【第18回】運び屋椿

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Episode2 壺と令嬢とハイウェイレース(7)

「どしたの、カエデ?」
「えっ!? どうしたって、なにが?」
「顔赤いよ?」
「え、ええ! そ、そんなことないよ!」
「あ、そう?」

 ケロリとした様子のツバキ。
 こ、これはもう恥じらうような間柄ではないね!
 むしろある程度進展していると考えた方がいいと思うのだよ!
 つまりえっと、ほら、同棲とかしちゃってるくらいの、そういう安定感!
 マジでっ!

「ねぇ、ツバキ」
「なに?」
「ツバキはボクになんか隠してない?」
「隠しごと? そりゃ、いい女に隠し事の一つや二つは付き物でしょ?」

 ほらねっ! ほらねっ!
 やっぱそうなんだよ。

「ま、隠してるわけじゃないにしても、カエデに話してないことはいろいろあるしね」
「へ、へぇ~、そうだよね。そういうこともあるよね」

 う~ん、これは追々、どっかのタイミングで聞こう。
 そう、ツバキが酔っぱらってる時とか。
 そっちの方が、なんていうか、赤裸々な? 話も聞けちゃうかもしれないじゃない!
 むふふふ……。

「ねえ、あんたさっきからなんでニヤニヤしてんのよ?」
「し、してないから!」

※※※※

 後日のこと。
 バローニさんから報酬を受け取ったボクとツバキは、いつも通り木星軌道上のパーキングステーションで食事をとっていた。
 この前の報酬が持っていかれなくて本当によかった。
 財閥の令嬢ならともかく、ボクらにとっては重要な糧なのだ。
 安心してごはんも食べられないもんね。
 ただまあ、バローニさんからこの前の仕事の報酬をいただくってことは、当然ながらアノ人もいる。
 ランコさんである。
 でもランコさん、いつもだったら思いっきり突っかかって来るところなんだけど……。

「…………」

 ちょっと遠くからこっちを見ているだけ。
 因縁つけてくるって感じではなさそう。
 一緒に盗賊も退治したんだしさ。
 このまま二人、仲良くやってけば?って思うんだけど……。
 そんなランコさんは、ようやくツバキの隣にやってくる。

「どうも、ツバキ」
「ん? ランコじゃない。どしたの?」
「べ、別になんでもありませんわ」
「あ、そう……」
「ここ、よろしくって?」
「ああ。どうぞ」
「…………」
「…………」

 無言!
 なんかしゃべればいいじゃない!
 なに?
 もしかして文句以外、しゃべることないの?
 二人とも!
 う~ん、ツバキの方も実はランコさんに思いっきり絡まれてた方が接しやすいんじゃないのかな?
 周りもランコさんとツバキさんのケンカが始まるかと注目度が高かったのに、なにも起こらないもんだから、鼻白んだ感じになっちゃってるし。

 一番心配そうな顔してんのはバローニさん。
 なんだかんだ、あのおじさん、二人のことちゃんと気にしてくれてるよね。
 面倒な仕事ばっか押し付けるけど……。

 それにしてもランコさん。
 なんかツバキに話したいんじゃないの?
 でも、どこから話始めていいのかわからない、って雰囲気だ。
 まあ、ランコさんの考えていることはなんとなくわかる。
 たぶんお礼を言いに来たのだ。

 このまえ、彼女はツバキにお礼を言おうとしていたけど、結局うまく伝えきれていない。
 彼女はそういうところがキッチリしている。
 短い付き合いだけど、彼女のそういう真直ぐな性格はわかった気がする。
 とはいえ、なかなか切り出せないよね。
 わかる気がするよ。
 ボクが間に入れればいいんだけどね……。
 と、そんな妙な空気の食堂へ、別のお客が入ってくる。

「ツバキいるか?」

 進藤マコトさんだ! 
 咄嗟にツバキがバッと顔を上げる。
 その俊敏な反応!
 そして紅潮した顔!
 さらに隠しきれない笑み!
 やっぱりね!
 ボクの読みは間違ってなかったってことだね、うんうん!

「ここ、ここ!」

 ツバキが手を振ると進藤さんがこちらに走って来る。
 そしてなにやらまたコソコソ話しだした。
 ははぁん、このあとの予定とかですなぁ。
 いやぁ、いいですなぁ、ナハハハハ。

「ちょっと、ちょっとカエデさん」

 突然小声でランコさんが話しかけてきて、思わずビックリしてしまった。

「あ、えっと、はい、なんです?」
「……あれ、どういうことです?」

 どういうことって、そりゃ……ねえ。

「まあ、見てのとおりですよ」
「見てのとおりって?」
「ほら、その、ボーイがミーツしてガールする、アレですよ」
「あなた変な言葉使いね」
「いやいや、そういうことじゃなくて……」
「じゃあ、どういうことですの?」
「ですから、男の子がいるでしょう」
「はい」
「女の子がいるでしょう」
「はい」
「それが仲良く寄り添っているってことは……ねっ!」

 するとランコさんは眉間に皺を寄せる。

「あの……仲良く寄り添ってるって感じではありませんけど?」
「ええ!?」

 ボクは急いでツバキの方に目をやる。

「はぁ? これっぽちって、どういうことよ!」
「いや、俺に言われても困る」

 おやおやおや?
 ツバキが進藤さんを締め上げてるんですけど……。
 なんじゃこりゃ?

「なにがどうなってんの?」
「それをわたくしが聞いてましてよ」

 ですよね……。
 なにをケンカしてんだあの二人は?
 痴話ゲンカ?
 ツバキはなにか紙切れをヒラヒラさせながら、進藤さんに食ってかかっている。

「あのね、こっちはちゃんと懸賞金の情報を見てんだからね!」
「そりゃちゃんと一般告知されてるからな」
「じゃおかしいじゃない。『アオヘビ』の頭領捕まえた報酬がこれっぽっちって!」
「だから、あの中にアオヘビの頭領はいなかったんだよ」
「いなかった? でもあれ、盗賊団の『アオヘビ』なんでしょ?」
「ああ、それは間違いないけど、下っ端のやつらばっかだったんだって」
「そんな! もっともらえると思ってたのに! くやしい!」

 おやおや、ランコさん、目が点になってらっしゃる。
 ごめん、ボクも目が点になっちゃった。
 もしかしてボク、重大な思い違いをしていたのではなかろうか?
 するとランコさんが壊れた機械のような口調で、ボクに問う。

「あ、あの、もしかしてなんですけど」
「は、はい……」
「あの守銭奴極まりないツバキのヤツめが、わたくしにあっさり勝ちを譲ろうとしたのって……」
「はい……」
「この報奨金がデカいと踏んで、勝負そっちのけで金に飛びついた――的な?」
「…………そんな気がします」
「………………うふふ……あはは………ああ、そう。ああそう!! ああそうなんですのねっ!!」

 わわわ、ちょっと、めっちゃ怒ってらっしゃいます?
 ランコさんはズンズンとツバキのもとへ行くと、首根っこを締めあげる。

「ツーバーキィーッ!!」
「うわっ、驚いた。なによランコ?」
「あーた! わたくしたちの神聖な戦いの場でお金を優先しましたわね!」

 白々しいほどに視線を逸らして冷や汗ひとつ。

「え、ええっと……あははは……」
「ツーバーキーッッ!!!」
「うおおっ! ランコ、やろうっての!?」
「やってやりますわ! ボッコボコにしてやりますわ!」

 ついにつかみ合いのケンカ勃発!
 客席のボルテージは上がりまくる。
 全員総立ちで手に汗握った。
 それを見ていた進藤さんは、やれやれと頭を抱えるとあきれて出て行っちゃった……。
 進藤さん!
 行かないで!

「襟首掴んだ!」
「おお、ついにツバキ vs ランコの最終決戦か!」
「やったぜ! 俺はこの日を待っていた!」
「決めろ! 俺の目の黒いうちに決着をつけてくれ!」

 みんな言いたいことを言って……。

「ツバキが勝つに全額賭ける!」
「俺はランコちゃんに!」
「頼む、今日は勝ってくれよ!」

 席の端の方では賭けまで始まっちゃったよ……。

 あーあ、結局こうなるのね。
 ま、いっか。
 こっちの方が仲が良さそうだ。
 さて、ボクはもう一杯、紅茶でもいただこう。
 二人の火の粉が飛んでこないところで。

(つづく)


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次回5月16日更新予定


著者:内堀優一
原作:Original Star-IP Office
デザインコンセプト:斎藤純一郎、赤根健良
アニメーションキャラクターデザイン:鈴木竜也
アニメーションメカデザイン:田口栄司
企画協力:松田泰昭


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