【第20回】運び屋椿

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Episode3 権力の傀儡(2)

 STRIX社第五代社長、J・W・リンドバーグ。
 二十代の若さで抜群の才覚を発揮し、この代々続くSTRIX社をさらに拡大へと導こうという男。
 彼はモニターを見ながら、薄く笑みを浮かべる。

「来たようだな。………ん、あの娘は?」

 そこへ秘書を務めるモンク・レターナがやって来る。

「社長、面会の者が……」
「ああ、こちらで見ていた。相変わらず動きがいい」
「左様で」
「ところでレターナ」
「はい」
「ちょっと確認してきてほしいことがある」
「なんなりと」

 リンドバーグは二、三、耳打ちするとレターナは短く「はい」と答えて部屋を出て行った。
 しばらくすると、執事が客人を部屋に通した。
 永峰ツバキ。
 会うのはどれくらいぶりだろうか?

「やあ、久しいね。なにか飲み物は?」

 ワインのビンを軽く掲げるも、ツバキは首を横に振る。

「飲酒運転を気にしているのか? くだらない。この宙域から出るまでには、酔いも醒めるだろう?」
「………」
「ふん、その程度の違反を気にする君か?」
「さっさと用件を言ってくれ、っていう意味がわからないですか?」
「なるほど、そういえば君はせっかちだった」

 やわらかなソファに腰を下ろし、グラスにワインを注ぐ。
 グラスの中で小さく二回転。
 香りを楽しむと一口、含んで舌の上で転がす。

「いいワインの味わい方を君は知っているかい?」
「……さあ」
「教えてあげよう。このワインボトルは、旧世紀、人間がまだ宇宙で暮らすことを現実的に感じられなかった頃に作られたものだ。歴史がある」
「………」
「そしてこれを作り保存し、そして熟成させるためには、この上ない技術の研鑽けんさんと、そして人々のたゆまぬ努力がある。だが――」

 突然リンドバーグの顔がゆがんだ笑みに変わった。

「そんなことはどうでもいい!」

 まるで芝居がかっているかのように、大きく手を広げる。

「豊かな味わい、深いコク、あふれでる香り、そんなものもどうでもいい! 大切なことはただひとつ!」

 その顔がどんどん悪辣に染められていく。

「このワインボトル一本が、君が生涯をかけて稼ぐ額よりも大きい、ということ。それを君の前で惜しげもなく呑む! これほどの愉悦があるだろうか!」

 ツバキは表情を変えない。
 ただジッと身じろぎもせずリンドバーグを見る。

「ボーノォ! 金に困る人間の前でする贅沢ほど、旨いものはこの世にはない! そう思わないかね!」
「用件を言ってほしい。それ以外の戯言ざれごとは聞きたいとは思っていませんので」
「ほう……ずいぶんと冷静なのだね?」
「――……」
「それでこの私の興が覚める、とでも思ったのかい? 見えるよ、僕にはね、君の瞳の奥底で輝く無数の憎悪の輝きが見えるんだよ! 苛立っているかい? もっと必死で隠してごらん! このワインをもっとおいしくしておくれよ!」
「用件がないのなら、帰らせてもらいます」
「そう言うな、ツバキ君。あるさ、用件なら。君があまりにせっかちなものだから、からかいたくなっただけじゃないか」
「こちらも仕事なので」
「そうかそうか、そうだよなぁ。し・ご・と、だもんなぁ! オーケィ! では仕事の話と行こう! アイザック! 品物をお持ちしろ!」

 声をかけると、奥の扉が開く。
 屈強な体つきの男が、箱をひとつ、台車に乗せて運んできた。
 使用人ではないのは一目でわかる。
 体格、眼光、隙のなさ……。
 どれを取っても戦士のそれ。
 彼はリンドバーグの前に箱を置くと、足音もなく去っていった。

「これをね、ちょっとした所に運んでほしいんだ」
「これは?」

 ツバキが問うと、リンドバーグは自分で確かめろとでも言うように、手を差し伸べた。
 ツバキは箱まで行くと、躊躇なく封を開ける。

「みーみー!」

 白い生物――。
 四足歩行で、ウサギのように長い耳を持っている。
 しかしその耳の数は六つ――いや、背にあるのは耳ではない。
 ひたいには、緑色の宝石のようなものが輝いている。

「この生き物は?」
「ロストーニア・プログラス」

 聞いたことなのない名前だった。
 少なくとも、初めて触れる生物。
 どこに生息し、どんな生態を持っているのか。
 皆目見当もつかない。

「なんです、そのロス……なんとかって」
「君が知る必要があるかい? 必要なのは殺さないための餌や飼い方では?」
「余計なことは聞くなってことですか?」
「ものわかりがいいな」
「当然、違法なもの――なんでしょうね」

 するとリンドバーグは大仰な仕草で肩をすくめる。

「さあ、それはどうかな?」
「わざわざ、あたしを呼びつけるから、なにごとかと思っていたけど、危ない橋だから外注ってわけですか?」
「おいおい、勘違いしないでくれよ」
「?」
「今は人手が足りていない。それだけのこと。人手が足りねば、外注する――それは世の常さ。そうだろう?」
「へぇ……この業界最大手のSTRIXストリックスが人手不足? 嘘をつくのならもう少し、ましな嘘をついてもらった方が、騙され甲斐がありますよ」

 するとリンドバーグが腹の奥底から響く笑い声をあげる。

目敏めざとい娘だな、まったく。どうしてそんなに疑り深くなってしまったのかな?」
「あんたみたいな、人間のクズを目の当たりにしすぎたから、では答えになりませんかね」

 威嚇でもするかのようなツバキの態度。
 それにリンドバーグが演技じみたジェスチャーで『降参』のポーズをする。

「結構! その通り! その生き物はロストニアに生息する絶滅危惧種。当然、他所への持ち出しは禁じられている」
「それをあたしに運べと? 犯罪とわかっていて?」
「わかっていても、断れない――だろう?」
「――……っ」
「くくく……いい顔をする。そういう顔だよ、酒を旨くしてくれるのは――このっ虫けらがっ!」

(つづく)


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次回5月30日更新予定


著者:内堀優一
原作:Original Star-IP Office
デザインコンセプト:斎藤純一郎、赤根健良
アニメーションキャラクターデザイン:鈴木竜也
アニメーションメカデザイン:田口栄司
企画協力:松田泰昭


©OSO


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