【第16回】運び屋椿

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Episode2 壺と令嬢とハイウェイレース(5)

 彼らはこちらのことをよく知っている。
 このトラック乗りという職業の人間たちを。
 こちらの行動パターンを知り尽くしている。
 逃げるのなら、戦わねばならない。

「でも……」

 それをランコが許せるはずもない。
 なぜならそれはツバキに負ける事を意味するからだ。
 ――負けたくない。
 強く奥歯を嚙んだ。

「お嬢様!」

 ハロルドが叫ぶ。
 同時にトラックの真横に着弾。
 車体が激しく揺さぶられる。
 タイヤが取られた。
 トラックは激しくスピン。
 横転の危機に晒される。

 だがランコは絶妙のハンドルさばきで車体のバランスを保った。
 だがそこが限界。
 トラックはその場で急停止した。
 その周りを、次々に盗賊団の車が取り囲んでいく。
 ほぼ一瞬の出来事だった。
 拡声器からはランコに向けて声が放たれる。

「荷台のロックを解除しろ! 命は助けてやる!」

 積み荷を差し出す――それは運び屋にとっては完全なる屈辱。
 ツバキに負けること以上に、それはランコには許し難い落ち度。
 荷を届けることこそが運び屋の本分である。
 その荷を奪われた時、ランコは既に運び屋ではなくなる。
 ランコ個人のプライド以前に、仕事をする者としてのプライドが、

 ――許すわけがない!

 決意が固まった。

「ハロルド!」
「はい!」

 ハロルドの人差し指がレバーを引く。
 即座に吸い込まれるように、後部荷台へ移った。
 そこから目にも留まらぬ速さでハロルドの身体が宙に浮く。
 銃座に腰が落ちる前には、銃弾が装填そうてんされていた。

 それはもはや神業の領域。
 堂島家に仕えるSPとしての才覚は遺憾なく発揮されていた。
 だが、ハロルドがその引き金を引くと同時に、この勝負はランコの負け。
 その事実には抗えない。
 悔しさがない、というのは嘘だ。
 ランコは今、この瞬間も、敗北の悔しさに奥歯を噛みしめ目に涙を湛えていた。

 ――負けたくない、ツバキにだけは!

 その一念を噛み殺そうとしていた。
 その時、ランコの席に取り付けられた受信スピーカーから聞きなれた声が響き渡る。

『よく持ちこたえたわねぇ!』

 知っている。
 この声をランコは痛いほどよく知っている。

「ツバキ!?」

 次の瞬間、ランコのトラックの真横を、稲妻が駆け抜けた。
 なにが起こっているのかわからない。
 目を移すと、その先にはツバキのトラックが止まっていた。
 後部座席は戦闘形態になっている。

「あの武器は……電極砲!?」

 放電による激しい一撃。
 殺傷能力は直接当てなければないに等しい。
 車両には電気を逃がすアースの役割が備わっている。
 だがそれでも電極砲の衝撃で機器系統はショート。
 または一時的システムダウンが起きる。
 盗賊団の車は、緊急の安全装置が働いた。

 つまりは運転席、助手席ともにエアバックが飛び出して、彼らの動きを封じていた。
 また盗賊団の後部座席の方は、残念ながら銃座など外への攻撃を前提としているため、守りは薄い。
 つまり感電して気絶しているのだろう。
 一瞬で、盗賊団『アオヘビ』は機能停止に陥ったのである。

※※※※

 はぁ……無事、盗賊団成敗!
 やったね!
 ボクはトリガーから手を離して一息つく。
 大きく開かれた大輪丸の荷台から巨大な電極砲の砲身が伸びている。
 まだ先端はビリビリッと放電しているようす。
 近づきたくないよね。

 それにしても、こんな装備も持ってんだね。
 ってか、これを速攻で換装するとか言い出した時はあせったよ。
 結局、昨日はほぼ徹夜だったんだもん……。
 さてさて、それはさておき……。

「ツバキ、どうすんの?」

 通信機でボクは運転席のツバキに連絡をとる。

『結束バンド、いっぱいあるよね?』
「あるよ」

 結束バンドとは、棒だとか細い荷物とかを束にしてまとめるプラスチックのヒモ。
 一瞬でまとまるから、普通のヒモみたいに縛る手間がなくて便利なのだ。
 まあ、こういう稼業だから結束バンドは後部の弾薬とかと一緒にたくさんある。

『それいっぱい持ってきて』

 まあなんに使うか知らないけど、持ってきますか。
 ボクは結束バンドを手にいっぱいつかんで、ツバキのもとへ行く。

「んじゃ、カエデ。手伝ってくれる?」

 と言ってドアを開けて外に出る。
 ボクもツバキのあとについて外に出ると、彼女は盗賊団の車両の方へと向かっていく。

「ねぇねぇ、危ないんじゃないの?」
「ダイジョブ、ダイジョブ」
「えぇ~」

 しかたない、ついてくか……。
 盗賊団の車の運転席を開けると、エアバックで身動きが取れない男を発見。

「結束バンド」
「はい、どうぞ」

 渡すとツバキはすごい速さで、盗賊の男の手足を結束バンドでがっちり縛りつける。
 うひゃぁ、そんなキツキツにしなくても……。

「ほら、カエデも手伝って」
「え、ボクも……」
「気絶してる連中が起きちゃったら大変だよ」
「そりゃそうだけど……」
「おーい、ランコ! あんたも降りて来て手伝いなさいよ!」

 恐る恐るといった様子でトラックから降りてきたランコさん。
 そんな二人に有無を言わさず盗賊団をふん縛る手伝いをさせるツバキ。
 人使い荒いんじゃないの?
 まあ、電極砲の威力じゃ、数分後にはみんな目覚ましちゃうから、急ぐに越したことはないんだけどね。
 そんなわけで縛るも縛ったり、しめて二十五人!

「けっこういたね!」
「まあ、盗賊団っていうんだからねぇ」

 盗賊団を一所にまとめると、ツバキがパンパンと手を払う。
 まあ、これで一件落着ってとこかな?
 そんなツバキのもとへランコさんがおずおずとやって来る。

「………ツバキ」
「ああ、ランコ。お疲れさん」
「えっと、あの……」
「あっ!!」

 ツバキの突然の大声に、ランコさんがビクッと肩を揺らす。

「なんですの??」
「そういえば武器使っちゃった。あたしの負けだね! 残念、残念! あはははは!」

 カラッとした言い様に、ランコさんは呆気に取られたような顔をする。
 まあ、武器使用は反則負けって最初に取り決めちゃったからね。
 ツバキはやれやれと肩を落とす。

(つづく)


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次回5月2日更新予定


著者:内堀優一
原作:Original Star-IP Office
デザインコンセプト:斎藤純一郎、赤根健良
アニメーションキャラクターデザイン:鈴木竜也
アニメーションメカデザイン:田口栄司
企画協力:松田泰昭


©OSO


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