【第21回】運び屋椿

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Episode3 権力の傀儡(3)

 嗜虐しぎゃく
 暴虐。
 人を屈服させることで浮かぶ歓喜の笑い。
 屈服しない人間を折るという、強者にのみ許された愉悦ゆえつが、リンドバーグの五体をくまなく満足させる。
 ただ睨むことしかできないツバキのわきで、檻の中の生き物はまるでツバキに助けを求めるように「みーみー」と鳴き続けている。
 ツバキは大きく息を吸う。
 握った拳を開く。

「いいでしょう。運びます」
「いいぞ! 曲がったな、信念!」
「運ぶのが仕事です。その信念は曲げた事はない!」
「素晴らしい! 運び屋の鏡! それでこそ、永峰ツバキ!」

 まるでバカにされているようだった。
 だがそのリンドバーグから急に高揚が消え去る。
 あの冷徹な顔に戻っている。

「まあ、大なり小なり、私には仕事の邪魔をする者が多くてね。そういう意味では、この仕事は君にしか出来ないんだ。うちの社員には到底頼めない。信用できないんでね。わかるかい? 君を信頼して頼んでいると、そう言っているんだ。この私が」
「……ええ、結構でしょう。ただ――」

 振り返り様、リンドバーグをキッと睨み据える。
 その瞳の奥には烈火が揺らめく。

「汚ぇ仕事のツケは、汚ぇ死にざまと相場が決まっております! そのこと、ゆめゆめお忘れなきよう!」
「それは自分に対する自戒の念なのかなぁ?」
「察しの悪い男は嫌いだよ」
「まさかっ!? きみ! この私に刃向かうのかい? 全宇宙を統べる、J・W・リンドバーグにっ!? 虫ほども力のない君が!?」

 二人の間に沈黙が流れる。
 沈黙を破ったのはリンドバーグの笑いだった。

「あーっはっはっはっはっ! いいよ、ツバキ君! きみ、ユーモアがあるよ!」
「………」
「――でもね、世の中には大逆転なんて……ないんだよ。あるのは、強者に食われ続ける、弱者だけだ、いいね?」

 ツバキの眼球がするどくリンドバーグを睨み付ける。
 それ以上は言葉は交わさない。
 ツバキはその白い生物を連れ、部屋を後にした。

※※※※

「わぁ、なにこれ! カワイイ!!」

 すっごいテンションが上がった!
 ちょっとちょっと、かわいすぎでしょ!
 なにこの小動物!?

「みーみー!」
「みーと鳴くんだね、きみは。ほほう、ぷにぷにしてる!」

 ワーラル宙域を出たあたりで、ツバキはパーキングステーションを見つけると、そこで旅館を取った。
 てっきり車中泊と思っていたボクなので、それだけでもテンション上がってたのだ。
 それに輪をかけて、部屋でツバキが見せてくれたのは、このかわいい生き物。
 そりゃ、ボクもはしゃいじゃいます!

「よし、じゃあ名前は……ミーくん……いやいや、ミミ……ミミーで! そう、きみはミミーだ!」
「みー」

 それを見ていたツバキが気だるそうな顔でこちらを見る。

「名前着けても、すぐにお別れになるよ」
「え!? そんな! もしかして、今回運ぶのって……」
「そう、その生き物」
「ええ……すぐにお別れだってさ。さみしいね、ミミー」
「みー」

 ふふふ……この子、けっこう人になつきやすい性格なのかな。
 ちょっとの時間かもしれないけど、まあ仕方ないよね。
 そんなわけで、道中ずっとボクはミミーをかまいっぱなしだった。
 しかもミミーはかなり賢い!
 ボクの言っていることが、どこまでわかっているのかと最初は思ってた。
 でも次第に、ミミーはボクの言うことを分かってきたのだ。
 しかもほんのわずかな時間の中で。

 そうこうしているうちに、いつの間にかボクらはいつも滞在している木星軌道上のパーキングステーションまで帰って来る。
 てっきりツバキのことだから、直接届け先に行くものだと思ってたけど……。

 それにもう一つ気になっていたことがある。
 ツバキが終始無言だったことだ。
 もちろん、多少の話はしたよ。
 でもいつもの彼女の歯切れのいい会話ではなかった。
 少し相槌を打つと、またすぐに無言になってしまう。
 でもね、ツバキはずっとなにかを言いたそうにしているって思うんだ。
 まあ、ボクの思い過ごしかもしれないけど。

 それでもずっとミミーがいてくれたおかげで、退屈はしなかったんだけどね。
 彼女はパーキングステーションにつくと、すぐに宿を取る。
 あらら?
 喜楽亭でとりあえずごはんかと思ってたのに??
 ちょうど宿に入ろうとした時、偶然白バイ乗りの進藤マコトさんと出くわした。

「おう、ツバキ」
「ああ、マコト君」
「―――……?」

 マコトさんはツバキの顔をほんの二、三秒見つめると、眉をひねった。

「どうした? おまえ」
「どうしたってなにが?」
「いや、なんかいつもと違うだろ」
「あら? もしかして髪切ったの気付いた?」
「そんなもん、気付くわけがない」
「マコト君、モテないよ」
「別にモテなくて結構。それよりツバキ、俺が聞いてるのはおまえの事だよ」
「だからなんにもないって言ってるでしょ。それともなに? 任意同行?」
「交通課にそんな権限はない」
「だったら、ほっといてくれる? けっこう疲れてるから、さっさとお風呂入って、眠りたいの」
「―――……」

 そう言いながらツバキは歩き始めてしまう。
 ボクもマコトさんに頭だけ下げて、その後を追った。
 マコトさんは、まだなにか腑に落ちない、って顔でツバキの背をジッと見ていた。

 チェックインを終えると、ボクは荷物とミミーを連れて部屋に入る。
 部屋に入って、ボクがミミーと戯れていると、ツバキが遅れてやって来た。
 その顔が深刻そうに沈んでいるのを見て、ボクはミミーと遊ぶ手を止めた。

「どうしたの?」

 ボクの問いかけに、彼女はしばし口をジッとつぐむ。
 彼女から目を逸らさずに、ボクはツバキが話しだすのを待った。
 するとツバキはようやく、その重い口をひらいた。

「あんた、もし嫌だったら今回は降りていいよ」

 ボクはなんの事かわからず、首を捻った。

「なんで?」
「今回運ばなければいけない、その生物……」
「ミミー?」
「そう。それはロストーニア・プログラスっていうらしい」
「ロストーニア……」

 そこまで聞いてボクはピンと来た。
 それは絶滅危惧種が多く生存する星々がある、『ロストニア系惑星』という単語だ。
 恒星を中心に回る七つの星々。

 各星はそれぞれ違った生態系でありながら、生物が生存するのに適した環境があった。
 宇宙開拓時代の前期に発見され、多くの生物学者を魅了した。
 ただ、この惑星の発見は同時にロストニアに大きな悲劇をもたらした。
 珍しい生物の宝庫は乱獲の対象となってしまったのだ。
 その結果、このロストニア系惑星で多くの生き物が絶滅した。
 今は環境保護の観点から、この星系への立ち入りは禁止されている。

 さて、そのロストーニア・プログラス……つまりミミーだけど。
 星系の名を冠するこの生き物は、当然乱獲の対象だった。
 むしろこの星系での乱獲はロストーニア・プログラスの狩猟から始まったと言ってもいい。
 実際、すでに絶滅したというのを図鑑で見た覚えがある。
 だとしたら………。

「ちょ、ちょっと、ツバキ! ロストーニア・プログラスはヤバいよ!」
「そうみたいだね」
「絶滅種だよ! もうこの世にいないはずだよ!」
「でも……」

 そう言ってツバキはミミーに目を落とす。
 うん、たしかにボクが抱っこしているのは、ロストーニア・プログラスだ。
 図鑑で見たのも、こういう絵だった。

「あたしはこの生き物を運ばなけりゃいけない」
「そんな! ダメだよ! そんなことしたらツバキが捕まっちゃうよ」
「そうね。その可能性がある。だからさ……あんたは今回、降りなって言ってるの」

 その言葉に、ボクは息を詰まらせた。
 ボクは正直、混乱していた。
 どうしていいのかわからなかった。
 ツバキを止めたい。
 でも、彼女の目を見ればわかる。
 ツバキはこの仕事をするつもりなのだ。
 じゃあボクに出来ることは?

 彼女が犯罪に手を染めてしまうのについて行くこと?
 それとも諦めて彼女を見送ること?
 ダメだ、ダメだ!
 どっちも違う。
 思わず胸に抱いたミミーに目を落とした。
 ミミーは小さな声で心配でもするかのように鳴いた。

(つづく)


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次回6月6日更新予定


著者:内堀優一
原作:Original Star-IP Office
デザインコンセプト:斎藤純一郎、赤根健良
アニメーションキャラクターデザイン:鈴木竜也
アニメーションメカデザイン:田口栄司
企画協力:松田泰昭


©OSO


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