【第22回】運び屋椿

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Episode3 権力の傀儡(4)

 結局、昨日は一睡もできなかった。
 ボクはなにかを捻りだそうと必死になって、でもなにも出てこなくて。
 結局朝を迎えてしまった。

「じゃあね、カエデ」

 ツバキはそう言ってミミーを連れてトラックに乗り込む。
 ボクはやっぱりなにも言えない。
 目の前で大切なものを一気に二つもなくしてしまうような気持ちになった。
 途端に居ても立っていられず、トラックに駆け寄ろうと足を前に出す。
 でもそれと同時に、ツバキのトラックはエンジン音をかき鳴らし、発進した。

 ――ボクは、一人置いてかれてしまったのだ。

 行く当てもなく喜楽亭に入る。
 注文もせずにうつむいていると、紅茶が差し出された。
 喜楽亭のタキさんが、口の端を上げて笑う。
 なにも聞かずにそのまま彼女は料理場へ消えていった。
 あえて声はかけなかったんだと思う。
 ボクの様子を見て、そう察したのだろう。
 タキさんは、ちゃんと人を見ているなぁ。

 紅茶に手を付けられず、ぼんやり机を見つめる。
 ツバキはどうしてこんな仕事を受けたのだろう?
 そりゃバローニさんの仕事とかでも、ヤバいものはある。

 宇宙開拓時代の後期と呼ばれる現在。
 流通が安定してきたのは事実。
 無法な仕事も減少傾向にある。
 でもその一方で、密輸はやっぱりかなり多い。
 そういう危ない仕事の片棒を担ぐことをツバキはしなかった。

 一番は、捕まって仕事ができなくなるのが問題だと思う。
 じゃあ、どうしてツバキはあんなに守銭奴のようにふるまうのか?
 ウソをついてる?
 ううん、お金が必要なのは事実なんだと思う。
 ただ――。
 その理由を、ボクは知らない。
 ツバキと一緒に仕事を始めて、それほど月日が経っているわけではない。
 でも、決して浅からぬ付き合いをしてきた。
 だってツバキの助手席に乗るのはボクだけなんだもん。

 でも意外と彼女のことを知らないのも事実なのだ。
 今、こうなってみて、初めてその事実に気が付いた。
 そんなボクの元に、ハイヒールの足音が近づいてくる。

「あら、あなたは………」
「あ……」

 そこには堂島ランコさんが立っていた。
 後ろには助手のハロルドさんが食事のプレートを持っている。
 彼女はボクを見つけると、周りをキョロキョロしだす。

「あらら? ツバキはいませんの?」
「えっと……」

 ボクはちょっと迷ったけど、彼女に事情を話していた。
 まあ、もちろん違法なものを運んでいるってことは伏せて。
 ランコさんは湯呑の緑茶を一口すすると、息を一つ吐いた。

「ふ~ん、なるほど。またそういうことに首突っ込んで……まったく、仕方ないですわね」

 そして席をガタッと立ち上がると、その目を僕に向ける。

「あなた、ヒマならわたくしの仕事を手伝いませんこと?」
「え? いや、でも……」
「手伝って下さいまし。ちょうど人手が欲しかったので。ね、ハロルド」
「はい」

 いつも通りハロルドさんはイエスマンすぎる。
 けど、どうしよう……。
 今はそういう気分じゃない。
 ちゃんと仕事ができるとも思えない。
 そんな胸中のボクなんかお構いなしに、ランコさんはさっさと食堂の隅へ行く。
 そこでカレーライスを食べているバローニさんを見つけると、なにやら交渉しだす。

「バローニさん、ちょっと例のモノ、今日輸送しちゃいたいんですけど」
「え、別にあれは急ぎじゃねぇんだけど」
「今日運びますわ」
「いや、後日でも」
「今日! 運びます!」
「え、あ、うん、そうなの? 別にいいけど……モノは倉庫に入ってるから。えっと……」

 バローニさんはカバンの中から発注書の写しをランコさんに渡す。

「数はこれで。大した量じゃないから、そんなウマい仕事じゃ……」
「構いませんの」
「………あ、そう。ランコがそう言うなら止めねえけど……じゃあ、お願い」

 どうしたのバローニさん?
 なんか、キツネにつままれたような顔して?
 そんな発注書を片手にランコさんが戻って来る。

「ほら、ぐずぐずしている暇はありませんわ。行きますわよ」
「えっと、はい」

 ノリと勢いに押されて、ボクは結局ランコさんのトラックに乗ることになってしまった。
 喜楽亭の前の駐車場からバローニさんの持ち倉庫に移動。
 さっき言っていた積み荷を荷台に積む。
 今回は公道を使って、危険性が少ないルートで運ぶそうなので装備は軽い。
 まあ、そもそも助手席にハロルドさんがいるから、ボクの出番は荷物運びだけなんだけど。

 積み荷はさっきバローニさんが言っていたとおり、そんなに多くはなかった。
 荷台の半分も埋まらない程度。
 中身はゴムのチューブや、手袋と書いてある。
 これってなんの道具……なのかな?

「ほら、乗ってください。すぐに出ますわ」
「あ、はい」

 急いでランコさんの隣に座り、窓側にはハロルドさんが座る。
 中は意外にも広かった。
 たぶんツバキのトラックより広いんじゃない?
 内装の飾りはシンプルながらも気品がある。
 なんていうか、貴族のお屋敷をギュっとまとめた感じ。

「なにかお飲みになりまして?」
「えっと、じゃあ……紅茶を」
「レモン、ミルク?」
「ストレートで」
「ハロルド」
「はい」

 あ、結局、ハロルドさんがやるのね……。
 車を走らせ始めて、太陽系の環状線を走る。
 車内での会話は……なかった……。
 すごく気まずい……。

 ただまあ、ランコさんはその都度、会話をしようとこっちを気にしていてくれたんだけどね。
 たぶん、ランコさん、実は口ベタなのかも。
 ツバキといつもあんなに口喧嘩してるから、そんな印象はこれっぽっちも抱かなかった。
 う~ん、もしかしてツバキの前だと話しやすいのかな?
 ハロルドさんの方は……。

「―――………」

 石像のようにぴくりとも動かない。
 おしり痛くないんですか?
 そうこうするうちに、火星軌道上にある衛星コロニーが姿を現した。
 小規模なコロニーだ

(つづく)


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次回6月13日更新予定


著者:内堀優一
原作:Original Star-IP Office
デザインコンセプト:斎藤純一郎、赤根健良
アニメーションキャラクターデザイン:鈴木竜也
アニメーションメカデザイン:田口栄司
企画協力:松田泰昭


©OSO


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