【第15回】運び屋椿

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Episode2 壺と令嬢とハイウェイレース(4)

「やりましたわっ! 勝ち確定! 勝ち確ですわっ!」

 堂島ランコは車内で高らかに勝利の笑い声を上げた。
 助手席でハロルド・ジェンキンスは無言でその勝利宣言を静かに聞いている。

「ふふふ……長い戦いでしたわ。永峰ツバキ! 小学校からずっとずっとずっと目の上のタンコブだったあのハネッカエリ娘についに勝ったのよ! ね、ハロルド」
「はい」
「これからは勝利と書いてランコと読むことにしましょう!」
「はい」
「ふふふ……良い物ですわ。この時の高揚感だけは………」

 そこでランコはふと我に返り、高笑いを止めた。

「いけないわ。まだゴールしたわけじゃないものね。そういう油断は三下のやる事」
「はい」
「最後まで全力で捻り潰す! それが堂島家のやり方よ!」
「はい」

 転送輪を抜けると、そこからは公道をひたすらに走る。
 目的地まで、この速度で飛ばし続ければかなり余裕。
 ツバキのタイムロスを考えれば、こちらの勝利は揺るがない。

「でもね……」
「?」
「ツバキはそれをひっくり返す女――わたくしはそれを何度も見ている」

 一片の油断もしてはならない。
 ランコは永峰ツバキがするであろう行動を考える。
 このタイムロスを挽回する方法。
 彼女はなんと言っていたか?
 脳裏に喜楽亭での会話がひらめく。

 彼女は言っていた。
 ――あたしなら半日で出来るけどね!
 あれはその場限りのハッタリか?
 自分の前で見栄を張ったのか?

「……いいえ、違いますわ。あのツバキがそんなくだらない嘘をつくわけがない」
「では?」
「あるのです。彼女には、目的地まで半日で到着する秘策が」
「それは?」

 ランコは公道の地図を脳裏に浮かべる。
 車に取り付けられたナビではない。
 自分が幾度も走り、身体で覚えたこの道の記憶を。
 目的地である品評会が開かれる星までは、ゆるく迂回する道になっている。
 しかしこれが公道における最短ルートであることは間違いない。

「公道―――なるほど、そういうことね」

 わかった。
 ツバキのあの自信に満ちた言動の理由。
 それは――裏街道だ。
 もともとは宇宙開拓時代前中期にラインマーカーが引かれて作られた道。
 その時代によって必要となる道は、それぞれ異なる。

 いま走っている公道が迂回しているのも、この路線に移住惑星が多くなったからだ。
 ではそれまで使っていた公道はどうなるのか?
 それらは廃路、裏街道などと呼ばれ放置される。
 ラインマーカーの整備はされず、CPOの巡回もなくなる。

 CPOも広大な宇宙の全路線を巡回するには人員が足りないからだ。
 だから公道と呼ばれる要所を守り、そうでない場所はそのままとなる。
 ただCPOの管轄外とされている裏街道は使い勝手がいい。
 彼らの監視がないのでスピード違反などで捕まる心配はないのだ。
 仕事で運搬を行う者はけっこう使う頻度が多いのがこういった裏街道だ。

「ハロルド! 路線変更ですわ」
「はい?」
「裏街道を突っ切って行きますわよ!」
「はい」

 裏街道はCPOの管轄外とはいえ、普段は安全な道だ。
 しかし今日に限ってはそうではなかった。
 ランコはCPOの巡査に金を握らせ、重要なことを耳にしていなかったのである。

 そう、盗賊団『アオヘビ』が出没しているということに。
 小一時間ほど走らせたその時、異変は起こった。
 彼女のトラックの周辺に奇妙なエンジン音が近づいてきたのである。
 サイドミラーで確認すると、それは普通車のようにも見える。
 しかし違う。
 重武装しているのだ。
 即座にその異常を察した助手席のハロルドが、座席下のレバーに手を伸ばす。

「待ちなさい、ハロルド!」
「……は……しかし」
「この勝負、武器の使用は禁止でなくて?」

 武器を使わない、というのがツバキと取り決めたルールだ。
 それを破る訳にはいかない。
 あちらについて、弾薬が減っていれば車の重量検査ですぐにわかる。
 ツバキがそれを見逃すわけはない。

「どうします?」

 冷静なハロルドにも、わずかにあせりが浮かんだ。
 しかしランコはこの状況でも決して取り乱さない。
 それが堂島家!

「ぶっちぎりますわっ!」

 アクセルをべた踏み。
 最高速度に達したところで、さらに特別改造を施したミッションを七速に入れた。

「全速力! ですことよっ!」

 ギアがかみ合う。
 激しい唸りが響き渡る。
 高出力エンジンが唸る。
 トラックが最大速度をさらに上回る。

「どうです? これについてこれますか?」

 それはもうトラックの領域を越えた速度。
 他の追随を許さない限界値。
 だが、バックミラーに映った光景にランコは目を見開いた。

「なっ! まさかっ!」

 ついてきている。
 後ろの車の一団は、ランコのトラックの最大速度についてきているのだ。
 しかも後部座席が開くと、機関砲が現れる。
 この事態に、さしものハロルドも手を座席下のレバーから離そうとはしない。
 いつでも後部の銃座へ移動できるようにだ。
 ランコの指示があればいつでも行ける。
 しかしランコはその一言を口にはしない。

 彼女にとって、それはツバキに負けることを意味するからだ。
 彼女のプライドがそれを許さない。
 決して、絶対に!
 だが、その判断が時に悲劇を生む。
 後を追う一団から砲弾が発射されたのだ。

 砲弾はトラックの真横をかすめ、前方に着弾する。
 激しい衝撃がトラックを揺らした。
 どうやらあちらは、ランコのトラックになにがしかの金目の物がある事を知っている。
 大量輸送を目的とした商船とは違い、トラック輸送は積載量が少ない。
 少ない積載量で、銃器を積んで輸送するモノ。
 それは当然ながら値の張るものに限られてくる。
 彼らは知っているのだ。
 ここに高額商品があることを。
 狩りに慣れた集団。
 そこまで行けば、事前情報がないランコにも相手が何者か十分に予想が付く。

「……盗賊団!?」

(つづく)


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次回4月25日更新予定


著者:内堀優一
原作:Original Star-IP Office
デザインコンセプト:斎藤純一郎、赤根健良
アニメーションキャラクターデザイン:鈴木竜也
アニメーションメカデザイン:田口栄司
企画協力:松田泰昭


©OSO


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