【第19回】運び屋椿

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Episode3 権力の傀儡(1)

「ツバキちゃーん、あんたんとこに電報だよ」

 喜楽亭のタキさんが、一枚の紙を机に置いた。
 ボクらはちょうど食事が終わったところで、紅茶を頼もうかと思ってたのだけど……。
 ボクは初めて見る電報の紙に目を丸くした。

「へぇ、今時まだ電報なんてあるんだ」
「まぁね。だいたいが、発信者が受け取り通知を貰えるから、独り暮らしのやつが死んでないか確認に使うって言ってたね」
「ああ、なるほど」
「でもそれ以外だと……」
「ん?」
「たちの悪い依頼の時かな」
「たちの悪いって……ヤバい仕事ってこと?」
「そういうケースが多いかな。メールとかっていろいろ証拠が残りすぎちゃうんだよ」
「でも、電報って公的な機関でしょ?」
「ちがうよ」
「ちがうの?」
「今はSTRIX社が全部、通信関係の株を買い取ってるから」
「ああ……あそこかぁ」

 STRIX社は、宇宙開発事業団の中で最大手の企業。
 この広い宇宙をまたにかけて事業を拡大していくわけだから、そりゃあもう、稼ぐ額も天文学的。
 まあそれだけの大企業となると、それなりに黒い噂も多いのだ。
 まさかとは思いながらツバキに目を向ける。
 すると電報の文面に目を落としたツバキの顔が曇った。

「どうしたの?」
「………そのSTRIX社からの依頼だわ」
「……え?」

 電報の内容は、

 ――緊急ニツキ本社マデ来ラレタシ。

 とのこと。
 あっさりとした文面ながら、その裏には『さっさと来い』という上から目線な雰囲気がプンプン匂う。
 どんな依頼なのかもわからないし、やーな感じがする。
 それでもツバキは、その電報を四つ折りにすると、すぐに出立の準備に取り掛かった。
 つまりは行くってことね……。
 ……気が向かないなあ。

 

 STRIX本社は白鳥座星系の一角にある。
 ワーラル宙域と呼ばれる一帯で、それほど資源に恵まれた場所ではない。
 人が住めそうな星もないし、あるのは利用価値のない小惑星群ばかり。
 そのせいもあってか、この宙域にはSTRIX社以外の介入がないのだ。
 つまりは無政府状態。
 STRIX社が法律という一社独裁状態なのだ。

 まあ、一応会社である以上は、社員たちをまとめるために、歴史上に顔を出す暴君のようなことはしてないんだけど……。
 ツバキのトラックは太陽系を抜け、転送輪を通る。
 白鳥座星系のいくつかの宙域を経由しながら目的地を目指す。
 さてボクはというと……。

「…………」

 ぼんやり代わり映えのしない星の海を見続けていた。
 なんていうのか、あの会社に行くのはいやなんだよね。

「ねぇ、ツバキ」
「ん、なに?」
「ホントに受けるの? STRIX社の依頼」
「うん、まあ仕事だしね」
「ヤバいやつなんでしょ?」
「そんなの聞いてみないとわからないじゃないの」
「それは……そうかもだけど」
「とりあえず、行ってみてからかな」
「――そっか」

 そこからはあまり会話も続かなかった。
 ようやくワーラル宙域へと入り、小惑星群を迂回しながら進む。
 そうしてどれほど進んだだろうか?
 前方に巨大な構造物が見えてきた。
 もとは大きな小惑星の塊の衛星だった場所に、覆うように建築されたそれは、まるでコロニーのようだった。

 これがSTRIX本社。
 宇宙最大の財閥企業の総本山。
 ボクたちの砂粒のような大輪丸が、巨大な本社の建造物に吸い込まれて行く。
 施設内に入ってもしばらく車は止まらない。
 なにしろ、この建物がとてつもなく広いからだ。

 人口一千万。
 その全てがSTRIX社の社員と家族。
 この本社施設のコロニーを中心に、手の届く宇宙すべてに商業展開をしている。
 ようやく目的の区画まで到着すると、ツバキは駐車場を見つけて入る。
 駐車スペースにトラックを停めてエンジンを切った。
 でもボクはシートベルトに手を掛けようともせずに呟くように言った。

「……ツバキ、あのさ」
「なに?」
「ボク、ここで待っててもいいかな?」
「なんで? 寒いよ?」
「いや、ここでいいよ」

 ツバキは不思議そうに首をひねる。

「そう? じゃあ、エンジンかけとくから、寒くなったら暖房でもいれて」
「うん、ありがとう」

 そのまま、ツバキはドアを閉めると、建物の奥へと消えていった。

(つづく)


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次回5月23日更新予定


著者:内堀優一
原作:Original Star-IP Office
デザインコンセプト:斎藤純一郎、赤根健良
アニメーションキャラクターデザイン:鈴木竜也
アニメーションメカデザイン:田口栄司
企画協力:松田泰昭


©OSO


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