【第14回】運び屋椿

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Episode2 壺と令嬢とハイウェイレース(3)

 なんだかんだ言ったけど、やっぱりボクも負けるのはいやだ。
 なにより報酬総取りされちゃうし。
 するとツバキは平然とした様子。

「別に追い越せるじゃない」
「いやいや、道塞がれちゃってるし」
「いやいや、ここ宇宙だし」

 言いながらツバキはいきなりハンドルを切る。
 公道とされているラインマーカーの引かれた車線を大輪丸が飛び出した。
 ああ、そうか、その手があったか――――とは思わない!

 ボクは育ちがいいので車はちゃんと車線内――ラインマーカー内を走るものと考えている。
 いやボクだけじゃない。
 普通、宇宙を通行してて、ラインマーカーを越えようなんて考えない。
 ところがどっこい、ツバキは思いっきり超えてしまう。

 ラインマーカーの外は重力バランス、慣性バランスが効かない生の宇宙!
 急に無重力になってボクの飲んでた紅茶が宙に浮いてしまった。

「はい、いつもの噴進式をGo!」

 エキゾーストマフラーが、エンジンへ直結。
 でもすでに速度がかなり出ている。
 なのですごくバランスが取りづらい。
 そこをツバキは絶妙のハンドルさばきで前進。
 しかもスピードは落とさない。
 落とさないどころか加速!
 そう、ランコさんたちのトラックを追い抜く気まんまんなのである。
 ラインマーカーの引かれた公道の真横を並走。
 あっという間にランコさんの横に付ける。
 それを見たランコさんは驚愕に顔をゆがめる。

「なっ!? なんてことしてますの! あなたはっ!」

 そんなランコさんにツバキはこれ見よがしの笑みを浮かべてウィンク。
 ランコさんの方は奥歯を嚙んであせった様子。
 まあ、そうだよね。
 こんな自殺行為みたいなことすると思わないよね。
 ツバキは大輪丸のスピードをグングン上げてトラック群を追い越す。
 そのまま、車線に戻ると一気に加速をした。

「めっちゃ余裕!」
「さすが、さすが」

 小さく拍手で賞賛してあげるよ。
 難しいことを平気でやってのけるんだもん。
 普通はそのまま制御できずにどっかの星の周りをまわる衛星になるか、広大な宇宙をさまようスペースデブリになるのが関の山。
 サイドミラーで後ろの方を見てみると、ランコさんのトラックはひどく後方に下がっていた。

「んじゃまあ、このままぶっちぎりで、行ってみよう!」
「事故だけは気を付けてね」
「あったりまえ! 無事故無違反のツバキさんだよぉ!」
「……無違反はウソだ!」
「捕まらなければ無違反なの」

 まあね。
 宇宙開拓時代からこっち、現行犯でしか逮捕できない――というのがこの宇宙での道交法。
 だから、当然といえば当然。
 さてさて、このまま順調に行ってくれるのかな、と期待をしていたのだけど……。

「あれれ……?」

 ボクは前方に見えてきたものに、思わず席を立ちそうになった。
 だってあれは間違いなく、渋滞!

「ちょっとちょっとツバキ、なんか渋滞してない?」
「ホントだ……珍しいね」

 そう、太陽系から転送輪の辺りまでで、渋滞なんてめったにない。
 ワープリングの手前の所にCPOの大型車両が止まっている。
 周辺には白バイも。
 拡声器からは、

『各車、左の車線に寄せなさい! 繰り返す……』

 と指示が飛んでいる。
 さすがのツバキもここは指示にしたがう。
 言われた通り車を寄せそのまま渋滞に巻き込まれて停車してしまった。

「なんでこんなところで渋滞してんだろう?」
「さぁねえ。転送輪の前で事故とか?」
「ええ……こんなまっすぐな道で?」
「スピード出し過ぎのバカがいたんじゃない?」

 うへぇ……それはあんたでしょ、って言いたいよ。
 と、そこへ一台の白バイが車の間を縫ってやって来た。
 白バイはツバキのトラックの横に付けると停車。
 席側の窓をコンコンと叩く。

「あれ、進藤君?」

 そう、彼は白バイ乗りの進藤マコトさん。
 今日はまだスピード違反とかしてないですよ!
 ツバキが窓を開けると、彼もヘルメットのバイザーを上げた。

「ちょっと進藤君、なんの渋滞?」
「この転送輪の先で、『アオヘビ』の目撃情報があってな」
「あおへび?」

 ツバキが首を捻る。
 まあ知らないのも無理はない。
 昨日、ニュースでやってたちまたを騒がす盗賊団のことだ。

「一応、向こう側の公道にはCPOを配備してるみたいだけど、範囲が広いから」
「気を付けてね、ってこと?」
「そういうこと。危ないと思ったら引き返してもらってる」
「へぇ」
「ツバキもヤバいって思ったら引き返した方がいいぞ」

 するとツバキはニヤァと笑う。

「あたしがそんな弱気なことすると思う?」
「思わない。一応、職務上の義務なんで、注意喚起だ」
「だったら別に言わなくてもいいよ」
「言うのが仕事」
「はいはい」
「とにかく、中途半端な装備で行こうとはするなよ」
「大丈夫だよ。ちゃんと武器弾薬はバッチリ」

 そうそう……いや、ちょっと待って!

「ツバキ、あのさ、武器使わないってルールじゃなかった?」
「あ、そうか」

 忘れてたの?
 もう、ホント先が思いやられる。
 しかもツバキはちょっと引きが悪いというか、いいというか。

「とにかく気を付けろよな。もし『アオヘビ』を見かけたら、すぐに連絡しろよ」
「はいよ。すぐに駆けつけてくれるんでしょ?」
「宇宙なめんな」

 おっしゃるとおり。
 宇宙は広いのだ。
 と、その時である
 空いている右車線を数台のトラックが通りかかった。
 あのトラック……見た事がある!
 すると見たことがありすぎるトラックがボクたちの横で一時停車。
 スルスルっと窓が開く。

「あらぁ、ツバキさん、こんなところで渋滞ですの?」
「……ランコ」
「わたくし、先に行かせてもらいますわね。ごめんあそばせ」

 窓がぴしゃっと閉まって、そのまま発進。

「ランコめ……金を握らせたな……」

 ちょっとちょっと、いいの、そういうの?
 ねえ進藤さん!

「くそっ! 正義のCPOが金で動くとはっ! どいつだ!」

 すぐさま、バイクのエンジンを噴かせて、後方へ走り去っていった。
 あの正義感の進藤さんだからね……。
 ああいう人をCPOはもっと優遇した方がいいよ。

「んでどうする、ツバキ?」
「う~ん」
「これじゃランコさんに負けちゃうよ」
「そうだね……いや、どうにかなるかな」
「え?」

 ツバキの言っている、どうにかなる、の意味がわからずボクは首をかしげた。

(つづく)


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次回4月18日更新予定


著者:内堀優一
原作:Original Star-IP Office
デザインコンセプト:斎藤純一郎、赤根健良
アニメーションキャラクターデザイン:鈴木竜也
アニメーションメカデザイン:田口栄司
企画協力:松田泰昭


©OSO


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