事になる。
 さっきバローニさんも口にしていたとおり、『無事に運べば』問題ない。
 ……なんだけど。

「わたくしなら、一日とかからず、余裕で届けてみせますわっ!」
「はぁ? あたしなら半日で十分だね!」

 おたがい、この調子なのだ。
 やーな予感しかしないのは、バローニさんだけじゃないですよ。

※※※※

 そんなわけで翌日。
 木星軌道上のパーキングステーションの駐車場。
 バローニさんの会社の人たちが運び入れた例の壺『双龍』が、ツバキとランコさんのトラックにそれぞれ搬入された。
 きっちりクッション材に巻かれて、その上から二重三重に梱包されている。
 よっぽどのことがない限りは、壊れない万全さ。

 あとはボクたちが、盗賊とかに奪われないように安全に運ぶだけ。
 たまーに、運の悪い人は公道で盗賊に遭うという話もある。
 でもそれは、かなりの低い確率。
 なにしろ公道と呼ばれる主要街道には監視がある。
 そう宙域警察機構が巡回しているのだ。
 そんなところで強奪しても、すぐにお縄につくのが関の山。
 盗賊だってバカではない。
 そんな危ない橋は渡らない。
 気を付けるなら交通事故の方が気を付けるべき。
 それくらいの確率なのだ。
 さてさて、問題なのは……。

「では、ツバキ。先に着いた方が勝利。そういう事でよろしくって?」
「ああ、上等だよ。それで行こうじゃない」
「それから、道中での武器使用は禁止でしてよ」
「あたりまえだ。これはスピード勝負だからね」
「あら、その辺、意外にもわきまえてらっしゃるのね」
「これでルールは決まったな」
「ええ、よろしくってよ」
「いやいや! 全然よろしくないですけど! なんでそういう話になっちゃってんの?」

 ボクが間に入ると、ツバキもランコさんも、ギラリと睨んでくる。

「なんですの、この小娘は?」
「おい、カエデ。これは女と女の勝負なんだよ。水差すな」
「くくく……あらツバキさん、たまには意見が合うようですね」
「当然だろう、ランコ。あんたとの勝負、白黒はっきりつけてやるよ」

 ホント、息が合ってて……困ったものですよ!
 ホンキで勝負すんの?
 ボク、やだけど!
 するとツバキは急に、守銭奴のいやらしい目つきをする。

「ところでランコ?」
「なにかしら?」
「この勝負、なにを賭ける?」
「当然! 堂島家の名誉を………」
「待って待って待って、そんなもんは賭けにならないでしょうが」
「で、では、なにを賭けると言いますの?」
「今回の報酬全額、でどうだ?」

 出た――――っ!
 ツバキの意地汚い守銭奴精神!
 するとランコさんの方は、フンっと胸を張る。

「結構ですわ。わたくしが負けたら、全額、報酬はあなたのものよ!」
「よしっ! そう来なくっちゃ! ケケケ……」

 うわぁ……。
 悪徳商人みたいな顔してる。
 こりゃツバキ、絶対勝つ気だよ。
 そんなわけで積み込みが終わったトラックが、駐車場で横一線に並ぶ。
 いつもなら脂ぎったニヤニヤ顔で送り出すバローニさんだけど、今日はしおしおの疲れ顔。

「いいかぁ、位置につけ」

 いかにも嫌そうな様子で、スタートの号令を出すのである。
 そりゃそうだよね。
 だって大切な積み荷を預けた相手が、これからスピード勝負をしようってんだもの。

「いくぞ。はい、レッツゴー」

 やる気のないスタートが切られる。
 と、同時に両者アクセル全開で発進。
 両車、一斉に走り出す。
 木星軌道上のパーキングステーションを出る。
 そこからトラックは火花を散らしながら、太陽系を飛び出そうと公道を走る。
 どっちも現段階では速度は拮抗している。
 まあ、太陽系内の道が、割と真直ぐだからってのはあるんだけどね。

「それにしてもツバキ」
「なにさ?」

 こっちに目も向けずに、進行方向を見ながら答えるツバキ。

「あの堂島ランコさんって何者なの?」
「はぁ? 意外とものを知らないのね、カエデは」
「いやいや、ツバキの交友関係なんて知らないって」
「堂島って聞いて何も思い浮かばない?」

 ボクはちょっと考えて、すぐに答えにぶつかった。

「え? もしかして堂島財閥の?」
「そう」

(つづく)


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次回4月4日更新予定


著者:内堀優一
原作:Original Star-IP Office
デザインコンセプト:斎藤純一郎、赤根健良
アニメーションキャラクターデザイン:鈴木竜也
アニメーションメカデザイン:田口栄司
企画協力:松田泰昭


©OSO


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